一匹文士、伊神権太がゆく人生そぞろ歩き(2024年4月~)

2024年4月14日
 ~思い出を歌に乗せて~。小牧駅前ラビオ5階のあさひホールであった琴伝流大正琴弦洲会(倉知弦洲会主)の第四十回大会春の宴を鑑賞してきた。この春の宴は私たちのウエブ文学同人誌「熱砂」同人で詩人、「恋の犬山」「青春の街・小牧」など数々の歌の作曲でも知られる、ふるさと音楽家牧すすむさん=琴伝流大正琴弦洲会の会主、倉知進さん=門下による大正琴の春の祭典だけに会場は終始明るく華やかな雰囲気のなか、どの会も負けず劣らず、すばらしい音色の演奏が進んだ。

 華やかな演奏が進んだ
 

 弦洲の世界~私を育ててくれた歌~で●人生劇場●哀愁列車●長良川艶歌●あぁ上野駅を今回も親子鷹で演奏した倉知弦洲会主と長男で次席の倉知崇さん

 演奏の合間には、先に牧すすむさんの作曲、そして私すなわち伊神権太作詞で誕生した能登半島地震の被災地への応援歌【能登の明かり】が牧さんと「春の宴」司会者松田恵子さんにより会場いっぱいに披露され、観客席の全員が一緒に歌う場面まで見られ、能登復興への願いが膨らんだ。発表に先だち、思いがけず、いきなりステージに立たされた私は松田さんの直撃インタビューに「私はかつて能登の七尾で1人の新聞記者として七年の間、家族もろとも過ごしたことがあり、この復興ソングの作曲を小牧在任時からの友でもある牧さんに(一部補作もあわせ)お願いしました」と話し「一人でも多く、みんなでこの歌をうたってくださることによって被災地・能登のみなさんが少しでも元気になられ、日常生活が早く元に戻るなら、と。ただ、そのことだけを願い」と話し、あとは声にならなかったのである。

 というわけで、あらためて私の詩と牧さん制作の音符をここに記しておきたい。(【一部訂正です】歌詞にある和島の塗りよ(誤)→輪島の塗りよ(正)。能登はやさしさ どこまでも(誤)→能登はやさしや どこまでも でした)。

 

 「能登の明かり」を一緒にうたう会場を埋め尽くした人々
 

 帰りは先日、牧さん宅を訪れた時とは全く別のコースで小牧市中心部から私たち家族が、これまたかつて能登七尾に着任する前の七年を過ごした当時の小牧通信局局舎横の道(市民会館に通じるこの通りは、当時、小牧市民祭りのパレードコースで【青春の街・小牧(牧さん作詞作曲。歌はチェリッシュさん)】の調べに乗って市民がパレードしていた)を通り、岩崎団地を経て犬山方向経由で江南に抜ける道で帰宅。途中、小牧在任時に▼確か、この辺りのマンションでペットのライオンが逃げ出し大騒ぎしたな、とか▼牧さんが園歌や校歌を制作した幼稚園や小学校は確かこの辺りだった▼まだ幼かった次男坊が<サークルケイ サークルケイ>に連れてってよ、と今は亡き母、舞にねだっていたが、あのサークルケイは確かこの辺りにあったはずだがーなどと感慨を新たに、帰宅した。
 この日。「春の宴」受付では、小学校の校長として大活躍の女性が「(私の本「あたし帰った かえったわよ(人間社)」を読んで感動しました」と話してくださり、ほかにも久しぶりにお会いできたお方など意義深い一日となった。

 自宅に帰ると、愛猫シロちゃんがいつものように玄関先まで飛んで走って出てきてくれ、温かい気持ちに包まれた。花霞では、まつり本番で法被を着た親子らのワッショイ、ワッショイの声が天高く響き、平和な国・日本の存在をあらためて痛感した。

(4月13日)
 土曜日。きょう、あすと私たちが住むこの街・花霞町の春祭りである。というわけで、きょうは獅子頭を手にした法被姿の〝花霞っ子〟の顔がキラキラと輝き、はれやかで、町全域に一筋の春の後光がさしたような、そんな錯覚にとらわれる1日となった。
 笑顔のこどもたちの姿と母親たち。
 法被に身を包んだ親御さんたちの幸せそうな顔と顔が、この町をパッと明るくしてくれ、何ともたのもしく感じた。舞が生きていたなら、いつものように私と一緒に自宅前に立ち、拍手して見守ったに違いない。

 獅子頭をかついで町内を回る花霞のこどもたち
 

(4月12日)
 天皇皇后両陛下が能登へ。

 金曜日。若貴時代を牽引し、大相撲の国際化に尽くした元横綱曙太郎さんが4月上旬、心不全で東京都内の病院で死去。54歳だった。曙さんは同じハワイ出身の元関脇高見山にスカウトされて角界入り。史上初の外国出身横綱として活躍。韓国の総選挙で与党が大敗し、ユンソンニョル(尹錫悦)大統領の政権運営への打撃は必至となった。米国訪問中の岸田文雄首相が11日午前、米連邦議会の上下両院合同会議で演説し「日米両国が世界の平和と繁栄への責任を担っている」と強調。

 けさも、いつものように私が日々、最高の文学だ、と自身に言い聞かせている「くらしの作文」(中日)「女の気持ち」(毎日)を最初に読み、次いで<余録><中日春秋>、そして毎日の小説【青嵐の旅人】【三毒狩り】、中日の小説【(さいごのいっしき)最後の一色】、中日の地方版(尾張版)……の順に読み進めたが、どれも読みごたえがあり、参考になっている。
 なかでも毎日さんの【青嵐の旅人】【三毒狩り】は、筋立てがよく、いつの場面にも読者をドキドキさせてくれ、私の執筆活動にとって、とても参考になっている。これすなわち筆さばきは、当然のことながら、元となる基本である取材力がしっかりしているからにほかならない。最近特に多く見かける自分だけが分かった気になり、訳の分からないことを書き飛ばす青い作家、いや<書きや>、すなわち基本も何もゼロなのにチヤホヤされ、その気分でいるヒヨッコたちに比べたら、取材力はむろん、そこからくる感性あふれる筆致など比べものにならないな、と思う。心当たりのある将来ある作家がいたなら、なかでも【青嵐の旅人】でもとくと読んで、基本から勉強し直すがいい。

 私は詩にしても、市民サイドに立った、わかりやすくて普遍的な内容の作品が好きなのである。たとえば亡き長谷川龍生さん、最匠展子さんの詩のように、である。
 早稲田の学生、河田悠李さんから次のようなメールが届いた。
-「能登の明かり」を熱砂にて拝聴させて頂きました。心安らぐメロディと能登を元気づける詩に、伊神様の能登を想う気持ちを感じました。私もジャンルは違えど、音楽をやっている身なので、作詞作曲の活動が人々の心の拠り所になり、反響を及ぼされている事にとても嬉しく思います。
 少し離れた場所からになりますが、私も能登の復興を心から願っております。また、近々自らの足で能登を訪れてみたいと思っており、自分の目で能登の美しい景色を見ることが出来る日を楽しみにしております。
………

 ありがとう。河田さん。土屋明子教授とゼミのみなさまにも、くれぐれもよろしく。お伝えください。ネ!

(4月11日)
 木曜日。【強竜5連勝】とは本日付の中日スポーツ1面トップ記事だ。〝立浪ドラゴンズ〟には、この調子でこの先もどんどん勝ち進んでいってほしい。不思議なもので、ドラが勝てば、能登に住むみんなの顔も明るくなる。かつての速球の名投手で投手3冠王達成者でもある小松辰雄投手(羽咋郡富来町出身)を生んだ被災地の能登半島全体が元気に、かつ明るくなるのである。

 【天下第一桜らんまん 高遠城址】。長野県伊那市の高遠城址公園で10日、「天下第一の桜」と称される約1500本のタカトオコヒガンザクラが見頃を迎えた。11日に満開となる見込み。-とは、中日新聞の1面記事。
 同紙には、ほかにも【本堂倒壊など100カ所超 能登被災の寺院 再建の道険しく 「檀家の支えに」必死に前向く住職 政教分離の原則公的支援頼れず】【日米部隊連携強化で一致 半導体AI開発へ威力 首脳会談共同声明】【輪島塗フォー・ユー 首相バイデン大統領に贈る】【技注ぐ被災職人 「能登に関心もってもらえる」】【川勝静岡知事辞職願提出「リニア道筋 県政空白短く」】【「リニア 大きな転換点」 川勝知事辞職願 中部の自治体期待 たびたび舌禍謝罪】【「成瀬は」取った本屋大賞 大津在住の宮島さん受賞】など。深刻かつ参考になる重要な記事が並ぶ。

2024年4月10日
 けさのニュースは何と言っても【竜4連勝 2891日ぶり単独首位 中田ノリノリ全打点 熟練の技で食らいつく】(10日付、中日本紙)だろう。やっと中日ドラゴンズが、かつてのドラゴンズらしくなってきた。

 ほかには、小林製薬の「紅こうじ」サプリメント接種による健康被害問題の続報で朝刊には【サプリ摂取やめ腎機能回復 死亡3人に既往症 紅こうじ健康被害 厚労省と学会発表 40代女性「元戻るか不安」】(10日付中日)といった見出しが深刻さを浮き彫りにしている。
 岸田文雄首相が8日(日本時間9日)、政府専用機で米首都ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着。9日にワシントン近郊のアーリントン国立墓地を訪問、一連の外交日程がスタート。10日(同11日)にはバイデン米大統領との首脳会談に臨むという。国賓待遇で公式訪問するのは2015年の安倍晋三元首相以来9年ぶりである。

(4月9日)
 けさの中日新聞近郊版に【「今こそ音楽の力」被災地に届け 応援歌「能登の明かり」 小牧の牧すすむさん×七尾に縁の伊神さん 明日は輝く 朝が来る】の見出しで小牧の三宅駿平記者の筆による記事がトップ扱いで掲載されていた。
 私は当然ながら亡き妻、伊神舞子(伊神たつ江)の仏前に紙面を供えて報告、愛猫シロちゃん(俳句猫「白」=舞が命名=。本名はオーロラレインボー)と一緒に、仏の舞=静汐院美舞立詠大姉=に手をあわせて「おまえもお世話になった人々一人ひとりが少しでも元気になられ、日常生活が戻ってくると良いよね」と報告したのである。それよりも何よりも、かつて小牧国際空港(現県営小牧空港)を担当していた〝空港記者〟時代に大変お世話になった大勢の方々から電話を頂き、あらためて中日新聞の地方版の威力を思い知りもしたのである。

「今こそ音楽の力」被災地に届け、と報道された中日新聞近郊版紙面
 

(4月8日)
 きょうは、仏教の日。
 わが家の宝といっていい愛猫シロちゃん(舞命名の俳句猫「白」)、すなわちオーロラレインボーを年に一度の定期健診で愛北動物病院に連れていく。定期健診とはいえ、体重を計り、ワクチンを打ってもらうだけのことだが彼女にとってはこんごの健康維持のためにも大事なことで、舞の生きていたころから、私と舞、オーロラレインボーの3人で毎年春に訪れ、受診してきた恒例のワクチン接種である。ちなみにこの日の診療費は、ワクチン接種代も含めて5280円ナリだった。そして。接種の中身は▼猫ウイルス性鼻気管炎▼猫カリシウイルス感染症▼猫汎白血球減少症(フェリバックしーろ・共立製薬株式会社)というものであった。

 ふたりで帰宅すると、雨が降り出して来、シロちゃん、やはり久しぶりの外出とあって、少し疲れたようで布団の中にもぐりこんで寝てしまった。起きるまで静かにしていよう。彼女は、すごく敏感なので、このうえはある程度時間がたつのを待つほかないだろう。体重も4・72㌔で医師も「(肥満ではなく)大丈夫。心配ないです」とおっしゃられたのだから。シロちゃん、安心してよね。こうしたときに、おかあさん(伊神舞子、たつ江)がいてくれると良いのにね。でも、ことしもワクチンを無事打ってもらったのだから。おかあさん、きっと天国で安心していてくれるはずだから。ネ!
    ※    ※

    ☆    ☆
 一般ドライバーが有償で乗客を運ぶことができる制度「ライドシェア(自家用車活用事業)が8日始まり、東京都内で出発式が開かれた。この日の午前、日本交通葛西営業所(東京・江戸川)であった出発式には東京ハイヤー・タクシー協会(東京・千代田区)の川鍋一朗会長、斉藤鉄夫国土交通相、河野太郎デジタル相らが出席。テープカットのあと、白いナンバープレートをつけた自家用車が動き出した。
 
 奈良県吉野町の吉野山の桜が見ごろに。報道によれば、7日現在、ふもとに近い「下千本」と「中千本」は満開で、「上千本」は7分咲き。最も山奥の「奥千本」も開花し、今月中旬にかけて満開になるという。名古屋の鶴舞公園の桜も満開だ、とのことである。

(4月7日)
 きのうときょうの2日間をかけ、わが家が属する花霞町3組2班の本年度の〝班長さん〟として各戸(2班は10戸)を巡回。町費の徴収はじめ13、14日に迫った古知野神社の祭礼の祝儀集め、さらには10戸の世帯者名簿の確認で各戸を行ったり来たり。隣の大槻夫人に助けられ、なんとか年度当初の大役を切り抜けた。いつもと違う家を出たり入ったりには、愛猫シロちゃんも最初のうちは「一体何ごとか」と怪訝な表情でいたが、そのうち〝班長さん〟として飛び回っていることが彼女も分かったようで、それこそヤレヤレといった、半ばあきらめ顔で昼寝とあいなったのである。
 それにしても、わが妻たつ江(舞子)は生前、この〝班長さん〟の要職を何度も文句なくしたものだが、あらためて大変だったろうな。俺も少しは助けてやらなければいかなかった-と、今ごろになってつくづく反省したのである。でも、もはや手遅れだ。そんなことを言ったところで何になろう。いまの職務をたつ江に代わってしっかりやるほかあるまい。そう思って反省もしているのである。

 ひと段落したところで、いつものように新聞を丹念に読み終え、こんどは五条川堤の桜見物がてら、大口のドンキ、すなわちユニーへと出向いた。ここで食事し、夕食の買い物を終えたあと、車を駐車場においたまま五条川堤の桜の見物に。まさに満開の桜を目の前に、たつ江と毎年訪れたあの日々を思い出した。ソメイヨシノはどれも話こそしなかったが、美しい姿でいたのである。河畔には大勢の家族連れが訪れていた。

 ことしも見事に咲き誇っていた五条川堤の桜
 

 

    ※    ※
 愛知県の城下町、犬山市できのう6日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産である「犬山祭」が始まった。ことしは満開の桜の下、豪華絢爛な13両の車山(やま)が登場。夜は、ちょうちんをともした「夜車山(よやま)」が20数年ぶりに犬山城前に勢ぞろい。7日もあった。

(4月6日)
 中日新聞の本日付夕刊1面トップに【のと鉄道再開笑顔咲く 新学期間に合った 3カ月ぶり全線復旧】の見出し。能登半島地震で被災した第三セクター「のと鉄道七尾線」が6日、能登中島(石川県七尾市)-穴水(同県穴水町)間が復旧し、全線で運転を再開。この日は穴水駅で記念の出発式が開かれ、約3カ月ぶりに駅をたつ七尾行き一番列車を地元住民らが送り出した。

【建物損壊 水道復旧遅れ、職員離職 奥能登高齢者施設45%休業 輪島と珠洲は約7割】【「職員採用 さらに難しく」「業者来ず 修理できない」】とは、能登半島地震に関する6日付の中日新聞1面見出しである。そして。きょうから新聞週間(6~12日)もあってか、特集記事<伝えた 震えながら 春は、たしかに来ると 支えたいその一心で>は、通信部の建物が損壊し住めなくなった記者たちのリポート集と言ってもよく、能登半島地震がいかに強烈なものであったか-を浮き上がらせる内容となっていた。

(4月5日)
 久しぶりに小牧の牧すすむさん=琴伝流大正琴弦洲会会主。倉知進さん。「恋の犬山」「青春の街・小牧」などの作曲で知られる。詩人で作曲家。ウエブ文学同人誌「熱砂」同人=宅へ。

 能登半島復興ソング「能登の明かり」の件で中日新聞記者の取材を受けるためで走り慣れた道を牧さん宅へ。かよこ夫人にもお会い出来、嬉しく思った。帰りは、町中にでて江南まで帰ってきたが岩崎、味岡、横内……と懐かしい地名を目にウロウロ、ヨロヨロ、きょろきょろとしながら、やっとこせ帰ってきたのである。帰宅すると、いつものように愛猫シロちゃんが飛んで玄関先まで出てきてくれなんだかジーンときた。シロよ。シロ、シロ、シロちゃん。ありがとう。おかあさんではなく、おとうさんで悪かったね。

 牧さんが奏でる大正琴の響きは、相変わらず見事なものであった(小牧市の牧さん宅で)
 

 自民党は昨日、派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、関係議員ら39人の処分を決めたが、けさの新聞は各紙とも【自民裏金39人処分 塩谷、世耕氏離党勧告 首相は対象外 <解説>曖昧な基準 説得力なく】(中日)【自民裏金事件39人処分 塩谷・世耕氏離党勧告 下村・西村・高木氏 党員資格停止 首相は対象外】(毎日)と報道している。

(4月4日)
 きょうは清明(せいめい) 江戸時代の暦の解説書にある「清浄明潔」の略とされ、すべてが生き生きとして清らかに見えるさま(二十四節気)とは、本日付の毎日新聞朝刊。

 中部ペンクラブから以前から依頼されていた会誌『中部ペン』(8月発行予定の31号)への依頼原稿・エッセイと執筆者紹介欄用原稿を担当の朝岡明美さんにメール送稿。【能登はやさしや】のタイトルで書き、出稿したが、なんだか肩の荷が下りた気がした。頼まれることは、有難いことと思わなければ、と自身に言い聞かせる。それにしても、他にもいろいろやらねばならないことが多く、これが忙しいということなのか。

 けさも新聞紙面は【台湾で震度6強9人死亡 1000人余負傷、沖縄に津波 建物倒壊、落石「揺れ1、2分続いた」】【SNS遺族中傷 判事罷免 弾劾裁判岡口氏 表現行為で初】【リニア延期「仕事一段落」 川勝知事、辞意の理由語る 問題発言を謝罪も撤回せず】(いずれも4月4日付の中日新聞)……と、ニュースは留まるところがない。

 なかでも、紅白歌合戦や人気クイズ番組の司会者として活躍し、ベストセラー「気くばりのすすめ」でも知られた元NHKアナウンサーの鈴木健二(すずき・けんじ)さんが亡くなられた-とのニュースには、残念な気がした。鈴木さんは、3月29日、老衰のため死去。95歳。東京都出身。-とのことで悲しいというよりは、とても惜しい気がしてならない。
 
(4月3日)
 台湾で3日午前8時(日本時間同9時)前に東部沖を震源とするマグニチュード(M)7・2の地震が発生。東部花蓮で震度6強となり、建物が倒壊。台北を含む全土で強い揺れを観測し、余震も続いた。台湾の気象当局によれば、1999年の台湾中部で起きた地震以来の大地震で、震源は花蓮の南南東25㌔の海域で震源の深さは15・5㌔。日本の沖縄でも震度4、最大津波30㌢を記録。幸い、大事には至らなかった。

(4月2日)
 快晴。根尾の淡墨桜に会いに、友と出掛けた。
 途中、かつて何度も足を運んだ国の天然記念物淡墨桜が迫るにつれ、何台もの観光バスも含めた車の渋滞が延々と続き、各車とも、止まっては動き、止まっては動きのノロノロ運転の繰り返しに耐えながら、根尾川沿いの道をいくそれこそ、〝難行苦行〟の道行きとなった。それだけに、目的地に着いた時の安堵、解放感ときたら、尋常ではなく、久しぶりの幸福感に満たされたのである。

 これも友が「出来れば、ことしは天下の淡墨桜を見てみたい」と話してくれたからこそで、私自身、若かったころ、この老樹のもとには取材で何度も訪れ、最近も小説「淡墨桜のように」(「マンサニージョの女」(幻冬舎ルネッサンス所蔵)を出版しているだけに、久しぶりに見る満開の大樹との再会劇には、胸がキュンと弾んだのである。

 そして。淡墨桜は昔のまま堂々としていた。実は、わたくし、今回の淡墨桜行を前に先日、道路を確認するため老樹の元を訪れたが、あの時はまだ一輪の花も咲かせてはいなかった。それだけに、今回見た満開の花々には、かつて淡墨桜担当記者として飛び回った四十数年前の現役記者のころの記憶がよみがえり、何かに心をからめとられたような、そんな甘づっばい昔の強烈な記憶と感慨に、私は胸でも打たれたかの如く、ただ立ち尽くしたのである。
 友人には桜をバックに、写真を撮ってもらったが、このごは、しばし老樹の前に立ち尽くすようにしてしばらく満開となった銀の小粒にも似た花々に目を注ぎ、深々と一礼。かつて何度も一緒に訪れたわが相棒、たつ江(伊神舞子)の死を知らせるとともに、現在、大きな地震で苦難のさなかにある能登半島の一日も早い復興を手を合わせて祈ったのである。

 何思う、淡墨桜は春らんまんと咲き誇っていた(岐阜県本巣町根尾で)
 

 

(4月1日)
 関連死を含め244人の多くの命が亡くなった能登半島地震が起き、1日で3カ月がたった。新聞報道によれば、石川県の避難者は今も8109人に上り、珠洲市など5市町では約7860戸で断水が続く。そして。最大時3万4173人に上った避難者は3月29日時点で24%の8109人となったという。

 JR北海道の根室線富良野-新得間(81・7㌔)が31日、運行を終了。テレビドラマ「北の国から」や、映画「鉄道員(ぽっぽっや)」のロケ地となった駅もあり、1907年の開通から117年の歴史に幕を下ろした。
 京都五花街の一つ、祇園甲部の歌舞練場(京都市東山区)で31日、毎春恒例の舞踊公演「都をどり」の稽古総仕上げ「大ざらえ」があった。公演は4月1~30日。1872(明治5)年の創始から数えて150回目の公演となる。-とは、1日付の中日新聞通風筒。

一匹文士、伊神権太がゆく人生そぞろ歩き(2024年3月~)

2024年3月31日
 能登半島の復興を願う歌【能登の明かり(伊神権太作詞、牧すすむ作曲)】がとうとう完成。本日、私たちのウエブ文学同人誌「熱砂」のWhat’s New欄への牧さん歌による音源貼り付けを終え、本日からこの声が広く社会に流れ始めた。

 そして。この【能登の明かり】の詩は、私が作詞(とは言っても、一部牧さんが補作)牧さん作曲で誕生。音源貼り付けは編集委員の黒宮涼さんの〝手〟により、きょうの午後、完成。こんご一人でも多くの方々に歌っていただき、能登半島の被災者に対する元気の元、勇気につながればと願っている。私たち同人は何よりも、被災地の方々の生活が1日も早く、元の日常に戻ることを、ただひたすらに願うだけである。

 能登半島地震で災害関連死の疑いがあるとして少なくとも43人の遺族が災害弔慰金の支給申請をしたことが自治体への取材で判明したーとは、本日付の中日新聞の報道。厚労省と大阪市は30日、小林製薬の「紅こうじ」を使ったサプリメントを巡る健康被害問題で食品衛生法に基づき、原料を製造していた同社の大阪工場(大阪市淀川区)を立ち入り検査。

2024年3月30日
 土曜日。
 ことしの元日、能登半島地震が起きて以降、能登の方々を励まし、元気を取り戻してもらうにはどうしたらよいか。あれやこれや、と本欄を書きながら私は、これまでそのことばかりを考えてきた。亡き妻舞(伊神たつ江)ら家族5人(ほかに、今は亡き愛猫てまりに白うさぎドラえもんちゃんも)でともに7年にわたって過ごした七尾。その能登半島の涙を思い、私は妻と言う名の仏(静汐院美舞立詠大姉)の前で共に考えながら作った詩【能登の明かり】の作曲を私たちウエブ文学同人誌「熱砂」の同人仲間でもある、あのふるさと音楽家牧すすむさん=琴伝流大正琴「弦洲会」会主、詩人で作曲家。「青春の街」小牧。「恋の犬山」など作曲多数=に託し、歌にしてもらったのである。
 そして。きょう、牧さん自らがうたうこの歌を「熱砂」編集委員の黒宮涼さんの手で本欄のWhat’s New欄に出来たら、1日も早く組み込み、だれもが牧さんとともに一緒に歌えるようにーと、世界に向けて広く発信し、公開することにしたのである。このうえは、日本はむろん世界じゅうの人々にこの歌を口ずさんで頂き、能登半島の被災者への光りとなれば、と思っている。本欄を読まれた読者のみなさまには一人でも多く、この歌を共にうたって頂けたら、と願う。
    ※    ※

    ☆    ☆
 けさの新聞も【紅麹サプリにプベルル酸 青カビ由来か 人への毒性調査 きょう工場立ち入り】【社長謝罪 死者5人に 厚労省が窓口】(30日付、毎日見出しから)と紅麹に関する事件の見出し。
 厚生労働省は29日、小林製薬(大阪市)が販売するサプリメント、機能性表示食品・紅麹(べにこうじ)の健康被害が相次いでいる問題で被害のあったサプリの原料の一部から青カビが作り出す天然化合物「プベルル酸」が同社の調査で検出された、と公表。健康被害の原因物質かどうか今後、政府が調査を進めるという。
 ほかには一連の裏金事件で自民党内に安倍派幹部に離党勧告案が浮上している、など。けさも、いろいろ報道されている。

(3月29日)
 名古屋地方気象台が28日、名古屋市で桜(ソメイヨシノ)が開花した、と発表。平年より4日遅く、最も早い開花となった昨年より11日遅い。満開は1週間~10日後になりそうだという。

 けさの中日新聞によれば、小林製薬は28日、「紅こうじ」を使ったサプリメントを摂取した2人の死亡を新たに確認した、と発表。これまでに死亡が判明していた2人と合わせ死者は計4人になった、と伝えていた。それが、夕刊になると、また増え「新たに1人の死亡を確認した」と発表。腎疾患を発症した状態で死亡する例が増え続けており、【紅こうじ 死者5人に 小林製薬 サプリ摂取者と発表 コールセンター 厚労省も設置へ】の見出しが痛ましい。

【リニア開業34年以降へ 「静岡工区 工期10年」 有識者会議JR東海が提示】【子育て支援金最大月950円 28年度徴収 医療保険別に試算】とは本日付の中日新聞夕刊。

(3月28日)
 木曜日。
 斜め向かいの長谷川さんが亡くなっていたことを花霞町町内会の総代の奥さまから知らされ知る。たまたま燃えるゴミをゴミ集積場に運ぶ途中にお隣の大槻夫人と話しておいでのところと出食あして知った。長谷川さんは施設で亡くなられたという。菅原文太みたいな男気のあるとてもかっこいい良いお方で、生前の彼には不燃ゴミの日など舞も私も本当によくして頂いた。合掌-

 富山、長野両県を貫く山岳観光道路「立山黒部アルペンルート」で4月15日の全線開通に向け、除雪作業が進んでいるーとは、中日新聞の本日付記事で見出しは【春へ続くS 立山黒部除雪進む】といったもの。ほかに、けさのニュースは【紅こうじ3商品回収命令 被害昨秋以降製造に偏り 入院106人】【紅こうじ170社超使用 小林製薬製 厚労省など対応協議 国内外で自主回収続く】(いずれも28日付中日見出し)といったものだ。
 
(3月27日)
 岐阜地方気象台が27日、岐阜市で桜が開花した、と発表。平年より2日遅く、3月に暖かい日が続いた昨年と比べ11日遅い開花となった。気象台は、JR岐阜駅近くの同市加納天神町にあるソメイヨシノの標本木で数輪の桜が咲いているのを確認。平年通りであれば、1週間~10日後に満開を迎えるという。

 天皇、皇后両陛下の長女愛子さま(22)がきのう26日、三重県伊勢市の伊勢神宮を初めて単独で参拝され、今月20日に学習院大学を卒業されたことを報告された。

 最高裁第3小法廷(林道晴裁判長)は26日、20年以上同居していた同性パートナーを事件で殺害された男性が、配偶者として「犯罪被害者給付金」を受給できるかどうかで争われた訴訟の上告審判決で支給対象の「事実上婚姻関係と同様の事情(事実婚)にあった者」に同性パートナーも該当し得るとの初判断を示した。

 小林製薬(大阪市)が26日、「紅こうじ」のサプリメントを約3年間継続して接取したとみられる1人が腎疾患で2月に死亡していた、と発表。紅こうじ接取に伴う社会問題が【紅こうじ接取2人死亡 小林製薬サプリ 入院70人超に】(27日付中日朝刊)と、さらに拡大化している。
 米東部メリーランド州ボルティモアで26日未明(午前1時半ごろ)、コンテナ船が橋に衝突、橋の大部分が崩壊。橋の上にいた作業員8人が転落、うち6人が行方不明になっているという。

 ほかには【大谷選手賭博関与否定 「水原氏 勝手に送金」「開幕後初めて知った」 大谷選手賭博関与否定】(27日付中日朝刊見出し)の記事がなぜか気になる。
 この記事を読みながら、各紙とも、今こそ大谷自身と周辺の徹底取材に挑むべきだと私は思う。これは元事件記者の直感ではあるが、だ。何かが隠されている。妻はその間、どうしていたのか。厳しいが、徹底取材をして当然である。第一、取材者側の取材を認めないこと自体が許されないし、不自然である。酷かもしれないが。その間、妻はどうしていたのか。妻の関与はないのか。そこを徹底取材すべきではないのか。

 わけあって各務原のスーパー「イーオン」に行ってみるも途中ではぐれてしまってUターン。

(3月26日)
 何よりも嬉しく、良かったのは、私も知るあの石川県七尾市和倉温泉の日帰り入浴施設「総湯」がきょう、営業を再開したことだろう。心からおめでとうーと祝福したい。和倉温泉旅館協同組合によれば、地震後、和倉温泉での一般開放はこの総湯が第1号だという。この総湯、地震前は近所の常連客や観光客でにぎわい、平日はおよそ400~500人、土日は700~800人が利用している。もちろん、私もかつて何度か入ったことがある。

 小林製薬は25日、腎疾患など健康被害の恐れがあるーとして自主回収を呼びかけている「紅こうじ」のサプリメントを接種した20人の入院が新たに判明した、と発表。これにより、24日までに確認された入院者の数は計26人に。一時、人工透析が必要になった人はいるが、全員命に別状はないという。というわけで、26日付毎日新聞の1面見出しは【「紅こうじ」入院26人に 小林製薬サプリ 健康被害拡大】というものだった。これが中日の本日26日付夕刊報道では【「紅こうじ」1人死亡 腎疾患サプリ3年接取か 小林製薬 因果関係調査】とより、深刻度を増した。

 同じ夕刊では【大谷選手 賭博関与否定 「水原氏が窃盗」開幕後知る】の見出しも。大谷選手が本当に賭博に関与していなかったのか。とても気になる記事である。マスコミ各紙には真実を暴いてほしく思う。大谷選手が関与を否定してはいるが。真実かどうか。各紙とも徹底的に暴いてほしい。大谷の脇が甘かったことだけは確かである。この事件の今後はちょっとどころか、とても気になる。こんなことではプロ野球ファンが大波の如く引いていってしまわないとも限らない。

(3月25日)
 【二階氏「衆院選不出馬」 裏金事件 党処分前に引責 「政治不信招きおわび」】【首相「週内に追加聴取」自身は処分対象外】【輪島の「千枚田」オーナー募集 名勝修復力合わせて 地元有志「ピンチをチャンスに」】とは中日新聞の25日付夕刊見出しである。

 きょうは新年度から花霞の3組2班の班長ということでお隣の奥様に、いろいろ教えて頂いた。亡き妻、舞がいたころは舞が市広報の各戸配布など全てを文句ひとつ言わないでやってくれていたので大いに助かったが、彼女がいなくなった今となっては私がやらざるを得ない。それだけに、きょうはお隣の奥さまにアレヤコレヤと事前のレクチュアを賜った次第。これまでも班長職は何度か回ってきたが、すべて舞がいやな顔ひとつせず、全て屋っていてくれていた。のに、である。

【能登の明かり】について、中日の記者が作曲者の牧すすむさん宅を訪れる。はやく新聞でも報道され、みんなで歌う日がこれば良いな、とつくづく思う。

(3月24日)
 名駅前の「ウインクあいち小ホール」へ。ここであったラララダンス発表会に出て、いっときを過ごした。皆さん、すばらしい社交ダンスで、自分の出場は別に、すっかり見とれてしまった。おそらくは夫妻なのだろう。目の保養というか。お年を召されてなおすばらしい演技力には、すっかり見とれてしまったのである。私は、わたしたちの先生の名前を冠した〝典ちゃんグループ〟のひとりとしてタンゴを大先輩の〝悦ちゃん〟と踊ったが、前半はまずまず。ところが、後半に電気がショートするように全身の動きが一瞬、止まってしまい、自分のからだがどう動いているか、がわからなくなってしまい、ただ曲の流れに従い夢中で踊っている自分に気付いたのである。
 あとで「ごめん。途中で何をどう踊っているか、がわからなくなってしまった」と相方の悦ちゃんに言うと、悦ちゃん曰く「私もよ。途中で電気か何かが走って意識が切れてしまったように、訳も分からず踊っている自分に気が付いたの」の返事。
 そうか、そうだったのか。ふたりで踊るうち、ふたりともが宇宙遊泳でもしているような、そんな意識の中で踊っていたことに気付いたのである。どう表現したらよいものか。認知症でもなければ、一瞬の意識の瓦解のようなものが2人同時に発生したのである。それでもふたりとも、それこそ夢遊病者のように踊り切り、無事、着地したのである。筋書きどおりに踊れてないのに最後まで踊り切ったとでもいえようか。
 不思議な体験となったのである。

 老いも若きも、こうしたダンス発表会が出来るのも、陰で支える指導者がおればこそ、だ。発表会の最後にあいさつをされる各ダンス教室の先生たち
 

 ラララダンス発表会から帰宅すると、大阪市浪速区のエディオンアリーナ大阪で行われていた大相撲春場所千秋楽が終わっており、新入幕で東前頭17枚目の尊富士(24)=本名石岡弥輝也、青森県出身、伊勢ケ浜部屋=がおしたおしで豪ノ山に勝ち、13勝2敗として初優勝。なんと新入幕優勝は大正時代、1914年の両国いらい、110年ぶりの快挙をやってのけていた。尊富士は、大相撲の世界に現れた新星といってよく、こんごが楽しみである。

 初優勝後に「みなさま、ありがとうございました」とインタビューに応える尊富士 
 

 満員の観客で埋まった大相撲春場所千秋楽
  

(3月23日)
 午前8時31分ごろ、岐阜県で震度4の地震。気象庁によれば、震源地は美濃中西部で、震源の深さは約10㌔、地震の規模はマグニチュード4・7と推定され、一宮市でも震度3を記録。私は気付かなかったが、「お父さん。ここ(江南市)も、かなり揺れたよ」と息子。

 【モスクワ郊外 テロ60人死亡 音楽会場数人で銃撃 ISが声明、150人負傷 銃声の中、逃げ惑う人々】【輪島朝市再起へ前進 金沢で出張開催】【MLB水原通訳の調査開始】とは、中日新聞の23日付夕刊。日経夕刊も【モスクワ郊外で銃乱射 音楽ホール60人死亡、テロか 「イスラム国」犯行声明】。世界は物騒である。

    ※    ※   

    ☆    ☆
 けさ23日付の中日新聞朝刊報道によれば、天皇、皇后両陛下がきのう22日に、能登半島地震の被災者を見舞うため石川県を日帰りで訪問された。輪島の朝市で黙とう後、輪島市、珠洲市の順で避難生活をしている人たちと面会。「おからだを大事に」などと励まされた。
 両陛下が被災地に足を運ばれたのは台風19号などで被害が出た宮城、福島両県を訪問された2019年12月以来。23日は午前中に羽田発特別機で能登空港へ。ここから自衛隊のヘリコプターで午後、輪島市中心部へ。瓦やガラス、コンクリートなどが散乱する輪島朝市で、焼け跡を前に深々と頭を下げられ、約100人が身を寄せる避難所「輪島市ふれあい健康センター」へ。ここでは膝をついて「おけがはなかったですか」「こちらでの生活はどうですか」などと声をかけて回られ、引き続きヘリで珠洲市緑丘中体育館へ。ここでも被災者と懇談、1人ひとりを励まされたという。両陛下のこの心からの訪問には被災者一人ひとりが励まされ、勇気づけられたに違いない。

 能登半島地震で被災後、集団避難をしていた石川県輪島市の中学1、2年生約50人が22日、同県白山市からバスで地元へ。これにより、県内3市町の生徒計約400人の集団避難が終わった。米国滞在中の大久保利通に宛てた西郷隆盛の自筆書簡が約100年ぶりに滋賀県で見つかった、と同県が22日、発表。

(3月22日)
 金曜日。毎日22日付朝刊が【東証最高値更新 FRB金利据え置き】【ガザ市民を拷問か イスラエル軍・機関 「ハマス」決めつけ拘束】なら、中日同は【能登半島6市町 被災で業務増 職員2割超 強い疲労】【トヨタ 田原で次世代EV 部品一体成型で工程減 26年から生産へ】【大谷選手通訳 水原氏を解雇 ドジャース 違法賭博疑い】か。この世には毎日毎日、いろんなことが降っては湧いてくる。

 月刊ドラゴンズ木村愛子さんの記事【愛子のインタビュー】を読む。今回は【お帰りなさい‼ 竜の絶対守護神 R・マルティネス】で、シーズンを前に愛子さんの<愛>が感じられる温かく、さわやかな記事だった。ライデル・マルティネス、そしてマイケル・フェリス投手も、がんばれ!

(3月21日)
 夜。牧さんの御子息、倉知崇さんから「〝能登の明かり〟の歌入り音源が届きましたので転送します」のメールが入る。さっそく聞いてみる。歌っているのは、作曲者でもある崇さんの父で私の友、牧すすむさん(倉知進さん)である。何度も何度も、繰り返し繰り返し聞くが、なかなかイイナと思った。

 早朝。ネパールで頑張る友人、ポカレル明美さんから「ご無沙汰しています。いかがお過ごしですか? ふと伊神さんの事が よぎりました。今は日本に一時帰国中です。徳之島の今朝の日の出と一緒に 朝日を参拝した仲間達です 素敵な一日をお迎え下さい。」のラインが朝日など4枚の写真入りで届いた。「すてきな日の出を心からありがとう」と返信する。

 けさの新聞(中日)によれば、天皇、皇后両陛下の長女愛子さま(22)が20日、学習院大の卒業式に出席された。宮内庁を通じて文書を公表し、大学の4年間を「1日1日非常に濃く、学びの多い日々でした」と述べられた、とのこと。4月からは日本赤十字社で嘱託職員として勤務されるという。
 この日、愛子さまは振り袖にはかま姿で式に向かわれ、報道陣に「卒業おめでとうございます」と声をかけられ「充実した4年間を過ごすことができました。素晴らしい先生方や友人たちと出会えたこともうれしく、ありがたく思っております」と述べられ、卒業論文の題は中世を代表する歌人であった「式子(しょくし)内親王とその和歌の研究」と明かされた。愛子さまは冒頭、能登半島地震に触れ、犠牲者に哀悼の意を表し、被災者にお見舞い伝えられたという。

 米大リーグのドジャースとパドレスによる開幕戦が20日、ソウルの高尺(コチョウ)スカイドームで開かれ、エンゼルスからドジャースに移籍し大リーグ7年目を迎えた大谷翔平(29)は2安打1打点1盗塁と活躍。5-2の勝利に貢献した。一方で【20代以下73・5%若年層侵食 大麻摘発最悪6482人 昨年、覚醒剤上回る】の見出しと並んで【「大谷選手口座から賭け屋に6.8億円」 ドジャース水原通訳解雇 米メディア報道】のショッキング極まるニュース(いずれも21日付中日夕刊)も。これは非常に気になる。大谷選手の場合、ドジャースとの大型契約による入団まもない〝事件〟だけに、とても気になるのは私だけではなかろう。日本中のプロ野球ファンが大谷選手の今後を心配しているに違いない。好事魔多し、とはこのことか。

 国内で複数の人から採取された血液に「ナノプラスチック」と呼ばれる直径千分の1㍉以下の極めて小さなプラスチック粒子が含まれていることが、東京農工大の高田秀重教授らのグループの分析で明らかに。うち1人を詳しく調べると、血液や腎臓、肝臓などからプラスチックに添加する紫外線吸収剤やポリ塩化ビフェニール(PCB)という有害化学物質も見つかったという。というわけで、本日付の中日朝刊のトップ見出しは【人の血液からプラ微粒子 国内初 臓器に有害物質も 東京農工大分析】というものだった。

 【常滑の名鉄空港線故障 12時間ぶり運転再開】【栃木、埼玉震度5弱】【世界の「電子ごみ」過去最高の6200万㌧ 22年、リサイクル2割】とは、21日付の中日新聞夕刊報道。いやはや、この世はいろいろとある。
 
(3月20日)
 朝からの小雨もまもなく止んだ。
 春分である。というわけで、仏壇を前に舞の霊に線香を焚いてお参りをした。仏にも花を供え、いつものように線香を焚き、「俺たちはおまえを永遠に守るからナ」と手を合わせ、シロと一緒におまえが大好きで晩年に毎日「聞かせてよ」と言っていた♪エーデルワイスと♪みかんの花咲く丘の2曲を、いつものようにユーチューブで聴いた。
 朝のうち降っていた小雨もまもなくしたら止んだので、息子がしてくれた洗濯物をベランダに干す。と、どこから現れたのか、1羽の鳥がス、スイ、スイと目の前を反転したかと思うと、大空に吸い込まれるように飛び立ち、やがて消えた。あんなにスリルあふれる飛び方は、おかあさん、すなわちたつ江、舞に違いなく、私は思わず、手をふり、お・か・あ・さ・ん、と声を出してしまったのである。生前のおかあさんは、そういう不思議なことをしても決しておかしくはない、ちょっと冒険的で軽業師のような女性であった。

 本日、すなわち20日付の新聞各紙は、どこも日銀が19日開いた金融政策決定会合で、これまで大規模な金融緩和策の柱となってきたマイナス金利政策の解除を決めた、というニュースである。これにより、2007年いらい17年ぶりの利上げが実現。日銀は、長期金利を低く抑えるための長短金利操作も撤廃し、21日から政策金利を0~0・1%とすることとなった。歓迎すべきことのような気がする。

2024年3月19日
 朝。わが友、牧すすむさん=ふるさと音楽家で詩人、作曲家。琴伝流大正琴弦洲会の会主(倉知進さん)、ウエブ文学同人誌「熱砂」同人=から電話が入った。私が以前にお願いしていた能登の皆さんを励まし、元気づける歌が出来た、とのこと。結局、豊田在住のアナウンサー松田恵子さんが歌うことを承諾してくださった、とのこと。大変楽しみである。
電話越しに牧さんの声で彼自らが歌った声を一部聞かせて頂いたが、ちょっと声全体がちいさくて聴き取りにくかったので改めて聞かせていただくこととした。

 競泳のパリ五輪代表選考会が18日、東京アクアティクスセンター(東京都江東区)で行われ、女子100㍍バタフライで池江瑠花子選手(23)=横浜ゴム=が2位で、1位優勝の愛知県刈谷市出身の平井瑞希選手(17)=アリーナつきみ野SC=とともに代表入りを決定。池江選手は白血病を克服して出場した東京五輪から2年半。再びメダルへのスタートラインに立った。3大会連続で五輪切符を手にした池江選手は「ことばにならないほど嬉しい。自分を超えられるものは、自分しかありません」と語った。たいしたものである。

 ほかには選抜高校野球が18日、甲子園球場で開幕。【能登に勇気を 堂々後進 選抜高校野球開幕 航空石川 被災地の思い背負って】(19日付中日1面)の見出しがまばゆい。半面では【安倍二階派議員 募金関与 80人規模処分へ 除名や離党勧告回避 来月上旬にも】【プーチン氏 圧勝で5選】が気になるところか。

2024年3月18日
 きょうは風も強く、かなり寒い。それでもシロちゃんはお外に散歩に出かけ、いつものように正午過ぎに帰ってきた。いったい、毎日どこに行ってくるのか。それは彼女しか知らない。
    ※    ※

    ☆    ☆ 
 きのうの日曜日。根尾の淡墨桜を見るために久しぶりに、独りでマイカーを運転して再会してきた。老樹、淡墨桜の元を訪れるのは、私が連作長編小説【マンサニージョの恋(マンサニージョの恋―女たちの船上ララバイ、淡墨桜のやうな、道化師)】を三部作で出版したその年、2013年の春に今は亡き妻伊神舞子(たつ江)とふたりそろって、本の出版報告を兼ね淡墨桜の元を訪れて以来なので10年以上がたつ。

 淡墨桜は昔のまま。相変わらず、仁王立ちでいた。まもなく、銀の小粒にも似た可憐な花を咲かせるだろう

 
 

    ※    ※  
 老樹への道は国道157線をゆけども、ゆけども、なかなか着かず、これまでの年月の長さを思い出させた。
 根尾村板所(現在は本巣市根尾)の国指定特別天然記念物の樹齢1500年の、この淡墨桜と私との付き合いは、昭和51年春、私が新聞社の記者として三重県の志摩通信部兼伊勢支局から岐阜総局兼北方通信部に転勤してまもなくからの付き合いである。当時、作家の宇野千代さんから時の岐阜県知事平野三郎さんに出された宇野書簡がきっかけとなり、「淡墨桜顕彰保存会」が誕生。以降、保存の手が地元挙げて加えられるなか、保存の輪は年々拡大。老樹が奇跡的に再生して甦った話は知る人ぞ知るのである。
 こんなわけもあって、私は当時岐阜県警回りのほか、たまたま本巣郡の群部回りの記者だったこともあり、老樹の元へは足しげく通い「これでもか」「これでもか」と保存の輪の広がりを書き続けたのである。

 17日は、その淡墨桜になぜか、会いたくなって、ちょっとオーバーかもしれないが、78歳という老体に鞭打って根尾の里で生き続ける淡墨桜の元を訪ねたのであった。久しぶりの長い運転、それも急峻の根尾川沿いに走るコースは途中、少し間違え、1、2度バックしたりもしたが、なんとかゴールイン。老樹の元に立ったのである。やはりまだ桜は咲いておらず、ピークには観光客でにぎわう桜の園も岐阜市内から訪れたという若い女性3人連れだけだった。
 老樹の前に立つ。あの年。そう、昭和51年の春、枯死寸前にまで陥っていた桜の再生を祝って行われた淡墨桜顕彰保存会による観桜会が、ついきのうのように私の脳裏に蘇ったのである。老樹の根っこ部分で観桜会が催されたあの日、ショボショボと降り続ける雨に打たれた銀の小粒にも似た花を咲かせた老樹を目の前に、宇野女史は私の目をじっと見つめ「あのねえ、いがみさん。この桜はネ。老いれば老いるほど美しくなるのだから。人間と同じよ。同じなのだから。あなたも、いずれそういうことに気がつく日がきっと来るはずよ」と。私に向かって何どもなんども、そうおっしゃられたあの日のことが忘れられない。

 そして。時がたち。令和6年(2024年)3月17日。この日。わたくしが、根尾に向かう道すがら、看板などで目にしたものは、北方町の円鏡寺、糸貫町や本巣町に関する役場などの看板。富有柿の里、農産物直売所、蛍の里、淡墨温泉……といったものや鮎料理の店のたたずまいなどだった。鮎は、根尾川の清流にかけたヤナでとらえたものをかつて再三、食べたものだが、これからシーズンを迎えると大勢の人々が根尾川沿いのヤナバまで食べに訪れるに違いない。私自身かつて、根尾への取材の行き返りに腹ごしらえでよく寄ったものだ。

 根尾川の絶景も昔のままだった
 

 富有柿の話しとなると、だ。このおいしさときたら忘れられない。富有柿は、今はシーズンではないが在職中、岐阜県警回りという激務の合間に【柿20話】という連載を地方版に書き続けた日々が懐かしく思い出される。根尾村関連では、先生ひとりに児童ひとりの卒業式を書いたこともあった。昭和51、2年ごろの話だ。
 帰りの道すがら。私はいつのまに出来たのか。国道に面した【道の駅 綾部の里もとす】に立ち寄り、さくらまんじゅうと鯖寿司を買った。特にさくらまんじゅうは天下一品の味で、さっそく舞の遺影に供えたのである。

 桜まんじゅうのおいしさは絶品だった
 

 舞は私のきのうの行動をどう、思っているだろうか。

(3月17日)
 朝刊(中日)の見出しは、【北陸新幹線 延伸開業 東京-敦賀 3時間8分】【日本反対も「搭載艦の寄港継続」 核密約、米意向を受諾 交渉経緯 初の全容解明】【大塚氏 国民離党へ 無所属で名古屋市長選出馬】【ジブリパーク全面開園 魔女に伝えた?】【自民16道府県 使途不明金 「政活費」同様制度、地方にも】といったところか。

 兄から電話。「おふくろの三回忌。4月20日午後1時から永正寺で。2時から、むさし家で食事会だ」と。

(3月16日)
 北陸新幹線金沢-敦賀間が本日延伸開業し、東京―敦賀間580㌔が直通列車で結ばれた。また北陸新幹線の金沢-敦賀間の延伸開業に伴い、私自身過去何度も利用した名古屋-金沢直通の特急「しらさぎ」は15日のラストランで終了、こちらはとても寂しく思うのである。

 米大リーグの開幕戦を韓国で行うドジャースの大谷翔平選手(29)らが15日、ソウル郊外の仁川国際空港に到着。キャンプ地の米アリゾナ州を出発する前、球団の公式X(旧ツイッター)に大谷選手と妻のツーショットが投稿され、ふたりは韓国でそろって笑顔でファンの前に登場。この日大谷選手は到着ロビーにチーム一番乗り。出迎えた大勢のファンの大歓声に右手をあげ応えたという。同行した妻についてCNNテレビは15日、球団が元バスケットボール選手の田中真美子さん(27)であると認めた、と報道したという。真美子さんはWリーグ、富士通の元選手で昨年4月に退団。現役を引退した。

 大谷翔平と妻田中真美子さんのツーショットの写真を添付し1面トップで韓国入りを報道した16日付の中日スポーツ
 

(3月15日)
 金曜日。午後、いつものように社交ダンスのレッスンで一宮スポーツ文化センターへ。24日にウインク愛知5階小ホールで行われるラララダンス発表会を前にしてのレッスンに挑んだ。社交ダンスの続行は、今は亡き舞(伊神舞子)の私に対する遺言といってよく、ずっと続けている。きょうも、タンゴにワルツ、ジルバのレッスンに打ち込んだ。帰宅したところへ、お隣の奥さまから「イガミさん。4月から班長さん、お願いね」と言われ、ドッキリ。なんだか全身に重しがかかったような、そんな気分に包まれた。班長さんは順番なので仕方ないか。それと、誰かはしなければならないから。思えば、亡きたつ江は、これまでに班長職を何回かやったことがあるが。文句ひとつ言わず、町費集めやほかのさまざまな仕事を一軒一軒訪ね、よくぞやったものだな-と今になって、つくづく感心するのである。
 それにしても、町内には最近転居してきた人のなかで町内会には入らないという輩(やから)が居るという。そんな自分勝手なことが許されてよいものだろうかと、つい思ってしまう。町内会はいわば運命共同体的存在で、互いに助け合い、励まし合っていくべきだ、と。私は、そう思うのだが。いかがなものか。この世の中には、いろんな人間がいる。もし、そのことが事実としたなら許されるべきではない。それとも、社会そのものが昔とは変化しつつあるというのか。

(3月14日)
 きのう13日は、2024年の春闘集中回答日。
というわけで、きのうとけさの新聞各紙は【日鉄、14%賃上げ 要求上回る3万5000円 春季交渉 集中回答、満額相次ぐ】(13日付、日経夕刊)【’24春闘 大手賃上げ高水準相次ぐ 集中回答日 鉄鋼は10%超え】(14日付毎日朝刊)【製造大手「満額」相次ぐ 日鉄 要求超え月3.5万円】【トヨタは4年連続満額】(14日付中日朝刊)といった見出しがズラリと並んだ。

 早朝の不燃ごみ出し、一般ごみ出しに続き、目医者さんへ。あいにく、休診ということでUターン。スマホのゴミが限りなく多くなっているようなので削除しはしてみるが、一向に減る気配がない。デ、近くのドコモショップへ、ここで女性スタッフにゴミを除去してもらい、やっと一息。今は夕刊に目を通している。それにしてもドコモゴミはなぜ、あんなにもゴミ量を失くそうとすればするほど無限大に増えるのか。それに、下手にゴミを除去しようとすると、困ったものでスマホそのものが高熱になり、ゴミが爆発的に急増。手のつけようがなくなってしまう。なので、きょうは久しぶりに自宅近くのドコモショップに寄って改善をして頂いたのだが。さて、どうか。私のスマホには、写真はむろんアレヤコレヤとさまざまなデータが爆発するほどに入っている。それだけに、ちょっと心配であることも事実である。

2024年3月13日
 きょうは、朝から快晴である。午前10時前、いつものように私と一緒に♪エーデルワイスと♪みかんの花咲く丘、の2曲をスマホのユーチューブで聴いたあと、わが愛猫シロちゃん(伊神舞子命名による俳句猫「白」)は胸を弾ませ、お外に出かけた。大空高く浮かぶ白い雲たち。きっと、おかあさん、舞に会いに行ったに違いない。シロちゃんとおかあさんが、このお空の下でどんな楽しく、なごやかな会話を交わしたのか。そのことは、あとでシロちゃんに聴くことにしよう。

 能登半島地震の被災地、珠洲市の中学校で12日、卒業式があり、60人が学びやを巣立った。一部の生徒は集団避難先から戻っての式への出席となった。このうち宝立小中学校では中学3年生10人が卒業式を迎え、式の前には能登半島地震の犠牲者らに全員で黙とうを捧げ、引き続きあった式典では時兼秀充校長が「復興には長い年月と人の力が必要です。ふるさと珠洲を愛し、支える人材となり、復興の一翼を担ってほしい」などと語った。これに対して卒業生代表の大畠梨紗子さんは答辞で全国からの支援や被災しながら復旧に励む地元の人々の姿に「元気と勇気をもらいました」と感謝、同級生に向け「共に過ごした日々は一生の宝物。それぞれの道に進んでも、ずっと友だちです」と語りかけた。(13日付の中日新聞朝刊から)

 将棋の藤井聡太八冠(21)の地元・愛知県瀬戸市と名古屋市中心部を結ぶ名鉄瀬戸線(栄町-尾張瀬戸)で12日、将棋の魅力をPRする「将棋とれいん」の運行が始まった。列車は、外観に将棋の駒の絵をあしらい、車内にはルールのほか藤井八冠が考案した詰め将棋問題まで提示。藤井八冠は「難易度を複数用意し、将棋にそれほど詳しくない人にも考えてもらえるようにしました」。尾張瀬戸駅での発車式には鉄道好きの藤井八冠が駅長姿で登場。出発! と笑顔で合図し、藤井さん自らも「とてもうれしい。特別な一日になった」と述べたという。

 国際宇宙ステーション(ISS)での6カ月半の滞在を終えた古川聡さん(59)ら飛行士4人が日本時間の12日午後6時47分(米東部時間同日午前5時47分)、米スペースXの宇宙船クルードラゴンで米フロリダ州沖のメキシコ湾に無事、着水、地球に帰った。クルードドラゴンは船で回収。古川さんらは、開いたハッチからスタッフの助けを借り、無事降り立ったという。

 メニコン創業者で、日本で初めて角膜コンタクトレンズの開発に成功した同社創業者名誉会長の田中恭一さんが10日、老衰のため死去。愛知県木曽川町(現一宮市)出身。92歳だった。

(3月12日)
 政府は12日、仕事と育児や介護の両立に関する改正法案を閣議決定。これにより、男性の育休取得率の公務義務の対象が従業員1000人超の企業から300人超に拡大。取得率の目標値も100人超の企業は公表が義務化される。というわけで、本日付日本経済新聞の1面トップ見出しは、【男性育休率 開示を拡大 300人超企業に義務化 法改正案決定 100人超は「目標値」】と報道した。ほかに、12日付の中日夕刊トップ見出しは【工藤会トップ死刑破棄 「射殺、共謀是認できず」福岡高裁無期判決 殺人は無罪、組織的殺人未遂は有罪】といったところか。

 きょうは丸1日、雨、あめ、またアメだった。
そんなわけで、シロは1日じゅう家のなか。かつて一緒だったおかあさんの部屋の窓辺に座り、何を思うか。1日中、雨の降る外を見ていた。思えば、おかあさんが健在だったころ、シロはどんな時にでもおかあさんと一緒に居たのである。おかあさんからは俳句猫「白」と命名され、おかあさんが詠む俳句や短歌に熱心に目と耳を傾け、時には彼女と共に作品づくりに励んだものであった。でも、いまやそのお母さん、伊神舞子はいない。シロの気持ちは痛いほどにまで胸にグサリと突き刺さるのである。

(3月11日)
 2万2千人以上もの多くの人々の命を奪った東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から11日で13年がたつ。中日新聞夕刊は、関連死を除き180人が亡くなった仙台市若林区荒浜地区の海岸で手を合わせる地元の方々の写真付きで【2万9000人今も避難 「いつも思って生きてきた」】と1面トップで報じた。若林区荒浜地区は、私自身、大震災が起きたその年に訪れているだけに、海からの悲しさが目の前に迫ってくるような、そんな気持ちにかられたのである。私はこの日、2011年3月11日午後2時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード(M)9・0の地震が発生したその時刻に合わせ、深く頭を下げ、東北の被災地に向かって目を瞑り、手を合わせて亡き人々の霊を弔った。大震災と原発事故発生後、私は再三にわたって被災地を訪れてきただけに、なぜか胸に熱い感慨のようなものが走るのである。また訪れ、その後の復興のありようをこの目で確かめなければ、とも思っている。

 中日夕刊1面はほかに【日本作品にアカデミー賞 君たちはどう生きるか長編アニメ ゴジラー1.0 視覚効果】の見出しも。ロサンゼルス発共同電で米映画界最大の祭典、第96回アカデミー賞の発表・授賞式が10日(日本時間11日)ハリウッドで開かれ、「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督)は長編アニメーション賞。「ゴジラ1・0(マイナスワン)」(山崎貴監督)が視覚効果賞をそれぞれ受賞。宮崎監督作の受賞は2003年の「千と千尋の神隠し」いらい21年ぶり2度目。視覚効果賞の受賞は日本の映画で初めて。-と報じていた。
 「君たちは-」は、戦時中の日本で母を亡くした少年が、アオサギの案内で不思議な世界に迷い込む物語。ことしに入り、アカデミー賞の前哨戦とされるゴールデン・グローブ賞と、英国アカデミー賞で日本の作品として初めてアニメ映画賞を受賞していた。

(3月10日)
 東京大空襲の日から79年。痛ましい日だ。東京都戦災誌によれば、だ。3月9日22時30分警戒警報発令、10日0時15分空襲警報発令に続き、それから2時間半にわたって空襲が行われたという。戦争はよくない。

 石川県輪島市の輪島中や門前中、能登町の松波、小木中など能登各地の中学校で9日、卒業式があった。そして。避難先で進学する生徒らが互いに別れを惜しんだ、とは【また会える 能登の門出】と報じた10日付の中日新聞朝刊である。そして。サンデー版大図解といえば、だ。東日本大震災発生に伴う東京電力福島第1事故から13年を前にしての【最悪レベルの事故から13年 福島第1原発と被災地】である。

 悲しい話では、国民的人気アニメ「ちびまる子ちゃん」の主人公まる子役で知られた声優TARAKO(たらこ)さんが4日未明に死去したことか。63歳の旅立ちで、葬儀は近親者で行ったという。ほかに気になるニュースは【横田めぐみさん娘と面会10年 早紀江さん「ドラマのようだった」 日朝会談早期実現願う】(10日付、中日朝刊見出し)である。

(3月9日)
 「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」で知られる漫画家の鳥山明さんが1日、急性硬膜下血腫のため死去。集英社が8日、発表。68歳だった。愛知県清須市出身。「ドラゴンボール」はアニメ化され、世界80を超える国と地域で放送され、世代、国境を超えての人気は得難い存在であった。惜しい人とは、こういう方を言うのだろう。
 国際女性デーの8日夜、女性の差別や暴力反対、ジェンダー平等を訴えて街を歩く「ウィメンズマーチ名古屋-わたしたちは、『ここ』にいる!」が名古屋・栄周辺で開かれた。津地裁は8日、津市で昨年5月、保育園児の3女=当時4歳=に暴行して死亡させたとして傷害致死の罪に問われた母で工場作業員中林りゑ子被告(43)に対する裁判員裁判で懲役6年(求刑は懲役8年)を言い渡した。西前裁判長は判決理由で3女のほのかちゃんを長女や次女と比べて差別的に扱い、育児が思い通りにいかないことへのいら立ちから安易に連日暴行した」と指摘。「被害者の精神的、身体的苦痛は計り知れない」と非難したが、暴行は頭部への打撃を目的とせず、突発的だったとした。
 
 日本経済新聞夕刊の文学周遊は【石川・七尾市】で生前、大正期の作家、藤澤清造を師匠として崇めてやまなかった芥川賞作家の故西村賢太さんについて、で読み出があった。【西村賢太「どうで死ぬ身の一踊り 清造の全集と伝記さえ 作成したら、もういつ 果敢(はか)なくなっても かまわない】と彼らしさがにじみ出た文となっていた。
 この今は亡き西村賢太さん、実はわたしが七尾支局で支局長でいたころ、何度も私を訪ねてくれたことがあり、ふたりで天下でも取ったような気持ちになり、雨滴に打たれながら文学論を交わしたことがある。彼とは、よく言われる【能登はやさしや土までも】の、そのやさしさとは一体何なのかーについてトコトン話し合いたかったのだが。いまや出来もしないたわごとか。

(3月8日)
 ミツバチの日。国際女性デーでもある。

 このところは、アレもこれも何やこれやで大変というか。少し疲れた。これも満78歳という歳のせいかもしれない。ここで心機一転、きょうは朝から歯を磨いてこうしてデスクに座って原稿を書き始めている。それでも、やはり眠いのは、昨夜も遅くまでこうしてペンを走らせていたからか。

 朝刊で何と言っても目についたのは【「中日文化センター栄」は4月3日、中日ピルで新生OPEN! 春の受講生募集】という広告紙面である。中日文化センターは、かつて前の旧中日ビル内の文化芸能局で部長として2年ほど働いたことがある懐かしい職場でもあったからだ。そればかりか、私は昭和のころ、旧ビル内を試験会場にあった新聞社の試験に挑戦、見事難関を突破した思い出多いビルでもあるからである。確かあのころは、旧ビルが建設されたばかり、確かその年に新聞社の入社試験があったのである。

 大分地裁は7日、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)は安全性が不十分だとして対岸の大分県の住民549人が運転差し止めを求めた訴訟の判決で争点となった地震や火山に対する四国電のリスク評価を合理的だ、と判断。「原告らの生命などに侵害が生じる具体的危険があるとは認められない」として請求を退けた。これに対して原告側は即日、控訴。
 東日本大震災復興構想会議議長や防衛大学校長を務めた神戸大名誉教授(日本政治外交史)の五百旗頭真(いおきべ・まこと)さんが6日、急性大動脈解離のため死去した。80歳だった。五百旗頭さんが理事長を務める「ひょうご震災記念21世紀研究機構」(神戸市)によれば、五百旗頭さんは6日午後、執務中に倒れ、病院搬送後に亡くなったという。

(3月7日)
 いやはや、昨年からことしにかけ、このところはずっと、忙しい日が続いた。
 はじめは昨年秋に始まった、早大政治経済学術院・土屋礼子教授の土屋ゼミ学生による私に対する個人史聞き取り調査に関するもので土屋ゼミの学生たちが教授の私に対する質問をもとに私、すなわち伊神孝信の記者来歴を1冊の調査報告書にまとめあげるというもので、インタビューも学生たちによる文字起こしも長時間に及ぶものとなった。その確認作業に結構の時間がかかったのである

 そして。次に私を襲ったのが岐阜県多治見市文芸祭での小説部門の審査で昨年秋から暮れにかけては毎日、応募作品の審査に追われたのである。そして最後が運転免許証の更新で、これがまた更新前の高齢者講習などアレヤコレヤに追われた。ほかに、私が私自らも属する「脱原発社会をめざす文学者の会」幹事会の依頼で月1で執筆している文士刮目の出稿も結構、大変ではあった。ほかに本欄一匹文士の連日に及ぶ執筆とそれこそ、現役時代を思い出させる、そんなハードな日々が続いたのである。

 それはそうと、本日の中日新聞夕刊によれば、だ。東日本大震災の発生に伴う東電福島第一原発事故から11日で13年になるが、事故後、営業を休止していた福島県双葉町の双葉郵便局が町内の移転先に建て替えられ7日、13年ぶりに再開した。日本郵便によれば、営業する郵便局がひとつもない自治体は全国で双葉町だけだったが、これで解消したという。双葉町は私自身過去、3度ほど訪れ、惨状を間近にしているだけに、【東日本大震災13年】のカット入り中日新聞の本日(7日)付の夕刊の【双葉郵便局が再開 13年ぶり】の記事にはホッとした。

【米大統領選/スーパーチューズデー トランプ氏共和指名確実 14勝1敗ヘイリー氏撤退 バイデン氏と再選へ】【茂木氏側4.4億円資金移動 09~22年 公開基準緩い後援会に 使途明細9割なし】とは、7日付中日新聞の朝刊報道。

2024年3月6日
 きょうは、78年前に極寒の地、満州の奉天(現瀋陽)で私が生まれたその日である。かと言って、相棒のたつ江、俳人で歌人だった伊神舞子が生きていたころは、無口な彼女が傍らに居てくれるだけで、何よりも大きな誕生日プレゼントだったのに。それでも、いまは舞の生まれ変わりのようにして彼女も愛した白猫、シロちゃんがいつも私から離れないで傍らに居てくれる。シロちゃん、ありがとう。いついつまでもよろしくネ。
 これからも前に向かって。元気、勇気、感謝の心でいこうと思っている。たつ江の分まで生きていこう-と思っている。

 能登半島地震による液状化が石川、富山、新潟、福井の4県32市町村の少なくとも1724カ所で起きていたーと防災科学技術研究所(茨城県つくば市)のチームが5日、東京都内で開いた報告会で発表。1995年の阪神大震災より多く、2016年の熊本地震も超える見通しだーとは、毎日新聞の6日付報道。

(3月5日)
 学生時代の柔道部有志仲間と名駅JRタワー12階のレストラン街で久しぶりに会った。佐久間、高柳、永田と私の4人だったが皆、それぞれに学生時代そのままに話しが弾み、とても楽しいひとときとなった。友とは良きもの、と改めて思ったのである。

(3月4日)
 江南署で運転免許証の更新を終える。更新手続きの際、視力検査で引っかかり「このままでは更新は出来ません」と言われ、急きょ近くの眼鏡市場へ。視力検査などをして頂き、より強い視力のレンズに替えて頂き、あらためて警察へ。こんどはオーケーが出て新しい免許証を手にした。
 帰って、仏前で今は亡きたつ江に事の顛末を報告したが、これまで10数年に及び同じレンズを使用してきたので「これまでのメガネは、おまえが選んでくれた白と焦げ茶のフレームにサングラス入りで大切なしろものだったのだが。そろそろ変えなきゃ、との神さまのお達しだったかもしれないね」と私。とにもかくにも免許証を新しく更新することが出来、ホッとした。年を取ると、思いがけない不意打ちに襲われるものである。

(3月3日)
 おひなさまである。この日を前に、生前の舞はいつの時にもおひなさまを自室や玄関先などに飾っていた、あの日々を思い出す。ありあわせの折り紙で内裏様などをつくって飾り、それなりに自己満足していたころを思い出し、また舞の季節がやってきたな-と思ったものだ。
 でも、今にして思えば、思い切って立派な段飾りでも買って飾ってやればよかったーとつくづく反省している。舞がいたころは、舞が家の中を歩くだけで、華やいだものが感じられ、その雰囲気が家族に幸せを与えてくれていたのである。
 あいにく、わが家の場合、こどもは三人とも男だったので、おひなさまという意識そのものがあまり働かなかったが、彼女はそうでなかった。自分なりに、ままごとみたいに玄関先とか自室デスクにかわいい内裏雛などを飾っていたのである。一生の不覚とはこのことか。幸い、わが家には、もうひとり、かけがえのない女性がいる。舞が家に入れ、住みついて家族の一員になってしまった愛猫シロちゃん、オーロラレインボーが居てくれるのである。これからはおかあさん、舞の分までかわいがってやらねば。そんな思いを新たにする一日であった。

 きょうの中日新聞朝刊1面トップは【戦争伝える 種まき実る 東邦高生主導なごや平和の日 10年前から要望 条例制定控えOB喜び】【若者中心 全国で進む】となかなか良い記事である。名古屋空襲の犠牲者を悼み、太平洋戦争の記憶を受け継ぐため、名古屋市に「なごや平和の日」がまもなく誕生する。制定の発端をつくったのは、10年前から要望活動をしてきた東邦高校の生徒たちだ。節目の日に選ばれたのは、名古屋城が焼失した5月14日。後輩にバトンをつないだOBは「若者たちが主体的に戦争の歴史を伝える日になってほしい」と願う。-というもので、とても良い記事である。

 本日は中日新聞江南通信部兼一宮支局員だった女性記者が今月1日付で教育文化部へ異動となったので亡き妻舞に関する記事などでもお世話になったので、せめてお礼だけでも言いたくて江南市内の料理屋「むさし家」さんで昼食とあいなった。ふたりのお子さんを抱えながらの地方記者生活。随分、大変だったに違いない。

(3月2日)
 結構、寒い1日である。
 午後。今は亡きノンフィクション作家、長谷川園子さん、すなわち〝そのこ〟さんの一周忌で名古屋八事の天台宗のお寺さんへ。ここで和尚さまの禅宗などと比べたら、チョット変わった読経を一緒に聞き、帰りには皆で「嵯峨野」で食事をして帰った。行き、帰りとも園子さんが「私の息子、息子だよ」と頼りにしていた、その息子さん、河嶋さん(医師)夫妻が車で送り迎えしてくださり、ありがたかった。参列者は、河嶋さん夫妻はじめ、そのこさん宅となりで最後の最期までそのこさんのおせわをした井戸さん(女性)、それに生前の〝そのこさん〟のアッシーさんを自他ともに認める武内さんの計6人であったが、なごやかなひとときが過ぎ、晩年は天涯孤独に近かった〝そのこ〟さんは、きっと喜んだに違いない。

(3月1日)
 金曜日。きょうは社交ダンスのレッスンをやめて午後、一宮自動車学校へ。運転免許証更新のための講習を受けるためである。

 帰宅して開いた中日夕刊。そこには【焼失免れた輪島塗 280㌔先で展示 大津の取引先が救いの手 「絶やさぬよう前向く」】とホットな紙面。このことを報道する新聞の役割も底知れないほどに大きい。能登も大津も、かつて、一人の新聞記者として歩んできた道だけに「がんばって」と応援したくなるのである。

【大谷選手が結婚会見 ずっと一緒にいるのを想像できた】とは、中日新聞の1日付夕刊。それによると、米大リーグ、ドジャースで結婚を発表した大谷翔平選手(29)が、2月29日、キャンプ地のアリゾナ州グレンデールで取材に応じ、「一緒にいて楽しい人。ずっと(一緒に)いるところを想像できた」などと心境を語り、相手については「至って普通の人。出会ったのは3、4年前。婚約したのは去年」と語り、名前などは明かさなかったという。それでよい、十分だと私は思う。

連載小説「あの箱庭へ捧ぐ」第五章

第五話 過ぎ去りし刻

   1

 それは、小さなまるいほう石みたいにキラキラしていた。
 おとうさんとおかあさん。それからおにいちゃん。
 キラキラしたおもい出が、琴乃のたからものだった。
 おとうさんはまい日、おしごとへいく。ちょっとさみしいけれど、琴乃たちのためにまい日がんばっているんだよ。とおかあさんがいっていた。だから琴乃はまい日おとうさんをおうえんすることにした。
 おかあさんはまい日お花に水をやったりおせんたくをしたり、おそうじをしたり。琴乃たちのためにごはんを作ってくれる。琴乃はおかあさんもはたらきものだとおもうから、おかあさんのこともおうえんするね。っていったら、とてもうれしそうにわらってた。
 おにいちゃんはまい日、学校へいっておべんきょうをしている。かえってくると琴乃にたくさんおはなしをきかせてくれるの。琴乃も早く学校へいきたい。琴乃が学校へいけるのは、らい年のはるなんだって。そんなにまてないよ。
 琴乃はようちえんで自分の名まえをいっぱいれんしゅうしたの。かん字もすこしだけべんきょうしたんだよ。だから早くいきたいな。たのしみ。
 おかあさんがキッチンでお夕はんを作ってる。
 おにいちゃんは、テーブルでうんうんいいながら、しゅくだいをしている。
 琴乃は、それをニコニコしながらみている。
 おとうさんがかえってきた。
 おにいちゃんと琴乃は、おとうさんをおでむかえするの。
 それから、みんなでお夕はんをたべて、あったかいおふろにはいるの。
 それからそれから。みんなでいっしょに寝るんだよ。
 おとうさんとおかあさん。それからおにいちゃん。
 おやすみなさい。またあしたもたからものの一日になるといいな。

    *
 
 うみほたる学園に来てからというもの。小池燐音は不思議な夢をみることが多くなった。それは決して悪夢というわけではないのだが、目を覚ますたびに、何故だか哀しい気持ちになる。その夢を燐音は嫌だと思ったことは一度もなかったが、焦燥感に駆られることだけが、気がかりだった。
 幸せな家族の夢であるはずなのに、どうしてこんなにも泣きたくなるのだろう。どうしてこんなにも助けたいと願うのだろうと、燐音は胸が苦しくなる思いをしていた。
 しかし、自分にはどうすることもできないのだと理解している。このことを他の誰かに相談することもできないでいる。
 気がかりなことが、もうひとつある。
 川崎竜太郎の事だ。
 燐音は彼に会ったあの日。二つの点で驚いた。一つは、彼が家に来ること。これは、燐音の両親も知らなかったらしく、心をよむ能力を使っていても知りえる情報ではなかった。そして二つ目は、燐音が川崎のことを知っていたこと。
 六年前の話だ。燐音は当時小学三年生だった。友人と呼べるクラスメイトが一人しかいなく、その子と別々の学級になってしまった春の終わり。燐音は川崎と出会った。
 燐音はクラスに馴染めない生徒だった。ある日、授業に変更があったらしく、教室の場所がわからくなってしまい困ったことがあった。普段は遅刻もしない真面目な生徒だったのに、誰かに聞く勇気もなかった燐音は、生まれて初めて授業をさぼった。
 酷く情けない気持ちになりながら、同時に初めての体験に緊張していた。本来ならば授業の時間だが、燐音は学校内を彷徨うように廊下を歩いていた。
 こんなときに誰かに会ってしまったらと思うと、心臓が痛くなる。どんな言い訳をしたらいいかもわからない。頭の中が真っ白だった。どこへ行こうかと迷ったが、足は自然と大好きな音楽室に向かっていた。
 誰もいないことを祈りながら、扉の空いていた教室に恐るおそる足を踏み入れた。音のしない音楽室。そこには、誰もいなかった。
 燐音は少し安心して、教室の中を意味もなく歩いた。教室の隅にあるピアノは、蓋が閉まっていた。それを開けて鍵盤を触ることは出来なかったが、椅子に座って空中で指を動かして、ピアノを弾く真似をした。
 それから音楽準備室の扉も開いていたので、中を覗いてみる。楽器がたくさん置いてあった。それらを鳴らすことはしなかったが、あまりみる機会のないバイオリンなど、オーケストラで使うような楽器が置いてあり気分が高揚した。
 だから、部屋の奥である人物をみつけたときは心臓が一気に跳ね上がって、口から飛び出してしまいそうになった。
「ひっ」という息を吸う音が口から漏れたので、慌てて右手で唇を押さえた。音楽準備室の奥の棚に寄りかかるようにして、その子は体育座りをしていた。相手もすぐに燐音の姿に気づいて、一瞬だけ目を見開いてから慌てたように顔を膝に埋めた。彼は逃げることもせず、ただ子犬のように怯えていた。
 それが、川崎竜太郎と小池燐音の初めての出会いだった。
 燐音はこの場から立ち去ろうとも思ったが、自分もどこへ行けばよいのかわからなかった。しばらく動けずに、口を押えたまま放心していた。
 そんな状況で、「あの」と、先に声を発したのは意外にも目の前の少年だった。
「ごめんなさい。ここに居させてください」
 その声はとても小さく、けれど明瞭に聴こえた。もちろん燐音には、断る理由などなかった。だから「はい」と少年と同じく小さな声で答えた。
 どうしようかと思ったが、燐音はその場に彼と同じ姿勢で座った。そしてすぐに後悔した。彼と向かい合わせに座ってしまったことに。
 頭の中は白紙だった。何もわからなかった。ただ一つわかることがあるとすれば、目の前の彼も、燐音と同じ状況だということ。
 それから授業が終了するチャイムが鳴るまでの間。燐音とその見知らぬ少年は、何も会話をすることなく、二人とも無言で膝を抱えて座っているという不思議な時間を過ごした。
 その日の燐音はずっと緊張していて、チャイムが鳴って教室へ戻った後もそれは解けなかった。燐音のほうが先に準備室を出たのだが、去り際に彼が顔を上げて「ありがとう」と言った姿が目に焼き付いていて離れなかった。
 それからずっとだ。名前も知らない彼を、音楽準備室の奥で怯えていた彼を、燐音はずっと忘れなかった。覚えていた。あの日の記憶を、忘れられるはずがなかったのだ。

   *

 次に会ったのは、全校生徒が参加するイベントで、偶然にも同じ班になったときだった。話しかける勇気はなかったが、燐音はそこで彼について色々なことを知った。
 名前が川崎竜太郎だということ。燐音と同じ学年で、違うクラスだということ。普段からあまり話すほうではないこと。
 イベントは一年間を通して数回に渡って行われた。クイズや謎とき。班で協力することが多かったため、言葉を交わすことはたまにあった。慣れるまでは大変だったが、楽しかったことを覚えている。
 一年はあっという間に過ぎ、班で集まることもなくなってしまったので、小学四年生の頃には川崎との接点はなくなってしまったが、たまに姿をみかけることはあった。しかしいつしかそれもなくなり、転校してしまったのだろうかと思っていた。
 そして、六年ぶりに燐音は川崎と思わぬ形で再会したのだ。
 川崎は、燐音の事をみても驚く様子がなかった。それですぐに彼が自分の事を覚えていないことに気づいた。
 燐音にとってあの一年間の記憶はとても大切なものだったのに、川崎にとってはそうではなかったということがわかってしまった。それがただひたすらに、哀しかった。

   2

 米田恵理子からの呼び出しに、川崎竜太郎は頭をかしげながら応じた。幻覚売買事件から一日後の事だった。
 プレハブ小屋には、米田と竜太郎と本間宗太。それから、この場所に初めて来たであろう寺沢椎也がいた。寺沢は部屋の中を品定めでもするかのようにじろじろとみていた。
「ここはいい場所ですね。秘密の話をするのにもってこいだ」
 寺沢はそう言いながら、満足したかのようにソファに座った。竜太郎と宗太が一つのソファに座り、その対面のソファに米田と寺沢が座っていた。
「それで、今日は何の話ですか。昨日の件は、終わりましたよね」
 竜太郎は真面目な表情で、米田と寺沢に向かって問う。
「話があるのは、俺じゃなくて。米田先生ですよ」
 寺沢はそう言って、にこりと笑う。
「ええ。この場にいる全員は知っている問題で、彼にはそれを解決するために協力してもらおうと思って来てもらったの」
「問題って。何の」
 尋ねると、米田は真っすぐに竜太郎のほうをみた。
「あなたの、失くした記憶の問題よ」
 米田の言葉に、竜太郎は目を丸くした。彼女の口からその話を聞くのは、もうここ何年もなかったせいか、驚いた。そして気になるのは、この場にいる全員と言ったこと。
「寺沢さんに、話したんですね」
 確認すると、米田は黙って頷いた。
 どうしてそんな勝手なことを。と、怒る間もなく寺沢が口を開いた。
「俺の能力が、他人に幻覚をみせることが出来るのは知っていますよね。そしてその幻覚は、能力の対象者が、みたことのある人物や物しか出てこない」
 竜太郎は目を丸くする。しかし、予想できたことだ。
「つまり、僕の記憶を元に幻覚がつくられていたわけですか」
 冷静に言うと、寺沢が頷いた。
「そういうことです。なので、それを伝えに来ました。米田先生から君の事情を聞いたので。君が何の幻覚をみたのかは知らないですが、君がそう思うならそうです」
 寺沢の言葉に続けるようにして、米田が言う。
「竜太郎。あなたは一体どんな幻覚をみて、どこまで思い出しているの。私はあなたの記憶を戻すきっかけをつくりたいの」
 竜太郎は返答に困ったが、彼女の気持ちを無下にすることも出来なかった。
 米田は五年前。竜太郎に手を差し伸べてくれた人間の一人だ。それからずっと竜太郎のことを見守ってくれた人だからこそ、恩を感じている。彼女の気持ちは嬉しい。けれどそれを、記憶の事を口にすることが、竜太郎には難しいことだった。

   *

 プレハブ小屋の空気は、張り詰めていた。
 竜太郎は、落ち着くために一度深呼吸をする。隣に座っている宗太をみると、不機嫌そうにその綺麗な顔を歪めていた。
「ちょっと、勝手なんじゃないですか」
 長考していると、唐突に宗太が言った。黙ってみていることが出来なかったらしい。
「勝手?」
 気に障ったのか、米田が眉をひそめる。
「だってそうじゃないですか。竜太郎が記憶をとり戻したいって思っているとは限りませんよ」
 宗太の言葉に、竜太郎は自分の頭の中を見透かされた気がした。確かに彼の言うとおりだった。自分の記憶については、戻っても戻らなくても、どちらでもいいと思っていたからだ。
「むしろ、とり戻したくないと思っている可能性もある。って、俺も米田先生に助言しましたけれどね」
 宗太と寺沢の言い分に、米田は急に不安になったのか顔をしかめながら竜太郎のほうをみる。竜太郎は黙ったまま、彼女のことをみつめた。
「そうなの。竜太郎」
 米田が尋ねてくる。
「一言でこの感情を表してしまえば怖い、です。僕がみた幻覚は、とても幸せそうな家族の記憶でしたが、どこか他人事のようにも感じています。それは幻覚だからでしょうか。寺沢さん。改ざんされた記憶だから?」
 竜太郎は米田から目を逸らし、寺沢のほうをみる。疑問はたくさんあった。だがそのどれもが雲のようにつかみどころがなかった。これは本当に自分の記憶なのか定かではなかったのだ。
「あくまでも、記憶を元につくられている幻覚。夢。その人の願望が脳裏に映像として現れている。という説明をすれば、理解できますか。だから君の言う改ざんされた記憶というのも、あながち間違っていないんです。それが幸せな記憶であればあるほど、現実は幸せではないかもしれない」
 残酷な話だと思った。だがそれと同時に寺沢の説明に納得してしまっていた。
 竜太郎は、米田から聞いた話を思い出してみる。幻覚をみた生徒たちのおかしな行動。ぼーっとしたり、突然叫びだしたり。自分が一番欲しかったものや、幸せだった頃の記憶をみて、現実に戻って絶望する。それはそんな行動をとりたくもなってしまうのも当たり前なのかもしれないと思う。
「なるほど。だから我に返った時、みんなおかしな行動を取っていたんですね。副作用みたいな感じで。もう味わえないはずの幸せな記憶だったから」
「まあ。だから人によって副作用が出る出ないがあるんでしょう。元々記憶のなかった君が、出なかったように」
 思い返してみれば、竜太郎は幻覚をみたはずなのに、ちっともおかしくなどならなかった。竜太郎には元々覚えている記憶がなかったから当たり前の話だったのかもしれない。
「米田さん。僕は、記憶を思い出さなくてはいけないんですか」
 竜太郎は米田に尋ねる。真っすぐに彼女の目をみながら。
「少なくとも私は、そう思っているわ。あなたがこの学園に来てから。この五年間ずっと」
 米田は何かを決意したかのような眼差しで、竜太郎の事をみていた。
「あなたは何かを知っていて、そう思っているんですよね」
 竜太郎は米田にそう尋ねた。
 ずっと疑問だった。米田がここまで竜太郎の記憶にこだわる理由。きっとそこには、何かがあるのだろう。
「それは――」
「良いんです。わかっていますから。あなたにも守秘義務があること。僕に言えない、僕の記憶の事。だから、僕が自ら思い出すまで何もできない。そうですよね」
 米田が何かを言おうとしたのはわかっていたが、竜太郎はそれを遮った。
 この五年間。ずっと傍で見守ってくれていた彼女。米田が辛い立場だということは、十分理解しているつもりだ。その点で言うと、理事長のほうがもっと辛いとは思う。
 すべては、竜太郎が記憶を失ってしまったせい。その理由さえ、竜太郎は知らない。
「そうね。正直に話すわ。さっきも言ったとおり、私はあなたの記憶が戻るきっかけをつくりたかった。だから寺沢くんの能力は都合がよかったのよね。あなたたちに依頼すれば、寺沢くんの能力と接点がつくれる。生徒たちにこれ以上広まらないようにっていうのも本心だったけれど、本当の目的はこっちだったの」
 記憶の件を聞いてから、そうじゃないかとは思っていた。疑問が一つ解消された。竜太郎は米田に向かって尋ねる。
「寺沢さんの存在を、最初から知っていましたか」
「知っていたけれど、確証はなかった。能力者のリストをみて寺沢くんの能力のことは知っていた。けれど、幻覚を売っているのが、彼だという決定的な証拠はなかったの。だからあなたたちに依頼した。犯人をみつけてほしいと」
「随分、回りくどいですね」
 米田の回答に、竜太郎の腹は立たなかった。ただ他にやり方はなかったのかと思った。
「そうするしかなかったのよ。竜太郎。あなたのみた幻覚に出てきた家族は、どんな人達だった?」
 米田の質問に、嘘を吐く必要はない。竜太郎は出来るだけ詳細に答える。
「大人の男性と女性。それから小さな女の子がいました。僕はその人達が誰だか、すぐにわかりました。僕の両親と妹です。僕たちは一緒に海にいました。とても楽しそうでした」
 語り終えると、米田は優しい表情で、竜太郎に質問を投げかけてきた。
「もし家族に会えるとしたら。どうする?」
「それが可能ならば彼らに会って、忘れてしまったことを謝りたいです」
「その答えが聞けただけで十分よ」
 そう言って米田がソファから立ち上がる。竜太郎は思わずその動きを目で追う。
「あなたの妹に、会わせてあげる」
 その場にいた誰もが、予想できない一言だったと思う。

   3

 小池燐音は普段からあまり一人で行動することがない。何かをするときは決まって斉藤寧々と一緒であった。ただその日はなんだか胸騒ぎがして、昼御飯の後、用事があると告げ寧々と別れて、ひとりプレハブ小屋へ向かった。
 小屋の中には来客用の立派なソファが置いてある。けれどその人物は、窓際の床の上で膝を二つに折って座っていた。
 何かがあったのは、尋ねなくてもわかった。心が悲鳴を上げていたから。燐音は、能力で彼の心がわかってしまう。
 燐音が部屋に入ると、川崎竜太郎が驚いた表情でこちらをみた。
 川崎の目の前まで行くと、「座っていい?」と彼に尋ねる。彼は無言で頷いた。燐音は川崎から数歩離れた場所に、彼と同じように両手で膝を抱えて座る。スカートではなかったので、裾を抑える必要はなかった。
 いつかと同じように、燐音と川崎は対面で座っていた。けれどそのことを覚えているのは、自分だけなのだろうなと燐音は思う。なんだか緊張して、燐音は川崎の顔から視線をはずす。
「そこに座るんだ」
 川崎が戸惑ったように言う。
「うん」と燐音は頷いた。じっと自分の膝小僧をみつめた。
 川崎がこの状況に既視感を覚えてくれていたらと、願わずにはいられなかった。
「小池。ここの生活にはもう慣れた?」
 川崎が、唐突に質問を投げかけてきた。
「うん。二か月近く経つし」
 燐音は頷きながら言った。
「そうか。僕はここに来て五年経つんだ。時々ここの外の世界がどんなふうなのか、気になって、後から来た人に色々聞きたくなるんだ」
「え?」
 それはまるで、ここの世界しか知らないみたいな言い方だった。燐音は思わず川崎の顔をみる。彼から、嘘は感じられなかった。
「僕には、学園に来る前の記憶がないんだ」
 燐音の疑問に答えるように、川崎が衝撃の事実を告白する。
「さっき五年前からここにいるって言っていたけれど、それ以前の記憶ってこと? そんな」
 そんなの、あんまりだ。そんな言葉を呑み込んだ。口には出せずに、俯く。泣いてしまいそうになって、燐音は膝に顔をうずめる。自分が今どんな顔をしているのか、川崎にみられたくなかった。彼がどんな顔をしているのかも、みたくなかった。
 声が震えてしまっていなかったか、心配になった。彼に悟られてはいけないと思った。負担をかけてしまうから。
「別にそれが辛いとか、苦しいとか思ったことはないけれど。だからこそ誰かの過去を大事にしたいって思ったんだ。過去視の能力は、そういう気持ちから生まれたものだから。でも僕は今、自分の過去を知ることが怖いって思っている」
 川崎の吐露に、燐音は今にも壊れそうな桟橋の真ん中に立っている気分になった。少しでも足を踏み出せば、川崎も一緒に落ちてしまいそうだ。
「こんな話してごめん。記憶がなくてごめん」
 川崎は優しい口調で燐音にそう告げると、それ以上は何も言わなかった。気づいているのかいないのか。本当は何度も自分の事を覚えていないか聞きたいと思っていた。でもそれは出来なかった。する勇気が持てなかった。六年前の思い出を、覚えていないとはっきりと言われてしまったら、自分の中で積み上げていた大切なものが崩れてしまいそうだったから。
「謝る、必要はないと思う」
 燐音の口から、震えた声が出た。隠すことが出来なかった。
「それでも。君には謝らなくてはいけない気がしたから」
 哀しいとか淋しいとか色々な感情がぐちゃぐちゃになって、燐音の瞳から溢れていった。涙が重力に逆らえずに、ジーンズの上に一粒一粒落ちていく。
「教えてくれて、ありがとう」
 燐音は精一杯の勇気を出して、顔を隠したまま一言だけ小さな声で呟いた。
 これ以上は何も望んではいけないような気がした。燐音の過去の記憶を、川崎の能力で視ることは可能だろうけれど、それを提案するのは気が引けた。自分の過去を知ることが怖いと嘆く川崎には、何も言えなかったのだ。

   *

 それから川崎は、燐音に昨日視た幻覚の話をしてくれた。記憶の一部がそれに反映されていることも教えてくれた。それによると川崎には妹がいるらしい。彼女の名前は、川崎琴乃。彼女が六歳の時から、学園の中心部にある本部の地下室で眠っていることを、川崎は今日、米田恵理子から聞かされたという。
「詳しくは教えてくれなかったけれど、川崎琴乃に会わせてくれると米田先生は約束してくれた。けれど気持ちの整理がつかなくて、僕は時間が欲しいと答えた。それからずっとここにいる。ひとりで考えたかったんだ」
 燐音は川崎の話を聞いている間に、涙を拭いて頭を上げていた。彼の視線は少しだけ下を向いていて、目があうことはなかった。
 もしかしたら自分は、ここへ来てはいけなかったのかもしれないと燐音は思った。立ち上がろうとしたけれど川崎が続けて、「けれどダメだね。ひとりでいると悪い方向にしか考えられない。君が来てくれてよかった」と言ってくれたのでやめた。
 燐音が学園に来てからこうして川崎と二人きりになることはほとんどなかった。意図的に避けていたのもあるが、川崎が一人でいるところもあまりみることがない。大抵は、米田先生や本間宗太と一緒にいることが多かったためだ。
 けれど今だけは、他の人に来ないでほしいと願う。「来てくれてよかった」と言ってくれるこの人との時間を大切にしたいと、燐音は思ってしまったから。
 
   4

 一週間はあっという間に過ぎていった。
 竜太郎は米田にまだ返事をしていない。彼女の方も忙しいのか、顔をあわせても何も言ってこなかった。
 ところがその日。竜太郎に一通の手紙が届いた。差出人は、米田恵理子。手紙を渡してくれたのは、足立清二だった。何故彼がと疑問に思ったが、答えは手紙の中にあった。
 部屋で本間宗太と一緒に読んでほしいと白い封筒の表に書いてあったので、竜太郎はその日の夜に寮の自室で宗太と二人で封を開けた。綴じてあったシールは、ピンク色の宝石の形をしていた。
 簡単に言えば手紙の内容は、川崎琴乃についての詳細だった。
 琴乃の能力は、空想でひとつの世界を創ることが出来る。その世界は彼女の願望で創られた永遠の世界で、それを維持するため理事長が別の能力者を使って琴乃の時間を止めたこと。
 米田が琴乃の待遇を良く思っていないため、竜太郎の記憶が少しでも戻る兆候がみられたら、彼女は理事長に逆らうと決めていたらしい。そのひとつが、竜太郎と寺沢を会わせることだった。
 寺沢の能力は対象者の記憶を元に幻覚を作るため、それがきっかけになり竜太郎の記憶の一部を戻したかった。荒療治だったかもしれないと反省の文字も書かれていた。
 計画がある。と手紙の中の米田がいう。
 そのための協力者として足立。そして事情を知っている宗太の二人の名前があがっていた。
 手紙の最後は、『次の日曜日。午前十時に学園本部に集合してほしい』という文章でしめられていた。
「竜太郎。考えていた答えは出たか」
 隣で一緒に手紙を読んでいた宗太に、そう問われる。
 竜太郎は答えた。 
「米田先生の言うとおりその子が辛いめにあっているのだとしたら、僕は助けたいって思うんだ。それは僕が兄って立場にいるからではなく、生徒たちを助ける洸生会のメンバーだからだ。理由はそれでもいいだろう」
 宗太が頷く。
「ああ。いいと思う」
 答えなど最初から考えるまでもなかったのだと竜太郎は思う。色々な事実を突きつけられて混乱していただけなのだ。洸生会として動けばいい。悩む必要などなかった。
「けれど一つだけ我儘を言うならば。もうひとりだけ協力者を増やしたい」
 竜太郎には考えていることがあった。宗太には伝えても良いと思うことだ。
「俺は別に構わないが、誰だ」
 宗太に向かってその名を告げる。
「小池燐音」
 意外だったのか、宗太が目を丸くしていた。
「彼女が必要なんだ」
 竜太郎は真剣な表情で言った。
「理由を聞いても良いか」
 宗太の質問に、嘘を吐く必要はない。だから竜太郎は正直に答える。
「彼女に僕の記憶の話をしたんだ。だからまったくの無関係というわけではない」
 宗太は竜太郎の言葉を予想していたかのように、表情を変えなかった。
「それで何で必要と言い切るんだ。確かに彼女の能力は便利だ。けれど、わかっているのか。理事長の意向に逆らうんだ。ただで済むとは思えない。それに彼女を巻き込むことになるんだぞ」
 核心をつくように、宗太が言った。それが彼の優しさなのだと、竜太郎は知っている。
「それでも」と竜太郎は言う。
「よく考えての事なのか」
「それに彼女は、きっと断らない」
 宗太の言葉に、竜太郎は頷きながら断言した。

   5

 協力してほしいことがあるんだ。と川崎竜太郎が言った。
 理由は聞かなくてもわかっていた。川崎琴乃を助けるために手を貸してほしいと彼は思っている。小池燐音は自分にできることがあるならば喜んで協力すると、迷わずに答えた。
 一緒にいた本間宗太には、理事長に逆らうことになることを理解しているのかと問われたが、燐音はわかっていると返答した。
 それでも。琴乃を閉じ込めているという事実が、燐音にはどうしても間違っていると感じる。だから協力させてほしいと伝えると、本間は納得した様子だった。
 そうして日曜日。川崎と本間と合流した燐音は、学園本部へと向かっていた。そこで米田恵理子と合流する予定らしい。
 本部は学園の中心部にある建物で、生徒たちは滅多に出入りすることはない。緊張した面持ちで三人は正面玄関の前に立っていた。
 しばらくすると自動ドアが開き、奥から米田が姿をあらわして言った。
「来たわね」
 川崎は「お待たせしました」と軽く頭を下げながら言った。
「安心して。警備員はいるけれど、私が何とか出来るから。琴乃ちゃんを助けてあげて」
 声を押さえながらそう言って、米田は微笑む。燐音はその姿に違和感を覚えたが、彼女は何か別の事を考えているとかそういったことは心をよんでもわからなかった。ただ伝わってきたのは不安と哀しみだけだった。
 本部の玄関口には警備員が一人立っていて、米田は彼に何やら告げていた。「特別指導」という単語が耳に入ってきて、燐音は少しだけ胸をざわつかせた。米田の嘘を、警備員は信じるのだろうか。緊張感が漂っているような気がした。
 不安に思い、川崎をみると、彼も表情を強張らせていた。
 警備員との話が終わると、米田はそのまま歩き始める。
「こっちよ。ついてきて」
 言われるままに、三人は米田の後ろをついて歩いた。
 エレベーターに乗り、地下へ向かう。
「竜太郎くんと琴乃ちゃんは五年前、この学園へ来たの」
 米田がエレベーターの番号を押しながら、過去の事を話し始めた。
「そのとき私もまだここに来て間もなかった。慣れない仕事に四苦八苦していたわ。そのときに二人に出会った。竜太郎くんが十二歳。琴乃ちゃんが六歳のころだった」
 エレベーターは静かな音を立てて下がっていく。
 燐音と川崎と本間は、米田の話を真剣な表情で聞いていた。
「その時竜太郎くんは既に記憶を失っていて、琴乃ちゃんより先にこの学園へ来たの」
 しばらくすると、エレベーターは高い音を鳴らして地下一階で停まった。
 米田は一度そこで話を切ると、再び歩く。彼女が向かった先に大きな扉があった。そこには玄関に立っていた人とは別の警備員が、二人立っていた。米田は二人に挨拶をして、「許可はとってあるわ」と告げた。米田の再びの嘘に、警備員たちは不審に思うこともなく米田に一礼をして、それから扉の鍵をカードキーで開けた。

   *

 中に入ると、そこは大きな部屋だった。くまのぬいぐるみや積み木。子ども用のおもちゃが部屋の端のショーケースの中に入れられていた。中央にはベッドがある。そこに女の子が寝そべっていて、それを見守るように椅子に座っている男の人がいた。男はこちらに気づくそぶりもみせなかった。おそらく能力で琴乃の時間を止めている人物こそが、その男だったのだろう。
「琴乃ちゃんの時間は六歳のまま、こうして止められているの」
 米田が説明する。
 五年間。彼女はここでこうして眠ったまま、どんな夢をみているのだろうか。
 燐音はそれを想像して気持ち悪さを感じていた。それとほぼ同時だったと思う。
 川崎が突然走りだし、琴乃をみつめたままの男に掴みかかった。止める間もなかった。米田さえ予想もしていなかった出来事だったらしい。
「竜太郎くんっ」と米田が慌てたように叫んだ。
 川崎は一瞬我に返ったのか、自分の行動に当惑した表情をみせ、男を突き飛ばした。彼は、椅子ごと床に倒れた。
「うっ」
 うめき声をあげる男は、やっとこちらに気づいたのか起き上がりながら驚いた顔をした。
「君たちは、一体……」
 その場にいた全員が、川崎の行動に動揺していた。
「目が覚めましたか」
 川崎が剣呑な目つきで男をみおろしていた。
 燐音はとっさに、能力を使って川崎の心をよんでしまった。彼の心の揺らぎが、いつもより大きく、混乱しているように思えたからだ。
 そうして燐音は川崎が、記憶を取り戻したことを知った。彼は琴乃をみた瞬間に自らの記憶をすべて思い出した。そして男に対して記憶が戻ったことによる感情の混乱をぶつけてしまったのだ。
 それは当然の事だったように思う。仕方のないことだったと。理由を知れば、誰も彼の事を責められないと燐音は思う。
「交代の時間……。でもなさそうだな。米田さん。事情を説明してくれないか」
 男は倒れた椅子をそのままに、立ち上がるでもなくそのままその場にあぐらをかいて座った。面倒だったのか、それとも立ち上がる気力さえないほどに能力を使って疲弊していたのか。男は米田のほうを真っすぐにみた。
「すみません。黒川さん。こんな起こし方をするつもりではなかったのですが」
 米田が額に眉を寄せながら言う。
 燐音は口元を両手で押さえながら隣をみると、本間が嫌なものでもみるように、苦い顔をして川崎に視線を向けていた。
 川崎が黒川という男から目を離し、ベッドであおむけになって眠っている琴乃の近くへ寄って彼女に声をかけた。
「琴乃。起きろ。お兄ちゃんだぞ。迎えに来たんだ。一緒にここから出よう」
 それはまるで、本物の兄のような振舞いだった。
 川崎の手が琴乃の肩に触れようとしたときだった。
 黒川が立ち上がり、川崎の腕を掴んだ。
「あなたがこの子のお兄さんだというなら、やめてあげてください」
「え?」
 黒川の言葉に、川崎が顔をしかめた。
「この子は、幸せな夢を見続けています。ここでこうしていることが、この子の幸せなんです」
 それが当たり前かのように、黒川は言う。
「何を、言っているのですか」
 川崎の声が震えていた。
 黒川の言葉の意味は、燐音にも理解できなかった。
「みてください。この子が大事に抱えているもの。六歳の子どもが、なにも理解していなかったとでもお思いですか。この子は、この宝箱の中に幸せな世界を創造したんです」
 黒川の声は優しく部屋に響いた。
 みんなの視線が、琴乃のほうへと向けられていた。彼女はその小さな両腕で大事そうに、小箱を抱えていた。それが琴乃の小さな幸せの世界のようだった。
「黒川さん。琴乃ちゃんをこのままにしていて良いと本気で思っているんですか」
 米田が黒川に向かって尋ねる。
 黒川は一瞬迷うような表情をみせたが、琴乃をみつめる目は、自分は間違っていないとでも言いたげだった。
「少しだけ時間が進んでしまいました。彼女の体に負担がかかってしまいます。私が力を行使しないと、彼女は弱っていく一方なのです。彼女はこうしている間にも自らの意思で能力を使い続けています」
 黒川の説明に、米田が首を横に振りながら言う。
「なら、なおさらこのままにしておくのは」
「本当にそう思いますか。米田さん。あなたは知っていますよね」
 黒川が米田のほうをみずに、そう言った。彼の能力はみつめている間だけ、対象の時間を止める能力なのかもしれない。と燐音は思った。
 米田は黒川に返す言葉がないのか、そのまま黙り込んでしまっていた。
「それでも、琴乃を解放してほしいです。彼女のためにも。こんなことは間違っています」
 川崎が顔をしかめながら言った。
「もしも罪悪感からそう言っているのなら。あなたはこの子に会うべきじゃない。その理由は、あなたが一番よくわかっているはずです」
 川崎が肩を落とした。琴乃を助けに来たはずなのに、何もできないと、このまま助けられないのかもしれないと思っている様子だった。
「わかっている」
 川崎は悔しそうに唇を噛んだ。彼は何を思い出したのか。燐音にはそこまで知ることはできなかった。
 黒川がゆっくりと川崎の手を離した。
「理解していただけましたか」
 黒川は息を吐いた。
 燐音は、自分が今できることは何なのかを考えていた。何のためについてきて、ここまで来たのかを考えていた。協力するとは言ったものの、具体的に何をすればいいのかわかっていなかった。だから今のこの状況を鑑みて、頭を回転させた。
 そして気づいた。燐音には、燐音にしかできないことがあった。
 そこに思い当たった時、燐音は勇気を出さなくてはならなかった。
「待ってください」
 燐音にしては大きな声だった。僅かに声が裏返ってしまったので恥ずかしかった。
「小池?」
 本間が首をかしげて、こちらをみていた。
「川崎くんが、私をここに連れてきた理由がやっとわかりました」
 燐音は真っすぐに川崎をみつめて言った。
「琴乃ちゃんの心を、知りたかったんですよね」
 川崎の方も、琴乃ではなく燐音のほうをじっとみつめていた。
 そうだ。と肯定するかのような沈黙の後、川崎が口を開いた。
「琴乃と会話ができれば。小さな声でも聴きとることができれば、斉藤でもよかったんだ。けれど小池の能力があれば今の状態でも琴乃の気持ちを知ることができる。だから君が必要だったんだ。どうしても」
 燐音は、自分が必要とされた理由がはっきりとわかって安堵した。
「小池。琴乃はなんと言っているんだ」
「それは――」
 燐音が川崎に答えようとした時だった。
「やめて」
 突然、米田が拒むように言った。
 黒川以外全員の視線が、彼女に向けられた。
「やめて、それ以上は言わないで。知らないで。知らなくてもいいことよ。小池さん。あなたも言いたくないでしょう。ねぇ。そうでしょう」
 米田の声が震えていた。
「米田さん」
 黒川が琴乃から視線を外さずに彼女の名を呼んだ。その顔はとても苦しそうだった。
 彼は何かを知っているのかもしれなかった。 
「知らないほうが幸せなこともあるのよ」
 諭すかのように米田は言うが、燐音は首を横に振った。それは否定だった。燐音は米田の言葉を否定した。
 米田は矛盾していた。彼女は川崎の記憶を取り戻そうと奔走していたはずなのに、いざこの時が来たのにも関わらず、それを邪魔しようとしている。
 ――なぜ?
 隠そうとしている真実があるのだろうか。川崎の記憶を戻し、琴乃を助けたい気持ちと、琴乃の心を知ることは別物なのだろうか。黒川の言葉も気になる。だとしてもただ一つ分かることは、それは間違っていること。
「違います。米田さん。貴女のそれは、ただの過保護です。五年もここにいて。川崎くんが、何も成長していないなんて。まさかそんなこと、思っていませんよね」
 米田が守ろうとしているものが何なのかは知らないが。知らないほうが幸せだとは限らない。昔のことは知らないが、川崎が五年間ここで頑張ってきた意味がきっとあるはずだ。
 米田の瞳は揺らいでいた。肩が震えている。
「思っていないわ。あなたならわかるでしょう。けれど、知ってしまったらきっとショックを受けるわ。傷ついてしまうわ」
 米田の姿は、母親を想起させた。いや、きっとそうなのだろう。五年という間に、川崎と親子のような関係を築いていたのかもしれない。思えば彼の名前を呼ぶとき、ひと際優しい声色だった。 
「米田さん。貴女が思っているよりずっと。川崎くんは強いんですよ」
 そう言って、燐音は微かに笑った。
 この数か月間。燐音が知る限り。川崎竜太郎は思ったよりずっと頼りになるし強い。燐音はそう思っていた。
 だから協力してほしいと言われたとき、驚いたと同時に、それだけ自分が信頼されていることに嬉しさを感じた。それが彼に手を貸そうと思った理由だった。
 燐音は琴乃のそばに立った。彼女の心の声に集中する。本当はずっと聴こえていた彼女の心の声に、耳を傾けた。
 それから話し始めた。琴乃が心の内に秘めていたその想いを。自分はこのために来たのだと思う。

   6

 さいきん、おにいちゃんが学校のはなしをしてくれなくなった。
 琴乃がおねがいしても、おにいちゃんははなしたくないっていうの。
 おにいちゃんは学校がきらいになっちゃったのかな。
 琴乃はかなしい。おにいちゃんから学校のはなしがきけなくなったら、とってもさみしいから。

 今日はなぜか、おにいちゃんがずっとへやにいる。
 いつも学校へ行っているじかんにおにいちゃんがへやにいるなんて、へんなかんじ。
 かぜをひいたのかなっていったら、おにいちゃんはちょうしがわるいんだっていってた。早くなおるといいな。

 つぎの日も、またつぎの日も、おにいちゃんはへやにいる。
 まだちょうしがわるいのかな。なにかのびょうき?
 おかあさんにきこうとおもったら、おかあさんがこわいかおをしておにいちゃんをみていたから、琴乃はなにもきけなくなっちゃった。
 おにいちゃんもしかして、ずる休みなのかな。
 
 よる。おとうさんとおかあさんがけんかしている。
 おにいちゃんのことでけんかしているみたいだった。
 どうしてこんなことになったのっておかあさんがないて、おとうさんはおかあさんのせいだっていってる。
 琴乃はかなしくなってないちゃった。
 おにいちゃんはそれをみて、へやにとじこもっちゃった。
 もうどうしようもなかった。
 かぞくが、ばらばらになっちゃう。
 
   *

 おにいちゃんが琴乃に、おにいちゃんのもっているひみつをおしえてくれた。
 おにいちゃんはさいきん、へんなものが見えるんだって。
 いえのそととか、いっぽも出ていないのにわかるんだって。
 見ようとおもえば学校も見えるんだって。
 おにいちゃんは、琴乃に学校でなにをやっているかおしえてくれるっていったの。
 おにいちゃん。学校に行くのはいやだけど、見るのはいいなんておかしいっていったら、おまえも行けばわかるっていわれた。
 それでけんかになっちゃった。
 おにいちゃん、もう琴乃をへやに入れてくれないの。
 琴乃はしかたないからおとうさんとおかあさんのへやでねるの。
 でも、おとうさんとおかあさんもけんかしているから、琴乃はおかあさんとおとうさんとべつのおふとんでねるの。
 いっしょにねたいなぁ。
 おにいちゃん。琴乃のこときらいになっちゃったのかな。
 ごめんなさい。あやまるから。
 琴乃、おにいちゃんにきらわれたくない。
 おにいちゃん。
 おにいちゃん。
 へやから出てきて。おねがい。なんでもするから。
 おにいちゃん――。

   *

 ゆらゆらゆらゆら。なんだろう。
 おへやの中で赤いひかりがゆれている。
 あれはにかいのおにいちゃんのへやかな。
 おかあさんとおにわであそんでいたらへんなひかりがみえて、それをいったらおかあさんがあわてておうちの中に入ってっちゃった。
 きょうはおとうさんがおやすみで、おへやでテレビをみてるの。
 おにいちゃんはきょうもへやにとじこもっている。
 琴乃。おかあさんにじっとしててねっていわれたから、青いいろの小さくてやわらかいボールをりょうてにもって立ってたの。
 おかあさんはおうちに入ったままずっと出てこないの。おかしいなっておもっていたら、だんだんへんなにおいがしてきたの。おかあさんが、たまにおりょうりをこがしたときのにおい。
 くろいけむりがね。もくもくしているの。へんだなっておもった。
 でもね。琴乃。こわくてうごけなかったの。
 そしたらとなりのおうちのおばさんがきてくれて、琴乃をだきしめてくれた。
 おばさんが「だいじょうぶ?」ってなんかいもきくの。
 琴乃は「だいじょうぶだよ」ってなんかいもこたえた。
 おばさんに「おうちに、まだだれかいる?」ってきかれたから、琴乃は「おとうさんとおかあさんと、それからおにいちゃんもいるよ」ってこたえた。
 そうしたら、おばさんのかおがもっているボールみたいに、青くなったの。
「すぐたすけがくるからね」っておばさんがいった。

 しょうぼう車ときゅうきゅう車と、それからけいさつの車がきた。 
 なんだかいっぱいしらないおとなの人が、しょうかかつどうっていうのをしていた。
 琴乃はおにわから外のどうろにでて、おばさんとふたりでそれをみてた。
 おうちのやねから火が出てたの。
 赤いひかりだと思ってたのが、火だったの。
 だれかが「かじ」だってさけんでた。
 琴乃。こわくてずっとふるえてた。となりのおばさんのうでにずっとしがみついてた。
 おばさんはずっと琴乃のそばにいてくれた。
 しょうぼうたいいんさんが、もえているおうちに入っていって、しばらくしたらだれかをかかえてもどってきたの。
 おとうさんかな。おかあさんかな。っておもって、琴乃は、はしったの。
 ちかくにいったらそれがだれだかわかった。
 
 ――おにいちゃんだった。
 
 おとうさんとおかあさんは、おにいちゃんのあとにたすけだされたの。
 おとうさんとおかあさんと、それからおにいちゃんは、ひどいやけどをおっていた。 
 琴乃はなみだがとまらなくなった。
 ぜんぶおにいちゃんのせいだ。
 きっとおにいちゃんが火をつけたんだ。
 だってさいしょにみた赤いひかりはおにいちゃんのへやだった。
 おにいちゃんなんか、だいっきらい。おにいちゃんのせいで、おとうさんとおかあさんもひどいけがをして、めをさまさなくなっちゃった。
 ぜんぶ。ぜんぶ。ぜんぶ。おにいちゃんのせいだ。
 おにいちゃんが琴乃のだいじなものぜんぶ、うばっていったんだ。 
 おうちにはもうなにものこっていなかった。
 ぜんぶもえちゃった。

   *

 おとうさんとおかあさんとおにいちゃんは、にゅういんしている。
 おとうさんとおかあさんがめをさまさないから、琴乃はしんせきのいえにいくことになった。しょくぶつじょうたいっていわれたけれど、琴乃はよくわからなかった。
 いつめざめるかわからないって、どういうこと?
 おにいちゃんはちゃんとめをさましたのに、どうしておとうさんとおかあさんはめをさまさないの。
 おにいちゃんがどうなるのかはしらない。
 できることなら琴乃は、もうおにいちゃんにはあいたくない。
 琴乃がいつまでもかなしいかおをしていたら、しんせきのおじさんがちいさな「はこ」をくれた。
 そこに、これからあたらしいたのしいおもい出を入れようっていわれた。
 琴乃は、それはいやだなっておもった。
 だから琴乃はたのしかったころのおもい出を、このはこに入れようっておもった。
 キラキラのおもい出。
 げん気だったころのおにいちゃんとおとうさんとおかあさん。このはこに入れてこんどこそたいせつにしようっておもった。
 なにかへんだなっておもったのは、すぐだった。
「はこ」のなかにみんながいた。
 琴乃はうれしくなっちゃっておじさんにいったの。
 そしたらおじさんが、おかしなものをみる目で琴乃をみたの。
「なにかおかしいかな?」ってきいたら、おじさんはあわてておかしくないよっていってくれた。
 でもね。つぎの日、つえをついたおじいさんが琴乃のところにきたの。
 琴乃、おじいさんのはなしがよくわからなくて。
 のうりょく? すごい? 琴乃。てんさいなの?
 おじいさんについていったら学校にいけるんだって。
 琴乃が学校にいきたいっていったら、おじさんがいいよっていってくれた。
 でもお金がかかるのかなって、しんぱいになった。
 おとうさんとおかあさんは、いつもお金とおにいちゃんのことでけんかしてたから。
 おじいさんは、しんぱいいらないよっていってくれた。ほじょきんっていうのがでるんだって。

 それから琴乃は、おじいさんについていって学校に入ったの。
 でもおもっていたものとは、なんだかちがうみたい。
 おじいさんは、しんぱいいらないよっていうの。
 でも琴乃、みちゃったの。
 おにいちゃんがいる。
 おにいちゃんはまだ琴乃に気づいていないけれど、おにいちゃんがいるの。
「琴乃は、おにいちゃんにあいたくない」
 そういっていやがっていたら、おじいさんにあることをいわれた。
 ねむるんだって。そうしたら琴乃がもっているあの「はこ」のせかいの中に琴乃も入れるんだって。ずっといられるんだって。
 だから琴乃はねむっているの。
 ずっと。しあわせなせかいでくらすの。

   7
 
 小池燐音が泣いていた。
 満杯の器に水を入れ続けているときみたいに、涙が瞳から溢れていく。頬を伝って涙の粒が床に落ちていった。最初こそ零れ落ちてくる涙を拭いながら、ずっと泣きながら話していたのだが、途中から面倒になったのかそれすらしなくなった。
 小池は目に涙をいっぱいためて、話していた。竜太郎はそんな彼女の顔をみていることが出来なくなり、視線を自分の足元に移した。灰色の固そうな床がそこにあるだけだった。
 小池の話す言葉ひとつひとつに、竜太郎は琴乃の想いを感じた。
「もういい」
 竜太郎は、震えた声で言った。
 全部。そう全てを思い出した。
 小池が急ぐように涙を服の袖で拭い、竜太郎のほうをみた。
「もういいんだ。もう、わかったから」
 諦めたように竜太郎は言った。しかし、小池が首を横に振る。
「待って。最後まで。きいてほしい」
 小池の言葉に、今度は竜太郎が首を横に振った。
 聞きたくないと思った。これ以上は、知りたくないと思った。琴乃の心の声を聴いて、この先を知ることをためらった。
 覚悟していたはずだった。どんな過去があっても、妹が自分の事をどんなふうに思っていたとしても、すべて受け入れるつもりだったはずなのに。
 琴乃が自分に会いたくない。そう思っているのなら、やはり会わないほうがいいのだろう。
「僕は琴乃を助けなければと思っていた。けれどそれは、間違いだったんだな」
 そう言って、竜太郎は目を伏せた。
 米田が竜太郎の両肩を後ろから両手で掴み、部屋から出るように促してくる。竜太郎の言葉を肯定するような行為だと思った。
 竜太郎は米田の気持ちもわかるような気がした。彼女の行為は常に竜太郎の事を思っての事だとも理解している。だから促されるまま、部屋を出ようと思った。
 黒川が倒れたままだった椅子を起こし、最初に座っていた場所と同じ位置に戻したのがみえた。そして彼は何も言わずにそこに座った。
「おい、待て」
 宗太の静止する声が聴こえた。竜太郎は立ち止まった。入ってきた扉の前に動線を塞ぐように、宗太がそこに立っていた。
「そこをどいてくれないかな。宗太くん」
 米田が言った。
「いやです。だってそれこそ間違いでしょう」
 宗太が怒ったようにそう言った。
「でも。それでも、あなたはそこをどかなくちゃいけない。竜太郎くんはこれ以上ここにいてはいけないわ」
「は? 竜太郎をここに連れてきたのは、先生だろう」
「私は竜太郎くんの記憶が戻って、琴乃ちゃんをここから連れ出せるのなら何でも良かったの。琴乃ちゃんの本心なんて知らないし、知りたくもなかったの。だから、あなたたちが小池さんを連れてきたとき、嫌な予感がしていたの」
「自分勝手ですね。先生」
「私もわかっているわ。けれど、こうするしかないの」
 愁いを帯びた表情で、米田が言った。
「竜太郎。お前が家に火をつけたのが真実でも。琴乃ちゃんがそれに気づいていたとしても。琴乃ちゃんに嫌われていたとしても。お前はそれを、受け入れなければいけないって、わかっているよな」
 とても強い口調だった。宗太は容赦なく竜太郎の胸に剣を突き立てるように言葉を投げつけてきた。
 竜太郎は手のひらで拳をつくって自分を奮い立たせる。そうして思い出した記憶の断片を繋ぎ合わせて言葉にする。
「ああ、そうだよ。僕が火をつけた。琴乃の思っているとおりだ。何も間違っていない。あの日、僕は父親とケンカをした。学校へ行けと頭ごなしに怒鳴られた。もう何もかもが嫌になった。僕はすべて燃えてなくなればいいのにと願った。願ってしまったんだ」
 その瞬間、世界が竜太郎の願いを叶えた。
「突然、指先に火がともった。最初は幻かと思った。けれど気が付いたら僕の周りは火に囲まれていた。どんどん燃え広がって家を焼き尽くしていった。恐ろしい光景だった。けれど僕は何もできなかった。その場に立ち竦むしかなかったんだ」
 燃え盛る炎の中。思い出したのは血相を変えて部屋に飛び込んできた父親の顔と、母親の顔。怒っているのか、哀しんでいるのかわからないそんな表情をしていた。
「それも、もしかして竜太郎の持っている能力のひとつだったのか」
 宗太が顔をしかめながら竜太郎に尋ねる。
 発火の能力は、この場にいる中では米田しか知らない事実だった。宗太にすら明かしていなかった。
 竜太郎は宗太の質問に、無言で頷いた。
「次に目が覚めたとき、僕は病院にいた。どうして病院にいるのか、自分が誰なのかもわからなかった。医者に一時的な記憶喪失だと言われた。火事で大したやけどもなく、奇跡的に命は助かったということだった。僕は過去を失った。だから過去を求めた。過去視が使えるようになったのはその時だ。皮肉なことに自分の過去は視えなかったけれど、他人の過去が視えるようになったんだ。だから僕はこの能力を、他人を助けるために使おうと思った。人には過去を大事にしてほしかったから。目の前に杖をついた知らないおじいさんが現れたのは、それから数日経った頃だった。理事長は、ことの経緯について教えてくれた。発火能力の事。それで家が火事になった事。家族についてはなにも教えてくれなかったけれど、記憶が混乱しないようにしてくれたのだとその時は思っていた。僕は過去視の能力について理事長に相談した。彼は理解を示してくれて、最初からそうするつもりだったのだろうけれど、うみほたる学園に入学することを提案してくれたんだ。それで理事長に、僕の才能を生かさないかと言われた。どうせ居場所なんてなかったから、僕は悩みもせず答えを出したんだ」
 竜太郎は自分の罪を懺悔するかのように、目を細めながら話した。
「そうしてそこから五年もの間。両親の事も妹の事も忘れてのうのうと生きてきた。僕は、最低だ。自分がしたことを全部忘れて、大事な家族のことも放置していた。僕が友人たちと笑って過ごしている間に、僕の家族はずっと苦しんでいたかも知れないのに。助ける? 勘違いも甚だしいよ。すべて僕のせいなのに」
「だからこそ、川崎君には最後まで聞いてほしい。琴乃ちゃんの話はまだ終わっていないから」
 小池が、竜太郎のことを真っすぐにみていた。
「怖いんだ」
 竜太郎は弱々しい声で言った。
「怖いんだよ。恐ろしいんだ。これ以上何があるのか。どんな恐ろしい言葉が出てくるのか。それを考えるだけで怖い。僕は弱い。だから学校へだって行きたくなかった。ある日突然、すべてが嫌になった。無理をして面白くないことに笑ったり、出来ないことを出来るふりをしたり。そうしたことに疲れたんだ。それは今だって同じだ。逃げ出したくてたまらない」
「だからって、逃げんなよ」
 宗太が呟くように言った。
「大事な場面で逃げんな。自分が壊れそうで、守りたくて逃げるのはいい。けれど、違うだろ。今は違うだろう。妹を助けることから逃げるな。洸生会としても、生徒を助けるって言ってただろう。自分で一度決めたことぐらい守れ。守り抜いてみせろ。妹がそんなに大事なら。最後まで聞いて、受け止めてやれよ。それができないっていうのなら、最初から守れない決意をするな」
 宗太が竜太郎を追い詰めるつもりでその言葉を発しているわけではないことぐらい、わかっている。竜太郎のためを思って言ってくれていることぐらい、理解していた。
 ふと気が付くと、小池が竜太郎のすぐ傍まで近づいていた。
 竜太郎は怯えた目で小池をみた。
「どうしても伝えてほしいことがあるって、琴乃ちゃんが」
「琴乃が?」
 小池の言葉に、竜太郎は目を見開いた。
 小池が黒川のほうをみる。
「少しだけ待っていただいても、いいですか」
 その目は真っすぐだった。黒川は少しだけ迷った様子だったが、「ああ」と答えた。
 米田も小池の様子をみて何かを感じたのか、大人しく竜太郎の肩から手を離した。
「琴乃ちゃん。ずっと川崎君のことをみていたの。眠りに入ってからとても幸せだったけれど、あるときふと外の世界と繋がった。怖かったけれど、みてみたの。そうしたら川崎君のことがみえた。この世界の中からなら外の世界をみることができた。だからみていたの。琴乃ちゃんは、五年間。ずっと川崎君のことをみていた」
 予想外のことだった。
 琴乃が創った世界と、外の。現実の世界が繋がっていたなど。そんな都合の良いことがあるのだろうか。いや、あるのかもしれない。それが彼女が望んだことだったならば、あるいは。
「それで?」
 竜太郎は小池の言葉に耳を傾けていた。ようやく向き合うことができそうな気がした。
「川崎君は五年間。記憶がないながらも、洸生会のリーダーとして頑張っていた。その姿をみて、琴乃ちゃんはいつの間にか川崎君を応援するようになっていたの。頑張れって応援しながら、ずっとみていたの。恨みとかそんなものいつの間にか忘れていた。川崎君が誰かを助けようと必死に努力しているところをみていたから、許そうと思えたって。琴乃ちゃんはもう、川崎君の事を恨んでいないの」
 小池の優しい声に、竜太郎の視界に映る彼女の姿が、どんどんぼやけていった。
 いつからか、竜太郎は泣くという行為が出来なくなっていた。それは病院で目覚めたあの日から今までずっとだ。だが今は違う。竜太郎は記憶を取り戻し、泣くことも取り戻していた。竜太郎の瞳から、涙が自然に流れていた。
 五年間の竜太郎の努力を、琴乃はみていてくれた。その事実がわかっただけで充分だった。竜太郎は報われのだ。
「琴乃は、僕を許してくれるのか」
「うん」と小池は頷いた。彼女も泣きそうだった。
「罪は充分に償えたよ。だから。ね。もういいんだよ。罪悪感から解放されても。いいんだよ」
「そうかぁ」
 安堵したような声が、竜太郎の口からもれた。
 それから竜太郎の涙が止まるまでの間。静かに時が流れていった。

   8

 それは怒りであり、呆れであり、落胆でもあった。
 小池燐音は部屋に近づいている誰かの心を感じ取り、自分たちが入ってきたこの部屋に一つしかない扉の方をみつめた。外には警備員の青年だけがいるはずだった。
「どうした?」
 本間が燐音の様子に気づいたのか、同じく扉に目を向ける。川崎も同じ方向をみて「理事長だ」と言いながら服の袖で涙をぬぐった。
 米田は身体を強張らせていた。黒川は椅子に座ったまま、みんなと同じように扉を凝視していた。
 燐音達が部屋に入って、何分が経過していたのだろうか。わからないが、理事長がここへ来るという事実だけがそこにあった。
 扉が開いて先に入ってきたのは、警備員だった。次いで杖をついた理事長がゆっくりと入ってきた。そしてその後ろには、困った顔をした足立の姿もあった。
 足立は協力者という話を川崎からきいていたので、おそらくは理事長を足止めしてくれていたのだろう。しかし、今ここにいるということは失敗した。ということだろう。
 誰も足立を責められない。一番難しい役回りをしていた彼を、むしろよくこの時間まで頑張ってくれたと褒めるべきだと燐音は思った。
「君たちは、一体何をしているのだね」
 嘆息を吐きながら、理事長は言った。低い重厚な声だった。
 燐音は息をのんだ。
 理事長からしたら、米田のしたことは裏切りだ。この部屋に燐音たちを招き入れたのだから。覚悟の上だったが、いざその時が来ると恐ろしく、燐音は身体の震えに気づかれないよう、右手で左腕を軽く抑えた。
「すみません。理事長」
 米田は気まずそうに理事長と目を合わさずに答えた。理事長の鋭い目が米田を突き刺す。
「状況は?」
「えっと。なんと申せばいいのやら」
「簡潔に。はっきりと」
 強い口調で理事長が言う。
「私が、竜太郎くんたちをここへ連れてきました。琴乃ちゃんに会わせたくて」 
「そうか」
 理事長は米田の言ったことに頷いて、それから川崎に視線を向けた。
「それで、話は済んだのか」
「話って」
 川崎が首をかしげる。
「琴乃と話したんだろう」
「話というか。琴乃が何を思っているのかは、知ることができました」
「なるほど」
 理事長は燐音のほうを一瞥する。すべてを理解したような表情だった。
 この場でそんなことが出来るのは、一人しかいない。
「竜太郎。真実を知った今、君はどうしたいんだ」
「それでも、僕が思うことは変わりません。川崎琴乃を兄としても助けたいし、洸生会としても救いたい。理事長には申し訳ありませんが、琴乃をここから連れ出したいと考えています」
 真剣な表情をして、川崎が言った。
 理事長は一服するかのように長い息を吐いた。そこに呆れも、怒りもなかった。ただ安心したという感情を燐音は感じ取る。
 ああ、やっとか。という心の声が聴こえた。
 理事長は優しい声色で言った。
「いいだろう。ここから出て行くがいい」
「え?」
 予想外だったのか、川崎が目を丸くする。
 随分とあっさりと言うので、戸惑っている様子だった。
「良いのですか」
「良いも何も。最初からそのつもりだった」
「は?」
 呆気にとられる川崎やその場にいた全員が、理事長の行動を目で追ったと思う。

   *

 理事長が動かない足を引きずるようにして、ゆっくりと杖を使って前進した。黒川はそれをみもせずに琴乃から視線を外さないまま椅子から立ち上がり、理事長に場所を譲った。理事長が椅子にゆっくりと座る。体の前に置いた杖は支えにして、持ち手に両手をかぶせるようにしていた。そうして目の前で眠っている川崎琴乃をみつめながら、静かに口を開き昔話を始めた。
「五年前だったか。家が火事になった記憶喪失の男の子がいるんだが、おかしなことを言っていると知り合いから連絡があった。おそらく能力が関係しているから来てくれんかと。きけば他人の過去が視えるのだと。ああこれは、当たりだと思った。竜太郎は学園へ連れて行くことに決めた。そのとき妹は何の能力もなかったから、たった二人残った兄妹を引き離すことになってしまったが。まぁしばらくして琴乃もおかしくなったと連絡があった。私は二人とも学園で面倒をみることにした」
 そこまで話して、理事長が深く息を吐く。彼は眠っている琴乃から目を離さない。
「琴乃の能力は特殊でな。最初は琴乃が作った小さな箱庭だったんだそうだ。それが突然、中の物が動き出した。琴乃は能力に目覚めていた。彼女はそれを小さな箱の中の世界と呼んでいた。私もまだみたことがないものであったから、どう対応して良いものかわからなかった。しかも彼女はまだ幼い。細い糸みたいな少女でな。ちょっとハサミを入れただけで切れてしまいそうだった。だから成長を見守ろうと思っておったが。琴乃が学園にいたくない。兄をみたくない。と言い出した。琴乃は気づいておったのだ。兄が自分の事すら忘れてしまっていることに。私は考えた。どうしたらまだ六歳のこの子を救えるのか。悩んだ末に琴乃の時間を止め、竜太郎の記憶が戻るのを待った。彼の記憶さえ戻れば、この子を受け止めることができるだろうと期待して」
「じゃあ琴乃の時間を止めたのは、琴乃のために?」
 川崎が目を丸くしながら、理事長に尋ねた。
 理事長は頷いた。
「ああ。それともう一つ理由がある。琴乃の能力は思ったより彼女自身に負荷をかけていたらしい。そのまま弱っていく彼女を、救う手立てがそれしかなかったのだよ」
 理事長はゆっくりと杖を支えに立ち上がり、片手で琴乃の手を取った。その瞬間、少女の手が微かに動いた。
 いつの間にか、黒川が琴乃から視線を外していた。能力を使うことを止めたらしい。
「起きておるのだろう」
 理事長の言葉に反応するかのように、琴乃の閉じた両の瞼の端から、涙が流れていった。
「どう、しよう」という声が部屋に響く。琴乃の口から発せらせた声だった。
「琴乃」
 優しい兄のような川崎の声が彼女に呼びかける。
「どうしよう。消えちゃう」
 それは縋るような声だった。琴乃が理事長に触れられている手とは反対の手で、小さな箱を小さな手で抱えていた。その中で何が起こっているのか、外からみている燐音たちには何もわからなかった。
 きっとその中には、琴乃が創った彼女だけの世界があるのだろう。
「琴乃、本物のお兄ちゃんの顔がみたいの。でも目を空けたら、琴乃の世界が消えちゃう」
「怖がることはない。それでいいんだ。消えても誰も怒りはしない」
 理事長が優しくそう言って、微笑んだ。
「本当に、お兄ちゃんもお父さんもお母さんも怒らない?」
 琴乃の質問に、川崎が答える。
「ああ。怒らないよ」
「みんな、琴乃と仲良くしてくれる?」
「勿論。みんな琴乃の事が大好きだからね」
「もうケンカなんてしない?」
「しないようにする。だから」
 目を開けてほしい。と川崎の心がそう言った。口に出さなくても琴乃には伝わったのか、彼女はゆっくりと目を開く。宝物でもみるかのように慎重に、でもしっかりとその瞳は川崎竜太郎の事をみていた。
「お兄ちゃん」
 琴乃は兄に呼びかけるとほほ笑んで、箱を抱えていた手を離す。その手を川崎に向かってゆっくりと伸ばした。
 川崎はその手を大切そうに両手で握った。
 お兄ちゃん、大好き。と琴乃の心が言った。
 誰にも知られなかったが、燐音にだけははっきりと伝わっていた。

   9

 時間の流れというのは残酷だ。
 竜太郎は琴乃と手を繋いでいた。五年ぶりに会った妹は、当時の幼い姿のままだった。
「黒川さん」
 竜太郎は琴乃を五年間見続け、彼女の時間を止めていた能力者に話しかけた。
 彼は静かにそこに立っていた。
「私は決して間違っていなかったと思います」
 黒川は呟くように言った。
 竜太郎は真っすぐに彼をみて頷く。
「はい。それはわかっています。一番つらい役割を押し付けてしまったこと。まずは謝らせてください。すみませんでした」
 謝罪と共に、竜太郎は黒川に向かって深々と頭を下げる。
「お兄ちゃん違うよ。おじちゃんは琴乃の我儘をきいてくれたいい人だから。ありがとうでいいの」
 隣にいた琴乃がそう言って、右手は竜太郎と繋いだまま、黒川の手を左手で握った。
 竜太郎と黒川はほとんど同時に目を丸くして、琴乃の行動に驚いた。
「ね」という琴乃に、竜太郎と黒川は顔を見合わせた。それから竜太郎は、黒川に向かって「妹の我儘に付き合ってくださって、ありがとうございました」と言ってもう一度頭を下げた。
「人生というものは、生きていれば何とかなると思います」
 黒川の言葉に、竜太郎はゆっくりと頭を上げて彼の顔をみた。
「だから私は、理事長のしたことが間違いだったとは思いません。その役目を私が担ったことも、偶然ではなかったと思います。あなたたち兄妹の今後に不安はあれど、助けになってくれる人たちがいることは忘れないでください」
 黒川の言葉に、竜太郎は部屋にいる一人一人の顔を改めてみる。
 洸生会という居場所をくれた理事長。不器用だけれど見守ってくれている足立。母親代わりになってくれていた米田。親友であり同士である宗太。友人であり恩人でもある小池。それから、この場にはいないが大切な友人の一人である斉藤のことも思い浮かべた。
「ありがとうございます」
 竜太郎は感謝してもしきれないと思った。
 記憶をなくしていた五年間。常に不安が付きまとっていた。このまま何も思い出さずに生きていくのだろうか。それでいいのだろうか。自分にいたはずの家族は、今何をして何を思っているのだろうか。そんなことばかり毎日思っていた。
 忘れられた側の気持ちを考えると、息苦しくて、まるで窓のない部屋に閉じ込められているようだった。
「竜太郎くん」
 米田が眉間にしわを寄せながら、声をかけてきた。
「色々とごめんなさい。私、自分勝手だったわね。でもどうにかしなきゃ。何かしなきゃって。焦っていたの」
「米田先生は悪くないですよ。僕たち兄妹のことを考えてくださったんです。理事長も、黒川さんも。だから僕たちは誰の事も責めたりしませんし、恨んだりしません」
 同意を得るかのように、竜太郎は琴乃に視線を向ける。琴乃は「うん」と元気よく答えた。
「今後の事だが」
 理事長が椅子に座ったまま、呟く。それから米田のほうをみて言った。
「米田くん。君が二人に親心を持っているのなら、一つ提案がある」
「何ですか」
 米田が目を丸くした。
「君の住んでいるところは、敷地内のアパートかね」
「そうです。うみうしのB棟です。」
「琴乃の時間は五年前で止まったまま、ようやく動き出したばかりだ。つまり琴乃はまだ六歳。どうだね米田くん。君が彼女を引き取っては」
「え?」
 予想外の提案に、米田が呆気にとられたように口を開けている。
「本来なら女子寮の方で暮らすのが良いんだが。六歳の女の子をいきなりぽんと放り込むわけにも行くまい。五年前ならいざ知らず。今の彼女には時間が必要だろう。心と体を箱庭の世界ではなく、現実世界になじませるためのな。事情を知っている君なら適任だと思うが。どうだろう」
「そういうことなら。私、琴乃ちゃんと一緒に暮らしても良いです。私の部屋なら、竜太郎くんも自由に出入りしても構いませんし」
「良いんですか」
 竜太郎は戸惑いを隠せずに尋ねる。
 米田が竜太郎のほうをみて頷く。それから琴乃のほうをみて恐るおそる尋ねた。
「琴乃ちゃんは、それでも良い?」
「うん。お姉さんは良い人だって、琴乃知ってる。本当はお兄ちゃんと一緒に暮らしたいけれど、ダメなんでしょう。それはわかるから。琴乃はお姉さんと一緒に暮らしたい」
 純粋な琴乃の目が、真っすぐに米田に向けられていた。
 米田は琴乃に向かって微笑んで、「ありがとう。これからよろしくね」と言った。
 それをみた黒川が黙って部屋を出て行く様子をみて、ああ。あの人も琴乃の今後を心配していたのだろうなと理解した。
 先ほど彼の言っていた言葉を心の中で反復する。助けになってくれる人たちの中に、きっと彼自身も含まれていたのだ。
 本当にありがとうと、竜太郎は思った。

(終章へ続)

一匹文士、伊神権太がゆく人生そぞろ歩き(2024年2月~)

2024年2月29日
 木曜日。きょうは、かわいいわが妻、舞の4年に1度、閏(うるう)年にしかやってこない満18歳の誕生日である。舞よ、たつ江よ。そちらで元気でいるか。こっちは、それぞれがんばってるよ。舞よ、まい。たつ江よ。心からおめでとう。天国でも皆さんに祝っていただいていることだろうね。皆さんに、可愛がっていただいていれば、私はそれだけで嬉しい。
 ところで私。わたくし、俺の方は朝、三男坊を送り出したあと、シロちゃんと一緒に手を合わせ、蠟燭を立て線香をたて仏壇のおまえ(静汐院美舞立詠大姉)に向かって、こうして「誕生日。おめでとう」と話しかけている。

 舞よ、18歳おめでとう(わたくしは遺影に、呼びかけた)
 

 静汐院美舞立詠大姉は、いまはお空でどんな俳句を、短歌を詠んでいるのか
 

 仏壇横には息子の手で真っ赤な、鮮やかな花が飾られた
 

    ※    ※

    ☆    ☆
 ところで地上の方だが。【政倫審きょう首相出席 全面公開あす安倍派4人】【なでしこ五輪切符(サッカーの女子日本代表「なでしこジャパン」が28日、東京の国立競技場でパリ・オリンピック・アジア最終予選第2戦に臨み、北朝鮮代表に2-1で勝ち、2大会連続6回目の五輪出場を決めた)】(毎日29日付朝刊見出し)や【陸自発砲19歳元候補生起訴 強盗殺人罪 岐阜地検、実名公表】【3・16「魔女の谷」心動く大さんぽ ジブリパーク フルオープン前 内覧会】【「5月までに」反発受け早め きょう辞職届 セクハラ岐南町長辞意 職員ら「組織に問題」「自覚しないと」】【「今はセクハラと思う」調査に不満も】(中日29日付朝刊見出し)といったニュースが相次いでいる。それにしても岐阜県岐南町の小島英雄町長(74)は、お粗末そのもの、何と言ってよいのか。いやはや、この地上、いろいろあるのである。

 そんななか、【ドジャース いきなりショータイム 大リーグ 大谷移籍1号 オープン戦 詰まっても際立つパワー】(中日29日付・スポーツ面)の見出しが目に留まった。春が近づき、いよいよ何もが動き始めようとしている。そんな気がする。

(2月28日)
 水曜日。けさの朝刊記事で何より気になったのは、あの寺越武志さんの母、「友枝さんの死」である。寺越友枝さんといえば、だ。私が新聞社の七尾支局長だった当時に私たち能登同人記者が出会った衝撃の取材が頭に浮かぶのである。彼女の長男武志さんは1963年に叔父と共に日本海に出漁、行方不明となっていたが1987年に北朝鮮での生存が判明。その後、友枝さん自ら北朝鮮に渡航、24年ぶりに再会。その後、外務省への要請などを繰り返した結果、2002年に39年の時を経て一時帰国したあの寺越武志さんの母親である。たまたま私が七尾在任中に「生きていた寺越武志さん」のニュースを能登同人らとすっぱ抜いて北朝鮮での生存が判明、当時、日本中が大騒ぎとなったことは、今でもよく覚えている。
 忘れもしない。寺越文枝さんとは、日本海へ出漁し、その後行方不明となり、北朝鮮で生存が判明した、あの寺越武志さんの母親のことである。その母親が25日に呼吸不全のため92歳で死去したという事実が報道された紙面を前に、私は感慨に胸を打たれたのである。

 能登半島地震のその後は、相変わらずニュースが沸騰している。本日付の中日新聞1面見出し【2週間孤立 全員避難した輪島の里 農業できるぞ 帰ってこいや 再生のため 作業続ける66歳】の記事には胸を打たれた。ほかには【政倫審きょうの開催中止 衆院 公開巡り与野党対立 西村、武田氏が出席翻意】はじめ【強殺疑い 女を再逮捕 盗品換金、ホスト遊びに 中区死体遺棄】【琵琶湖遺体男女再逮捕 強殺疑い、ホスト遊びで借金】【男女殺害疑い 男逮捕 滋賀のアパート住人同士】が気になる記事といえようか。

【宝塚一転パワハラ認める 劇団員死亡 遺族に謝罪意向 一部言動は見解に溝】【出生数過去最少75万人 婚姻数 戦後最低48万組 23年速報値 未婚化への対応が鍵】(28日付毎日見出し)とは、毎日新聞の報道。こちらも気になる。
    ※    ※

    ☆    ☆
 午後のいっとき。かつて能登半島七尾支局に在任時に妻の舞(伊神舞子)ともども大変お世話になった歌人山崎国枝子さん、そして和倉温泉岡田屋の女将まりこさん、七尾のママさんソフトボール大会など何かと大変お世話になった南昭治さんの3氏に能登半島地震が起きて以降、初の電話をしてみる。皆さん、だれもがお宅や旅館はかなりの破損で大変なようだったが、まずは元気そうな声をお聞きすることが出来、ホッとした。
 なかでもマリちゃん(まりこさん)とは、それこそ30年ぶり、久しぶりの電話となった。「いがみさん。きょう、やっと水がくるようになったところなの。もう大変でしたよ。それはそうと、元気でおいででしたか。電話をくれてありがとう。あなたの声を聞き、元気が出てきたわよ。伊神さんが七尾においでだったころ。あの時が和倉にも勢いがあって一番楽しかった。おもしろかったよ」と涙声で話す、あの懐かしい声を耳に、私は和倉(温泉)のあちこち歩き回っていた当時のことが思い出され、なんだか涙がしたたり落ちてしまった。
 私たち家族が七尾にいたのは昭和の末から平成はじめの7年間。世の中がバブル景気に浮かれていたころである。和倉温泉が毎年、日本の温泉百選で日本一を誇っていた。和倉温泉旅館協同組合と和倉温泉観光協会では、毎年ハワイへの浴客招待までしており、私も同行取材。和倉のみんなが家族同然、固いきずなで結ばれていたのである。

 「マリちゃんとこの宿が再開するときは、ぜひ教えてよね。必ず行くから」と言って受話器をおろした。

(2月27日)
 北大西洋条約機構(NATO)加盟国のハンガリー議会が26日、スウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)加盟を承認。唯一批准していなかったハンガリーが承認したことでスウェーデンの加盟が決定。これにより、ロシアと欧州に面するバルト海のほぼ全域をNATO加盟国が取り込む形となり、防衛力の強化は一段と高まる形となった。スウェーデンは32カ国目の加盟となった。スウェーデンは、ウクライナに軍事侵攻したロシアの脅威を受け、2022年に隣国フィンランドと共に加盟を申請。フィンランドは23年4月に加盟を果たしている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、ロシアの軍事侵攻によるウクライナ軍兵士の死者が約3万1000人に上った、と明らかに。ゼレンスキー氏が自軍兵士の死者数を公表したのは初。ロシア軍の死者はその約6倍に当たる、とも語った。またウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は25日、ロシア北極圏の刑務所で死亡した反政府活動家ナワリヌイ氏の死因は、血栓症による自然死だったとの見方を示し、ロシア当局が意図的に殺害したとの見方を否定したという。ブダノフ氏は記者団に対して「失望させるかもしれないが、彼が血栓症で亡くなったことがほぼ裏付けられた。残念ながら自然死だ」と述べたという。

 いずれにせよ、この世は戦争と言う愚かな行いによる死が横行している。あぁ、何と言うことか。戦争という愚かな行為で、貴重かつ尊い命が日々、失われていく。そうした現実に私は、うろたえる。たつ江、舞が生きていたら、彼女も嘆息するに違いない。どうして人間たちは戦争をするのだろう。仲良く、楽しく生きていけばよいものを。
    ※    ※

    ☆    ☆
【英国から来日40年の輪島塗作家 漆の芸術諦めたくない 被災乗り越え展覧会開催】【仮説トイレ生活長期化 珠洲市住民「早く流せるように」 下水道復旧 時期見通せず】【「白米(しろよね)千枚田 今年も耕作へ 地震でひび割れ】【桐島容疑者本人と特定 警視庁 5事件で書類送検 先月死亡】とは、27日付の日経夕刊の見出しだ。

(2月26日)
 大阪マラソン2024(大阪府、大阪市、大阪陸上競技協会主催。毎日新聞社、日本陸上競技連盟など共催)が25日、大阪市の大阪府庁前から大阪城公園までの42・195㌔のコースで行われ、男子は平林清澄(21)=国学院大=が2時間6分18秒で優勝。初マラソンの日本最高記録とマラソンの日本学生最高記録を更新した。

【被災地に音楽を 楽譜再現避難先で演奏 友の心つないだ校歌】とは、毎日新聞の26日付の朝刊紙面。総合リードは「東日本大震災から約2か月後、福島県中通り地方の三春町にいた小学校の教師たちは校歌の楽譜を探していた。三春町の小学校の楽譜ではない。東京電力福島第1原発事故の避難指示区域に入った三つの小学校の楽譜だった。」というものであった。

 11月に迫った米大統領選に向けた共和党候補指名争いは、第5戦の南部サウスカロライナ州予備選が24日投開票され、ドナルド・トランプ前大統領(77)が得票率1位で勝利を確実にした。トランプ氏は5連勝。唯一残るライバルのニッキー・ヘイリー元国連大使(52)の地元で勝利したことで党候補指名に向けて大きく前進。11月の本選で民主党のジョー・バイデン大統領(81)と再び対決する公算が大きくなった。

(2月25日)
 岐阜県多治見市文芸祭の表彰式と講評会に出席するため、久しぶりに金山から中央線に乗って多治見市に行って来た。中央線に乗るとなぜか、はるか昔、新聞社のひよっこ記者当時に名古屋から中央線に乗って松本に向かった、あの日のことを思い出すから不思議である。私は小説部門の審査員として参列したが、多治見のこの文芸祭がナント57年の歴史を刻んでいることにまず驚き、文芸に対する多治見市の熱い信条に心をうたれたのである。賞に輝いた方々も皆さん、生き生きとした表情で昨年秋から暮れにかけ黙々と進んだ審査はチョット大変だったが引き受けてよかったな、とも思ったのである。

 というわけで、朝は息子に名鉄江南駅まで送ってもらい、金山駅でJR中央線に乗り換えての出席とあいなった。小雨降るあいにくの天気だったが多治見駅から会場のヤマカまなびパークまでの道のりもわかりやすく、他部門の審査員諸氏にも挨拶することが出来、有意義な1日となった。小雨のなか、ゆっくりと歩を進めるとナンダカこの街ならでは、の音が聞こえてきたのも私の心を久しぶりに豊かで潤いあるものに感じさせてくれた。この街には、かつて新聞社の文化芸能局の部長時代に陶芸家に会いに一度だけ、きたことがあるだけに、当時のことを懐かしく思い出しもした。

 帰宅すると、いつものようにシロちゃんが玄関先まで出迎えてくれ、「帰ったよ」と言うと「ニャア~ン」と彼女。ありがとう、と礼を言い、玄関扉を閉めた。きょうは、中部ペンクラブ会長の中村賢三さん、理事で同文芸祭運営委員でもある椿井愛一郎さんもお忙しいなかを駆け付けてくださり、嬉しくも思った。

(2月24日)
 ロシアのウクライナ侵攻開始からきょうで2年。新聞各紙の1面は【ロシア攻勢膠着状態 ウクライナ侵攻2年 戦死19万人出口見えず】(24日付中日朝刊)【侵攻2年 見えぬ出口 ウクライナ1000万人 家追われ 弱者にしわ寄せ重く】(同毎日朝刊)などと報じている。私は、こんな記事を読みながら愛するたつ江、舞(伊神舞子)が生きていたなら、どんな言葉を発し、どんな俳句や短歌を詠むだろうかと思う。彼女はロシアがウクライナに軍事侵攻する前の年の10月15日に空高く旅立っていったのである。ということは、たつ江、すなわち舞はロシアのウクライナへの軍事侵攻も今年元日に起きた能登半島地震も何ひとつ知らないまま旅立っていったのである。ということは、その分だけでも平和な時代を過ごしていたということか。

 ここで私は思い出す。三重県志摩半島でボクたちが過ごしていたころ、たつ江はいつもギターを抱え、<禁じられた恋>やジョンバエズの反戦歌を弾きながら口ずさんでいたことを。その彼女が今、健在なら、どんな歌を弾き歌ったことだろうか-と。

(2月23日)
 金曜日。
 【東証 史上最高値 初の3万9000円台 34年ぶり更新 海外資金流入】(毎日23日付朝刊)【東証史上最高値 34年ぶりバブル超え終値3万9098円】【伝統に新風 国府宮はだか祭】(中日23日付朝刊)と、どこも「22日の東京株式市場は日経平均株価(225種)がバブル経済期だった1989年12月29日の水準を上回り、34年ぶりに史上最高値を付けた」大ニュースを報じている。
 そういえば、当時わたくしは新聞社の能登半島七尾支局長として多忙な日々を過ごしていたが、バブル景気もあって、和倉温泉は連日大入り満員。連日のように和倉温泉のだんな衆とお会いしていた、あの多忙な毎日が思い出される。名古屋では当時の日航支店長らが名古屋のディスコに繰り出す、そんなことも珍しくはない日々であったことを思い出す。

(2月22日)
 猫の日。忍者の日。世界友情の日。いろんな日である。個人的には長男の誕生日である。
 そしてきょうのニュースといえば、だ。【能登町有志 卒業生にコサージュ 負けない心胸に】【志賀原発30㌔圏 放射線防護6施設に損傷】【能登に届ける支援の力 コメダ 避難所でコーヒー配布へ 「マジンガーZ」映画無料配信 収益を寄付】(いずれも同日付の中日朝刊)か。それはそれとしてスポーツ面の【北青鵬が暴力、引退勧告へ 宮城野親方2階級降格案】【北青鵬「反省している」 宮城野親方は無言】(同)の記事には驚いた。というより、一人の相撲ファンとしてこの不祥事にはがっかりした。

 ほかには【遠い世界だった参道に 国府宮はだか祭 女性がササ奉納】とは、中日新聞の本日22日付の夕刊見出し。数千人の裸男がもみあう国府宮はだか祭が22日、愛知県稲沢市の尾張大国霊神社(国府宮)で開かれるのを前に、厄よけの願いをこめた儺追笹の奉納が同日午前にあり、今回から長い祭りの伝統のなかで女性が初めてササ奉納に参加。多くの見物人が見守り、参道は朝から静かな熱気に包まれたという。夕方には祭りの主役である神男が現れ、触れて厄を落とそうとする裸男たちが激しくもみあった。

 国府宮のはだか祭りといえば、だ。わたしは、ドラゴンズの母的存在だった、今は亡きあの安江都々子さんを思い出すのである。はだか祭りが終わると、決まって厄除け祈願をした、儺追切れをわざわざ届けてくださった日々のことは決して忘れないだろう。いや、忘れるに忘れられない。そして。彼女の晩年には江南厚生病院の緩和病棟に入院中のところを訪れ、ハモニカを何度も何度もふいた日のことが忘れられない。くしくも、その数年後、こんどは私の妻が同じ病棟に入院。私は、彼女が旅立つその日まで赤とんぼや公園の手品師、みかんの花咲く丘などを吹き続けた日のことが忘れられない。そのふたりとも今や、この世にはいない。

 本日付中日夕刊記事は【東証一時3万8924円 89年の終値最高値超える】【ロシアのウクライナ侵攻は暴挙 G20外相会合で上川氏】【豊田織機に是正命令 エンジン不正で国交省 3機種型式取り消しへ】が目立った。

 かつて一世を風靡した女優山本陽子さんが静岡県熱海市で死去。81歳だったという。山本さんといえば、NHKの大河ドラマ「国盗り物語」出演などで知られるが、私個人としては山崎豊子さんの小説「華麗なる一族」のロケ取材で、三重県志摩半島賢島の志摩観光ホテルでのロケの光景が懐かしく思い出される。人間たちは、誰もがこうして旅立ちの日を迎えるのか。合掌-

(2月21日)
 天皇、皇后両陛下が能登半島地震の被災者を見舞うため、石川県を訪問される方向で宮内庁が調整している-とは、本日付の中日新聞夕刊。【両陛下被災地訪問へ 宮内庁 来月下旬を軸に検討】の見出しで報じた。
 同じ中日新聞夕刊の【<ゆかり紫の道 式部の足跡>◆◆下◆◆ 悲恋の宇治橋(京都・宇治市) 男女の思いつなぐ夢幻】は、なかなか読ませる内容だった。

 自民党安倍派「5人組」の松野博一前官房長官と西村康稔前経済産業相、高木毅前国対委員長が派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院の政治倫理審査会に出席すると党幹部に伝えたとは、本日付の中日新聞夕刊報道。自民には松野氏ら政倫審出席者の追加を呼び水に、2024年度の予算案の年度内成立を確実にしたい思惑がある、とは同紙。

 名古屋家裁は昨年9月、愛知県大治町の集合住宅一室で会社員の女性=当時40歳=が刺殺された事件で殺人の疑いで家裁送致された中学2年の長女(14)について、「長女の要保護性は相当に高い。問題性を改善するには、少年院で十分な時間をかけて体系的な矯正教育を施すことが、必要かつ相当だ」と結論づけ19日付で第1種少年院送致とする保護処分を決めた。長女は、昨年9月6日午前1時10分ごろ、自宅で殺意をもって母親の腹を包丁で刺した。

(2月20日)
 けさの中日新聞1面見出しは 【名古屋市教委 コロナ禍にも会合費 200万円超受領の幹部 検証チーム6人選出河村市長】の一方で【7歳の誕生日 ママに会えた 離れて暮らす輪島で家族つかの間の幸せ】と醜い話と、明るい話の対比が目立った。午前中、近くの歯医者さんへ。左下奥の虫歯を治療して頂いて帰る。

 それにしても、きょうは温かいというか、季節外れの暑さにどっぷり浸かる、そんな1日となった。日中の温度はなんと2月の観測史上では最高に。岐阜県多治見市では22・2度を記録。20度超えの温度が各地で相次いだ。これには、愛猫シロちゃんも、驚いた様子で一角でじっと、うずくまったままだった。
 高校時代のかけがえのない同窓生が亡くなったと知り、あくまで個人的に弔電を打たせて頂いた。ご家族の気持ちを思うとき、その悲しさが伝わってくるようでもあり、私は手を合わせ、心からの哀悼の意を捧げさせて頂いた。悲しくて寂しいでしょうが、早く立ち直ってほしい。そんな思いを込めて、である。

2024年2月19日
 【担い手不足 蘇民祭に幕 「岩手の奇祭」1000年の歴史 伝統行事の中止 全国で】とは、本日付毎日新聞の朝刊軟派トップ記事の見出し。下帯姿の男衆が護符の入った麻袋を奪い合い、無病息災を願う伝統の「蘇民祭(そみんさい)」が17日夜、岩手県奥州市の黒石(こくせき)寺境内で開かれたが、関係者の高齢化と担い手不足のため、ことしが最後の開催となり、1000年以上となる歴史に幕を下ろした、というのだ。なんとも残念無念、寂しい限りだといえよう。

2024年2月18日
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、きのう17日午前9時22分、国産新型ロケット「H3」の2号機を種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げ、昨年3月の1号機で点火に失敗した2段目エンジンも正常に燃焼し、目標の軌道投入に成功。搭載した性能を確認するための模擬衛星と超小型衛星2機の分離も確認し無事、成功した。

 能登半島地震の被災地、石川県珠洲市で昨年5月に起きた震度6強の地震でも被害を受けた二重被災の住宅が3000棟超に上ることが分かったとは中日新聞の18日付記事。優れた現代詩集に贈られる「中原中也賞」の選考会が17日、山口市で開かれ東京都国分寺市の俳人佐藤文香さん(38)の詩集「渡す手」に決まった。「定型詩である俳句の作者として培われてきた言語感覚が現れている。言葉の引き出しを多く持っている書き手」とは、同紙。「渡す手は24編構成で、日常生活の目に見えるものや内面を写生したといい、佐藤さんは「多くのつくり手の仲間との交感、交歓のおかげで、現在の私があります。…」とのコメントを出した。

 ロシアのプーチン政権と対立し収監先の北極圏の刑務所で死亡した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)を巡り、ロシア国内で死亡が伝えられた16日午後からモスクワなど各地で市民による同氏追悼の動きが活発化。17日までにロシア全土での追悼行動を巡り、359人が拘束されたという。ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは16日、ドイツ南部のミュンヘン安全保障会議に登壇。「夫の死が真実なら、プーチンと取り巻きたちは近いうちに責任を取らされるだろう」と述べたという。

(2月17日)
 能登半島地震で4㍍隆起した石川県輪島市の輪島港で16日、海底の土砂をさらう浚渫工事が始まった。地元漁協関係者らは「復旧への第一歩です」と話している。

 タス通信などの報道によれば、ロシアのプーチン政権と対立、服役中だった反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が16日、収監先の北極圏ヤマロ・ネネッ刑務所で死亡。この刑務所は、過酷な環境下にあり、ナワリヌイ氏は昨年12月に移送されたばかりだった。ナワリヌイ氏は3月の大統領選を前に、強権支配を強めるプーチン政権に対して獄中からもメッセージを発するなど反政権運動の指導的役割を担っていただけに、その死を不審死だとする声が多い。
 刑務所当局は声明で「ナワリヌイ氏は、散歩後に気分が悪くなり、意識を失った。蘇生措置を講じたが、医師が死亡を確認した」としている。これに対してロシア独立系紙ノーバヤ・ガゼータの編集長で2021年にノーベル平和賞を受賞したムラトフ氏はロイター通信に「刑務所の劣悪な環境が死に追いやった」との見方をしており「明らかに殺人だ」と非難している。ナワリヌイ氏は過去の経済事件で拘束収監されたほか、昨年8月には過激派団体を創設したとして懲役19年を言い渡されて9月に確定。昨年12月にはモスクワ東方ウラジーミル州の収監先から北極圏に位置するヤマロ・ネネッの刑務所に移送されていた。

(2月16日)
 内閣府が15日に発表した2023年の名目国内総生産(GDP)の速報値は、591兆4820億円。ドル換算では4兆2106億㌦となり、ドイツの4兆4561億㌦を下回って日本は世界4位に短絡。というわけでけさの毎日新聞1面トップ見出しは【日本GDP 4位転落 23年 56年ぶり独下回る 10~12月 年0・4%減 2期連続減】というものだった。

【きょうだいのピザ店開業2年で被災、全焼 古里・輪島で絶対に復活 まずはキッチンカー資金募る】【23年分確定申告スタート インボイス(適格請求書)制度 導入後初】【死亡の姉と相続トラブル 4歳次女殺害疑い 逮捕の男】とは、本日付中日新聞夕刊報道。

(2月15日)
 春の嵐が日本の各地を吹き荒れた。

 きのう確定申告を終え、ホッとしている。毎年のことではあるが、ことしもこれまで申告に必要な各種書類を用意する(医療費含む)のに大変だっただけに、申告を終え、肩の荷が下りたとは、このことか。かわいいたつ江(舞)が生きていてくれたころは、この日が近づくとは、いつも彼女なりに書類の準備を懸命にやってくれ、毎年ふたりでアアダコウダと言いながら申告会場を訪れただけに、どこか懐かしい、哀愁のようなものを感じるのである。

 それにしても、昨日、申告会場で気がついたのは、訪れた市民の誰もがマスクをしていた-ということか。私たちをいじめにいじめ尽くしたコロナ禍が再び流行してきている表れのような気がしたのである。マスク効果で、第10波の流行だけはないように、と願う、もう一人の私がそこにはいたのである。

(2月14日)
 あれやこれや。と、多忙な時には、やはり新聞の見出しが一番、簡潔でわかりやすくてイイナ、と思う。というわけで、けさのニュースは【「金品贈る引き継ぎある」 名古屋市教委へ 複数の校長証言 原資は教員らの会費】【北海道・寿都(すっつ)町と神恵内(かみえない)村 核ごみ処分地選定 次段階へ移行可能】【不記載85人5億7949万円 自民裏金アンケート公表】【ダイハツ社長退任 認証不正 後任にトヨタ井上氏】(いずれも中日新聞14日付)といったところか。毎日毎日、ニュースが洪水の如くこの世に噴き出している。なんでだろ、といったところで仕方がない。これが自然の摂理なのかもしれない。
 ニュースは良いにせよ、悪いにせよ。日々、あれよあれよ、とあふれ出るものなのかもしれない。

 きょうは確定申告の受付日である。そんなわけで午前中、受付会場である市民会館へ。案の定、受付は訪れた人々でいっぱいで「あなたは、午後3時過ぎに」ということなので、いったん自宅に引き返し、新聞を読んだりして時間待ちを-というわけである。思えば、4年前までは毎年、たつ江と共に訪れたものである。いつも、時間待ちということで、その間は、ふたりで平和堂などにいって買い物をするなどして時間稼ぎをした、あの日々が懐かしく思い出される。

(2月13日)
 新聞休刊日。というわけで、朝刊はこない。
【日経平均3万7700円台 34年ぶり、一時800円超上昇】【ガザ南部攻撃、67人死亡 イスラエル、人質2人救出】【米、6週間戦闘休止へ交渉 バイデン氏、軍事作戦にクギ】とは、本日付の日本経済新聞の夕刊見出し。【金品の授受「不適切」 文科相 名古屋市教委に調査指導】【ダイハツ国内生産再開 1カ月半ぶり 京都工場で2車種】とは、中日夕刊1面見出し。

 あすの確定申告を前に、このところはそのための書類作成に振り回されている。

 午後。わたくしの友人からすばらしい写真が送られてきた。
 1枚は、無数の海鳥が海面に憩う、すばらしいショットだ。そして今ひとつは、ひょうきんなかかしが見事で素朴極まる田の光景である。どちらも、心に安らぎを与えてくれる、とてもすばらしい写真である。せっかくなのでぜひ、みなさまにも見てほしく、ここに紹介させていただこう。

 能登の海鳥を思い出させる波静かな海の光景
 

 ふるさとの、あの懐かしい田畑を思い出させてくれる

(2月12日)
 きのう11日午後0時36分ごろ、石川県で震度4の地震が発生。気象庁によれば、震源地は石川県能登地方、震源の深さは約10㌔だという。地震の規模はマグニチュード4・7。北陸電力志賀原発(志賀町)の設備に異常はなかった。この日、総務省消防庁の全国瞬時警報システム(Jアラート)は予想最大震度5弱の緊急地震速報を出し、警戒に当たった。

【授受「20年以上」証言も 名古屋市教委、苦渋の説明 河村市長「絶対許さん」】【保護者「金で校長か」 現場の教員「恥ずかしい」】とは、本日12日付の中日新聞の軟派トップ見出し。ほんとに嘆かわしい限りだ、とはこのことか。それとも<みんなでやれば、怖くない>とでも思ってやったのか。人間臭いと言えば、いえなくもない。

 ◇…中国の春節(旧正月)に合わせ長崎市中心部を約1万5千個のランタンで彩る「長崎ランタンフェスティバル」が開かれている。25日まで、赤や黄色のランタンの温かな光が長崎の街を染め上げる。-とは、本日、12日付の中日新聞<通風筒>

 大相撲のトーナメント大会が11日、東京・両国国技館であり、右膝を痛めて初場所途中休場した大関豊昇龍が初優勝。阿炎と遠藤が3位に入った。能登半島地震で大きな被害を受けた穴水町出身の遠藤は、1回戦から4連勝して3位に。33歳の人気力士は「前向きに毎日を必死に過ごしている故郷の方々を見て、前向きな気持ちになりました。一緒に頑張りたい」とは、遠藤。
 この日は、昨年5月に現役を引退した元関脇逸ノ城=三浦駿さん(30)、モンゴル出身=の断髪式が都内のホテルで開かれ、逸ノ城は「大勢の前で断髪式が出来てよかった」と涙をふいた。

 女子バスケットボールのパリ五輪世界最終予選がハンガリー・ショブロンで行われ、東京五輪銀メダルで世界ランキング9位の日本は同5位の強豪カナダを86-82で破り、2勝1敗として3大会連続6度目の五輪出場を決めた。

(2月11日)
 新聞の報道によれは、だ。石川県内では9日現在、7市町で今なお計3万4800戸が断水している。そうしたなか、能登半島地震で被災し、酒造りを一時見合わせていた珠洲市宝立町の「宗玄酒造」が酒造りを再開。電源が喪失し、機械で搾ることが出来ないなか、酒米を発酵させた〝もろみ〟が無事で、昔ながらの手法で搾った。珠洲の復興のために、と無ろ過生原酒をオンラインで販売すると、約40分で売り切れたという。
 一方で私たち家族がかつて7年間、住んだことのある石川県七尾市一本杉通りの「鳥居醤油店」で店舗の片づけをしていた60代の男性が倒れてきた高さ1・3㍍、幅3・3㍍のブロック塀と隣接する建物に挟まれ死亡したという。この醤油店は、古い町並みが残り、市内の観光地のひとつでもある〝一本杉通り〟にあり、建物は1908年(明治41年)に建てられた国登録有形文化財だ、と新聞は報じている。

 本日付の中日新聞1面に【人も時間も足りない 悪路・日帰り 1日3時間40人 輪島でも一般ボランティア開始】【名古屋市教委に教員団体金品 校長推薦名簿の提出時 慣習10年以上か 市調査へ】【男性育休3カ月未満87%】のニュース。

 第17回朝日杯将棋オープン戦の準決勝と決勝が10日、都内で開かれ、連覇がかかった藤井聡太八冠(21)は準優勝に終わった。藤井八冠を破った永瀬拓矢九段(31)が初優勝。

(2月10日)
 【小澤征爾さん死去 88歳 世界的指揮者】【世界が愛した「オザワ」 「音楽で心一つに」貫く 「リズムの爆発」聴衆酔わす 評伝(梅津時比古)】【闘病の子と交流 指揮を終えて涙】(毎日)【小澤征爾さん死去 88歳指揮者「世界のオザワ」 戦後日本が生んだ奇跡 評伝(論説室・三品信)】【マエストロ 尽きぬ情熱 小澤征爾さん死去 「神がかりの力」音楽界悼む声】(中日)……と各紙とも小澤征爾さん死去のニュース一色である。

 ほかの新聞報道は、といえばだ。日弁連が9日、小林元治会長(72)の任期満了に伴う次期会長選の投開票を実施し、元東京弁護士会会長の渕上玲子さん(69)の当選が決まったことか。法曹三者(弁護士、検察官、裁判官)で女性がトップに立つのは初めてだという。好ましいことである。任期は4月1日から2年間とのことである。

 ウクライナのゼレンスキー大統領が8日、ワレリー・ザルジニー軍総司令官(50)を同日付で解任し、後任にオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官(58)を任命。ゼレンスキー氏は軍の緊急の変革が必要だと訴え、指揮系統や戦略を見直す考えを表明した。

(2月9日)
 中日新聞ではけさの朝刊から【能登激震-被災の現場で ➊火災 断水、風……広がる被害】が始まった。その一方で【迫る北陸新幹線延伸と退去期限 旅館やホテルの2次避難者 結局どこへ行けば】【被災者優先か観光客か 宿泊施設も葛藤】【珠洲の仮設住宅きょう入居開始 40戸に102人、石川に2例目】【石川に義援金3億円 本社と社会事業団届ける】など。さまざまな記事が見られ、これら数々の記事とともに復興への足音が確実に大きく高鳴ってきていることだけは、確かだ。そんな気がする。
 こうした時こそ、被災地のその後は、それこそ助け合いの精神がどこまで続き、生きるか-によるところが多いのではないか。なかでも輪島の朝市の日ごとの状況描写を写真と地図、経過票で描いた紙面はわかりやすい、のひと言に尽き、こんご復興への道のり大いに役立つに違いない。

 将棋の藤井聡太八冠(21)=愛知県瀬戸市=に菅井竜也八段(31)が挑んだ第73期王将戦7番勝負の第4局が7、8の両日、東京都立川市で指され、先手番の藤井八冠がストレートの4連勝で防衛に成功。タイトル20連続獲得の新記録を達成。故大山康晴15世名人が1963~66年に打ち立てた19連勝の記録を58年ぶりに塗り替えた。人生いろいろ、将棋のスターもいろいろである。

 世界的な指揮者で知られた小澤征爾さんが6日、心不全のため東京都内の自宅で死去。88歳だった。小澤さんは1935年、満州東北部の奉天(現瀋陽)生まれ。フランス・プサンソン国際指揮者コンクールで日本人で初めて優勝。カラヤンに弟子入り、ニューヨークフィル、ボストンフィルの副指導者となり世界のクラシック界をけん引し、長野オリンピックの音楽監督などを務め、2008年には文化勲章を受章。2010年に食道がんが見つかり、その後は治療に専念するため活動を休止していた。

(2月8日)
 細川連立内閣などで文相を務めた日本ユニセフ協会会長の赤松良子(あかまつ・りょぅこ)さんが死去したことが分かった。大阪府出身。94歳だった。同協会が発表。赤松さんは1953年、東大法学部を卒業し旧労働省に入省。婦人少年局長、婦人局長を歴任、雇用分野での男女平等をめざす男女雇用均等法(86年施行)の制定に尽力。2008年には女性で初めて日本ユニセフ協会の会長に就いた。文相時代には、中学校の丸刈り校則に関し「ぞっとする」と発言、後に撤回する一幕もあった。

 7日午前5時20分ごろ、三重県明和町刑部の国道23号の側道を歩いていた明和町の世古口哲哉町長(57)が軽乗用車にはねられ、松阪市内の病院に運ばれたが、全身を強く打っており、約3時間後に死亡。松阪署は自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで車を運転していた派遣社員(44歳)を現行犯逮捕した。それにしても、現職の町長さんがこんなにもあっけなく亡くなってしまうだなんて。不幸は、いつ襲ってくるか知れない。事故には、くれぐれも気をつけたい。
 かと思えば、だ。群馬県伊勢崎市田中島町の西部中央公園付近で7日午後4時ごろ、小学生9人を含む7~63歳の男女12人が犬に足などを次々とかまれ、うち5人が救急搬送された、とのニュース。いずれもけがの程度は軽い、というが。いやはや、この世は何が起きるか知れたものでない。

 もう1件。同じくけさの朝刊報道によれば、だ。愛知県警は愛知県津島市の住宅敷地内の物置で昨年7月、住人の山本国雄さん=当時75=と妻の静江さん=同(71)=の遺体が見つかった事件で近く、殺人と死体遺棄の疑いで事件後に死亡した夫婦の息子=同(40)=を容疑者死亡のまま書類送検するという。

(2月7日)
 北方領土の日。
 能登半島地震で休校していた石川県輪島市の7つの小中学校が6日、輪島高校の校舎を使って授業を再開した。この日は、穴水町の避難所「さわやか交流館 プルート」を同町出身の遠藤関らが訪れ、被災者の間で「おかえり」の声が上がった。これに対し遠藤関は「元の日常に戻ると信じています。一緒に頑張りましょう」とあいさつをした。この日は、1月の初場所で敢闘賞に輝いた津幡町出身の大の里関らも内灘町の避難所、展望温泉「ほのぼの湯」を訪問。祖父坪内勇さん(75)と再会し「元気にしているか」などと声を掛け合った。大の里関は「春場所でまた明るい話題を届けたい」などと語っていた。
 石川県は6日、能登半島地震で倒壊した建物のがれきなど県内の災害廃棄物の推計量が244万㌧に上ると発表。県内の年間ごみ排出量の約7年分で、被害の大きかった半島北部・奥能登地域の2市2町が推計量の約6割(151・3万㌧)を占めた。地域の年間排出量の59年分に当たるという。県はこんご海上輸送も活用し、県外も含めた広域処理を進める方針で、2025年度末の処理完了を目指したい、としている。
 本日付の中日新聞朝刊の【輪島朝市が金沢「出張」 来月23日開催、復活へ一歩】には、心が救われる思いだ。書いた記者は元江南通信部記者で私も何かとお世話になった大学の後輩でもあり、チェロの演奏で知られる、あの鈴木里奈さん。「朝市の灯を絶やさない-。」との願いがビンビン伝わってくる。記者も一丸になっての復興への歩みが始まっている。そして、その隣の記事もなかなか良い。見出しは【「少しでも元気に」金沢で12日演奏会 石川へエール響け 大津・龍谷大吹奏楽部 練習に熱】というものだった。

 盛山正仁文部科学相が6日の衆院予算委員会で2021年の衆院選で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連団体から選挙支援を受けたとする一部報道について「写真があるのであれば推薦状を受け取ったのではないかと思う」と語った。

 トヨタ自動車は6日、米南部ケンタッキー州の主力工場での電気自動車(EV)生産に向け、13億㌦(約1900億円)を投資する、と発表。同工場を米国初のEV生産拠点とする計画で、EVの組み立てに加え、別の米工場から調達する車載電池を電池パックに組み立てる生産ラインもつくるという。
 ほかには、米ワシントンの連邦控訴裁が6日、トランプ前大統領が2020年の大統領選で敗北した結果を覆そうとした罪で起訴された裁判で大統領の免責特権を認めない判決を下した。トランプ前大統領には逆風となるが、前大統領は上訴する方針だという。

(2月6日)
 死者・行方不明者が6万人に上ったトルコ・シリア地震が6日で発生から1年に。両政府の被災者支援策は不十分でいまだにテント生活を余儀なくされている人々が多いという。「多くの市民が故郷を離れ、元の生活を取り戻す道のりは険しい」とは、毎日新聞の朝刊報道。【1年なおテント生活 トルコ・シリア地震 進まぬ復興】と現状を伝えている。

 一方、日本の能登半島地震の方は【輪島の小中 登校再開 県内全校の休校解消 心のケア中心 オンラインも活用】【出身力士が応援】(6日付、中日夕刊見出し)と少しは光りが見え始めつつある。この調子で早く元に戻ることを心から望んでいる。

(2月5日)
 夜。東京23区の全域で大雪。NHKのテレビニュースでは千代田区や浅草、東京都心でシャーベット状になった雪を映し出し「6㌢の大雪は1昨年2月の2㌢以来の大雪だ」と報道。こちら、尾張地方は幸い雪は降らなかったが、身が凍えそうな寒い1日だった。

 京都市長選が4日投開票され、無所属新人の元官房副長官松井孝治氏(63)=自民、立民、公明、国民推薦=が、無所属新人の弁護士福山和人氏(62)ら4人との争いを制して初当選。与野党相乗りの「非共産」陣営が推した松井氏が、共産党の実質的な支援を受けた福山氏の猛追を交わした。投票率は、41・67%で前回を0・96%を上回った。愛知県豊田市長選が4日、投開票され、無所属の現職太田稔彦氏(69)が、同じく無所属で新人の元県議鈴木雅博氏(44)を破り、4選を果たした。投票率は過去最低だった前回を9・75㌽上回る46・31%だった。
 ほかに中日新聞科学面の【能登半島地震~海沿い景観一変~ 繰り返された大規模隆起 最大4㍍ 新たな海岸段丘が出現 北高南低 半島形成の一環■陸乗り上がる逆断層■「海底」は調査途上】の記事に関心を覚えた。同時に自然の科学現象には、とてもかなわないな-とも、つくづく思う。ありとあらゆる人間たちは、やはり生かされているのだなっ、と。
 
2024年2月4日
 福島県大熊町の帰還困難地域にある町立熊町小学校で2011年3月11日の東日本大震災発生に伴う福島第一原発事故後初めて当時の校舎が元児童らに開放された。熊町小は、第1原発の南約3・5㌔にあり、当時、東日本大震災を体験した元児童らは再会を果たし、ランドセルやマフラー、帽子、手袋など思い出の品々を手にした。

 新聞報道によれば、米中央軍は2日、ヨルダンの米軍施設で米兵3人が死亡した無人機攻撃への報復としてイラクとシリアで攻撃を行った。無人機攻撃は親イラン武装戦力の連合体「イラクのイスラム抵抗運動」が実行したとし、イラン革命防衛隊で対外工作を担う「コッズ部隊」や親イラン民兵組織を狙い七つの施設で85以上の標的を空爆。バイデン大統領は声明で報復は「われわれが選ぶ時間と場所で続く」と予告したという。

 雪と氷の祭典、第74回さっぽろ雪まつりが4日、札幌市で開幕。新型コロナウイルス禍で昨年まで規模が縮小されていたが、ことしは大通公園、繁華街すすきの、つどーむの3会場で行われ、4年ふりの全面開催。11日まで。

2024年2月3日
 きょうは節分だ。デ、いつも食卓の一角に置いてある舞(たつ江)の遺影の前に、社交ダンス仲間から頂いた福豆を供えて手を合わせ「福は内、鬼は外」と何度も唱える。わが家に幸せが訪れれば、天国のおまえも喜ぶに違いないからである。

 舞の遺影を前に「福は内」と手を合わせた
 

     ※     ※

     ☆     ☆ 
 石川県輪島市の応急仮設住宅の入居が3日から始まるのを前に、市は2日、仮設住宅を報道陣に公開。地震後の仮設住宅完成は初めてで、3日は18世帯の55人が入居を始めた。
 愛知県は2日、障害者グループホーム運営大手の福祉事業会社「恵(めぐみ)」を巡り、食材費の過大徴収などが見つかったーとして不正請求の有無に関する調査を始めたことを明らかにした。それによると、食材費の過大徴収は県内の全ホームで計約2億1800万円に及ぶという。【週3回訪問介護「必要か」 利用者家族 看護師「血圧書き写すだけ」】とは、本日付の中日朝刊の見出しだ。

(2月2日)
【会いたい 街に、あなたに 能登地震1カ月 祈る午後4時10分 元日から時間止まったまま】【死者240人 断水4万戸】【悲しみ毎日押し寄せ 珠洲で妻子亡くした男性 「ただの1カ月 まだ夢の中にいるよう」】(中日新聞2日付)
 このところの新聞各紙は、どこも能登半島地震のその後を大きく報道している。なかでも中日新聞は、28、29面で【あなたと生きた】【日々を忘れない】特集を生前の顔写真入りで見開き展開。まさに読者と家族に寄り添った紙面内容で読む人々の胸をとらえた。
 【能登と思いはひとつ 頑張らないで でも、負けないで 能登へ各地からメッセージ】といった1日付の被災体験者からの声収録特集に続く内容である。きのう、きょうとそれこそ、読者への限りなき愛が感じられるそんな他紙には見られない紙面であった。「火の玉になって」とは、こういうことを言うのではないか。まさにこのところの紙面展開は、被災家族1人ひとりへの深い愛が感じられる内容であった。

 2日付の「あなたと生きた」「日々を忘れない」の中日新聞見開き特集

 1日付の中日新聞「能登へ 各地からメッセージ」見開き特集

 午後。いつものように一宮のスポーツ文化センターへ。タンゴとワルツのレッスンに励んだ。あの可愛かった、たつ江、舞が「あのねえ。社交ダンスだけは、いつまでも続けるのよ」と私に言っていた、その言葉に従ってのレッスン行である。きょうは、春の発表会を前提としたイントロを含んだレッスンだったが、結構ハードな内容で息が弾んだ。でも、こうしたレッスンがいつまでも衰えない体力の維持につながっているような、そんな気がしないでもない。
 私はほかに、最近では自宅廊下をファッションステージのランウェイ代わりにモデルになった気持ちでかっこをつけてシャナリシャナリと歩くという、恥ずかしいことも続けているのである(ことし正月にはチョット、長男の嫁の前で歩いて見せ恥ずかしかったのだが。生前の舞にも見せてやりたかった)。

(2月1日)
 能登半島地震から、きょうで1カ月がたつ。
 中日新聞は見開き展開で読者からの心からのメッセージを【頑張らないで でも、負けないで】<能登へ 各地からメッセージ>との題で全国から届いた励ましの声を紙面収録。そして1面では【独り 現実なのか 珠洲で被災妻子4人亡くす 能登半島地震1カ月】の見出しで悲しい被災者を紹介。【避難1万4000人 長期化懸念】と報じ、連載企画<能登はやさしや 被災地とともに>では俳優常盤貴子さんの能登に対する思いを【能登と 思いはひとつ 能登の未来をあきらめない。それに尽きる】と報じている。
 毎日新聞も【指定避難所3割開設できず 発生当初 一部に殺到 備蓄枯渇】と痛い点をついているばかりか、【死因「圧死」が最多4割 警察庁分析】とも報じている。同紙はほかに【安倍派95人分不記載 5年で6.7億円 派閥が訂正】との見出しを打ち、政界のずさんさを露呈させる内容となっている。

 悲しいかな。きょうも被災地に関する記事で一色である。
 日本相撲協会は31日、東京・両国国技館で春場所(3月10日初日・エディオンアリーナ大阪)の番付編成会議と臨時理事会を開き、東関脇琴ノ若(26)=本名鎌谷将且(まさかつ)、千葉県出身、佐渡ケ嶽=の大関昇進を満場一致で決めた。昇進2場所目となる5月の夏場所から、元横綱だった祖父のしこ名「琴桜」を襲名予定だという。
 この日、協会は使者ふたりを千葉県松戸市の佐渡ケ嶽部屋に派遣。琴ノ若は昇進伝達式で「大関の名に恥じぬよう、感謝の気持ちをもって相撲道に精進してまいります」と口上を述べた。

 プロ野球は1日、沖縄、宮崎両県で昨季に1985年いらいの日本一を達成した阪神など10球団がキャンプインした。パ・リーグ3連覇中のオリックスは2日、西武は6日に始動する。
 このうち、われらの中日ドラゴンズの春季キャンプは1日、沖縄県の北谷町と読谷村で始まった。1軍拠点の北谷では大野、小笠原、涌井らがブルペン入り。新しく加入した中田、中島も打撃練習を開始し、シートノックでは岡林が右翼の守備に。2軍拠点の読谷では石川昴がフリー打撃で快音を響かせたという。いよいよ球春。ことしこそ、ドラゴンズの春、シーズン到来である。

連載小説「あの箱庭へ捧ぐ」第四章

第四章 幻を覚える

   1

 米田恵理子の担当する教室は、真面目な生徒が多い。これは恵理子の自慢だった。それが一瞬にして崩れ去ってしまう日が来るとは、恵理子を含め同僚の先生たちも思っていなかっただろう。
 八月の後半に差し掛かったころだった。うみほたる学園には夏休みという概念はない。生徒たちは卒業まで実家へ帰省してはならない規則がある。一般的に言う夏休み中も、補習授業があったり、敷地内にある農園の作業の手伝いなど、イベントも多いため学園での生活は続く。そのため教師たちは、シフト制の休暇を取ることになっている。
 恵理子も普段の休暇では、学園の敷地内にあるアパートでのんびりと本でも読んで過ごすか、学園外へ遊びに行くついでに実家へと帰省する。
 今年の夏休みも普段と変わらず、帰省して久しぶりに親と会うつもりでいた。しかし、予定を変えなければいけない事件が起こってしまったのだ。

   *

 その日、恵理子は洸生会という生徒のために創られた組織の拠点を訪れていた。洸生会を知っている者はこの学園内でもごくわずかで、恵理子はその中のひとりだった。しかし依頼というものは一度もしたことがなく、今回が初めてだった。
「おかしな行動をする生徒がいる?」
 向かい側のソファに座っている少年が、首をかしげながら恵理子の言葉を反復した。
 部屋には恵理子と洸生会の代表である川崎竜太郎の二人だけがいた。他にもメンバーはいるはずだが、今日は不在らしい。
 恵理子は竜太郎がこの学園に来たばかりの頃から知っているし洸生会が創設されたときにも立ち会っていたので、この場にいることはとても気楽だったが、真面目な話をしているからか緊張感があった。
「ええ。具体的には、補習中にぼーっとしているかと思えば、急に立ち上がって奇声を発したりね。注意してもまったく聞かないの。仕方がないから保健室に行くように言ったけれど、結局行かなかったみたいで。その後は図書室で寝ているのを発見したの。まるで電池が切れたようだったわ」
「米田先生でも、てこずる生徒がいるんですね」
「これは深刻な問題なの。他の先生にも協力してもらって、別の学年クラスでも変わったことがないか調べたわ。そうしたら、私のクラスの他にもおかしくなった生徒が数人いることがわかったわ」
「一人二人ではないということですか。幸い、僕のクラスにはそんなことをする生徒は居ませんが。もっと調査するべきでしょうね。話は聞いてみたのですか」
「もちろん。それでわかった事なのだけれど。どうも、幻覚を視ていたらしいの」
「幻覚?」
 恵理子の言葉に、竜太郎が眉をひそめた。
「みんな、幻覚を買ったって言っていたのよ」
「買ったって。誰かが、売っているってことですか」
 竜太郎が目を丸くしている。
 当然、売る人がいれば買う人もいる。需要がなければ売られることはない。売るだけでその先に進まなかったのだとしたら、簡単な話だったのだが。
 恵理子は短く息を吐く。
「私も、そう思うわ。どこで、誰から買ったのと問いただしたけれど、誰も口を割らないのよね。全校生徒の名簿を調べてみたけれど、幻覚を作れそうな能力者の候補は数人いるわ。そこで、仕方なくあなたたちに依頼することにしたのよ。丁度いい人材がいるじゃない」
 恵理子はそう言って竜太郎に目配せする。
 今この場にはいないが、他人の心をよむ能力を持った少女が、洸生会に所属している。恵理子はそれを知っている。彼らなら解決できる事件だと思って。だから依頼しに来たのだ。
「ええ。こちらの手の内を知らなければ、可能でしょう。ただ、売人が名乗っていなければ、心をよんでも客は売り手の名前を知ることはできない。変装をして姿をごまかしている場合もありますし、直接会うのは至難の業でしょう」
 竜太郎の説明に、恵理子は困った顔をした。彼の推理は的を射ているだろう。恵理子もその可能性を考えていなかったわけではない。
「なら、どうすればいいと思う。自身の持つ能力が原因で、平凡な人におかしいと思われる行動をしているのなら、こんなに心配しなくてすむのだけれど。能力者が、能力を悪用して他人を巻き込んでいるとしたら、問題よ。何としても止めさせなければいけないわ」
 恵理子は、顔をしかめながら言った。
 能力者がらみの問題は、学園内部で解決するしか方法がない。だから恵理子は洸生会に頼らざるを得なかった。
 この学園には教師や警備員はいるが、警察の代わりになる大きな組織がない。場合によっては外の警察に頼ることになるだろうが、そもそもこれは犯罪に値するのだろうか。
 仮に犯罪だとしても、立件は難しいだろう。売人が能力で幻覚を作り出しているのならば、物的証拠を出すことが不可能に近いからだ。
 時期尚早かもしれないが、今のうちに対処する事が正しいと恵理子は考えている。この学園には身体は大人だけれど、思考が成熟していない者たちもたくさんいると恵理子は思っている。だからこそ、広がる前に止めたいのだ。
「米田先生の気持ちは、わかりました。こちらでも出来る限りの事はしてみます。犯人が特定できれば良いのですが」
 竜太郎の返答に、恵理子は満足して頷いた。
「ええ。お願いね。あなたたちにこんなことを頼むのは心苦しいけれど、私たちも自由に動けるわけではないから。犯人が特定出来たら連絡を頂戴。その後の事はこちらに任せて」
 恵理子は竜太郎にそう告げると、小屋を後にすることにした。
 もう一つの目的も、達成できると良いなと願いながら。

   2

「それで、あたしたちは何をすればいいわけ」
 斉藤寧々が竜太郎の目の前で、首をかしげて言った。
 洸生会のアジトであるプレハブ小屋には現在、竜太郎と斉藤。そして小池燐音の三人がいた。竜太郎の座っているソファの前にはテーブルが置いてあり、その向う側のソファに、斉藤と小池が横並びに座っている。
 依頼内容について、竜太郎の口から説明していたところだ。
「斉藤は、能力を使って怪しい会話をしている奴をみつけてほしい。そして小池にはそいつが嘘をついていないか、能力で確認してほしいんだ」
 作戦を説明しながら、竜太郎は二人をみる。
 小池は何も言わずに頷いたが、斉藤は額にしわを寄せた。
「なるほど。でも、そいつが声を発していなかったらみつけられないよ」
 斉藤の言葉に、竜太郎は頷く。
「それでも構わない。直接会って取引しているのかどうかが、わかるはずだ」
「そいつがこそこそやっているのなら、どちらにしろこの学園内だとリスクが高すぎる。色んな能力者がいるんだ。みつかる確率が高すぎる。そんなことも考えられない犯人なのか。そいつは一体何のために、そんなことをしているんだ」
 斉藤の疑問はもっともだった。ただの馬鹿であるのか、それとも他に目的があるのか竜太郎にもわからない。
「それを、確かめなければならない」
 竜太郎は眉をひそめた。
 正直なところ情報が少ない現状で、犯人を特定するのは至難の業だ。濁った水の中に手を入れて、すばしっこい魚を捕まえようとしているのと同じことだろう。
「わかったよ。じゃあしばらくの間、静かにしていてくれる。集中するから」
 斉藤は竜太郎の返事を聞く前に、両目を閉じて両耳を両手で覆うように触った。その行動から察するに、彼女は早速能力を使って犯人の捜索をしてくれているようだ。
 竜太郎は半端に開けた口を黙って閉じるほかなかった。斉藤の邪魔をしたくない。斉藤の隣に座っている小池は、大分前から唇のひとつも動かしていなかった。
 しばらくの間は三人の間に沈黙が流れるかとも思ったが、斉藤が何やらぶつぶつとひとり呟いていた。
「これは違う。これも。んー。どこだ」
 険しい顔をして、斉藤は頭を悩ませている様子だった。
 しかし彼女は、能力を上手いことコントロールしているようだ。竜太郎は思わず感心してしまっていた。
 斉藤の首元には、普段の余計な音を遮断する為のヘッドフォンがかかっている。これは彼女がここへ来る前から愛用されているものだ。当時は能力をコントロールしきれていなかった斉藤が、苦肉の策で着けていたものだ。ヘッドフォンからは極小音で音楽を流しているらしい。ヘッドフォンの機能、ノイズキャンセリングで音を最小限に押さえないと、大勢の人の声が聴こえるために頭がおかしくなりそうだと斉藤は言っていた。
 だが近頃は、ヘッドフォンをつける機会が減ったらしい。今はこの学園の数いる能力者の中では、彼女の能力をコントロールする力は高いと言えるのではないだろうか。
 竜太郎は、斉藤の力を信じて待つことにした。小池も不安そうな顔をひとつもせずに、両手で両耳を覆いながら目を閉じている斉藤をみつめていた。
 そして数分が経ち、斉藤は「あっ」という声と共に、両目をぱっと開けた。
「聴こえた」
 斉藤がはっきりとそう言って、竜太郎のほうに視線を向けてきた。
「どんな会話だった」
 竜太郎が尋ねると、斉藤は両耳から両手を離した。
「おそらく本人じゃない。ただの噂話。でも、かなり有力な情報。午後六時。雑貨屋の裏路地。フードを被った男。そいつが幻覚を売ってくれるらしい」
 斉藤はそう言うと、座っていたソファの背もたれに身体を預ける。力を抜いたようにそのまま項垂れて、息をゆっくりと吐いた。
「お疲れ様。それだけの情報があれば充分だ」
 竜太郎は斉藤に向かって、労いの言葉をかける。
 後は、直接本人に会って小池の能力を使い、真偽を確かめるだけだ。
 竜太郎は疲労している斉藤のために、空っぽになっていた湯呑に、新しい緑茶を急須から注ぐ。斉藤は小さな声で「ありがとう」と言ったが、今はそれを呑む力もないらしく、ただソファに埋もれるように座っていた。
「こんなことに力を使ったのは初めてだ。あたしでもこんなふうに役に立てることがあったんだな」
 斉藤がそう言いながら、右手でこめかみを触っていた。それはまるで恥ずかしさに顔を隠すような仕草だった。
 竜太郎はそんな彼女の様子をみて、思わず口角を上げた。
「そのための洸生会だからな。生徒たちの手助けをする。それは何も自分たち以外の生徒たちってわけじゃない。自分たちだってその対象になる」
「それは、お前も含まれるのか」
 斉藤の問いに、竜太郎は頷く。
「もちろん」
「そっか」
 斉藤は納得するようにそう言って、自分の首にかけたままだったヘッドフォンを耳につけた。これ以上会話を続ける気はない様子だった。
 竜太郎は小池のほうに目を向ける。彼女は困ったような顔をして、竜太郎と目を合わせた。
「もちろん、君も助ける対象だよ」と声をかけようか迷ったが、やめておいた。言われなくてもわかっているだろうから。
 竜太郎は窓の外を確認する。午後六時まではまだ時間がある。色々準備をして、それから向かおうと思う。

   3

 自分の事を嗅ぎまわっている人がいる。寺沢椎也は本能的にそれを感じていた。別に誰から聞いたわけでもない。ただの勘だった。
 心当たりがなかったわけでもないが、それでも自分は間違っていないという考えであったから、逃げも隠れもしないつもりだった。
 椎也は幻覚を作り出せる能力を持っていた。それも相手のみたい幻覚を、何でも。
 売人を始めたのは、この能力を生かすためである。別に金が欲しいわけではない。この学園で金を持っていたとして、使い道はそんなにないからだ。ならばなぜこんなことをしているのかといえば、人のため。この言葉に尽きる。
 この学園には可哀想な人が多すぎる。自分の能力がそんな人達をたった一時でも救うことが出来る。椎也はそう考えていたのだ。
 学園に来て数週間。椎也もここでの生活に慣れ、食堂での事務仕事も慣れてきた。行動を起こすなら今だと思った。 
 今日は少しだけ残業して午後五時半に退勤し、一旦近くのアパートに帰宅する。私服に着替えて雑貨屋へと向かった。
 鼻歌交じりに道を歩いていると、犬の散歩をしている学生とすれ違う。
「こんばんは」と軽く挨拶を交わし合った。
 学生は犬に引っ張られるようにして寮のほうへ歩いていった。おそらくあの犬は寮で飼っている柴犬だ。みたことがある。
 そんなことを思いながら目的地に到着すると、椎也は最近のいつも通りに雑貨屋の裏路地に立つ。別に誰かと待ち合わせているわけではないので、ここからはひたすら人を待つことにする。

   *

「午後六時。雑貨屋の裏路地。フードを被った男。そいつが幻覚を売ってくれるらしい」
 噂を流し始めたのは二週間ほど前だった。最初こそ人は来なかったが、最近は一人二人来るようになった。この調子で広まれば、この学園中の人間が救えるかもしれない。そう考えると自然に笑顔になった。
 腕時計を確認すると時刻は丁度午後六時を回ったところで、椎也は着ている黒いパーカーのフードを頭にかぶせる。
 今日はどんな客が来るだろうか。どんな顔をしてくれるだろうか。
「あなたですか。幻覚を売ってくれるという人は」
 眼鏡をかけた少年と、隣に少女が一人。いや、二人が立っていた。全員学生服を着たままだ。この時間帯は、生徒たちはとっくに寮に帰って私服に着替えているはずだ。先ほどすれ違った学生も私服を着ていた。だから珍しいなと思った。
「そうです。どなたでもみたい幻覚。いや、夢をみることが出来ます」
 自分で言葉にしてうさんくさいなとも思うが、嘘はひとつも言っていない。
「夢、か。物は言いようだな」
 背の高いほうの少女が言う。
「買うのはどなたですか。もしや全員ですか」
 椎也の問いに、三人は顔を見合わせた。
 それから眼鏡の男が剣呑な目つきで、こう言った。
「いいえ。あなたを止めに来ました」
「止める?」
 椎也は彼の言葉に、顔をしかめた。
 今まで数人の客を相手にしてきたが、そんなことを言った人は初めてだった。一人もいなかった。椎也はまるで自分が悪いことをしているという物言いの彼に、不快感を覚えていた。
「そうです。幻覚を売っている売人を捕まえて止めさせるようにと、とある人に頼まれまして」
「頼まれた? 誰に。なんで止めなきゃいけないんですか」
 尋ねると、少年は首を横に振った。
「それは言えません。プライバシーを守るためなので。それと、悪いことだからです」
 少年は、はっきりとそう言った。
 悪いこととは、心外だ。と椎也は思った。だから食い下がることにする。
「ふーん。言えないのに、俺のすることを否定するんですね。でも俺がしていることって、別にこの学園の規則に反しているわけじゃないですよね。能力を利用することが悪いことでしたら、俺もしません。でもそうではないですよね。俺は何も悪いことはしていないです」
 椎也がそう言うと、背の高いほうの少女が額に眉をひそめて言い返してきた。
「あんたな。そういうの屁理屈って言うんだ。大体、能力の悪用は禁止されている」
 椎也は頭を回転させて次の言葉を探す。目の前の人達の言いなりになることはしたくなかった。彼らは何か勘違いしている。
「これだけははっきり言えます。俺は悪用はしていません。ただ利用しているだけです。それもむしろ、悪というよりは善意でやっていることですので」
「善意?」
 少女の疑問に、椎也は堂々と答える。
「そう。善意です。これはみんなの幸せのためにしているんです」
「幸せ? あたしはあんたが何を言っているのかがわからない。人に幻覚をみせて結果的に悪影響が出ている。まさか知らないとか言わないよね」
「何の話ですか」
「とぼけるな」
 随分と口の悪い少女だと思った。そしてその子に隠れるように後方に立っている小柄な少女は、先ほどから一言もしゃべっていない。少々気味が悪いと思った。
「あなたから幻覚を買った人間が、授業中に異常な行動をするんです。これでも悪用していないと言い張るんですね」
 ため息をつくように、眼鏡の少年が言った。
「そうなんですか。知らなかったな」
 椎也は顔色一つ変えずに、そう言った。
 それをきいた少年が、何故だか無口な少女の方に視線を向けた。
「嘘です」
 ぽつりと、小さな声で少女は言った。まるで一円玉がカーペットに落ちたときみたいに、本当に微かな声だった。
 確かに。能力を使用されたことによって、副作用による異常行動の可能性は十分あり得る話だ。椎也はそれを知っていたのだから、嘘をついたともいえる。
 見透かされたような気がしたので、もしかしたら今のはそういう能力だったのかもしれないと考えがよぎる。
「随分と素敵な能力をお持ちですね」
 椎也が言いながら視線を向けると、無口な少女は肩を震わせた様子だった。どうやら本当に能力らしい。
 口の悪い少女が、椎也の視線を遮るように一歩前へと進み出た。
「この子がどんな能力を持っていたって、あんたには関係ない」
 睨むような目つきで、少女は言った。
「まあ、確かにそうですね。でもそれなら、俺がどんなふうに能力を使おうが、君たちには関係のないことですよね」
 椎也が言うと、少女は首を横に振る。
「それとこれとは別問題だ。とにかく、こっちはあんたの嘘をすべて見破れる。無駄だってことだよ」
「厄介ですね。では正直に言います。副作用の可能性は考えていなかったわけじゃないです。けれど、実際に使用してみないとわからないことってあるでしょう」
 言いながら椎也は肩をすくめた。
 嘘は通用しないとなると、これ以上ごまかすのは無駄のようだった。
 口の悪い少女はため息をついた。
「それなら、わかった時点でやめたほうが懸命だったよ。こうして問題になっているんだから」
「何か代償があるとしても、それが誰かの救いになるなら、何の問題もないと思いますけど」
「さっきから何を言っているんだ。善意とか幸せとか救いとか。あんたの考え方はどこかおかしい。売人をやめないって言うんなら、こっちとしては理事長に突き出すしかないんだけど。それでもいいの」
 少女の言葉に、椎也は眉をひそめた。
 彼女たちがどうして、自分の邪魔をしようとするのかがわからない。人のために何かをしてやろうと思っただけなのに。悪意なんか微塵もない。どうしてそれをわかってくれないのかがわからない。椎也は本気でそう思っていた。
「あなたに悪意がなくても。他の人がそれを悪意だと思ったなら。それは悪意なのかもしれないです」
 不意に、無口な少女が口を開いた。
 椎也は目を見開いて問う。
「どうして」
「人って、そんなに強くないです。あなたもそれは理解しているはずです。あなたは善意だって言うけれど、本当にそうですか。あなたは人を救いたいと思っていますけれど、本当にそうですか。本当はあなたが――」
「黙れっ」
 少女の見透かすような物言いに、椎也は思わず声を荒げて叫んだ。
 少女は再び肩を震わせ、怯えるように胸の前で両手を合わせた。
 傍にいた眼鏡の少年が、少女の肩に手を置く。大丈夫だと言いたそうな瞳で、少年は少女をみつめていた。
 だが椎也は少女にそれ以上の言葉を言ってほしくなかった。認めたくはなかった。
「何ですか。俺の心の中でも覗いているみたいな、その能力。俺よりよっぽど悪用しているじゃないですか。そう思いませんか。他の人がそれを悪意だと思ったなら悪意なのかもしれないって今、あなた自分で言いましたよね。俺はこれ、悪意だと思うんですけど」
「違います」
 弱々しい声で、少女は否定する。
「違うんですか。なら俺も違いますね」
 椎也は、言葉でなら彼女に勝てると思った。彼女はその自信のなさが、敗因だ。
 そんな椎也をみてか眼鏡の少年が、ゆっくりと息を吐いて言った。
「このままじゃ、らちが明かないな」
 少年は、椎也に歩み寄ってきた。
 少女たちより一歩前に出て、椎也と対峙していた。
「寺沢椎也。あなたの過去をみせてもらいます」
 少年はそう言うと、突然に椎也の右腕を掴んできた。
 とっさに抵抗しようと掴まれた方の腕とは逆の手で、彼の手を掴んだ。

   4

 あの窓からみえる風景だけが、世界のすべてだった。
 欲しいと言ったものは大抵手に入った。流行りのおもちゃや優しい両親、何を言っても怒らない友人。だからそれが寺沢椎也にとって世界のすべてとなった。
 椎也は先天的な肺の疾患を有していた。一生抱えていかなければいけなかった。だから椎也の世界にあるもの以外はすべて諦めるしかなかった。
 朝起きるのが怖かった。今日もちゃんと生きているだろうかと心配した。大きく体を動かすことも、走ることも出来ない自分が腹立たしかった。
 しかし、それももう数週間前のこと。
 椎也は今、本当に欲しいものを手に入れている。
 朝起きるのが、怖くなくなった。今日もちゃんと生きているだろうかと心配する必要もなくなった。大きく体を動かしても、走っても、何故だか身体は元気だった。
 身体の異変が、突然使えるようになった能力と同じようにきたことも、ちゃんと理解している。だからこれを失うとき、椎也の身体も元に戻ることも知っている。
 それは何もかも唐突に起こったことで、きっかけなど無いに等しい。ただ前日に、夢をみた。それだけだ。他には何もない。
 どんな夢だったか。椎也が元気に外を走ったり、いたずらをして両親に本気で怒られたり、友人と本音で言い合いしている夢だった気がする。
 椎也にとってまさにそれは夢であり、ありもしない幻覚であった。
 夢から覚めると、不思議と身体が軽かった。
「治療はもう必要ない」と初老の主治医に伝えると、当然驚かれ身体中を検査された。
 能力が最初に発動されたのは、その時だった。椎也は無意識に能力を使ってしまったらしい。ほんの数分間。主治医は幻覚を視ていた。若くして亡くなった息子に会っていたと彼は言った。
 彼は当惑していたが、すぐにあらゆる可能性を考え、最終的にそういう能力だと結論付けた。
 主治医と同様に。いや、それ以上に椎也自身も戸惑っていた。身体の事も能力の事も驚愕し、そして感嘆していた。
「これは君の精神的な問題でもあるんだよ」
 と主治医は言った。椎也は首を傾げた。
「私の知り合いに、そういったものに詳しい方がいてね。治療は一旦中止にせざるを得ないし、せっかくだからその方に会ってみるのはどうだろうか」
 主治医の提案に、椎也は二つ返事で了承した。
 うみほたる学園の話をきけば聞くほど、興味がわいた。能力者ばかりを集めた学園。色々なものを諦めてきた自分には、勿体ないほどの場所だ。
 主治医の紹介で、理事長に会うことができた。理事長は椎也の能力を聞くなり入学を勧めてきた。学園に興味があると伝えると、理事長は喜んだ。
 そうして椎也は二十歳という年齢になって、学園という場所に足を踏み入れることになった。
 幼少期からまともに学校というものに通うことができなかった椎也にとって、うみほたる学園は思っていた以上に面白い場所だった。
 理事長と相談して、学園とはいえ年齢的にも生徒ではなく働いてみないかと言われたときは、自分にできるだろうかと思ったが、心配するほどではなかった。食堂で一緒に働く仲間はみんな気のいい人たちで、そして同時に自分と同じ能力者で、そして可哀想な人たちであった。
 例えば職場いじめを受けていた人。両親からDVを受けていた人。大切な人と死別した人。そういう人たちを、椎也は憐れんだ。そして自分の能力を使えばその人たちの心を救うことが出来るのではないかと考えたのである。
 例え一時の幻覚という名の夢であっても。自分に都合の良い夢であっても。彼らは救われるはずだ。
 そうして椎也自身も、救われたかった。誰かの役に立ちたかった。
 ただの自己満足かもしれない。ただの偽善かもしれない。
 それでも、何かしたかった。何かしてやりたかった。
 この醜い感情を誰が許してくれるだろうか。

   5

 幻覚を視た。
 両親と妹。四人で海に行くというものだった。ほんの一瞬だったけれど、とても幸せそうな光景だった。
「竜太郎」
 斉藤の声が聴こえて、竜太郎は現実に引き戻された。
「大丈夫か」
 心配そうな顔をして、斉藤が竜太郎の目の前に立っていた。どうやら彼女が寺沢椎也との間に入って、彼から引きはがしてくれたらしい。
「あ、ああ」
 竜太郎は頭を抱える。
「何か前と様子が違うって、燐音が言うから心配した」
 斉藤に言われて、竜太郎は小池のほうをみた。彼女も不安そうな表情でこちらをみていた。
「ありがとう。二人とも」
 竜太郎は礼を言った。
 寺沢に何をされたのか、考えるまでもなかった。
「幸せな夢を、視ることはできましたか」
 寺沢が竜太郎に向かって、笑顔でそう問いかけてきた。
 彼がこの幻覚を、夢と称すのが何となくわかった。それは確かに夢であった。ほんの一時の、泡沫の夢。目を覚ませば一瞬で消えてしまいそうなその夢は、とても大切な竜太郎の記憶であるはずのもの。ただの願望かもしれないもの。
「ええ。一瞬だけでしたが。そしてあなたのことも概ね理解できました」
 竜太郎はそう答えると、寺沢のほうを真っすぐにみた。
「よかった。俺の事を理解できたんですね」
 寺沢が満足そうな表情を浮かべ、竜太郎の事をみていた。
 米田恵理子から受けた依頼内容は、犯人の特定だ。たった今、寺沢が竜太郎に能力を使ったことで、彼は言い逃れのできない状態になった。身体を張ったこと、怒られるだろうか。そう思ったが、止まらなかった。
「あなたは、可哀想な人です」
 竜太郎の言葉に、寺沢の眉根がぴくりと動く。これが、彼が一番言われたくない言葉であることは、彼の記憶を視る限り明白だった。
「何を言っているのか、わかりませんね」
 とぼけるように、寺沢は言った。
「あなたは色々なものを諦めてしまった。それが可哀想だって言っているんです」
「君にそんなことを言われる筋合いは、ないと思いますけれど」
 寺沢の言葉に、竜太郎は頷く。
「ええ。そうかもしれません。ですが、あなたにだって他に出来ることが沢山あると思うんです。こんな能力の使い方をせずとも、あなた自身が幸せになることだってできるはずなんです」
 寺沢が嘲笑する。
「俺が、幸せになる? 俺は十分幸せですよ。十分すぎるぐらい。日常的に感じていた息苦しさもないし、能力だって使える。今ならなんだってできます。俺は幸せです」
 自信満々に言う寺沢に向かって、竜太郎は首を振る。
「いいえ。そう思い込んでいるだけです。本当は、いつそれが終わるのか怯えているんですよね。そんな状態で、本当に幸せだと言えるのですか」
「それは――」
 寺沢が言い淀み、迷いをみせた。
 竜太郎はたたみかけるように話を続ける。
「自分は幸せだと思い込んで、自分より不幸せだと思う人達に、能力を使って一時の幸せをみせてあげよう。御立派な考えですけれど。それって人を下にみているだけですよね。そうやって自分と比べて、自分はその人達よりマシだと思い込んで、優越感に浸っているだけですよね」
「それの何が悪いと言うのですか。俺は可哀想なんかじゃない。俺より可哀想な奴はいっぱいいる。だから俺はそいつらに恩を売ろうとしているだけです」
 寺沢の言い分は、無理に自分を肯定しようとしているように思えた。それは悲痛な叫びだったのかもしれない。
 今、寺沢が言ったことは本心だろう。ならば竜太郎がかけるべき言葉はこうだ。
「そうやって売った後。あなたに残るものは、一体何でしょうか。してあげた事に対する報酬は、お金ですよね。でもそれってあなたを本当に幸せにするものですか。あなたの本当に欲しいものは違いますよね。誰かの役に立ちたくて。自分の存在意義を確かめたかっただけですよね」
 竜太郎はとても冷静に言った。
 過去の記憶を視るときに、竜太郎は相手の感情も何となくだけれど感じ取ってしまう。小池ほどの精度はないし、あくまでも過去の感情だ。現在の時間のものではない。それでも、竜太郎は過去も現在も彼の感情は同じものだと思った。
 彼は病気のせいで色々なものを諦めてきたのだと思う。彼が何を願って能力を手に入れたのかが竜太郎には何となくわかる。彼は。寺沢は、夢をみたかったのだ。それは、眠るときにみる夢ではなく、叶えたかった夢だ。諦めてしまった夢だ。
 寺沢が、自分を落ち着かせるかのように深く長く息を吐いた。
「そこまでいうのなら、どうすればいいのか教えてください。俺は、どうするべきだったのか」
「少なくとも、周りを巻き込むべきではなかったと思います。あとは、弱い自分も可哀想な自分も、受け入れることが大事だと思います」
「そうか――」
「簡単にはいかないかもしれませんが。あなたは頭の良い人です。きっと前に進めますよ」
 酷なことかもしれないが。と竜太郎は思いながら、彼にその言葉を贈る。
 けれど寺沢はそれで納得してくれたのか、幻覚を売ることを止めると約束してくれた。
 
    6

 このうみほたる学園に来てから、もう何度目かの朝焼けをみた。窓からみえていた月は、いつの間にか沈んでいた。かわりに現れた太陽に、椎也は目が眩んだ。
 欲しかったすべての物を手に入れて、その後に残るものは何だろうと、ずっと考えていた。一晩中。自分の『本当』について考えていた。
 力を失いたくないと、どれだけ願っても無駄だとわかっている。けれどそれだけは、諦めたくない夢だった。いつかは、絶対にその時が来る。
 今日も朝が来た。仕事に行かなければならない。石のように重い身体を動かして、出かける準備をした。仕事に行きたくないわけではないが、昨日の疲れがとれていないような気がした。

   *

 玄関を出て、ゆっくりと職場へ向かう。食堂へ着くと、誰かが待っていた。
 ショートカットの良く似合う、黒色のスーツを着た女性だった。
「寺沢椎也くん」
 名前を呼ばれても特に驚かなかった。彼女の風貌をみるに、普通の人間ではなさそうだったからだ。
「誰ですか」と椎也は質問した。
「米田恵理子。ただの教員よ。洸生会から、昨夜の報告を受けたわ。あなたは幻覚の販売をもうやらないと約束してくれたようね」
彼女。米田の返答に、椎也は一瞬で状況を理解した。
「ああ。あなただったんですね。彼らに依頼したのは」
 椎也は言うと、昨夜のことを思い出した。
 知らない学生が三人ほど、椎也に会いに来たのだ。彼らは言った。幻覚を売っている売人を捕まえて止めさせるようにと、とある人に頼まれたと。それがおそらく、今椎也の目の前にいる女性だ。
「ええ。そうよ」
 米田が頷いた。
「ならもう解決済みです。俺はもう能力を使いません」
 彼らの前で誓ったことだ。この言葉に嘘はない。
 竜太郎と呼ばれていた少年。彼の能力は非常に厄介だった。どういう能力か具体的にはわからないが、椎也のことを理解したような口ぶり。あの無口な少女と並んで、人の事を見透かせるような能力だと推測できる。
 彼らの前で、嘘は吐けない。これはもう、素直に諦めるしかないと思った。だから彼らの言うとおりにするしかなかったのだ。
「そうなのだけれど。ひとつ気になることがあってね」
 米田がゆっくりと、息を吐きながら言った。
 気になること。と椎也は心の中で反復する。
「何ですか」
「あなたが、川崎竜太郎に能力を使ったと聞いたわ。何の幻覚を竜太郎にみせたの」
「さぁ。能力を使っている間。俺には、他人の幻覚を視ることが出来ません。というか、わざわざ俺に話を聞きに来ずとも、先生なら学園内にいる能力者の資料やらなんやらで、それぐらいわかるんじゃないですか」
 米田の質問に、椎也は肩をすくめながら言う。
「それじゃあ意味がないと思って」
 米田はそう言いながら、眉をひそめていた。
「何の意味ですか」
 そう問いかけると、米田の瞳が揺らいだように感じられた。
「それは答えられないけれど、もう一つ質問があるの」
「何でしょう」
「その幻覚は、その人がみたことのある物で構成されているのかしら」
 嘘を吐く必要もないので、その質問には素直に答える。
「俺の能力は、他人の願望を幻覚としてみせているだけです。でもその元となる人物などはその人の記憶のはずです。聞いたことありませんか。寝ている間にみる夢は、みたことのある人物しか出てこない。俺の能力は、幻覚でもあるし夢でもある」
 米田は納得したのか、「そう。わかったわ。ありがとう」と、それだけ言って去ろうとしたので、椎也は「ちょっと待ってください」と呼び止める。
「ずるいじゃないですか。俺に色々と質問しておいて、それだけですか。俺、昨日から損しかしていないじゃないですか」
「損? 自業自得じゃないかしら」
 米田はそう言って、首を傾げた。
「うわ。この人、最悪だ。昨日の少年よりたち悪そう」
 椎也は米田に聞こえるか聞こえないかの声量で、呟くように言った。
「竜太郎よりは悪くないわよ」
 米田はそう言って、嘆息をもらした。
「先生が生徒の事を、悪く言っちゃダメなんじゃないですか」
 指摘すると、米田が困った顔をする。
「う。そうだけど。子どものころから知っているから、つい」
 意外な返答に、椎也は少しだけ目を丸くした。
「長い付き合いなんですね」
 米田は頷いた。
「ええ。と言っても五年ぐらいだけれど。彼が十二歳のころにこの学園に来た時、同時期に私も赴任したの。子どもの成長って早いわね。あっという間に身長を越されたわ」
 米田の言葉に、椎也は昨日の竜太郎の姿を思い出す。
「確かに、身長は俺とさほど変わりませんでしたね。なるほど、それで目をかけていると」
 納得したように、椎也は言った。
 米田にとって竜太郎は、特別な想いのある生徒らしかった。もしかしたら、息子のような存在なのかもしれない。
「もういいかしら。あなたとの話は終わったの」
 呆れた様子で、米田が言った。
「まだダメです。こっちは、俺のやりたかったことを潰されているんですよ」
 椎也は引きとめるるもりで言う。
「納得したわけじゃないのかしら」
「あれ以上は面倒くさかったから」
 米田の疑問に、椎也は本音をもらした。
「そう。なら、あなたが納得するまで依頼者の私が相手をしないといけないわね」
 米田に真っすぐな瞳を向けられて、椎也は戸惑った。
 とことん話に付き合うわよという態度を取られると、椎也も困ってしまう。忘れるところだったが、椎也は出勤前なのだ。残念だが、お茶を飲むような時間はなかった。
「まあ、俺これから仕事なので、今日のところは勘弁してあげますよ。それじゃあ」
 椎也はそう言うと、さっさと米田に背を向ける。
「待って」と、今度は椎也が呼び止められる番だった。
「何ですか」
 これ以上は遅刻するなと思いながら、椎也は仕方なく振り向いた。
「最後に一つだけいいかしら」
 米田が、真剣な表情で言った。

(第五章へ続)