一匹文士、伊神権太がゆく人生そぞろ歩き(2024年2月~)

2024年2月18日
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、きのう17日午前9時22分、国産新型ロケット「H3」の2号機を種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げ、昨年3月の1号機で点火に失敗した2段目エンジンも正常に燃焼し、目標の軌道投入に成功。搭載した性能を確認するための模擬衛星と超小型衛星2機の分離も確認し無事、成功した。

 能登半島地震の被災地、石川県珠洲市で昨年5月に起きた震度6強の地震でも被害を受けた二重被災の住宅が3000棟超に上ることが分かったとは中日新聞の18日付記事。優れた現代詩集に贈られる「中原中也賞」の選考会が17日、山口市で開かれ東京都国分寺市の俳人佐藤文香さん(38)の詩集「渡す手」に決まった。「定型詩である俳句の作者として培われてきた言語感覚が現れている。言葉の引き出しを多く持っている書き手」とは、同紙。「渡す手は24編構成で、日常生活の目に見えるものや内面を写生したといい、佐藤さんは「多くのつくり手の仲間との交感、交歓のおかげで、現在の私があります。…」とのコメントを出した。

 ロシアのプーチン政権と対立し収監先の北極圏の刑務所で死亡した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)を巡り、ロシア国内で死亡が伝えられた16日午後からモスクワなど各地で市民による同氏追悼の動きが活発化。17日までにロシア全土での追悼行動を巡り、359人が拘束されたという。ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは16日、ドイツ南部のミュンヘン安全保障会議に登壇。「夫の死が真実なら、プーチンと取り巻きたちは近いうちに責任を取らされるだろう」と述べたという。

(2月17日)
 能登半島地震で4㍍隆起した石川県輪島市の輪島港で16日、海底の土砂をさらう浚渫工事が始まった。地元漁協関係者らは「復旧への第一歩です」と話している。

 タス通信などの報道によれば、ロシアのプーチン政権と対立、服役中だった反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が16日、収監先の北極圏ヤマロ・ネネッ刑務所で死亡。この刑務所は、過酷な環境下にあり、ナワリヌイ氏は昨年12月に移送されたばかりだった。ナワリヌイ氏は3月の大統領選を前に、強権支配を強めるプーチン政権に対して獄中からもメッセージを発するなど反政権運動の指導的役割を担っていただけに、その死を不審死だとする声が多い。
 刑務所当局は声明で「ナワリヌイ氏は、散歩後に気分が悪くなり、意識を失った。蘇生措置を講じたが、医師が死亡を確認した」としている。これに対してロシア独立系紙ノーバヤ・ガゼータの編集長で2021年にノーベル平和賞を受賞したムラトフ氏はロイター通信に「刑務所の劣悪な環境が死に追いやった」との見方をしており「明らかに殺人だ」と非難している。ナワリヌイ氏は過去の経済事件で拘束収監されたほか、昨年8月には過激派団体を創設したとして懲役19年を言い渡されて9月に確定。昨年12月にはモスクワ東方ウラジーミル州の収監先から北極圏に位置するヤマロ・ネネッの刑務所に移送されていた。

(2月16日)
 内閣府が15日に発表した2023年の名目国内総生産(GDP)の速報値は、591兆4820億円。ドル換算では4兆2106億㌦となり、ドイツの4兆4561億㌦を下回って日本は世界4位に短絡。というわけでけさの毎日新聞1面トップ見出しは【日本GDP 4位転落 23年 56年ぶり独下回る 10~12月 年0・4%減 2期連続減】というものだった。

【きょうだいのピザ店開業2年で被災、全焼 古里・輪島で絶対に復活 まずはキッチンカー資金募る】【23年分確定申告スタート インボイス(適格請求書)制度 導入後初】【死亡の姉と相続トラブル 4歳次女殺害疑い 逮捕の男】とは、本日付中日新聞夕刊報道。

(2月15日)
 春の嵐が日本の各地を吹き荒れた。

 きのう確定申告を終え、ホッとしている。毎年のことではあるが、ことしもこれまで申告に必要な各種書類を用意する(医療費含む)のに大変だっただけに、申告を終え、肩の荷が下りたとは、このことか。かわいいたつ江(舞)が生きていてくれたころは、この日が近づくとは、いつも彼女なりに書類の準備を懸命にやってくれ、毎年ふたりでアアダコウダと言いながら申告会場を訪れただけに、どこか懐かしい、哀愁のようなものを感じるのである。

 それにしても、昨日、申告会場で気がついたのは、訪れた市民の誰もがマスクをしていた-ということか。私たちをいじめにいじめ尽くしたコロナ禍が再び流行してきている表れのような気がしたのである。マスク効果で、第10波の流行だけはないように、と願う、もう一人の私がそこにはいたのである。

(2月14日)
 あれやこれや。と、多忙な時には、やはり新聞の見出しが一番、簡潔でわかりやすくてイイナ、と思う。というわけで、けさのニュースは【「金品贈る引き継ぎある」 名古屋市教委へ 複数の校長証言 原資は教員らの会費】【北海道・寿都(すっつ)町と神恵内(かみえない)村 核ごみ処分地選定 次段階へ移行可能】【不記載85人5億7949万円 自民裏金アンケート公表】【ダイハツ社長退任 認証不正 後任にトヨタ井上氏】(いずれも中日新聞14日付)といったところか。毎日毎日、ニュースが洪水の如くこの世に噴き出している。なんでだろ、といったところで仕方がない。これが自然の摂理なのかもしれない。
 ニュースは良いにせよ、悪いにせよ。日々、あれよあれよ、とあふれ出るものなのかもしれない。

 きょうは確定申告の受付日である。そんなわけで午前中、受付会場である市民会館へ。案の定、受付は訪れた人々でいっぱいで「あなたは、午後3時過ぎに」ということなので、いったん自宅に引き返し、新聞を読んだりして時間待ちを-というわけである。思えば、4年前までは毎年、たつ江と共に訪れたものである。いつも、時間待ちということで、その間は、ふたりで平和堂などにいって買い物をするなどして時間稼ぎをした、あの日々が懐かしく思い出される。

(2月13日)
 新聞休刊日。というわけで、朝刊はこない。
【日経平均3万7700円台 34年ぶり、一時800円超上昇】【ガザ南部攻撃、67人死亡 イスラエル、人質2人救出】【米、6週間戦闘休止へ交渉 バイデン氏、軍事作戦にクギ】とは、本日付の日本経済新聞の夕刊見出し。【金品の授受「不適切」 文科相 名古屋市教委に調査指導】【ダイハツ国内生産再開 1カ月半ぶり 京都工場で2車種】とは、中日夕刊1面見出し。

 あすの確定申告を前に、このところはそのための書類作成に振り回されている。

 午後。わたくしの友人からすばらしい写真が送られてきた。
 1枚は、無数の海鳥が海面に憩う、すばらしいショットだ。そして今ひとつは、ひょうきんなかかしが見事で素朴極まる田の光景である。どちらも、心に安らぎを与えてくれる、とてもすばらしい写真である。せっかくなのでぜひ、みなさまにも見てほしく、ここに紹介させていただこう。

 能登の海鳥を思い出させる波静かな海の光景
 

 ふるさとの、あの懐かしい田畑を思い出させてくれる

(2月12日)
 きのう11日午後0時36分ごろ、石川県で震度4の地震が発生。気象庁によれば、震源地は石川県能登地方、震源の深さは約10㌔だという。地震の規模はマグニチュード4・7。北陸電力志賀原発(志賀町)の設備に異常はなかった。この日、総務省消防庁の全国瞬時警報システム(Jアラート)は予想最大震度5弱の緊急地震速報を出し、警戒に当たった。

【授受「20年以上」証言も 名古屋市教委、苦渋の説明 河村市長「絶対許さん」】【保護者「金で校長か」 現場の教員「恥ずかしい」】とは、本日12日付の中日新聞の軟派トップ見出し。ほんとに嘆かわしい限りだ、とはこのことか。それとも<みんなでやれば、怖くない>とでも思ってやったのか。人間臭いと言えば、いえなくもない。

 ◇…中国の春節(旧正月)に合わせ長崎市中心部を約1万5千個のランタンで彩る「長崎ランタンフェスティバル」が開かれている。25日まで、赤や黄色のランタンの温かな光が長崎の街を染め上げる。-とは、本日、12日付の中日新聞<通風筒>

 大相撲のトーナメント大会が11日、東京・両国国技館であり、右膝を痛めて初場所途中休場した大関豊昇龍が初優勝。阿炎と遠藤が3位に入った。能登半島地震で大きな被害を受けた穴水町出身の遠藤は、1回戦から4連勝して3位に。33歳の人気力士は「前向きに毎日を必死に過ごしている故郷の方々を見て、前向きな気持ちになりました。一緒に頑張りたい」とは、遠藤。
 この日は、昨年5月に現役を引退した元関脇逸ノ城=三浦駿さん(30)、モンゴル出身=の断髪式が都内のホテルで開かれ、逸ノ城は「大勢の前で断髪式が出来てよかった」と涙をふいた。

 女子バスケットボールのパリ五輪世界最終予選がハンガリー・ショブロンで行われ、東京五輪銀メダルで世界ランキング9位の日本は同5位の強豪カナダを86-82で破り、2勝1敗として3大会連続6度目の五輪出場を決めた。

(2月11日)
 新聞の報道によれは、だ。石川県内では9日現在、7市町で今なお計3万4800戸が断水している。そうしたなか、能登半島地震で被災し、酒造りを一時見合わせていた珠洲市宝立町の「宗玄酒造」が酒造りを再開。電源が喪失し、機械で搾ることが出来ないなか、酒米を発酵させた〝もろみ〟が無事で、昔ながらの手法で搾った。珠洲の復興のために、と無ろ過生原酒をオンラインで販売すると、約40分で売り切れたという。
 一方で私たち家族がかつて7年間、住んだことのある石川県七尾市一本杉通りの「鳥居醤油店」で店舗の片づけをしていた60代の男性が倒れてきた高さ1・3㍍、幅3・3㍍のブロック塀と隣接する建物に挟まれ死亡したという。この醤油店は、古い町並みが残り、市内の観光地のひとつでもある〝一本杉通り〟にあり、建物は1908年(明治41年)に建てられた国登録有形文化財だ、と新聞は報じている。

 本日付の中日新聞1面に【人も時間も足りない 悪路・日帰り 1日3時間40人 輪島でも一般ボランティア開始】【名古屋市教委に教員団体金品 校長推薦名簿の提出時 慣習10年以上か 市調査へ】【男性育休3カ月未満87%】のニュース。

 第17回朝日杯将棋オープン戦の準決勝と決勝が10日、都内で開かれ、連覇がかかった藤井聡太八冠(21)は準優勝に終わった。藤井八冠を破った永瀬拓矢九段(31)が初優勝。

(2月10日)
 【小澤征爾さん死去 88歳 世界的指揮者】【世界が愛した「オザワ」 「音楽で心一つに」貫く 「リズムの爆発」聴衆酔わす 評伝(梅津時比古)】【闘病の子と交流 指揮を終えて涙】(毎日)【小澤征爾さん死去 88歳指揮者「世界のオザワ」 戦後日本が生んだ奇跡 評伝(論説室・三品信)】【マエストロ 尽きぬ情熱 小澤征爾さん死去 「神がかりの力」音楽界悼む声】(中日)……と各紙とも小澤征爾さん死去のニュース一色である。

 ほかの新聞報道は、といえばだ。日弁連が9日、小林元治会長(72)の任期満了に伴う次期会長選の投開票を実施し、元東京弁護士会会長の渕上玲子さん(69)の当選が決まったことか。法曹三者(弁護士、検察官、裁判官)で女性がトップに立つのは初めてだという。好ましいことである。任期は4月1日から2年間とのことである。

 ウクライナのゼレンスキー大統領が8日、ワレリー・ザルジニー軍総司令官(50)を同日付で解任し、後任にオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官(58)を任命。ゼレンスキー氏は軍の緊急の変革が必要だと訴え、指揮系統や戦略を見直す考えを表明した。

(2月9日)
 中日新聞ではけさの朝刊から【能登激震-被災の現場で ➊火災 断水、風……広がる被害】が始まった。その一方で【迫る北陸新幹線延伸と退去期限 旅館やホテルの2次避難者 結局どこへ行けば】【被災者優先か観光客か 宿泊施設も葛藤】【珠洲の仮設住宅きょう入居開始 40戸に102人、石川に2例目】【石川に義援金3億円 本社と社会事業団届ける】など。さまざまな記事が見られ、これら数々の記事とともに復興への足音が確実に大きく高鳴ってきていることだけは、確かだ。そんな気がする。
 こうした時こそ、被災地のその後は、それこそ助け合いの精神がどこまで続き、生きるか-によるところが多いのではないか。なかでも輪島の朝市の日ごとの状況描写を写真と地図、経過票で描いた紙面はわかりやすい、のひと言に尽き、こんご復興への道のり大いに役立つに違いない。

 将棋の藤井聡太八冠(21)=愛知県瀬戸市=に菅井竜也八段(31)が挑んだ第73期王将戦7番勝負の第4局が7、8の両日、東京都立川市で指され、先手番の藤井八冠がストレートの4連勝で防衛に成功。タイトル20連続獲得の新記録を達成。故大山康晴15世名人が1963~66年に打ち立てた19連勝の記録を58年ぶりに塗り替えた。人生いろいろ、将棋のスターもいろいろである。

 世界的な指揮者で知られた小澤征爾さんが6日、心不全のため東京都内の自宅で死去。88歳だった。小澤さんは1935年、満州東北部の奉天(現瀋陽)生まれ。フランス・プサンソン国際指揮者コンクールで日本人で初めて優勝。カラヤンに弟子入り、ニューヨークフィル、ボストンフィルの副指導者となり世界のクラシック界をけん引し、長野オリンピックの音楽監督などを務め、2008年には文化勲章を受章。2010年に食道がんが見つかり、その後は治療に専念するため活動を休止していた。

(2月8日)
 細川連立内閣などで文相を務めた日本ユニセフ協会会長の赤松良子(あかまつ・りょぅこ)さんが死去したことが分かった。大阪府出身。94歳だった。同協会が発表。赤松さんは1953年、東大法学部を卒業し旧労働省に入省。婦人少年局長、婦人局長を歴任、雇用分野での男女平等をめざす男女雇用均等法(86年施行)の制定に尽力。2008年には女性で初めて日本ユニセフ協会の会長に就いた。文相時代には、中学校の丸刈り校則に関し「ぞっとする」と発言、後に撤回する一幕もあった。

 7日午前5時20分ごろ、三重県明和町刑部の国道23号の側道を歩いていた明和町の世古口哲哉町長(57)が軽乗用車にはねられ、松阪市内の病院に運ばれたが、全身を強く打っており、約3時間後に死亡。松阪署は自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで車を運転していた派遣社員(44歳)を現行犯逮捕した。それにしても、現職の町長さんがこんなにもあっけなく亡くなってしまうだなんて。不幸は、いつ襲ってくるか知れない。事故には、くれぐれも気をつけたい。
 かと思えば、だ。群馬県伊勢崎市田中島町の西部中央公園付近で7日午後4時ごろ、小学生9人を含む7~63歳の男女12人が犬に足などを次々とかまれ、うち5人が救急搬送された、とのニュース。いずれもけがの程度は軽い、というが。いやはや、この世は何が起きるか知れたものでない。

 もう1件。同じくけさの朝刊報道によれば、だ。愛知県警は愛知県津島市の住宅敷地内の物置で昨年7月、住人の山本国雄さん=当時75=と妻の静江さん=同(71)=の遺体が見つかった事件で近く、殺人と死体遺棄の疑いで事件後に死亡した夫婦の息子=同(40)=を容疑者死亡のまま書類送検するという。

(2月7日)
 北方領土の日。
 能登半島地震で休校していた石川県輪島市の7つの小中学校が6日、輪島高校の校舎を使って授業を再開した。この日は、穴水町の避難所「さわやか交流館 プルート」を同町出身の遠藤関らが訪れ、被災者の間で「おかえり」の声が上がった。これに対し遠藤関は「元の日常に戻ると信じています。一緒に頑張りましょう」とあいさつをした。この日は、1月の初場所で敢闘賞に輝いた津幡町出身の大の里関らも内灘町の避難所、展望温泉「ほのぼの湯」を訪問。祖父坪内勇さん(75)と再会し「元気にしているか」などと声を掛け合った。大の里関は「春場所でまた明るい話題を届けたい」などと語っていた。
 石川県は6日、能登半島地震で倒壊した建物のがれきなど県内の災害廃棄物の推計量が244万㌧に上ると発表。県内の年間ごみ排出量の約7年分で、被害の大きかった半島北部・奥能登地域の2市2町が推計量の約6割(151・3万㌧)を占めた。地域の年間排出量の59年分に当たるという。県はこんご海上輸送も活用し、県外も含めた広域処理を進める方針で、2025年度末の処理完了を目指したい、としている。
 本日付の中日新聞朝刊の【輪島朝市が金沢「出張」 来月23日開催、復活へ一歩】には、心が救われる思いだ。書いた記者は元江南通信部記者で私も何かとお世話になった大学の後輩でもあり、チェロの演奏で知られる、あの鈴木里奈さん。「朝市の灯を絶やさない-。」との願いがビンビン伝わってくる。記者も一丸になっての復興への歩みが始まっている。そして、その隣の記事もなかなか良い。見出しは【「少しでも元気に」金沢で12日演奏会 石川へエール響け 大津・龍谷大吹奏楽部 練習に熱】というものだった。

 盛山正仁文部科学相が6日の衆院予算委員会で2021年の衆院選で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連団体から選挙支援を受けたとする一部報道について「写真があるのであれば推薦状を受け取ったのではないかと思う」と語った。

 トヨタ自動車は6日、米南部ケンタッキー州の主力工場での電気自動車(EV)生産に向け、13億㌦(約1900億円)を投資する、と発表。同工場を米国初のEV生産拠点とする計画で、EVの組み立てに加え、別の米工場から調達する車載電池を電池パックに組み立てる生産ラインもつくるという。
 ほかには、米ワシントンの連邦控訴裁が6日、トランプ前大統領が2020年の大統領選で敗北した結果を覆そうとした罪で起訴された裁判で大統領の免責特権を認めない判決を下した。トランプ前大統領には逆風となるが、前大統領は上訴する方針だという。

(2月6日)
 死者・行方不明者が6万人に上ったトルコ・シリア地震が6日で発生から1年に。両政府の被災者支援策は不十分でいまだにテント生活を余儀なくされている人々が多いという。「多くの市民が故郷を離れ、元の生活を取り戻す道のりは険しい」とは、毎日新聞の朝刊報道。【1年なおテント生活 トルコ・シリア地震 進まぬ復興】と現状を伝えている。

 一方、日本の能登半島地震の方は【輪島の小中 登校再開 県内全校の休校解消 心のケア中心 オンラインも活用】【出身力士が応援】(6日付、中日夕刊見出し)と少しは光りが見え始めつつある。この調子で早く元に戻ることを心から望んでいる。

(2月5日)
 夜。東京23区の全域で大雪。NHKのテレビニュースでは千代田区や浅草、東京都心でシャーベット状になった雪を映し出し「6㌢の大雪は1昨年2月の2㌢以来の大雪だ」と報道。こちら、尾張地方は幸い雪は降らなかったが、身が凍えそうな寒い1日だった。

 京都市長選が4日投開票され、無所属新人の元官房副長官松井孝治氏(63)=自民、立民、公明、国民推薦=が、無所属新人の弁護士福山和人氏(62)ら4人との争いを制して初当選。与野党相乗りの「非共産」陣営が推した松井氏が、共産党の実質的な支援を受けた福山氏の猛追を交わした。投票率は、41・67%で前回を0・96%を上回った。愛知県豊田市長選が4日、投開票され、無所属の現職太田稔彦氏(69)が、同じく無所属で新人の元県議鈴木雅博氏(44)を破り、4選を果たした。投票率は過去最低だった前回を9・75㌽上回る46・31%だった。
 ほかに中日新聞科学面の【能登半島地震~海沿い景観一変~ 繰り返された大規模隆起 最大4㍍ 新たな海岸段丘が出現 北高南低 半島形成の一環■陸乗り上がる逆断層■「海底」は調査途上】の記事に関心を覚えた。同時に自然の科学現象には、とてもかなわないな-とも、つくづく思う。ありとあらゆる人間たちは、やはり生かされているのだなっ、と。
 
2024年2月4日
 福島県大熊町の帰還困難地域にある町立熊町小学校で2011年3月11日の東日本大震災発生に伴う福島第一原発事故後初めて当時の校舎が元児童らに開放された。熊町小は、第1原発の南約3・5㌔にあり、当時、東日本大震災を体験した元児童らは再会を果たし、ランドセルやマフラー、帽子、手袋など思い出の品々を手にした。

 新聞報道によれば、米中央軍は2日、ヨルダンの米軍施設で米兵3人が死亡した無人機攻撃への報復としてイラクとシリアで攻撃を行った。無人機攻撃は親イラン武装戦力の連合体「イラクのイスラム抵抗運動」が実行したとし、イラン革命防衛隊で対外工作を担う「コッズ部隊」や親イラン民兵組織を狙い七つの施設で85以上の標的を空爆。バイデン大統領は声明で報復は「われわれが選ぶ時間と場所で続く」と予告したという。

 雪と氷の祭典、第74回さっぽろ雪まつりが4日、札幌市で開幕。新型コロナウイルス禍で昨年まで規模が縮小されていたが、ことしは大通公園、繁華街すすきの、つどーむの3会場で行われ、4年ふりの全面開催。11日まで。

2024年2月3日
 きょうは節分だ。デ、いつも食卓の一角に置いてある舞(たつ江)の遺影の前に、社交ダンス仲間から頂いた福豆を供えて手を合わせ「福は内、鬼は外」と何度も唱える。わが家に幸せが訪れれば、天国のおまえも喜ぶに違いないからである。

 舞の遺影を前に「福は内」と手を合わせた
 

     ※     ※

     ☆     ☆ 
 石川県輪島市の応急仮設住宅の入居が3日から始まるのを前に、市は2日、仮設住宅を報道陣に公開。地震後の仮設住宅完成は初めてで、3日は18世帯の55人が入居を始めた。
 愛知県は2日、障害者グループホーム運営大手の福祉事業会社「恵(めぐみ)」を巡り、食材費の過大徴収などが見つかったーとして不正請求の有無に関する調査を始めたことを明らかにした。それによると、食材費の過大徴収は県内の全ホームで計約2億1800万円に及ぶという。【週3回訪問介護「必要か」 利用者家族 看護師「血圧書き写すだけ」】とは、本日付の中日朝刊の見出しだ。

(2月2日)
【会いたい 街に、あなたに 能登地震1カ月 祈る午後4時10分 元日から時間止まったまま】【死者240人 断水4万戸】【悲しみ毎日押し寄せ 珠洲で妻子亡くした男性 「ただの1カ月 まだ夢の中にいるよう」】(中日新聞2日付)
 このところの新聞各紙は、どこも能登半島地震のその後を大きく報道している。なかでも中日新聞は、28、29面で【あなたと生きた】【日々を忘れない】特集を生前の顔写真入りで見開き展開。まさに読者と家族に寄り添った紙面内容で読む人々の胸をとらえた。
 【能登と思いはひとつ 頑張らないで でも、負けないで 能登へ各地からメッセージ】といった1日付の被災体験者からの声収録特集に続く内容である。きのう、きょうとそれこそ、読者への限りなき愛が感じられるそんな他紙には見られない紙面であった。「火の玉になって」とは、こういうことを言うのではないか。まさにこのところの紙面展開は、被災家族1人ひとりへの深い愛が感じられる内容であった。

 2日付の「あなたと生きた」「日々を忘れない」の中日新聞見開き特集

 1日付の中日新聞「能登へ 各地からメッセージ」見開き特集

 午後。いつものように一宮のスポーツ文化センターへ。タンゴとワルツのレッスンに励んだ。あの可愛かった、たつ江、舞が「あのねえ。社交ダンスだけは、いつまでも続けるのよ」と私に言っていた、その言葉に従ってのレッスン行である。きょうは、春の発表会を前提としたイントロを含んだレッスンだったが、結構ハードな内容で息が弾んだ。でも、こうしたレッスンがいつまでも衰えない体力の維持につながっているような、そんな気がしないでもない。
 私はほかに、最近では自宅廊下をファッションステージのランウェイ代わりにモデルになった気持ちでかっこをつけてシャナリシャナリと歩くという、恥ずかしいことも続けているのである(ことし正月にはチョット、長男の嫁の前で歩いて見せ恥ずかしかったのだが。生前の舞にも見せてやりたかった)。

(2月1日)
 能登半島地震から、きょうで1カ月がたつ。
 中日新聞は見開き展開で読者からの心からのメッセージを【頑張らないで でも、負けないで】<能登へ 各地からメッセージ>との題で全国から届いた励ましの声を紙面収録。そして1面では【独り 現実なのか 珠洲で被災妻子4人亡くす 能登半島地震1カ月】の見出しで悲しい被災者を紹介。【避難1万4000人 長期化懸念】と報じ、連載企画<能登はやさしや 被災地とともに>では俳優常盤貴子さんの能登に対する思いを【能登と 思いはひとつ 能登の未来をあきらめない。それに尽きる】と報じている。
 毎日新聞も【指定避難所3割開設できず 発生当初 一部に殺到 備蓄枯渇】と痛い点をついているばかりか、【死因「圧死」が最多4割 警察庁分析】とも報じている。同紙はほかに【安倍派95人分不記載 5年で6.7億円 派閥が訂正】との見出しを打ち、政界のずさんさを露呈させる内容となっている。

 悲しいかな。きょうも被災地に関する記事で一色である。
 日本相撲協会は31日、東京・両国国技館で春場所(3月10日初日・エディオンアリーナ大阪)の番付編成会議と臨時理事会を開き、東関脇琴ノ若(26)=本名鎌谷将且(まさかつ)、千葉県出身、佐渡ケ嶽=の大関昇進を満場一致で決めた。昇進2場所目となる5月の夏場所から、元横綱だった祖父のしこ名「琴桜」を襲名予定だという。
 この日、協会は使者ふたりを千葉県松戸市の佐渡ケ嶽部屋に派遣。琴ノ若は昇進伝達式で「大関の名に恥じぬよう、感謝の気持ちをもって相撲道に精進してまいります」と口上を述べた。

 プロ野球は1日、沖縄、宮崎両県で昨季に1985年いらいの日本一を達成した阪神など10球団がキャンプインした。パ・リーグ3連覇中のオリックスは2日、西武は6日に始動する。
 このうち、われらの中日ドラゴンズの春季キャンプは1日、沖縄県の北谷町と読谷村で始まった。1軍拠点の北谷では大野、小笠原、涌井らがブルペン入り。新しく加入した中田、中島も打撃練習を開始し、シートノックでは岡林が右翼の守備に。2軍拠点の読谷では石川昴がフリー打撃で快音を響かせたという。いよいよ球春。ことしこそ、ドラゴンズの春、シーズン到来である。

連載小説「あの箱庭へ捧ぐ」第四章

第四章 幻を覚える

   1

 米田恵理子の担当する教室は、真面目な生徒が多い。これは恵理子の自慢だった。それが一瞬にして崩れ去ってしまう日が来るとは、恵理子を含め同僚の先生たちも思っていなかっただろう。
 八月の後半に差し掛かったころだった。うみほたる学園には夏休みという概念はない。生徒たちは卒業まで実家へ帰省してはならない規則がある。一般的に言う夏休み中も、補習授業があったり、敷地内にある農園の作業の手伝いなど、イベントも多いため学園での生活は続く。そのため教師たちは、シフト制の休暇を取ることになっている。
 恵理子も普段の休暇では、学園の敷地内にあるアパートでのんびりと本でも読んで過ごすか、学園外へ遊びに行くついでに実家へと帰省する。
 今年の夏休みも普段と変わらず、帰省して久しぶりに親と会うつもりでいた。しかし、予定を変えなければいけない事件が起こってしまったのだ。

   *

 その日、恵理子は洸生会という生徒のために創られた組織の拠点を訪れていた。洸生会を知っている者はこの学園内でもごくわずかで、恵理子はその中のひとりだった。しかし依頼というものは一度もしたことがなく、今回が初めてだった。
「おかしな行動をする生徒がいる?」
 向かい側のソファに座っている少年が、首をかしげながら恵理子の言葉を反復した。
 部屋には恵理子と洸生会の代表である川崎竜太郎の二人だけがいた。他にもメンバーはいるはずだが、今日は不在らしい。
 恵理子は竜太郎がこの学園に来たばかりの頃から知っているし洸生会が創設されたときにも立ち会っていたので、この場にいることはとても気楽だったが、真面目な話をしているからか緊張感があった。
「ええ。具体的には、補習中にぼーっとしているかと思えば、急に立ち上がって奇声を発したりね。注意してもまったく聞かないの。仕方がないから保健室に行くように言ったけれど、結局行かなかったみたいで。その後は図書室で寝ているのを発見したの。まるで電池が切れたようだったわ」
「米田先生でも、てこずる生徒がいるんですね」
「これは深刻な問題なの。他の先生にも協力してもらって、別の学年クラスでも変わったことがないか調べたわ。そうしたら、私のクラスの他にもおかしくなった生徒が数人いることがわかったわ」
「一人二人ではないということですか。幸い、僕のクラスにはそんなことをする生徒は居ませんが。もっと調査するべきでしょうね。話は聞いてみたのですか」
「もちろん。それでわかった事なのだけれど。どうも、幻覚を視ていたらしいの」
「幻覚?」
 恵理子の言葉に、竜太郎が眉をひそめた。
「みんな、幻覚を買ったって言っていたのよ」
「買ったって。誰かが、売っているってことですか」
 竜太郎が目を丸くしている。
 当然、売る人がいれば買う人もいる。需要がなければ売られることはない。売るだけでその先に進まなかったのだとしたら、簡単な話だったのだが。
 恵理子は短く息を吐く。
「私も、そう思うわ。どこで、誰から買ったのと問いただしたけれど、誰も口を割らないのよね。全校生徒の名簿を調べてみたけれど、幻覚を作れそうな能力者の候補は数人いるわ。そこで、仕方なくあなたたちに依頼することにしたのよ。丁度いい人材がいるじゃない」
 恵理子はそう言って竜太郎に目配せする。
 今この場にはいないが、他人の心をよむ能力を持った少女が、洸生会に所属している。恵理子はそれを知っている。彼らなら解決できる事件だと思って。だから依頼しに来たのだ。
「ええ。こちらの手の内を知らなければ、可能でしょう。ただ、売人が名乗っていなければ、心をよんでも客は売り手の名前を知ることはできない。変装をして姿をごまかしている場合もありますし、直接会うのは至難の業でしょう」
 竜太郎の説明に、恵理子は困った顔をした。彼の推理は的を射ているだろう。恵理子もその可能性を考えていなかったわけではない。
「なら、どうすればいいと思う。自身の持つ能力が原因で、平凡な人におかしいと思われる行動をしているのなら、こんなに心配しなくてすむのだけれど。能力者が、能力を悪用して他人を巻き込んでいるとしたら、問題よ。何としても止めさせなければいけないわ」
 恵理子は、顔をしかめながら言った。
 能力者がらみの問題は、学園内部で解決するしか方法がない。だから恵理子は洸生会に頼らざるを得なかった。
 この学園には教師や警備員はいるが、警察の代わりになる大きな組織がない。場合によっては外の警察に頼ることになるだろうが、そもそもこれは犯罪に値するのだろうか。
 仮に犯罪だとしても、立件は難しいだろう。売人が能力で幻覚を作り出しているのならば、物的証拠を出すことが不可能に近いからだ。
 時期尚早かもしれないが、今のうちに対処する事が正しいと恵理子は考えている。この学園には身体は大人だけれど、思考が成熟していない者たちもたくさんいると恵理子は思っている。だからこそ、広がる前に止めたいのだ。
「米田先生の気持ちは、わかりました。こちらでも出来る限りの事はしてみます。犯人が特定できれば良いのですが」
 竜太郎の返答に、恵理子は満足して頷いた。
「ええ。お願いね。あなたたちにこんなことを頼むのは心苦しいけれど、私たちも自由に動けるわけではないから。犯人が特定出来たら連絡を頂戴。その後の事はこちらに任せて」
 恵理子は竜太郎にそう告げると、小屋を後にすることにした。
 もう一つの目的も、達成できると良いなと願いながら。

   2

「それで、あたしたちは何をすればいいわけ」
 斉藤寧々が竜太郎の目の前で、首をかしげて言った。
 洸生会のアジトであるプレハブ小屋には現在、竜太郎と斉藤。そして小池燐音の三人がいた。竜太郎の座っているソファの前にはテーブルが置いてあり、その向う側のソファに、斉藤と小池が横並びに座っている。
 依頼内容について、竜太郎の口から説明していたところだ。
「斉藤は、能力を使って怪しい会話をしている奴をみつけてほしい。そして小池にはそいつが嘘をついていないか、能力で確認してほしいんだ」
 作戦を説明しながら、竜太郎は二人をみる。
 小池は何も言わずに頷いたが、斉藤は額にしわを寄せた。
「なるほど。でも、そいつが声を発していなかったらみつけられないよ」
 斉藤の言葉に、竜太郎は頷く。
「それでも構わない。直接会って取引しているのかどうかが、わかるはずだ」
「そいつがこそこそやっているのなら、どちらにしろこの学園内だとリスクが高すぎる。色んな能力者がいるんだ。みつかる確率が高すぎる。そんなことも考えられない犯人なのか。そいつは一体何のために、そんなことをしているんだ」
 斉藤の疑問はもっともだった。ただの馬鹿であるのか、それとも他に目的があるのか竜太郎にもわからない。
「それを、確かめなければならない」
 竜太郎は眉をひそめた。
 正直なところ情報が少ない現状で、犯人を特定するのは至難の業だ。濁った水の中に手を入れて、すばしっこい魚を捕まえようとしているのと同じことだろう。
「わかったよ。じゃあしばらくの間、静かにしていてくれる。集中するから」
 斉藤は竜太郎の返事を聞く前に、両目を閉じて両耳を両手で覆うように触った。その行動から察するに、彼女は早速能力を使って犯人の捜索をしてくれているようだ。
 竜太郎は半端に開けた口を黙って閉じるほかなかった。斉藤の邪魔をしたくない。斉藤の隣に座っている小池は、大分前から唇のひとつも動かしていなかった。
 しばらくの間は三人の間に沈黙が流れるかとも思ったが、斉藤が何やらぶつぶつとひとり呟いていた。
「これは違う。これも。んー。どこだ」
 険しい顔をして、斉藤は頭を悩ませている様子だった。
 しかし彼女は、能力を上手いことコントロールしているようだ。竜太郎は思わず感心してしまっていた。
 斉藤の首元には、普段の余計な音を遮断する為のヘッドフォンがかかっている。これは彼女がここへ来る前から愛用されているものだ。当時は能力をコントロールしきれていなかった斉藤が、苦肉の策で着けていたものだ。ヘッドフォンからは極小音で音楽を流しているらしい。ヘッドフォンの機能、ノイズキャンセリングで音を最小限に押さえないと、大勢の人の声が聴こえるために頭がおかしくなりそうだと斉藤は言っていた。
 だが近頃は、ヘッドフォンをつける機会が減ったらしい。今はこの学園の数いる能力者の中では、彼女の能力をコントロールする力は高いと言えるのではないだろうか。
 竜太郎は、斉藤の力を信じて待つことにした。小池も不安そうな顔をひとつもせずに、両手で両耳を覆いながら目を閉じている斉藤をみつめていた。
 そして数分が経ち、斉藤は「あっ」という声と共に、両目をぱっと開けた。
「聴こえた」
 斉藤がはっきりとそう言って、竜太郎のほうに視線を向けてきた。
「どんな会話だった」
 竜太郎が尋ねると、斉藤は両耳から両手を離した。
「おそらく本人じゃない。ただの噂話。でも、かなり有力な情報。午後六時。雑貨屋の裏路地。フードを被った男。そいつが幻覚を売ってくれるらしい」
 斉藤はそう言うと、座っていたソファの背もたれに身体を預ける。力を抜いたようにそのまま項垂れて、息をゆっくりと吐いた。
「お疲れ様。それだけの情報があれば充分だ」
 竜太郎は斉藤に向かって、労いの言葉をかける。
 後は、直接本人に会って小池の能力を使い、真偽を確かめるだけだ。
 竜太郎は疲労している斉藤のために、空っぽになっていた湯呑に、新しい緑茶を急須から注ぐ。斉藤は小さな声で「ありがとう」と言ったが、今はそれを呑む力もないらしく、ただソファに埋もれるように座っていた。
「こんなことに力を使ったのは初めてだ。あたしでもこんなふうに役に立てることがあったんだな」
 斉藤がそう言いながら、右手でこめかみを触っていた。それはまるで恥ずかしさに顔を隠すような仕草だった。
 竜太郎はそんな彼女の様子をみて、思わず口角を上げた。
「そのための洸生会だからな。生徒たちの手助けをする。それは何も自分たち以外の生徒たちってわけじゃない。自分たちだってその対象になる」
「それは、お前も含まれるのか」
 斉藤の問いに、竜太郎は頷く。
「もちろん」
「そっか」
 斉藤は納得するようにそう言って、自分の首にかけたままだったヘッドフォンを耳につけた。これ以上会話を続ける気はない様子だった。
 竜太郎は小池のほうに目を向ける。彼女は困ったような顔をして、竜太郎と目を合わせた。
「もちろん、君も助ける対象だよ」と声をかけようか迷ったが、やめておいた。言われなくてもわかっているだろうから。
 竜太郎は窓の外を確認する。午後六時まではまだ時間がある。色々準備をして、それから向かおうと思う。

   3

 自分の事を嗅ぎまわっている人がいる。寺沢椎也は本能的にそれを感じていた。別に誰から聞いたわけでもない。ただの勘だった。
 心当たりがなかったわけでもないが、それでも自分は間違っていないという考えであったから、逃げも隠れもしないつもりだった。
 椎也は幻覚を作り出せる能力を持っていた。それも相手のみたい幻覚を、何でも。
 売人を始めたのは、この能力を生かすためである。別に金が欲しいわけではない。この学園で金を持っていたとして、使い道はそんなにないからだ。ならばなぜこんなことをしているのかといえば、人のため。この言葉に尽きる。
 この学園には可哀想な人が多すぎる。自分の能力がそんな人達をたった一時でも救うことが出来る。椎也はそう考えていたのだ。
 学園に来て数週間。椎也もここでの生活に慣れ、食堂での事務仕事も慣れてきた。行動を起こすなら今だと思った。 
 今日は少しだけ残業して午後五時半に退勤し、一旦近くのアパートに帰宅する。私服に着替えて雑貨屋へと向かった。
 鼻歌交じりに道を歩いていると、犬の散歩をしている学生とすれ違う。
「こんばんは」と軽く挨拶を交わし合った。
 学生は犬に引っ張られるようにして寮のほうへ歩いていった。おそらくあの犬は寮で飼っている柴犬だ。みたことがある。
 そんなことを思いながら目的地に到着すると、椎也は最近のいつも通りに雑貨屋の裏路地に立つ。別に誰かと待ち合わせているわけではないので、ここからはひたすら人を待つことにする。

   *

「午後六時。雑貨屋の裏路地。フードを被った男。そいつが幻覚を売ってくれるらしい」
 噂を流し始めたのは二週間ほど前だった。最初こそ人は来なかったが、最近は一人二人来るようになった。この調子で広まれば、この学園中の人間が救えるかもしれない。そう考えると自然に笑顔になった。
 腕時計を確認すると時刻は丁度午後六時を回ったところで、椎也は着ている黒いパーカーのフードを頭にかぶせる。
 今日はどんな客が来るだろうか。どんな顔をしてくれるだろうか。
「あなたですか。幻覚を売ってくれるという人は」
 眼鏡をかけた少年と、隣に少女が一人。いや、二人が立っていた。全員学生服を着たままだ。この時間帯は、生徒たちはとっくに寮に帰って私服に着替えているはずだ。先ほどすれ違った学生も私服を着ていた。だから珍しいなと思った。
「そうです。どなたでもみたい幻覚。いや、夢をみることが出来ます」
 自分で言葉にしてうさんくさいなとも思うが、嘘はひとつも言っていない。
「夢、か。物は言いようだな」
 背の高いほうの少女が言う。
「買うのはどなたですか。もしや全員ですか」
 椎也の問いに、三人は顔を見合わせた。
 それから眼鏡の男が剣呑な目つきで、こう言った。
「いいえ。あなたを止めに来ました」
「止める?」
 椎也は彼の言葉に、顔をしかめた。
 今まで数人の客を相手にしてきたが、そんなことを言った人は初めてだった。一人もいなかった。椎也はまるで自分が悪いことをしているという物言いの彼に、不快感を覚えていた。
「そうです。幻覚を売っている売人を捕まえて止めさせるようにと、とある人に頼まれまして」
「頼まれた? 誰に。なんで止めなきゃいけないんですか」
 尋ねると、少年は首を横に振った。
「それは言えません。プライバシーを守るためなので。それと、悪いことだからです」
 少年は、はっきりとそう言った。
 悪いこととは、心外だ。と椎也は思った。だから食い下がることにする。
「ふーん。言えないのに、俺のすることを否定するんですね。でも俺がしていることって、別にこの学園の規則に反しているわけじゃないですよね。能力を利用することが悪いことでしたら、俺もしません。でもそうではないですよね。俺は何も悪いことはしていないです」
 椎也がそう言うと、背の高いほうの少女が額に眉をひそめて言い返してきた。
「あんたな。そういうの屁理屈って言うんだ。大体、能力の悪用は禁止されている」
 椎也は頭を回転させて次の言葉を探す。目の前の人達の言いなりになることはしたくなかった。彼らは何か勘違いしている。
「これだけははっきり言えます。俺は悪用はしていません。ただ利用しているだけです。それもむしろ、悪というよりは善意でやっていることですので」
「善意?」
 少女の疑問に、椎也は堂々と答える。
「そう。善意です。これはみんなの幸せのためにしているんです」
「幸せ? あたしはあんたが何を言っているのかがわからない。人に幻覚をみせて結果的に悪影響が出ている。まさか知らないとか言わないよね」
「何の話ですか」
「とぼけるな」
 随分と口の悪い少女だと思った。そしてその子に隠れるように後方に立っている小柄な少女は、先ほどから一言もしゃべっていない。少々気味が悪いと思った。
「あなたから幻覚を買った人間が、授業中に異常な行動をするんです。これでも悪用していないと言い張るんですね」
 ため息をつくように、眼鏡の少年が言った。
「そうなんですか。知らなかったな」
 椎也は顔色一つ変えずに、そう言った。
 それをきいた少年が、何故だか無口な少女の方に視線を向けた。
「嘘です」
 ぽつりと、小さな声で少女は言った。まるで一円玉がカーペットに落ちたときみたいに、本当に微かな声だった。
 確かに。能力を使用されたことによって、副作用による異常行動の可能性は十分あり得る話だ。椎也はそれを知っていたのだから、嘘をついたともいえる。
 見透かされたような気がしたので、もしかしたら今のはそういう能力だったのかもしれないと考えがよぎる。
「随分と素敵な能力をお持ちですね」
 椎也が言いながら視線を向けると、無口な少女は肩を震わせた様子だった。どうやら本当に能力らしい。
 口の悪い少女が、椎也の視線を遮るように一歩前へと進み出た。
「この子がどんな能力を持っていたって、あんたには関係ない」
 睨むような目つきで、少女は言った。
「まあ、確かにそうですね。でもそれなら、俺がどんなふうに能力を使おうが、君たちには関係のないことですよね」
 椎也が言うと、少女は首を横に振る。
「それとこれとは別問題だ。とにかく、こっちはあんたの嘘をすべて見破れる。無駄だってことだよ」
「厄介ですね。では正直に言います。副作用の可能性は考えていなかったわけじゃないです。けれど、実際に使用してみないとわからないことってあるでしょう」
 言いながら椎也は肩をすくめた。
 嘘は通用しないとなると、これ以上ごまかすのは無駄のようだった。
 口の悪い少女はため息をついた。
「それなら、わかった時点でやめたほうが懸命だったよ。こうして問題になっているんだから」
「何か代償があるとしても、それが誰かの救いになるなら、何の問題もないと思いますけど」
「さっきから何を言っているんだ。善意とか幸せとか救いとか。あんたの考え方はどこかおかしい。売人をやめないって言うんなら、こっちとしては理事長に突き出すしかないんだけど。それでもいいの」
 少女の言葉に、椎也は眉をひそめた。
 彼女たちがどうして、自分の邪魔をしようとするのかがわからない。人のために何かをしてやろうと思っただけなのに。悪意なんか微塵もない。どうしてそれをわかってくれないのかがわからない。椎也は本気でそう思っていた。
「あなたに悪意がなくても。他の人がそれを悪意だと思ったなら。それは悪意なのかもしれないです」
 不意に、無口な少女が口を開いた。
 椎也は目を見開いて問う。
「どうして」
「人って、そんなに強くないです。あなたもそれは理解しているはずです。あなたは善意だって言うけれど、本当にそうですか。あなたは人を救いたいと思っていますけれど、本当にそうですか。本当はあなたが――」
「黙れっ」
 少女の見透かすような物言いに、椎也は思わず声を荒げて叫んだ。
 少女は再び肩を震わせ、怯えるように胸の前で両手を合わせた。
 傍にいた眼鏡の少年が、少女の肩に手を置く。大丈夫だと言いたそうな瞳で、少年は少女をみつめていた。
 だが椎也は少女にそれ以上の言葉を言ってほしくなかった。認めたくはなかった。
「何ですか。俺の心の中でも覗いているみたいな、その能力。俺よりよっぽど悪用しているじゃないですか。そう思いませんか。他の人がそれを悪意だと思ったなら悪意なのかもしれないって今、あなた自分で言いましたよね。俺はこれ、悪意だと思うんですけど」
「違います」
 弱々しい声で、少女は否定する。
「違うんですか。なら俺も違いますね」
 椎也は、言葉でなら彼女に勝てると思った。彼女はその自信のなさが、敗因だ。
 そんな椎也をみてか眼鏡の少年が、ゆっくりと息を吐いて言った。
「このままじゃ、らちが明かないな」
 少年は、椎也に歩み寄ってきた。
 少女たちより一歩前に出て、椎也と対峙していた。
「寺沢椎也。あなたの過去をみせてもらいます」
 少年はそう言うと、突然に椎也の右腕を掴んできた。
 とっさに抵抗しようと掴まれた方の腕とは逆の手で、彼の手を掴んだ。

   4

 あの窓からみえる風景だけが、世界のすべてだった。
 欲しいと言ったものは大抵手に入った。流行りのおもちゃや優しい両親、何を言っても怒らない友人。だからそれが寺沢椎也にとって世界のすべてとなった。
 椎也は先天的な肺の疾患を有していた。一生抱えていかなければいけなかった。だから椎也の世界にあるもの以外はすべて諦めるしかなかった。
 朝起きるのが怖かった。今日もちゃんと生きているだろうかと心配した。大きく体を動かすことも、走ることも出来ない自分が腹立たしかった。
 しかし、それももう数週間前のこと。
 椎也は今、本当に欲しいものを手に入れている。
 朝起きるのが、怖くなくなった。今日もちゃんと生きているだろうかと心配する必要もなくなった。大きく体を動かしても、走っても、何故だか身体は元気だった。
 身体の異変が、突然使えるようになった能力と同じようにきたことも、ちゃんと理解している。だからこれを失うとき、椎也の身体も元に戻ることも知っている。
 それは何もかも唐突に起こったことで、きっかけなど無いに等しい。ただ前日に、夢をみた。それだけだ。他には何もない。
 どんな夢だったか。椎也が元気に外を走ったり、いたずらをして両親に本気で怒られたり、友人と本音で言い合いしている夢だった気がする。
 椎也にとってまさにそれは夢であり、ありもしない幻覚であった。
 夢から覚めると、不思議と身体が軽かった。
「治療はもう必要ない」と初老の主治医に伝えると、当然驚かれ身体中を検査された。
 能力が最初に発動されたのは、その時だった。椎也は無意識に能力を使ってしまったらしい。ほんの数分間。主治医は幻覚を視ていた。若くして亡くなった息子に会っていたと彼は言った。
 彼は当惑していたが、すぐにあらゆる可能性を考え、最終的にそういう能力だと結論付けた。
 主治医と同様に。いや、それ以上に椎也自身も戸惑っていた。身体の事も能力の事も驚愕し、そして感嘆していた。
「これは君の精神的な問題でもあるんだよ」
 と主治医は言った。椎也は首を傾げた。
「私の知り合いに、そういったものに詳しい方がいてね。治療は一旦中止にせざるを得ないし、せっかくだからその方に会ってみるのはどうだろうか」
 主治医の提案に、椎也は二つ返事で了承した。
 うみほたる学園の話をきけば聞くほど、興味がわいた。能力者ばかりを集めた学園。色々なものを諦めてきた自分には、勿体ないほどの場所だ。
 主治医の紹介で、理事長に会うことができた。理事長は椎也の能力を聞くなり入学を勧めてきた。学園に興味があると伝えると、理事長は喜んだ。
 そうして椎也は二十歳という年齢になって、学園という場所に足を踏み入れることになった。
 幼少期からまともに学校というものに通うことができなかった椎也にとって、うみほたる学園は思っていた以上に面白い場所だった。
 理事長と相談して、学園とはいえ年齢的にも生徒ではなく働いてみないかと言われたときは、自分にできるだろうかと思ったが、心配するほどではなかった。食堂で一緒に働く仲間はみんな気のいい人たちで、そして同時に自分と同じ能力者で、そして可哀想な人たちであった。
 例えば職場いじめを受けていた人。両親からDVを受けていた人。大切な人と死別した人。そういう人たちを、椎也は憐れんだ。そして自分の能力を使えばその人たちの心を救うことが出来るのではないかと考えたのである。
 例え一時の幻覚という名の夢であっても。自分に都合の良い夢であっても。彼らは救われるはずだ。
 そうして椎也自身も、救われたかった。誰かの役に立ちたかった。
 ただの自己満足かもしれない。ただの偽善かもしれない。
 それでも、何かしたかった。何かしてやりたかった。
 この醜い感情を誰が許してくれるだろうか。

   5

 幻覚を視た。
 両親と妹。四人で海に行くというものだった。ほんの一瞬だったけれど、とても幸せそうな光景だった。
「竜太郎」
 斉藤の声が聴こえて、竜太郎は現実に引き戻された。
「大丈夫か」
 心配そうな顔をして、斉藤が竜太郎の目の前に立っていた。どうやら彼女が寺沢椎也との間に入って、彼から引きはがしてくれたらしい。
「あ、ああ」
 竜太郎は頭を抱える。
「何か前と様子が違うって、燐音が言うから心配した」
 斉藤に言われて、竜太郎は小池のほうをみた。彼女も不安そうな表情でこちらをみていた。
「ありがとう。二人とも」
 竜太郎は礼を言った。
 寺沢に何をされたのか、考えるまでもなかった。
「幸せな夢を、視ることはできましたか」
 寺沢が竜太郎に向かって、笑顔でそう問いかけてきた。
 彼がこの幻覚を、夢と称すのが何となくわかった。それは確かに夢であった。ほんの一時の、泡沫の夢。目を覚ませば一瞬で消えてしまいそうなその夢は、とても大切な竜太郎の記憶であるはずのもの。ただの願望かもしれないもの。
「ええ。一瞬だけでしたが。そしてあなたのことも概ね理解できました」
 竜太郎はそう答えると、寺沢のほうを真っすぐにみた。
「よかった。俺の事を理解できたんですね」
 寺沢が満足そうな表情を浮かべ、竜太郎の事をみていた。
 米田恵理子から受けた依頼内容は、犯人の特定だ。たった今、寺沢が竜太郎に能力を使ったことで、彼は言い逃れのできない状態になった。身体を張ったこと、怒られるだろうか。そう思ったが、止まらなかった。
「あなたは、可哀想な人です」
 竜太郎の言葉に、寺沢の眉根がぴくりと動く。これが、彼が一番言われたくない言葉であることは、彼の記憶を視る限り明白だった。
「何を言っているのか、わかりませんね」
 とぼけるように、寺沢は言った。
「あなたは色々なものを諦めてしまった。それが可哀想だって言っているんです」
「君にそんなことを言われる筋合いは、ないと思いますけれど」
 寺沢の言葉に、竜太郎は頷く。
「ええ。そうかもしれません。ですが、あなたにだって他に出来ることが沢山あると思うんです。こんな能力の使い方をせずとも、あなた自身が幸せになることだってできるはずなんです」
 寺沢が嘲笑する。
「俺が、幸せになる? 俺は十分幸せですよ。十分すぎるぐらい。日常的に感じていた息苦しさもないし、能力だって使える。今ならなんだってできます。俺は幸せです」
 自信満々に言う寺沢に向かって、竜太郎は首を振る。
「いいえ。そう思い込んでいるだけです。本当は、いつそれが終わるのか怯えているんですよね。そんな状態で、本当に幸せだと言えるのですか」
「それは――」
 寺沢が言い淀み、迷いをみせた。
 竜太郎はたたみかけるように話を続ける。
「自分は幸せだと思い込んで、自分より不幸せだと思う人達に、能力を使って一時の幸せをみせてあげよう。御立派な考えですけれど。それって人を下にみているだけですよね。そうやって自分と比べて、自分はその人達よりマシだと思い込んで、優越感に浸っているだけですよね」
「それの何が悪いと言うのですか。俺は可哀想なんかじゃない。俺より可哀想な奴はいっぱいいる。だから俺はそいつらに恩を売ろうとしているだけです」
 寺沢の言い分は、無理に自分を肯定しようとしているように思えた。それは悲痛な叫びだったのかもしれない。
 今、寺沢が言ったことは本心だろう。ならば竜太郎がかけるべき言葉はこうだ。
「そうやって売った後。あなたに残るものは、一体何でしょうか。してあげた事に対する報酬は、お金ですよね。でもそれってあなたを本当に幸せにするものですか。あなたの本当に欲しいものは違いますよね。誰かの役に立ちたくて。自分の存在意義を確かめたかっただけですよね」
 竜太郎はとても冷静に言った。
 過去の記憶を視るときに、竜太郎は相手の感情も何となくだけれど感じ取ってしまう。小池ほどの精度はないし、あくまでも過去の感情だ。現在の時間のものではない。それでも、竜太郎は過去も現在も彼の感情は同じものだと思った。
 彼は病気のせいで色々なものを諦めてきたのだと思う。彼が何を願って能力を手に入れたのかが竜太郎には何となくわかる。彼は。寺沢は、夢をみたかったのだ。それは、眠るときにみる夢ではなく、叶えたかった夢だ。諦めてしまった夢だ。
 寺沢が、自分を落ち着かせるかのように深く長く息を吐いた。
「そこまでいうのなら、どうすればいいのか教えてください。俺は、どうするべきだったのか」
「少なくとも、周りを巻き込むべきではなかったと思います。あとは、弱い自分も可哀想な自分も、受け入れることが大事だと思います」
「そうか――」
「簡単にはいかないかもしれませんが。あなたは頭の良い人です。きっと前に進めますよ」
 酷なことかもしれないが。と竜太郎は思いながら、彼にその言葉を贈る。
 けれど寺沢はそれで納得してくれたのか、幻覚を売ることを止めると約束してくれた。
 
    6

 このうみほたる学園に来てから、もう何度目かの朝焼けをみた。窓からみえていた月は、いつの間にか沈んでいた。かわりに現れた太陽に、椎也は目が眩んだ。
 欲しかったすべての物を手に入れて、その後に残るものは何だろうと、ずっと考えていた。一晩中。自分の『本当』について考えていた。
 力を失いたくないと、どれだけ願っても無駄だとわかっている。けれどそれだけは、諦めたくない夢だった。いつかは、絶対にその時が来る。
 今日も朝が来た。仕事に行かなければならない。石のように重い身体を動かして、出かける準備をした。仕事に行きたくないわけではないが、昨日の疲れがとれていないような気がした。

   *

 玄関を出て、ゆっくりと職場へ向かう。食堂へ着くと、誰かが待っていた。
 ショートカットの良く似合う、黒色のスーツを着た女性だった。
「寺沢椎也くん」
 名前を呼ばれても特に驚かなかった。彼女の風貌をみるに、普通の人間ではなさそうだったからだ。
「誰ですか」と椎也は質問した。
「米田恵理子。ただの教員よ。洸生会から、昨夜の報告を受けたわ。あなたは幻覚の販売をもうやらないと約束してくれたようね」
彼女。米田の返答に、椎也は一瞬で状況を理解した。
「ああ。あなただったんですね。彼らに依頼したのは」
 椎也は言うと、昨夜のことを思い出した。
 知らない学生が三人ほど、椎也に会いに来たのだ。彼らは言った。幻覚を売っている売人を捕まえて止めさせるようにと、とある人に頼まれたと。それがおそらく、今椎也の目の前にいる女性だ。
「ええ。そうよ」
 米田が頷いた。
「ならもう解決済みです。俺はもう能力を使いません」
 彼らの前で誓ったことだ。この言葉に嘘はない。
 竜太郎と呼ばれていた少年。彼の能力は非常に厄介だった。どういう能力か具体的にはわからないが、椎也のことを理解したような口ぶり。あの無口な少女と並んで、人の事を見透かせるような能力だと推測できる。
 彼らの前で、嘘は吐けない。これはもう、素直に諦めるしかないと思った。だから彼らの言うとおりにするしかなかったのだ。
「そうなのだけれど。ひとつ気になることがあってね」
 米田がゆっくりと、息を吐きながら言った。
 気になること。と椎也は心の中で反復する。
「何ですか」
「あなたが、川崎竜太郎に能力を使ったと聞いたわ。何の幻覚を竜太郎にみせたの」
「さぁ。能力を使っている間。俺には、他人の幻覚を視ることが出来ません。というか、わざわざ俺に話を聞きに来ずとも、先生なら学園内にいる能力者の資料やらなんやらで、それぐらいわかるんじゃないですか」
 米田の質問に、椎也は肩をすくめながら言う。
「それじゃあ意味がないと思って」
 米田はそう言いながら、眉をひそめていた。
「何の意味ですか」
 そう問いかけると、米田の瞳が揺らいだように感じられた。
「それは答えられないけれど、もう一つ質問があるの」
「何でしょう」
「その幻覚は、その人がみたことのある物で構成されているのかしら」
 嘘を吐く必要もないので、その質問には素直に答える。
「俺の能力は、他人の願望を幻覚としてみせているだけです。でもその元となる人物などはその人の記憶のはずです。聞いたことありませんか。寝ている間にみる夢は、みたことのある人物しか出てこない。俺の能力は、幻覚でもあるし夢でもある」
 米田は納得したのか、「そう。わかったわ。ありがとう」と、それだけ言って去ろうとしたので、椎也は「ちょっと待ってください」と呼び止める。
「ずるいじゃないですか。俺に色々と質問しておいて、それだけですか。俺、昨日から損しかしていないじゃないですか」
「損? 自業自得じゃないかしら」
 米田はそう言って、首を傾げた。
「うわ。この人、最悪だ。昨日の少年よりたち悪そう」
 椎也は米田に聞こえるか聞こえないかの声量で、呟くように言った。
「竜太郎よりは悪くないわよ」
 米田はそう言って、嘆息をもらした。
「先生が生徒の事を、悪く言っちゃダメなんじゃないですか」
 指摘すると、米田が困った顔をする。
「う。そうだけど。子どものころから知っているから、つい」
 意外な返答に、椎也は少しだけ目を丸くした。
「長い付き合いなんですね」
 米田は頷いた。
「ええ。と言っても五年ぐらいだけれど。彼が十二歳のころにこの学園に来た時、同時期に私も赴任したの。子どもの成長って早いわね。あっという間に身長を越されたわ」
 米田の言葉に、椎也は昨日の竜太郎の姿を思い出す。
「確かに、身長は俺とさほど変わりませんでしたね。なるほど、それで目をかけていると」
 納得したように、椎也は言った。
 米田にとって竜太郎は、特別な想いのある生徒らしかった。もしかしたら、息子のような存在なのかもしれない。
「もういいかしら。あなたとの話は終わったの」
 呆れた様子で、米田が言った。
「まだダメです。こっちは、俺のやりたかったことを潰されているんですよ」
 椎也は引きとめるるもりで言う。
「納得したわけじゃないのかしら」
「あれ以上は面倒くさかったから」
 米田の疑問に、椎也は本音をもらした。
「そう。なら、あなたが納得するまで依頼者の私が相手をしないといけないわね」
 米田に真っすぐな瞳を向けられて、椎也は戸惑った。
 とことん話に付き合うわよという態度を取られると、椎也も困ってしまう。忘れるところだったが、椎也は出勤前なのだ。残念だが、お茶を飲むような時間はなかった。
「まあ、俺これから仕事なので、今日のところは勘弁してあげますよ。それじゃあ」
 椎也はそう言うと、さっさと米田に背を向ける。
「待って」と、今度は椎也が呼び止められる番だった。
「何ですか」
 これ以上は遅刻するなと思いながら、椎也は仕方なく振り向いた。
「最後に一つだけいいかしら」
 米田が、真剣な表情で言った。
(続く)

あゝ、能登よ 能登半島

 1.
 能登半島。私たち家族がかつて7年間、お世話になったその能登で、とてつもなく大きな地震が起きた。2024年1月1日午後4時10分ごろの不意打ちである。震源は輪島市の東北東30㌔付近で深さ16㌔。地震は逆断層型でマグニチュード(M)は7・6で震度7と推定され、国内での震度7は2018年の北海道地震以来。大津波警報が頻繁に発表されたのは、2011年に日本人が体験した東日本大震災いらいのことである。その能登半島地震は珠洲で。輪島で。穴水、志賀、中能登、七尾、羽咋で…と能登半島の至るところで多くの人々の命を奪ったのである。今も多くの人々の行方がわからないままで人々は、断水に停電、孤立、食料不足、避難生活のなかで満身創痍となり、過ごしている。

 能登半島といえば、だ。人々の心はどこまでもやさしく、かつ透明である。♪能登はやさしや土までも、の言葉で知られる優しさに満ちあふた土地で知られる。それこそ、雪片はむろんのこと、雨粒ひとつ〝雨滴〟さえもが美しく温かくキラキラと輝いて感じられる。そして。そのやさしさに包まれて生き続けてきた全ての人びとにとっては当然のことながら、愛しくて抱きしめたいほどに限りなく自慢の海と風土、豊かな人情に恵まれた土地柄でもある。
 その能登の大地と人々が今、泣いている。土地のことばで<泣かんとこ>と言ったところで、涙は限りなく大地に吸い込まれ、落ち続けるのである。ことしの元日早々に唸りを立て大揺れに揺れ、半島全域が奈落の底に落ちてしまい、人々が呻き苦しんでいる。一体全体、何があったというのか。能登の人たちが悪いことでもしたというのか。そんなはずはないのに。能登に住む人々にはどうしてよいものか、が互いに分からない。それでも人々は互いに助け合い、その地獄の底から立ち上がろうとしている。歯を食いしばって。はいあがろうとしている。このことだけは紛れなき事実である。

 わたくしは今、かつて今は亡き森繁久彌さんが地元七尾青年会議所メンバーの情熱と求めに応じて能登を訪れ、作詞し、そのご岩代浩一さんにより作曲され、世に出、いまでは多くの人々に親しまれ歌われている<能登の夢>を繰り返し口ずさんでいる。せめて、歌の心で能登の大地がたとえ、ほんの少しでも癒され、安らげばーと思うからだ。
 歌は、森繁さんの冒頭のナレーション「海の潮こそ旅人なれ……」に続き、始まる。
 こんな歌である。
♪能登はやさしや土までも
 このやさしさにつつまれて
 七尾の浦に育ちしは
 血潮のたぎる誇りぞと
  タブの葉ずれに光る海
  何故か涙のこみあげる
  ああ雲は流れ雲はゆく
  ああ波は歌ひ波は呼ぶ
♪和倉の浜に二人して
 砂に字を書き君とまた
 よしなきことを語りしは
 遠いあの日の思ひ出か
  貝に心を寄せながら
  耳にあつれば波の音
  遙か岬の春(うす)づけり
  汐風よ海原よふるさとよ
  友よ大空よ能登の夢

    ※    ※

    ☆    ☆             
 その能登だが、七尾で家族五人で七年間過ごした第二のふるさとだと言ってもいい土地だけに、忘れられない多くの思い出がある。思い出は良いことも悪いことも、だ。話し尽くせない。話はわが脳裏に泉の如く噴き出てくるのである。そこには、いつも土地の人々との温かい交流、心の通い合いがあった。
 土地の人々が同調する時と否定するときによく使う言葉に「ほやわいね」と「ほんながかいね」がある。これほど私たちの胸元にズズイッと入ってくることばはない。実際、能登滞在時に私は、和倉温泉のある七尾をはじめ輪島、門前、珠洲で。そして穴水、中能登、志賀、羽咋など行く先々で、このやさしく、かつ厳しい言葉に助けられてきたのである。それだけに、私は、これほどまでに無情な大地震の襲来を許せない。

2.
 年明け早々から最大震度7を観測、能登全域を恐怖に陥れた能登半島地震は10日、発生から10日となった。午前9時時点での死者は203人で、うち珠洲市の6人と能登町の1人について石川県は「災害関連死だ」と発表したが、あくまでどれも10日時点での死者と災害関連死の数である。
 
 被害が日に日に大きくなっていく能登半島地震の実態が目の前にさらされているからだろうか。なぜ、なのだろう。ただ歩いている。それだけなのに。道そのものが泣いているように感じる。どんどん、どんどんと涙がまるで海の滴のように、津波となってわが両の目からあふれ、涙の道をつくり続けている。まるで血しぶきみたいだ。「な~んも。おれら。悪いことなんか。なんも、しとらへんのに。だちかん。わしらを何と思っとるのじゃ。繰り返すが、わしらはなんもしとらへんのに。なんで天罰みたいなもん、わしら受けなアカンのや」といった声があちこちから。能登の人々の声が聴こえてくる。

 その能登半島だが、私にとっては七尾で今は亡き妻ら家族五人(ほかに、愛猫てまりに、ウサギのドラえもんちゃんも一緒だった)で七年間楽しく過ごした思い出の地だと言ってもいい。それだけに、当時も珠洲を中心にかなり大きな地震が発生、取材基地を半島突端の現地に設け1カ月ほど現地キャップとして滞在したことなど(あの時も液状化現象がひどかった)忘れられない多くの出来事があった。思い出は良いことも悪いことも、話し尽くせないほどある。当然のようにあんなこと、こんなことが今なお、わが脳裏に泉の如く噴き出てくるのである。
 そして。そこには、いつも能登の人々との温かい交流、心の通い合いがあった。ママさんソフトボールの仲間たちに始まり、中日写真協会七尾支部の人たち。和倉温泉の旦那衆。清美さんらミス和倉温泉に七尾青年会議所の仲間たち。ほかに着物着つけ師の山原さん、エッセイストの小林さんらそれこそ、数え知れない人びととの交流と友情があったのである。

 ところで能登の人々が日常会話でよく使う言葉に「はいだるい」「おとろしい」「おいね」「ほんながかいね」「だら」「ちょっこし」「いじくらしい」「けったくそわるい」「ごっつぉ」などがある。そこで、私、わたくしは改めて思う。大地震が揺れた時、能登の人々はどんなに恐ろしい、そう「おとろしかった」ことか、と。
 私はかつて在任中に、新聞の地方版・能登版で【支局長日記】のほかに【能登の方言】を書き続けたこともあり、能登ならでは、の独特の表現にはそれこそ、多くを教えられたのである。
 そして。これらの会話。能登方言には、ごくたまにではあるが、「ほやわいね」「あのなあ ほいでなあ」と相槌を求めながら話してくる表現もあった。その言い回しは、不思議とかつて妻ともども三重県志摩半島で大変お世話になった海女さんたちが海に潜ったあと海女小屋の火場にみんなで当たってからだを休め雑談をする時によく使う「あのなあ」とか「ほいでなあ」といった表現と、どこか不思議とその口調、イントネーションが似ていたのである。
「あのなあ」「ほいでなあ~」「おいや」表現は、能登に在任中にどうかすると三重の女性たち、中でも海女さんたちが使っていた海女言葉にとても似ていることに気付き、私と妻たつ江(伊神舞子)は後年、能登の地で感嘆するやら驚くやらした。

 というわけで、能登の人々の口から出る会話、これほどまでに私たちの胸元にズズイッと入りこんでくるやさしいことばはないのである。実際、能登滞在時に私は、和倉温泉を抱える七尾をはじめ輪島、門前、珠洲で。そしてボラ待ちやぐらで知られる穴水、中能登、志賀、羽咋など行く先々で、これらやさしい言葉に助けられてきたのである。それだけに、私は、今回起きたこれほどまでに無情で非情きわまる大地震の襲来を許せないのである。
 そして。同時に私は現在、ウクライナで、ガザで続いている人間たちの愚かで醜い戦争。これらの全てが、自然の猛威にはかなわないことを改めて確信させられた。ガザも、イスラエルも、ウクライナにロシアの戦争も、だ。一時的にせよ、自然の猛威には、これら全ての戦争が吹っ飛んでしまうことも教えられた。令和六年の元日。能登半島を襲ったマグニチュード7・6の大地震は、それこそ一瞬のうちに多くの人の命を奪い、日本中を悲しみのどん底に突き落としたのである。
 
 いずれにせよ、自然が戦争を一向にやめようとしない、浅はかで愚かな地球の人間たちに対して怒り、警告を与えてきたことだけは確かだといえよう。でも、能登の人々がウクライナを、ガザを痛めつけたというのか。そんなことはないのだ。心優しい能登の人々は、いつものように互いに励ましあいながら生きているのである。(続く)

3.
 地震が発生して間もないその日。私が最初にお見舞いの連絡をしたのは、七尾在任時に妻ともども大変お世話になった当時の新聞販売店笹谷さんの若おかみ・よしえさんだった。私は大地震発生から少し落ち着いた1月3日昼になり「能登半島地震、大丈夫でしょうか。心からお見舞い申し上げます」といったラインによるお見舞い文を遠慮がちに打ったのである。このメールに対する彼女からの返事は次のようなものであった。何よりも返事がきたのは無事である証拠でよかった、と思ったのも事実である。

 私の問いかけに彼女は夫のりさん(憲彦さん)のことに触れ「おいや。うちのは発生当時、また運が悪いことに輪島に出かけており、二日間避難しやっと今日のひる七尾の自宅につき、茫然自失とはこのことです。疲れた-しばらくほっておいてほしい。とのことです」とのことで、一瞬のうちに地獄に突き落とされてしまった現場の緊迫感のようなものがビンビンと伝わってきたのである。
 そして。しばらくたった9日午後になり、よしえさんからは私宛てに次のようなメールが届いた。
「ありがとう まだまだ続く苦しい日々でも新聞は毎日届きました。(私たちの後任の販売店主さんはじめ、店員の皆さまには)頭がさがります……。今朝本紙のコラムに伊神さんらしき人から手紙が届きましたとあったのでア~アきっとと思いました(残念ながら、私は能登の知人記者らにメールはしたが今のところ手紙は送ってはいない。郵便事情が大変でかえって迷惑をかけてしまう、と判断したからだ。だから、まずはメールでお見舞いをすることにした)」

 このメール(ライン)に私は「大変でしょうが。なんとか能登全域が元に戻ることを願っています。」と打ち返すと、よしえ夫人からは「輪島へ携帯を落としてきた(夫の)憲彦ですが。携帯を新しく買ったので直接ちからづけてやってください」との返信があった。私は即座に次のようなラインを送ったのである。
「わかりました。憲さんはすごいお方だと思いました。携帯電話こそ失くされましたが、新しい携帯電話とともに能登を生き返らせようとしておいでなのだから。復興、心の底から願っています。」とー

 わたしが遠慮がちながら大地震発生が気になり、お見舞いのラインやメールをしたのは、ほかに七尾支局の女性スタッフ奈美ちゃんはじめ。私の在職中、国内外への「海の詩(うた)」公募で大変お世話になった元七尾JCメンバーだった佐田味良章さん、靴屋の木下博安さん、そして私が七尾支局在任当時の支局員数人に、その後の支局長経験者らほんの数えるほどであった。メールがかえってわずらわしくなることがないよう-それでも能登半島のことが気になるので最大限の配慮をし、連絡をしたのであった。
 
 1月13日夜遅く。今、わたくしは目をつぶって能登半島地震の惨状についてあれやこれやと頭を巡らしてみる。ここ数日、ネットを中心に調べてみたところ、能登が世界に誇る和倉温泉街はどの旅館も大きなヒビが至るところに入ったり、肝心のお湯が出なくなってしまう-といった大被害でここしばらくは営業などとても出来そうにない。さらに、あるテレビ局の放映によれば、美湾荘さんは旅館内のあちこちがクチャクチャで、おそらく加賀屋さんなど他の老舗旅館のどこもが同じように瀕死の重体といってかまわないだろう。
 日本はおろか世界に誇る旅館街の痛手となると、これは想像を絶するものだと言っても過言でない。ほかに志賀町では、地震で熱湯を浴びた男の子、中川叶逢ちゃん、5歳が救急車の出動を断られ亡くなってしまった。また、大相撲の人気力士「遠藤」のふるさと穴水では帰省中の長男や長女、そして妻も含めた6人家族の5人が家屋の倒壊で下敷きとなって全滅。大切な家族が一瞬にして亡くなってしまうなどただ一人残された男性のことを思うと、言葉もない。皆さん地獄に落とされたみたいで、運命としか言いようがない。私は、それに比べたら、短歌に俳句に、詩に、と楽しい日々を過ごし2021年秋に旅立った舞はまだまだ幸せな人生だったかもしれない、との思いを強くしたのである。と同時にニンゲン1人ひとりに与えられた定め、運命って。一体何奴なのだろう、とも思った。

 ここで改めて立ち止まって考えてみれば、生きていればことしが年女だった、わが亡き妻たつ江(伊神舞子)はウクライナ戦争もガザの悲劇、能登半島大地震も何もかもを知らないまま旅立ってしまった。もしも知っていたなら、俳人で詩人、歌人でもあった伊神舞子はどんな俳句を、詩を、短歌を天下に向かって作っていたかと思うと、なぜかわけもわからないまま怒濤となって涙があふれ出てきたのである。(続)

一匹文士、伊神権太がゆく人生そぞろ歩き(2024年1月~)

2024年1月31日
 最高裁第3小法廷は30日、三重県名張市で1961年3月、農薬入り毒ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」の第10次再審請求の特別控訴審で2015年に89歳で病死した奥西勝・元死刑囚の再審開始を認めない決定を29日付で出した。これにより、元死刑囚の死後に遺族が申し立てた再審請求を棄却した名高裁の決定が確定。ただ裁判官5人のうちただ一人、行政法学者出身の宇賀克也裁判官は「再審を開始すべきだ」との反対意見を述べている。

 トヨタ自動車グループの豊田自動織機(愛知県刈谷市)によるエンジン認証不正問題で国土交通省が30日、道路運送車両法に基づき同社への立ち入り検査を実施。結果を踏まえ、量産に必要な型式指定の取り消しや是正命令などの行政処分をするという。そのトヨタだが。トヨタ自動車が30日に発表した2023年のグループ世界販売実績は、前年比7・2%増の1123万3039台で2019年の1074万2122台を上回り、過去最高を更新。ドイツのフォルクスワーゲンの923万9500台を大きく引き離し、4年連続で世界一になったという。
 北米や欧州での堅調な需要が実績を押し上げたとしているが、このところの日野自動車やダイハツ工業、豊田自動織機などグループ各社による認証不正などの不正を見るにつけ、「世界一のトヨタが何をしているんだ」「トヨタは一体、どこへいってしまったのだ」といった違和感があるのは当然のことである。
    ※    ※

    ☆    ☆
 これはわざわざ書き記すことではないかもしれないのだが。きょう固定資産税の都市計画税第三期分納入で江南市役所に出向いた際、私は私の長い人生で初めて、それこそ生まれて初めて市庁舎内の地下食堂に寄って親子丼を食べた。それが、とてもおいしかった。

 美味しいといえば、息子(三男坊)が出張先の岡山でわざわざ買ってきてくれたお土産、<生田恵夢>と<むらすずめ>。これまた、めちゃおいしかった。デ、さっそくおかあさん、たつ江すなわち伊神舞子(静汐院美舞立詠大姉)の仏前に供え、報告した。「能登七尾で幼児期を育ったわが子が、こんなにも立派に育った。おまえのおかげだよ」と-。

2024年1月30日
 本日付の中日新聞の朝刊1面見出しは【被災で凍えた心温めて 珠洲の宝湯来月再開へ 一番風呂は犠牲の常連客家族に】【「桐島」名乗る男病死 がんで入院 連続企業爆破49年逃亡】【豊田織機自動車用でも不正 エンジン認証試験 トヨタ10車種出荷停止】といったところか。能登半島地震発生後に2社面で続く連載【能登はやさしや 被災地とともに】は、作家の安倍龍太郎さんで<犠牲者をしっかり記憶し心の痛みを乗り越えたい>というものだった。

そして。私はといえば、だ。相変わらず能登半島のみなさんを励まし、心休まる歌が出来たらイイナ―と思い、このところは、能登の人びとの心を癒せれば、と能登半島地震発生に伴う私ならでは、の歌の歌詞づくりに専念しているのである。歌詞が無事できたら、小牧いらいの友人で良き相棒、兄貴分でもある詩人でウエブ文学同人誌「熱砂」同人のひとり、ふるさと音楽家牧すすむさん(琴伝流大正琴「幻洲会の会主」の倉知進さん)に作曲していただき、「熱砂」で被災地の方々はじめ、国内外の人々にも聞いて頂き、あすの希望につながる歌になったらイイナ、と思っている。

2024年1月29日
 大阪国際女子マラソンが28日、大阪市のヤンマースタジアム長居発着の42・195㌔で行われ、前田穂南さん(27)=天満屋=が2時間18分59秒の日本新記録を樹立。これまでの記録は2005年に野口みずきさん(三重県伊勢市出身)がマークした2時間19分12秒で、19年ぶりの更新。
 1974年~75年の連続企業爆破事件に関与した疑いがあり、全国に指名手配されている過激派「東アジア反日武装戦線『さそり』」メンバーの桐島聡容疑者(70)とみられる男性がその後の調べで「ウチダヒロシ」と名乗っていたことが分かった件で桐島容疑者は、その後の調べで、末期がんで既に死亡したとみられている。

(1月28日)
 大相撲の初場所千秋楽が両国国技館で開かれ、横綱照ノ富士(32)が2敗で並んだ関脇琴ノ若(26)との優勝決定戦を寄り切りで制し、4場所ぶり9度目の優勝。
 午前8時59分ごろ、東京都と神奈川県で震度4の地震が発生。気象庁によれば、震源地は東京湾で震源の深さは約80㌔。地震の規模はマグニチュード(M)4・8と推定される。津波の心配はなく、新潟県内でも長岡市と南魚沼市で震度1を観測。

 日曜日。石川県が能登半島地震の発生に伴い登録を受け付けたボランティアによる活動がきのう27日から七尾市と志賀、穴水の両町で始まった。当面は金沢市内からバスで移動し、日帰りで災害ごみの片づけや運搬などを実施していくという。被害が激しく、受け入れ態勢が未整備の輪島、珠洲両市など半島先端部分での活動がこんごの課題だ、としている。それにしても能登半島は大変だ。満身創痍とはこのことである。このうえは、復旧作業が進んで1日も早く元の生活に戻ることを心から願う。

【「能登の日常 一日も早く」ボランティア始動 全国から75人片付けに汗】【活動環境整備国が後押し 交通手段やトイレ】(毎日)【能登にボランティア 七尾、志賀、穴水で開始 輪島、珠洲など未定】【避難先「車中泊」93件 石川県】【待ちわびていた再開 能登―羽田便1カ月ぶり】(中日)と新聞は報じている。

(1月27日)
 高校野球の第96回選抜大会(3月18日開幕・甲子園)の選考委員会が26日、大阪市内で開かれ、日本航空石川(石川県輪島市)など32校が選ばれた。日本航空石川は新型コロナウイルスで中止となった2020年大会いらい4年ぶり3度目の出場となる。日本航空石川は能登半島地震で校舎や部員が被災するなか、主力ら部員の半数32人が山梨県の系列校に移り練習を続けてきたなかでの吉報で中村監督は「夢の甲子園です。思いっきりやってほしい」と涙をふいた。また、石川県では昨年の明治神宮大会を32年ぶりに制した星稜が2年ぶり、16度目の出場が決まった。

 日本航空石川のセンバツ出場を報じた中日スポーツ
 

 本日付中日1面に【珠洲災害廃棄物65年分か 名大准教授推計「広域処理を」 仮置き場3市町開設できず】(朝刊)【能登ボランティア開始 被災の七尾、志賀、穴水】【能登-羽田 空の便再開】(夕刊)のニュース。そして。朝刊発言欄の一角を占めた小出宣昭主筆による【風来語(かぜきたりてかたる) 三人称の命】に同感である。そこには、次のように書かれていた。
-知り合いと他人。この垣根はどんな民族にもあるが、その度合いがかなり強い風土であったことは事実だろう。この日本的特性が少しずつかもしれないが溶け始め、いまや、災害や苦難に耐える多くの見知らぬ人々への心の痛みは国民的な広がりをみせている。それを生む成熟した想像力に拍手を送りたい。

 そして。27日付中日の尾張版では【記者が見た能登半島地震】が始まり、<働く被災者どう支える 介護施設や市職員奮闘>と現地の状況を紹介している。このように新聞の地方版でも総員体制による能登半島地震の取材報告が始まったのである。私は私で能登半島地震の歌で能登の人々の気持ちを少しでも和らげることが出来たらと僚友、ふるさと音楽家牧すすむさん(琴伝流大正琴弦洲会会主・倉知弦洲さん)との共作による【晴れたらいいね 泣かんとき能登半島】(仮題)の歌の歌詞づくりに入っているのである。

 本日付中日新聞朝刊の報道によれば、1974年~75年に起きた連続企業爆破事件に関与したとして警察庁から爆発物取締罰則違反容疑で指名手配されていた過激派「東アジア反日武装戦線」のメンバー桐島聡容疑者(70)を名乗る男が、神奈川県下の病院に入院する前に同県内で働いていたことを同警視庁公安部が突き止めたという。男は神奈川県鎌倉市の病院に入院中で「桐島聡」を自称している。公安部は病院で事情を聴いており、DNA鑑定などで身元の確認を進めている。捜査関係者によれば、桐島と見られる男は末期がんの治療中、症状が深刻で「最期は本名で迎えたい」と話している、とのことである。

(1月26日)
 新聞の1面トップは、やはり予想していたとおり【京アニ放火殺人 死刑判決 被告の責任能力認定 36人犠牲「極めて重い」京都地裁】(中日)、【京アニ放火死刑判決 36人犠牲「残虐非道」 京都地裁 責任能力認める】(毎日)というものだった。ほかには【能登地震被害2.6兆円 石川、富山、新潟3県推計】(中日)【安倍派幹部に離党要求 自民執行部 首相は慎重姿勢 裏金疑惑】(毎日)といったところか。

 そして。昨日、新聞代の集金とあわせて、ひと足早くわが家に届いた「しんぶん赤旗 日曜版」(1月28日付)は当然ながら共産党29回大会に触れたもので【希望届けたい 田村智子新委員長語る 自民党政治を終わらせる 政策かかげてのびのび挑戦】というものだった。田村新委員長の今後には大いに期待したい。 

(1月25日)
 強い寒気と冬型の気圧配置の影響による大雪で岐阜県関ケ原町の名神高速道関ケ原インターチェンジ付近で発生した車両の立ち往生はこの日(25日)早朝、上下線とも19時間ぶりに解消。36人が死亡、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判で殺人罪などに問われた無職青葉真司被告(45)の判決公判が25日、京都地裁で開かれ、増田啓祐裁判長は求刑どおり死刑を言い渡した。増田裁判長は最大の争点だった被告の当時の精神状態について「心神喪失や心身耗弱の状態ではなかった」と述べ、完全責任能力を認めた。

 きょうも、ホントに寒い1日。シロちゃんは1日中、家の中におりストーブの前に座ったり、お布団のなかに潜り込んだり。とは言いながらも、時折、仏前で静かに座り、大好きなお母さんのことを気にしながらの1日となった。寒くはあるが、昼には太陽の光りがベランダの洗濯物を照らし、私とシロは思わず「あっ、おかあさんが来ていてくれる。おかあさんの光りだ」と思わず顔を見合わせ、太陽を指さしたのである。中日はじめ日経、赤旗など。新聞の集金の方が相次いで訪れ、元々ない財布の中はみるみる空っぽに。しかたないか。

(1月24日)
 水曜日。この冬一番の強い寒気と冬型の気圧配置の影響で日本海側は大雪に。気象庁は、この日、福井、滋賀両県に「顕著な大雪に関する気象情報」を発表。能登の被災地も含め、25日にかけては降雪が強まる恐れがあるとして積雪や路面凍結による交通障害に警戒を呼びかけた。

 私が住む江南市もこの冬では初の雪の朝に。外は雪一面である。それに寒い。愛猫シロちゃんはストーブの前か、布団の中かのいずれかである。天気がよければ外にでようとするが、一向にその気配はない。それにしても能登の七尾は、珠洲は、輪島は、穴水は-と思うと、なんだか身も心も凍りついしまいそうな、そんな朝である。それでも人間たちは懸命に生きて行かねば、ならないのだ。
 そして。きょうの寒さは半端でなく、1日中、氷の中で生活をしているような。そんな気持ちにかられたのである。でも、被災地・能登はもっと、もっと、もっと寒いに違いない。被災したあの顔、この顔を思うにつれ、みんな大変だろうな、と改めて思うのである。

 雪国と化した江南市
 

【トランプ氏、第2戦も勝利 大統領選共和予備選 指名へ前進 ニューハンプシャー州 選挙戦ヘイリー氏継続】【スウェーデンのNATO加盟 トルコが承認】【ハマス,休戦拒否か】とは、日本経済新聞の24日付夕刊の見出しである。

 臨済宗妙心寺派高屋山の永正寺さん(住職・水谷大定、副住職・中村建岳の両氏)から『大般若札』在中の寒中見舞いが届いた。中には昨年末に完成した新本堂と旧本堂の写真も供えられており、いよいよ永正寺さんの新時代の始まり、始まりである。
 ここに住職・水谷大定さんと副住職・中村建岳さんのことばを添えておこう。
住職・大定 新本堂完成で永正寺の新しい歴史が始まり、その多彩な活用を始めます。さらに次の計画を構想して、健康寿命を保つ、残された時間を意識して、可能性を追求します。
副住職・建岳 本年4月14日に新住職として就任することになります。これから、5年後、10年後を見据えて、永正寺の機能を高めていきたいと思っています。

 永正寺さんから届いた寒中見舞いと新本堂完成の文書
 

(1月23日)
 朝刊を開き、【珠洲・能登町の小中再開 休校解消 JR羽咋-七尾も】(中日)の見出しにホッとする半面、【「倒壊危険」建物4割 1万2615胸 古い木造多く 能登半島地震】(毎日)の見出しには、胸がつぶれてしまいそうな思いをした。

(1月22日)
 ジャズの日だそうだ。
 午前中、金山駅近くのペインクリニックへ。2カ月に1度の検診で、血圧はこのところ深夜未明に及ぶ執筆に追われ、体力的に少し疲れてこそいたが、134~82でまずまずの結果で、ホッと一安心。「せっかくだから」と半年に一度の血液採取もして頂いた(血液検査で結果は次回受診時に教えて頂ける)。受診のあとはいつものように金山駅構内の飲食店街でランチを食べ、帰りも名鉄犬山線と古知野駅からは名鉄の乗り合いバスで帰宅。帰宅すると、シロちゃんが心配した顔で真っ先に玄関先まで飛び出して出迎えてくれ、なんだか嬉しい気がしたのである。

 22日で発生から3週間を迎えた能登半島地震のその後はと言えばだ。中日新聞が【健康懸念でも地元にいたい 2次避難16%止まり】(朝刊)【日常へ少しずつ JR七尾線 羽咋-七尾間再開 輪島の保育園 被災後初開園】(夕刊)、毎日新聞が【石川の漁港8割超損壊 19港で地盤隆起】(朝刊)、日経新聞が【珠洲・能登の小中休校解消 JR七尾線、一部運転再開】【輪島朝市や白米千枚田… 美しい風景忘れないで】(夕刊)といったところか。視点こそ違うが、各紙とも能登への熱い視線が注がれていることがよく分かる。

(1月21日)
 各紙朝刊とも昨日の夕刊に続き、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した小型探査機「SLIM(スリム)」が20日、日本で初めて月面に着陸したことを報じている。月面着陸は、世界では旧ソ連、米国、中国、インドに続く5カ国目である。ただ太陽電池パネルに光が当たらないことで発電できておらず、バッテリーが尽きて予定していた鉱物調査の期間が短くなる恐れもあるという。

(1月20日)
 土曜日。大寒である。
 新聞の見出しは【安倍、二階、岸田派立件 大野、谷川議員ら 8人、会計責任者も 自民裏金で特捜部 安倍派幹部は断念】【安倍、二階派解散へ 岸田派に続き】(中日、20日付)【自民3派閥裏金起訴 東京地検特捜部 会計担当ら安倍派7幹部は見送り】【これで済むわけがない 政治部長 松尾良】【安倍・二階・岸田派 解散へ 塩谷氏「国民の信頼裏切った】(毎日、20日付)と政局への捜査の手一色で誠に嘆かわしい限りである。そんな中、【孤立集落「解消」 能登半島地震 住民を移送】(毎日、20日付)【救急搬送 連日数十人 能登半島地震 高齢者ら環境激変で】【19日ぶり湯に笑顔 珠洲の公衆浴場再開】(中日、20日付)など。能登半島地震のその後見出し一つひとつに被災者のかけがえのない人生が映し出され、そのひとつずつに、今の窮状から立ち上がろうとする人々の姿が生き映しとなり、それこそ一人ひとりの今の心を思う時、涙がしたたり落ちるのである。
 情けない、とはこのことか。

(1月19日)
 金曜日である。私は、このところ、アレヤコレヤといろいろすべきことに追われ、かなりハードな日々を過ごしている。とはいえ、きょうは社交ダンスのレッスン日である。というわけで、午後、一宮スポーツ文化センターへと車を走らせた。近づく発表会を前にすべてを忘れ、タンゴとワルツのイントロに始まるひと通りのレッスンに打ち込んだが、時折、能登半島地震の惨状と被災者の顔が目の前に大きく浮かび上がり、なんだか息苦しさのようなものを感じたのも事実である。

 共産党が18日、志位和夫委員長(69)の後任に田村智子政策委員長(58)が就く人事を決定。委員長交代は23年ぶりで、女性の委員長就任は初めて。志位氏は空席だった議長に就任、小池晃書記局長(63)の続投も決まった。田村氏の後任の政策委員長には山添拓参院議員(39)が起用され、不破哲三前議長(93)は中央委員から外れ、名誉役員に就任した。
 新しく委員長に就任した田村さんは現在3期目。2019年に安倍晋三主催の「桜を見る会」を巡る問題で当時の安倍首相を国会論戦で追及。2020年1月に女性初の政策委員長に就任した経緯がある。それだけに、こんごのお手並みに期待したい。就任記者会見で田村さんは「責任の重い役職だが、党の成長、発展のために力を尽くしたい」と語った。

 甲府地裁は18日、甲府市で2021年10月に同じ高校に通っていた女性の両親を殺害し、住宅に放火したとして殺人などに問われた、当時19歳の被告の男(21)の裁判員裁判判決公判で求刑通り死刑を言い渡した。22年4月施行の改正少年法で実名公表が可能となった「特定少年」への初の死刑判決となったという。

 今月1日に発生した能登半島地震で石川県が氏名を公表した死者80人のうち8割を超す69人が家屋倒壊で亡くなっていたことが判明。倒壊家屋の下敷きになり、圧死した人が多かったとみられる。石川県内の住宅被害(一部破損含む)は18日時点で約2万9000棟に上るが、輪島、珠洲市での建物倒壊の全容はまだ分かっていないという。

(1月18日)
 きょうは寒い。
 わが妻たつ江(舞)に生前、いつも「シロよシロシロ、シロちゃん」と呼ばれていたわが愛するシロちゃんは、さすがにストーブの前に座ったままじっとしている。動こうとしない。で、ストーブの前に座布団を置いてやると、座布団が気に入ったと見え、そこで座り満足そうに。天下泰平といった顔で自分の居場所は、ここなり-と決めたようである(ただし、きょうのような寒い日に限るのだが)。 

 石川県輪島市の輪島、東陽、門前中の生徒のうち6割超にあたる258人が17日、約130㌔離れた白山市の県立施設「白山青年の家」へバスで集団避難。生徒らの見知らぬ土地での学校生活が始まった。
 死者6434人、行方不明者3人を出した1995年の阪神大震災から29年となった17日、神戸市中央区の公園「東遊園地」で犠牲者をしのぶ【1・17】の集いが開かれた。この日は1日に起きた能登半島地震の被災地にも思いを寄せ、竹や紙の灯籠で【ともに】の文字も表現。能登半島地震が発生した午後4時10分にみんなで黙とうを捧げ、能登の復興も願った。

 第170回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が17日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞に九段理江さん(33)の「東京都同情塔」(「新潮」12月号)が、直木賞は河崎秋子さん(44)の「ともぐい」(新潮社)と万城目学さん(47)の「八月の御所グラウンド」(文芸春秋)が選ばれた。このうち九段さんは「受賞した作品の全体の5%くらいは生成A1の文章をそのまま使っている」と明かし、いよいよ生成A1時代の到来か。文学の世界でそれで良いのかどうか、が気になるところである。

(1月17日)
 1995年1月17日午前5時46分に発生、災害関連死も含め6434人が亡くなった阪神地域で観測史上初めての震度7を記録した阪神大震災から、まる29年を迎えた。この日は神戸市中央区の東遊園地で早朝から「1・17のつどい」が開かれ、多数の灯籠が並ぶなか、能登半島への連帯の思いも込めた【とともに】の文字が浮かび上がった。
 中日新聞のけさの通風筒によれば、世界的デザイナーのコシノジュンコさんが16日、和歌山県田辺市の世界遺産・熊野本宮本社で記者会見し、熊野の神の使いとされる「八咫烏(やたがらす)」をモチーフにした「特別御朱印帳」を発表。大社を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」が今年、世界遺産登録20年になったのを記念したという。ほかには【亡き母に「ありがとう」 2週間やっと対面 輪島の実家倒壊、自らも被災の娘】の記事が涙を誘う。ほかには11月の米大統領選に向けた野党共和党の候補指名争いの初戦となる中西部アイオワ州の党員集会が15日、州内各地で開かれ、返り咲きを狙うトランプ前大統領(77)が事前の世論調査どおり大差で勝利。順調な滑り出しとなった。

 愛知県が17日、新型コロナウイルスの感染者が増加傾向にあるーとして17日、新型コロナの流行が「第10波」に入った、と独自宣言。

1024年1月16日
 火曜日だ。
 雪こそ降ってはいないが。きょうも、きのうに続き、とても寒い朝である。そう言いつつ、かつて私の青春時代に流行った歌手で俳優の吉永小百合さんの【寒い朝】を思い出し、♪北風吹きぬく寒い朝も 心ひとつで暖かくなる 清らかに咲いた 可憐な花を……と口ずさんでみる。歌いながら、思うにつけ人間だれしもこうして厳しい自然のなかを互いの愛と愛で「春」という夢を胸に、生きていかねばならないのだな-とふと思ったりした。

 けさの新聞報道によれば、最大震度7を観測した能登半島地震で石川県の被災者をホテル・旅館に移す2次避難が15日現在、避難者全体の6%にとどまることが県のまとめで判明。災害関連死を防ぐため政府も2次避難の加速に力を入れているが、思うように進んでいないのが実情だという。【名勝・白米千枚田に爪痕 輪島ひび割れ無数、落石も】(16日付中日)の痛々しい見出しも。
 それから。石川県が15日に能登半島地震の犠牲者の氏名を初めて公表。馳浩知事が「氏名の公表は、人生の尊厳、関わってきた方々への報告と言う意味で公益性がある」と説明。同意を得られた人については公表する」と語ったという。1人の死は重く、私がかつて過ごした能登では新聞の能登版で「お悔やみコーナー」を開設していただけに、氏名の公表は家族の同意を得られれば当然のことだと思う。出来たら能登版紙面のように、亡き人の生前の功労(貢献)や思い出話についても公表すれば、亡き人と遺族の魂がその分浮かばれるのではないか、と。そんな気がするのである。

 岐阜県飛騨市古川町で15日、円光寺と本光寺、真宗寺を参詣する「三寺まいり」があった。この三寺まいりは、親鸞聖人の命日前後に営む法要「報恩講」が起源。良縁成就を願う行事としても知られ、参詣者らは高さ2㍍の雪像ろうそくが並んだ町を行き交ったという。

(1月15日)
 小正月。
【たくさんの方が「石川頑張れ」と絶えず声を掛けてくださり、走りながら胸がいっぱいでした 都道府県対抗女子駅伝で1区区間賞を受賞した石川県代表・五島莉乃選手(26)】とは、本日、15日付中日新聞1面題字横の<言の葉>欄である。

 そして。1面はほかに【石川、富山 5.6万戸断水続く 地震2週間「復旧 年単位も」】【トイレ、歯磨きに制限 体調悪化や感染症懸念】といった見出しが並んだ。
 いつものように午前10時過ぎに自宅を出たわが家のシロちゃん。きょうの寒さに震え、耐えきれなかったのか。10分後には帰宅、帰ってからは、一階居間ガラス窓の太陽の日差しがあたる窓のサン、すなわち庇(ひさし)の下部分でしばらくの間、ジッと座ってておいでたが、気がつくと今度は私の布団の中にもぐりこんだままで出てこようとしない。ここなら暖かいので大丈夫だ。それほど、きょうは寒いのである。

 能登半島は依然、大変である。そんな能登の各地を岸田文雄首相は14日訪れ、金沢市で復旧事業の一部を国が代行する大規模災害復興法に基づく「非常災害」にすることを表明。被災者支援のため2023年度の予備費から1000億円超の支出を月内に決定する考えを示した。【被災建物3割「倒壊危険」 応急判定 東日本、熊本上回る】とは本日付の毎日新聞1面の見出し。

2024年1月14日
 本日付の朝刊(中日)は、【中学避難 珠洲・能登町も 2カ月程度輪島250人が同意】に【共通テスト始まる 被災受験生前泊して挑む】、そして注目の台湾総統選について【台湾総統に与党・頼氏 中国対抗の姿勢維持】と。どれも読者の関心の高い記事ばかりだが、そんな中にあって、やはり連載企画の2回目【能登はやさしや □被災地とともに□ 歌手石川さゆりさん 明るく、力強い土地柄。病気をせず命をつないで】を見逃せない。
 <能登半島(1977年)>を歌った石川さゆりさんは「能登半島という歌のおかげでこれまで輪島塗の作家さんをはじめ、いろんな人たちと知り合いや友達になりました。昨年の仕事は、紅白(歌合戦)の前では和倉温泉(石川県七尾市)のディナーショーが最後で、能登の皆さんの前で1年を終えたんです。/正月にこんなことになって、すぐに(現地の知人に)電話しました。呼び出し音は鳴るけれども誰も出ない、ということが続いていました。7日くらいにようやくつながり「どうしていますか」と話ができました。……」などと現地を思い心配する気持ちがよくわかる内容の記事に私は、どこかホッとしたのである。
 それにしても、能登がこんなめに遭うだなんて。七尾の一本杉どおりは。仙対橋は。中山薬局。高沢蠟燭は。小丸山公園は。舞と一緒に歩き始めてまもない下の子を伴ってよく足を運んだ「のとじま水族館」、そしてコスモスの花に満たされた和倉温泉界隈、冬が終わるころに土を割って顔を出してきた雪割草の花がどこまでも美しかった門前の鳴き砂の浜、さらに総持寺、輪島の朝市どおりは。松本清張の「ゼロの焦点」に出てくる関野鼻はどうなってしまったのだろうかーと、思うことは地震発生に伴う能登のケガが少しでも少ないことばかりである。

(1月13日)
 土曜日。中日新聞の本日付(13日)朝刊1面で【能登はやさしや □被災地とともに□】が始まった。初回は、能登半島の穴水出身の大相撲の遠藤聖大(えんどう・しょうた)さんで見出しは【駆けつけたい。思いは胸の奥にとどめ 元気な相撲を取って勇気づけられれば】というものだった。こんご随時掲載ということなので注目して読みたい。

 大学入学共通テストがこの日、全国の668会場で始まった。出願者は昨年より2万667人少ない49万1914人。能登半島地震の被災地では受験票を紛失した受験生に「仮受験票」が発行された。石川県内の出願者は5229人。特に被害の大きかった能登半島にある高校の生徒は、前日から試験会場(金沢大学)近くのホテルに宿泊するなどしてテストに臨んだという。思えば、わが長男(当時七尾高校3年)も、前日に金沢で一泊。試験に臨んだ日のことがつい昨日のように思い出される。でも、地震などはなく、ふつうの受験だったと記憶している。そのわが子が当時、学長だった江崎玲於奈さんに憧れ、筑波大の難関、基礎工学部に無事入り、いまでは文部科学省で一人の物理学博士として頑張っているのである。当時の私にしたら、なんだか、夢のような話だ。
 でも、あのときは今回みたいな地震発生に伴う苦労などはなかったのである。

 夕刊は、このほかに【中学集団避難3市町に 輪島・珠洲・能登の850人】(中日、13日付)【台湾総統選 投票始まる 対中争点、世界が関心】(日経、13日付)といったところか。

(1月12日)
 政府は11日、最大震度7を観測した能登半島地震を「激甚災害」に指定。輪島市の能登空港はこの日、仮復旧が完了し、自衛隊輸送機の発着が可能になった。石川県によれば、11日午後2時現在の地震による死者は213人、行方不明者は37人。能登全域で道路が寸断され、輪島市を中心に2562人がなお、孤立状態に陥っているという。

 朝起きて。能登半島で幼少期を7年過ごした末っ子を送り出したあと、ペットボトルやお酒の空き缶、そしてビン類、ほかに電池、しょう油や入浴剤の空き容器といった不燃物を歩いて近くの集積場へ。ことし初の不燃物収集の日だからである。きょうは、よほど寒いのか。それとも昨日、天使の羽を広げて能登半島の惨状を見てきたためなのか。シロちゃんは一向に外に出て行こうとはしないので室内を温かくしたうえで、私はいつも使っているデスク前の椅子にこうして座ったのである。ペンを手に、書き始める。シロは私を守るようにして傍らに座っている。

 目をつぶって能登半島地震の惨状についてあれやこれやと頭を巡らしてみる。昨夜、ネットを中心に調べてみたところ、能登が世界に誇る和倉温泉街は30館近いどの旅館もが大きなヒビが至るところに入ったり壁がはげ落ちたりしていた。そればかりか、肝心のお湯が出せなくなる-などといった大被害でここしばらくは営業などとても出来そうにない。さらにテレビ放映を見ると、美湾荘さんは旅館内のあちこちがクチャクチャで、おそらく加賀屋さんなど他の老舗旅館のどこもが同じように瀕死の重傷といってかまわないだろう。
 ほかに志賀町では、地震で熱湯を浴びた男の子、中川叶逢ちゃん、5歳が救急車の出動を断られ亡くなってしまいました。大相撲の人気力士「遠藤」のふるさと穴水では帰省中の長男や長女、そして妻も含めた6人家族の5人が家屋の倒壊で下敷きとなって全滅。一瞬にして亡くなってしまうなど皆さん大変です。運命としか言いようがありません。それに比べたら、舞はまだ幸せな人生だったかもしれない、との思いを深くしたのです。と同時にニンゲン1人ひとりに与えられた命の定めって。一体何だろう、とも。

 考えてみれば、生きていればことしが年女だった、わが亡き妻たつ江(伊神舞子)はウクライナ戦争もガザの悲劇、能登半島大地震も何もかもを知らないのです。もしも知っていたなら、俳人伊神舞子はどんな俳句を、詩を、短歌を天下に向かって作っていたかと思うと、なぜかわけもわからないまま怒濤となって、またしても涙があふれ出てくるのです。

 石川県は12日、能登半島地震で被害が激しかった輪島市と珠洲市で仮設住宅計115戸の工事を開始、1カ月後の完成を急ぐという。バイデン米大統領が11日、米英両軍がイエメンの親イラン武装組織フーシ派の拠点を攻撃した、と発表。この攻撃には、オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダも支援したという。

 中日新聞社と子会社の中部日本ビルディングが、名古屋市の繁華街・栄に完成した中日ビル(高さ158㍍。地上33階、地下5階で延べ床面積は約11万7千平方㍍)の開業日が4月23日に決定した-と発表。建物のテーマは「中日ビルで、会おう。」。商業施設やレストラン、ホテルなど名古屋初出店を含む計93の店舗・施設が出店し、栄地区の新たなにぎわい拠点になることをめざすという。

2024年1月11日
 政府は、能登半島地震の被災者の避難先として旅館やホテルなどを活用する2次避難用に石川、富山、福井、新潟の4県で計1万人分を確保する、という。持病を持つ人や妊婦、要介護者、75歳以上の高齢者とその家族を優先させる方向で調整している。また政府は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に向け、10日午後、軟弱地盤がある大浦湾側の工事に着手。地盤改良工事の設計変更承認を代執行してから13日後に着手した。一連の工事の工期は9年3カ月で、移設事業の完了は2030年代の半ば以降になる見通しだという。
 辺野古の工事再開を受け岸田文雄首相は「世界で最も危険と言われる普天間飛行場の固定化は絶対に避けなければならない」と強調。沖縄県が辺野古移設に反対している件については「丁寧な説明を続けていきたい」と語った。

 中日新聞朝刊の本日付に【父母眠る新城は「ホントのふるさと」 メイコさん思い出ありがとう 地元住民ら30人冥福祈る】の記事。メイコさんとは、昨年12月31日に89歳で亡くなった俳優の中村メイコさんのことである。

 けさ。寒いところを愛猫シロ、オーロラレインボー(俳句猫の白)は、お外に出かけていった。その目は真剣そのもので、どうやら能登半島へと出かけていったらしい。大地震で苦しんでいる人たちを少しでも助けなければ。そんな気迫に満ちた表情をしており、私は能登で共に過ごしたシロちゃんの先代だった神猫シロを久しぶりに思い出したのである。能登半島の猫や犬たちは、どうしているだろうか。無事でいてくれたら良いのだが。

(1月10日)
 新聞は能登半島地震のその後の報道で埋め尽くされている。
朝刊は【発生9日目初の関連死6人 能登地震死者202人 安否不明102人 情報錯綜 輪島朝市 大規模捜索開始】(中日、10日付)【能登6人災害関連死 死者202人 感染症も拡大】(毎日、10日付)に続いて夕刊も【能登で雨 土砂災害警戒 地震10日目 死者203人 安否不明68人 安否不明者なぜ急増減? 曖昧情報もあえて公表】【重機ボランティア捜索支援 長野・小布施から参加 自衛隊と連携 土砂撤去】(中日、10日付)といった具合だ。 
 新聞をはじめとしたマスコミ各社の続報はきょうも、こんな調子で続く。一体全体いつまでこの状態が続くのか。と思うと、今は日本中が悲しみの海の中をさまよい歩いている。そんな気がしてならない。

 買い物でピアゴに行ったら店内一角に令和6年能登半島地震災害義援金募金の募金箱が置かれていたのでさっそく募金をさせて頂いた。

 店内に置かれていた募金箱
 

    ※    ※

    ☆    ☆
 熊本県八代市出身で「舟唄」「雨の慕情」(日本レコード大賞)「なみだ恋」「おんな港町」など数々のヒット曲で知られた演歌の女王、八代亜紀さんが昨年の12月30日、急速進行性間質性肺炎のため死去。73歳だった。報道によると、八代さんは膠原(こうげん)病の一種で指定難病の「抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎」と急速進行性間質性肺炎を発症。昨年9月に病を公表し、芸能活動を休止し、療養を続けていた。中学卒業後に歌手をめざして上京。東京・銀座のクラブの専属歌手を経て、1971年に「愛は死んでも」でデビュー。芸名は出身地である熊本県八代市にちなんでつけられたという。

(1月9日)
【能登地震救援阻む雪 死者168人安否不明急増323人 「もう勘弁してくれ」】(中日)【避難所で死亡初確認 雪中孤立から搬送 能登地震1週間 168人犠牲 安否不明323人 災害関連死リスク大 震度5強以上に1カ月は注意を 気象庁(毎日)】
 きょうも新聞紙面の1面は能登半島地震の記事で埋め尽くされている。
 私はそうした紙面の中でも中日新聞にいち早く掲載されている【能登半島地震 安否不明の方々】に目を通した。室谷敦子(90)池端一成(76)山本愛子(80代)など苗字と名前が気になる人を数人見かけたが。このうえは、無事を願うほかあるまい。

 一方。そんな中でも明るい話題といえは、だ。【宮崎作品Gグローブ賞 「君たちはどう生きるか」アニメ映画、日本人初 笑顔届けられれば(鈴木敏夫プロデューサーの話)】(毎日)【宮崎作品Gグローブ賞 「君たちはどう生きるか」アニメ部門】(中日)と、米アカデミー賞の前哨戦ともいえる映画賞「第81回ゴールデン・グローブ賞」の発表・授賞式が7日、西部カリフォルニア州ビバリーヒルズで開かれ、宮崎駿監督の長編アニメ映画「君たちはどう生きるか」がアニメ映画賞を受賞したということか。報道によれば、2007年に設けられた同賞を日本人監督作が授賞するのは初めてのことだという。
 これに対して暗い話は、能登半島地震の後報以外に【田中元首相宅で建物全勝 「目白御殿」敷地内の800平方㍍】【松本人志さん 芸能活動休止 文春報道、「裁判に注力」】(中日)といったところか。いやはや、この世の中、いろいろある。というか、起きるのである。

 夕方届いた中日新聞夕刊。ここには1面トップで【母「守れずごめんね」 能登地震入院断られ5歳児死亡 尻にやけど一度も抱けず】【死者180人 安否不明120人に 輪島朝市で大規模捜索へ】の見出し。このうち5歳児死亡のニュースはとなんとも悲しいニュースだった。能登半島の志賀町で揺れて倒れたやかんの湯でやけどしお尻がただれ、内灘町の病院で入院を断られた末に容体が悪化。死亡した5歳児の話で、記事を読む限り、病院がもっと適切な処置をしていれば助かったはずなのにと思うと、こちらまでが悲しくなってしまう。

(1月8日)
 毎日、毎日。この世の中は事件や事故、思いがけない災害が絶えることがない。それこそ、地獄かと持ってしまう。きょうの中日朝刊1面トップは【池田議員を逮捕 4800万円不記載疑い 安倍派裏金 初の立件】というものだった。そして、その隣が【能登地震 孤立なお2300人 発生1週間 死者128人】【124時間後の救出 声に反応 医師「いける」】というものであった。

 けさは、同居する末の息子がこしらえてくれた<七草がゆ>を1日遅れで食べたが、それは美味しかった。たつ江(伊神舞子)が健在だったころは、1月7日となれば決まって彼女手づくりの七草がゆをみんなで食べたものだが、昨日そんな舞を思い出しスーパーで買った七草を食卓の上に置いておいたところ、息子があっという間の離れ業でこしらえておいてくれたのである。というわけで、ことしも食べることとあいなったのだが、もちろん、とてもうまかった。おいしかったのである。
 
 七草がゆ、とは。末っ子の手料理で食べた七草がゆ
 
 
 

 午前中に東京・町田市在住の太田治子さんから舞の仏前へのお供えとしてメッセージカード入りの野草アートフラワー(陶器のお花)が届き、感激。さっそく、わが家の愛猫シロちゃん(オーロラ・レインボー)と一緒に袋から出し、おかあさん(静汐院美舞立詠大姉)の仏の前に供えた。おかあさん、よろこんだようで笑顔で「ありがとう」と礼を言ったような気がして「太田さんには、いつもお世話になり、本当にありがとうございました」とレインボーとともに深く頭を下げたのである。

(1月7日)
 七草がゆの日である。たつ江(伊神舞子)がいたころには、決まって「からだに良いよ」と七草がゆを食卓に出してくれ、うれしく思ったものである。

 朝刊各紙は相変わらず、能登半島地震の記事でぎっしり埋まっている。
【発生124時間 90代女性救出 珠洲の倒壊家屋から 能登地震死者126人に 脈拍あり会話も 珠洲】【被災地大雨や大雪予報】【「地震直後の雪つらい」「いつまでこの生活」 建物倒壊や救援に影響心配】(7日付中日朝刊)【能登地震死者126人 安否不明210人全容見えず 90代女性 124時間ぶり救出 石川・珠洲の民家】【能登地震 孤立集落 疲労濃く 大雪予想「物資途絶える」】【避難所に医師1人 寝ずに治療 応援で目撃「追加支援を」】【海底隆起「予想以上」専門家】【ボランティアの情報サイト開設 石川県】(同毎日朝刊)といった具合で、深刻度は日1日と深まりつつある。

(1月6日)
 きょうは、寒さが増してくる小寒(しょうかん)。いわゆる「寒の入り」で、これから節分までが「寒」。寒中見舞いを出し始める。

 本日付の中日新聞の朝刊見出し【死者94人 安否不明222人に 能登地震 建物下敷き100件】【トイレ事情やプライバシー確保 避難生活課題山積】【コロナ、インフル 感染症拡大懸念】に続き、同夕刊は【能登地震 死者100人 安否不明なお211人 穴水、早朝に震度5強 震度1以上1045回 北陸土砂災害の恐れ 大雪予報】【穴水の避難所で3人コロナ感染】と刻々変わり、とうとう地震発生による死者が100人となった。

 ほかに羽田空港での日航と海上保安庁の航空機が衝突した事故。こちらの方は滑走路閉鎖に伴う空の便の混乱の様子につき【羽田衝突 15万人超に影響 全日空・日航 国内線の欠航800便 8日にも滑走路再開】などと報じている。

 本日6日付の中日新聞夕刊に【金正恩氏異例の見舞い 「被災者に哀悼」岸田首相宛て電報】の見出し。それによると、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党書記が5日、能登半島地震の被害に関して岸田文雄首相宛てに見舞いの電報を送ったというもので、金正恩氏は岸田首相に「あなたや(地震の)遺族、被災者に深い同情と哀悼の意を表します」とし、被災地の早期復興や生活の回復を祈ると伝えた-としている。そして、このお見舞い電報について6日の朝鮮労働党機関紙、労働新聞が岸田首相への電報全文を、北朝鮮と関係が深いイランの南東部で起きた爆発に対する金正恩氏の見舞い電と並べて掲載したという。金正恩氏の、この行いは当然ながら、同じ地球を生きる者としてほめられて良いものだと思うのである。

(1月5日)
 午前中は、ある自治体の文芸祭小説の部の入選作の校正に打ち込んだ。そして午後はマイカーで隣町の一宮へ。ことし初の社交ダンスのレッスンで真清田神社横の一宮スポーツ文化センターでレッスンに挑んだ。師匠の〝若さん〟の指示の下、悦ちゃん、ヨシコさん、水谷さん、曽我部さんに私も加わり、新年早々とはいえ、ワルツに楽しいひとときを過ごした。みな朗らかなメンバーばかりだけに、なんだか我が身が全開したみたいな、そんな気がしたのである。曽我部さんからは、きしめんにボールペンまで頂いてしまい、恐縮至極とはこのことか。帰りは、ほっともっとで夕飯を買って帰ったが、シロちゃんが心配そうな顔で私の帰りを待ってくれており、なんだか嬉しい気がしたのである。

 新聞は、朝刊も夕刊も元日に起きた能登半島地震の続報で埋め尽くされた紙面が何とも痛々しい。ライフラインは至るところ、ズタズタといってよく、停電に断水、食料の枯渇、寸断された道路……が次々と増える中、死傷者も時間の経過に従って増え、能登の人々の心中やいかばかりか-と思う。そして私自身、かつて七尾で7年間、家族と共に過ごし能登には人一倍の愛着があるだけに、なんとも悲しく、かつ悔しくて、やりきれなさでいっぱいとなるのである。
 【死者92人 安否不明242人に 能登地震 生き埋め40件超】【海底隆起? 輪島の港異変 漁師「出港できない」】【「給水、支援物資どこ」 能登半島地震 珠洲 停電続き情報届かず】【輪島の焼失面積 4万8000平方㍍ 国土地理院推定】(5日付中日夕刊)といった具合である。このほか、5日付中日夕刊1面見出しには【管理画面に注意喚起機能 羽田衝突 滑走路進入なら表示】も。

 写真家の篠山紀信さんが4日、死去。83歳だった。東京都出身。妻は元歌手の南沙織さん。ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻ら著名人のポートレートを手がけ、宮沢りえさんのヌード写真集などでも知られた。

 羽田空港で日航と海上保安庁の航空機が衝突した事故。その後の調べで、航空管制官が海保の機長に離陸の順番が最優先であることを示す「ナンバー1(1番目)」と伝えていたことがわかったという。

 【能登救援、在日米軍と協力 政府調整 地震死者92人に 安否不明242人】【イスラエル・アラブ歴訪へ 米国務長官、緊張緩和促す】【一番マグロ1億1424万円 豊洲初競り、昨年の3倍超】とは、5日付の日経夕刊。

(1月4日)
木曜日。朝刊は【能登地震死者73人に 3.3万人避難 余震続く 迫る72時間雨中の捜索 輪島ビル倒壊天あおぐ】【海保機に進入許可なし 日航機と衝突 管制の交信公表 海保機長と認識相違】(中日)の見出し。これが夕刊になると【輪島生き埋め多数 能登地震死者78人に 重機陸揚げへ輸送艦】【支援誓う仕事始め 官公庁】といった具合で、能登半島地震の死者が増えている。

 暗い話題ばかりの中、それでもきのうは箱根駅伝の100回大会で青学大が10時間41分25秒の大会新記録で2年ぶり7度目の総合優勝を果たし、日本中を沸かしたのである。そして。私はといえば、だ。地震に襲われた能登半島のその後を気にしつつ、先日、審査した多治見市文芸祭小説の部入選作の校正などに追われ、正月早々から忙しい毎日に追われている。。

2024年1月3日
 厳しい年が明けた。
 スマホのYahooニュースは、朝から【最大震度5強 石川県能登(10時54分)】と元日に起きた能登半島地震の続報を流してきた。朝刊各紙は能登半島地震一色で【能登震度7死者57人、珠洲「9割方が全滅」津波1、2㍍超沿岸被害 輪島朝市200棟焼失】といった活字が躍るなか、【日航機羽田で衝突炎上 全員脱出 海保機は5人死亡 海保・支援物資を搬送中】(いずれも3日付中日新聞1面見出し)といった見出しが躍っている。

 私はそんな活字を目の前に、新年の書き始めでもある、わが「ごん日記」にこう、記した。
――ガザも、イスラエルも。ウクライナも吹っ飛んだ。私は自然の猛威が、いかに限りなく大きいか、を改めて知った。元日早々の能登半島地震は私たちにそのことを教えてくれた、と。人間たちが束になってかかったところで、自然の営みには、かないっこないのである。舞の辰年は新年早々、そのことを教えてくれたのである。

 能登半島地震の悲劇を伝える3日付の新聞
 

 

(1月2日)
 火曜日。
 元日早々の昨日発生した能登の大地震は、辰年おんなである、あのおかあさん、かれんだったわが妻、伊神舞子の逝去と関係がある。そんな気がしてならない。能登半島で家族そろって過ごしたことがある〝たつ江龍〟が今度は人間社会に向かって牙をむいたのではないか、と。なぜか、私にはそんな気がしてならない。でも、彼女は、もはや、この世にはいないのである。

 帰省中の長男夫婦に末っ子も加わり、私の母の死に伴い、私が新たに相続した土地へと出向いた。わずかばかりの土地ではあるが、土地のありかをしっかりと教えておいた方がこの先のことを思っても良いので、いざ見参とあいなった。見終わったところで、末っ子が「せっかくなので、おかあさんの墓にお参りしてこうよ」と言うので、永正寺の永代供養集合墓【濃尾の大地】に寄り、みんなで手をあわせた。私は墓碑を前に「皆、それなりにそれぞれの個性豊かにがんばってくれている。だから安心しておればよいから」と唯一無二のわが愛する仏(静汐院美舞立詠大姉)に向かって手を合わせた。

 午後5時47分ごろ。2日午後4時過ぎに新千歳空港を出発した日本航空516便(エアバスA350型機)と海上保安庁の航空機(ボンバルディアDH8ー300。乗員6人)が羽田空港C滑走路で衝突。516便の乗客、乗員379人は無事だったが、海上保安庁機に乗っていた5人は死亡。消防車70台以上が出動し消火に当たった。航空専門家によれば、どうやらいずれかの機長が管制官の指示を聞き間違えたのが原因らしい。それにしても、新春早々から、いろいろ起きる。天国の舞は、この地上の出来ごとをどう思って見ているのだろう。

 午後11時過ぎ。スマホが例によってピコピコピコッ、と鳴ったので画面を開く。と、Yahooニュースで、そこには【能登半島地震 石川県で55人の死亡を確認】とあった。なんたることか。

(1月1日)
 2024年元日。生きていたら、たつ江の年だったのに。その辰年、令和6年の幕が開き、始まった。せめて亡き彼女、おかあさんを囲んで長男夫妻がわざわざ能登の加賀屋さんから取り寄せてくれたおせち料理で楽しいひとときを-と、みんなでワイワイガイガイと言いながら、おせちを食べ始めた。

 能登のおせちは格別な味である
 

 そして。能登の話に夢中になり始めた、その時であった。午後4時過ぎに能登を震源に最大震度7の大地震が発生、能登半島が地震に揺れに揺れている。いやいや、ラジオからの「緊急地震速報です」の声に耳を凝らすと、震源地とはだいぶ離れたわが家、ここ尾張の地でも新春早々、ふわりふわふわ、ふわっと、少しだけ、一瞬の間、揺れた気がする。自然は人間社会に容赦ない見えない存在であることを今さらながら痛感させられた。
 能登半島といえば、だ。私たち家族5人(私)=ほかに、家族には、てまり(愛猫)とウサギのどらえもんもいた=が支局長住宅で7年間過ごした、いわば第二のふるさとともいえ、思い出がいっぱいに染みた土地だといって良い。その能登半島で新しい年が開けたと思ったら、このありさまだ、大地震の発生である。自然は、まさに容赦ないのである。

 というわけで、つけっぱなしのNHKラジオからは「緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください」「石川県能登地方には5㍍の津波が予想されています。すぐに高いところに逃げてください」「大津波警報が石川県能登地方に出されています」「「能登、山形、富山には既に津波は到達しています。青森でも10㌢の津波が到達しました」「昭和58年の日本海中部地震では、わずか8分で津波が押し寄せました。日本海側の場合、太平洋岸に比べ、津波はすぐにきます……といったアナウンサーの興奮した声がひっきりなしに聴こえてくる。というよりは、ラジオからは地震の発生と大津波襲来の危険を何度も何度も繰り返し、告げる声が聴こえてくるのである。

 

連載小説「あの箱庭へ捧ぐ」第三章

第三章 未知が来る

   1

 本間宗太が斉藤寧々に初めて会ったのは、一年前のこと。黒板の前に立たされ先生に挨拶を促されて不機嫌そうな寧々の顔を、宗太は覚えている。その顔がとても好きだと思ったと本人に言ったら、顔を真っ赤にして彼女は怒っていた。
 うみほたる学園の男子寮と女子寮は向かいあって建っていて、その間を遮るものは丁寧に手入れされた花壇と煉瓦道ぐらいのものだ。
 宗太と寧々の部屋は互いに二階にあり、互いの窓は部屋が見える位置にあった。カーテンを開けるのは朝とみんなが寝静まった夜の二十三時頃。意図せずその時間になるとどちらが先にカーテンを開けるか競争のようになっていた。
 スマートフォンは学園内に持ち込み禁止なので、二人とも持っていない。いや、もともと持っていたのに、学園へ入学すると同時に没収されたというほうが正しい。学園の外との連絡を取れなくする意図があるのだろう。希望すれば手紙ぐらいは出せるらしいが、書いてもいっこうにこない手紙の返事を待つよりは、最初から書かないほうがいいと宗太は思った。それに宗太には手紙を出したいと思う相手がいなかった。
 夜なので窓も開けられない。だから宗太と寧々は会話をしないけれど、手を振って挨拶する。
「おやすみなさい」と口を動かす。 
 いつの間にかそれが日課になってしまっていた。
 毎晩、宗太はどうしてそんなことをするのかを考えた。もしかしたら自分も彼女もお互いのことが好きでそういう行動をとってしまうのではないかと思っていた。だがその考えはすぐに捨て去らなければならなかった。なぜならば自分に誰かを好きになる資格はないと宗太は思っていたからだ。
 毎晩好きだと思いながら、毎晩その考えを捨てる。もう幾度それを繰り返しただろうか。
 あるときは朝方までそんなことを考えていて、眠れない日もあった。それでも捨てるしかなかった。
 それが自分と彼女のためだと思っているからだ。

   *

 宗太には特別な力があった。相手の未来が視えるというものだ。相手の手に触れるだけでそれがわかってしまう。そのために、色々な物事を諦めなければならない。宗太にとってはそれが最善だと結論が自分の中で出ている。
 宗太の力の事を知っている者は学園内にたった二人だけだ。ひとりは学園の理事長と呼ばれる人で、もうひとりは宗太の友人である川崎竜太郎だ。
 宗太を学園に入学させた理事長が知っているのは当然のことだが、どうして竜太郎が宗太の能力について知っているのかというと、宗太が自ら彼に話したことがあったからだ。それは彼が、宗太と真逆の能力。相手の過去を視る能力を持っていたからなのか、それとも彼の人柄がなせる業だったのかはわからない。だが、宗太と竜太郎はそれがきっかけになって仲の良い友人になったことは確かだった。
 竜太郎と宗太が互いの能力を知った後、二人とも理事長に呼び出された。理事長は咳払いをしてから宗太たちに向かってこう尋ねてきた。
「二人とも、時間についてどう思う」
 その問いに宗太と竜太郎は困惑したが、それも最初だけだった。まずは竜太郎が答えた。
「とても大事なものだと思います」
「その理由は?」
 理事長が軽く首を傾げながら言った。
「過去は変えられませんが、知ろうと思えば誰でも知ることは出来ます。それによって相手を理解することができます。それを知って現在でどんな行動をとるのか。それがとても大事なことだと思います」
「そうか。それはとても大切なことだな。では、君の持っているその能力を大事にすると良い」
「はい」と竜太郎が頷くのをみてから、理事長は宗太のほうへ視線を向けた。宗太はごくりと唾を呑んだ。
「次は君が答える番だ。宗太」
 促されて、宗太は伏し目がちに言った。
「俺は、竜太郎とは逆です」
 それは宗太の本心からの言葉だった。
「ほう。何故そう思う」
「未来も変えられないからです。未来は普通の人間なら知ることはできません。俺はそれをずっと知りたかった。だから願望が能力というひとつの形になったのだと思います。でもそれを手に入れたところで、どうしようもないことに気づきました。俺が視た未来は確定で訪れます。だから大事にしたところで、悪い未来は悪いまま来てしまいます。それが俺の時間は大事にしても無意味だと思う理由です」
 宗太ははっきりと口にした意見を、自分で哀しいと思った。
 どうしてと幾度も思った。そして答えは一向にでなかった。
「宗太は、自分の能力を大切なものだと思っていないということだな」
 理事長の言葉に、宗太は頷く。
「はい。俺はもう、この力がなくなってほしいと思っています」
「果たして本当にそうだろうか。もしそうならば、能力はとっくになくなっていると思うのだが。君はまだ能力が消えていないのだろう」
 確信をつかれて、宗太はしりごみした。
「それは――」
 宗太は、反論ができなかった。理事長はすべてを見透かしたように、微笑んでみせた。しわの寄った顔は、彼が古希を超える年齢だという事実を改めて感じさせる。
「よく考えて、悩むことだ。結論が簡単に出る問題ではないだろうがね」
 宗太はその言葉に対して、返事をしなかった。
 もう充分だ。と思った。もう自分は嫌というほど悩んで、苦しんでいると思う。そんな気持ちを察してか、理事長がもう一度口を開いた。
「私は、能力者になったことがないので君たちの気持ちはわからない。だが理解しようと努力してきた。そのうえで言わせてもらおう。答えはない。しかし、答えを作ることはできる」
「答えを作る?」
 意外な言葉に、宗太は首を傾げた。隣に座っていた竜太郎も同様だ。
 理事長は頷き、言った。
「君たちの能力は、今まで誰も――いや、もしかしたら探したらいるのかもしれないが。前例がない。ただ君たちはここに存在する。答えを探している。探すことができる。ならば答えを作ることも可能ではないのか。と私は思う」
「それは、自分たちの好きなように答えを出しても良いということですか」
「そういう解釈もできる。という話だ。能力者を研究している連中は怒るだろうが、そんなことは君たちには関係ない。君たちは君たちの答えを作れば良い」
 宗太と竜太郎は互いの顔を見合わせて、それから理事長の顔に視線を戻した。
「わかりました」と二人はほぼ同時に返事をした。
 途方もない話だと宗太は思った。テストの答案ならば最初から答えがある。しかし、これには最初から答えがない。宗太と竜太郎はその答えのない事柄を、討論しなければならなかった。けれどそれが面白いと感じていることも事実だった。
 だから宗太はあの日。寧々の方から想いを伝えられた日。思わず口にしてしまったのだ。
「試しに付き合ってみる?」
 両思いだとわかって有頂天になっていたわけではない。宗太はいたって冷静だった。冷静に、じゃあ試してみようと思ったのだ。そうして宗太は初めて寧々の手を握った。宗太は触れた相手の未来を、その先の人生を少しだけ視れてしまう。
 宗太は答えを出すために、寧々のことを利用しようと考えたのだ。
 寧々の未来で視えたものは三つ。高い塀。恐らく学園の周りを囲っている塀だ。それから、見知らぬ女の子。そして、誰かの血。
 宗太は恐ろしいものを視てしまった気がして、すぐに手を離した。
 宗太は視えた未来に対して、これは寧々にとってどんな意味があるのだろう。と考える。それと宗太にとってもどんな意味のあることなのだろう。
 考えて、考えて……しばらくして考えるのをやめた。そんなことはどうでもいいと思った。事実としていずれ訪れる未来には変わりがない。未来は変えられないのだから。
 ただ宗太は思っていた。誰にも血を流してはほしくないと。

   2

 交際を開始しても、宗太と寧々はいつもと変わらない日々を過ごしていた。恋人らしく放課後は一緒に帰ったりせず、手はあの日に繋いだきり触れてもいない。それ以上の行為も勿論していない。いつもと同じように休憩時間に他愛のないおしゃべりをして、二十三時の「おやすみなさい」をする。
 しばらくそんな日々が続いた。交際していることは誰にも言わなかった。二人だけの秘密だった。示し合わせたわけではないのだが、寧々の方も仲の良い友人にさえ、教えていない様子だった。
 そんな状況を打破してくる人物がいるとは、その時は想像もしていなかった。
「そういえばこの学園、交際禁止だってこと知ってる?」
 川崎竜太郎は机で書類と睨み合いながら、自然な会話の流れでそう尋ねてきた。
 一つ前の会話と言えば「もうすぐ夏祭りだ。楽しみだな」である。
 竜太郎と共に所属する洸生会のアジトで、一緒に書類の整理をしていたときだった。
 作業をしていた宗太は、手を止めて目を丸くした。
「え。何? そのどこぞのアイドルグループみたいなルール」
 バインダーを持ったまま尋ねる。子役だった時代を振り返ってみても、そんなルールを律儀に守っているアイドルなんてきいたことがない。芸能人の熱愛の噂は、スタジオの廊下を歩いているだけでも、耳に入ってくる。噂好きのスタッフがひとりでもいると大変だ。
 竜太郎が、宗太を一瞥してから書類に視線を戻しながら言葉を紡ぐ。
「知り合いからきいた話なんだが、以前交際していると噂がたった人がいて。その噂をききつけた先生が二人を呼び出したらしい。それで別れさせられたって」
「それって中等部の生徒?」と宗太は首をかしげる。そんな話をきいたのは初めてだった。
「いや。高等部だったと思う」
 顎に右手を当てながら、竜太郎が視線だけ次の書類に目を通しながら口だけ動かした。
 宗太は言葉を探していた。黙ったままでいると竜太郎がこちらに視線を向けてきた。眼鏡の向うにある彼の目と、宗太の目が合った。
「面倒なことになる前に、斉藤とは友人関係に戻ったほうがいいんじゃないか」
 すべてを見透かしているような竜太郎の発言に、宗太はうろたえた。
「何で、そのことを知っているんだ」
「みていればわかる」
 そう言いながら、竜太郎は持っていた書類を机の上に置いた。
「俺が斉藤とも友人であることを忘れるな。彼女を大切だと思うなら、彼女を傷つける前に元の関係に戻るべきだ」
 竜太郎なりに言葉を選んだのだろう。気を使われていることに少しだけ気分が悪くなる。
「つまり別れろってことだろう」
「そうともいう」
「いいよ」と宗太は迷いもなく言った。予想外の返答だったのか、竜太郎が目を丸くした。
「目的はもう終わっているし」
「何の?」
 竜太郎が首を傾げた。
「俺の能力の発動条件、知っているよね」
 宗太が尋ねると、竜太郎は頷いた。
「ああ。相手に触れないといけないんだろう。僕の能力も同じ条件だから知っている」
「そのためには相手と、スキンシップが出来るぐらいに仲良くならなくてはいけないだろう」
 宗太の言葉に、竜太郎が怪訝な顔をした。
「まさか。そのためだけに斉藤と交際しているのか」
「そのまさかだよ。俺はこの力の答えを出すために、寧々の告白を受け入れた。彼女を利用しているんだよ」
 宗太は、口角を上げて笑ってみせた。
 宗太が最初にこの能力に気づいたとき。母親の手に触れたことで、母が泣き崩れている光景を視てしまった。自分が母から離れてどこか遠い場所へと行かなければならなくなったことを、そのときに知った。宗太は母以外の家族や仲の良い友人の未来を視ることが怖くて、距離を置くようになった。
 宗太は幼いころから芸能界という荒波にのまれながら、とてつもない将来への不安を感じていた。そんな自分の未来が知りたくて望んで手に入れたはずの能力を、宗太はいらないとさえ思った。だからこそ宗太はこの学園に自ら来て入学させてもらった。誰もが望んで入学したわけではないこの学園に。
「どうかしている」
 呆れたように、竜太郎が言った。
「自分でもそう思う。でも、好きじゃなかったら付き合っていなかったよ」
 信じてもらえないかもしれないけれど。とは言わなかった。それは無意味な言葉のように思えた。
 どうして彼女だったのかと問うまでもなかったのか、竜太郎はそれ以上は何も言わなかった。触ることが重要ならば自分でもいいじゃないかとは、彼は決して言わなかった。わかっていたのだ。同じ条件で発動する能力を持っている竜太郎は、自分と宗太が触れた場合に、能力が相殺される可能性があることを。それがなければ宗太も迷わず竜太郎に触れ、彼の未来を視ていただろう。
 宗太と竜太郎は同じなようで同じでない。対照的な存在だった。だから共に洸生会に所属させられたと言っても過言ではない。
「彼女の未来について、僕はきいてもいいのか」
 竜太郎が、唐突にそんなことを尋ねてきた。
「いいけれど、あんまり良いものじゃなかったよ」
 宗太はそう答えると、視たままを竜太郎に伝えた。彼になら話しても構わないかと思った。それだけ信頼していた。
 話が終わると、竜太郎が顔をしかめた。
「それは、まさか斉藤の血じゃないよな」
 そうやって言葉にされると、改めて宗太は考えてしまう。あれが誰の血で、どんな意味があるのか。
「そんなまさかは、あってほしくないけれど」
「だが斉藤の未来を視て、斉藤の血ではないのだとしたら、一体誰の血だ? そんな恐ろしい場面を視て、お前はどう思ったんだ」
 竜太郎の真剣な表情に、宗太は困った顔を返す。
「例え誰の血であったとしても、俺にはどうすることもできない。未来の出来事だとしても、俺にとってはすでにあった過去と同じだよ」
「だったら、それを知った今。お前はどんな行動をとりたいんだ。未来を変えたいのか、変えたくないのか。どっちなんだ」
「そういう問題じゃない」
 竜太郎の言葉を、宗太は首を振って否定する。
「そういう問題だろう」と竜太郎はさらにそれを強く否定した。
 宗太は目を見開く。
「お前は何度も、変わらないって諦めたかもしれないが、今は僕がいるだろう。過去を知って、理解して。現在の状況を良くすることは出来ると僕は信じている。お前の未来視が、お前にとっては過去なら、現在を変えることは出来るはずだと僕は信じる」
 竜太郎みたいな考え方が、自分にも出来ればよかったのに。と宗太は思わずにはいられなかった。
 そしてそういう風に言ってくれる友人を持って、心の底から感謝した。
 理事長が答えを新しく作れと言った意味が、わかった気がした。一人では作れなかった答えを、二人でなら作れるような気がした。
「ありがとう」
 宗太は呟くように、礼を言った。

   3

 それから宗太と竜太郎は、二人でとある計画を立てた。
 現状を変えるにはまず、現在進行形で続いている宗太と寧々の関係性を解消することだった。現在で変えることが出来るものがそれしかなかったのだ。
「まず初めに言っておく。斉藤とお前のどちらかが、この学園を去ること。この方法は避けたい。何故なら卒業するか、退学になるかのどちらかだからだ。僕の言いたいことはわかるな」
 竜太郎は、真剣な顔をしていた。冷静に考えて、卒業も退学も実現するのは大変な事だ。まず前者は宗太たちの意思ではどうにもならない。それを決めるのは教師たちや理事長だろう。
 この学園は、一定の年齢で卒業という概念がない。卒業の条件はただ一つ。能力者ではなくなることだ。そしてそれを審査して通ったら卒業できるという規則だ。
 そして後者は、問題を起こすなどして誘導することは可能だが、これも最終的な判断は理事長になる。
「わかっているよ。卒業はともかく、退学なんてしたらあいつを哀しませることになる」
 宗太が視た斉藤寧々の未来は、おそらくもう少し先の出来事ではないかというのが、竜太郎と話して出た結論だ。では、ほんの数分後の未来を視ることはできないのか。と竜太郎は言った。宗太は今まで力をコントロールするという考えがなかったと答えた。
 竜太郎はこう提案してきた。
「僕と宗太の能力は、時間跳躍ができない。ただ視ることができるだけだ。だから斉藤の直近の未来を視て、どうしたら彼女を傷つけず穏便に別れることができるか考えよう。僕が彼女の過去を視て色々とフォローをする。お前は嫌かもしれないが」
 宗太の未来を視る力は、その未来に到達する過程において、行動を変えたところで変わることはない。それは、宗太が試した結果でわかっていることだ。しかし竜太郎の過去を視る能力は、すでに起こっている出来事を視て、良い方向にも悪い方向にも変えていける能力だ。だからその二つを上手く利用すれば酷いことにはならないのではないかと、竜太郎は考えているらしい。
 まったく彼らしい、と宗太は思った。
 相手の過去を視ることができるということは、相手の弱みを握ることと同義だ。それを使って相手を脅すことだってできるはずだ。だが竜太郎はそんなことはしないと宗太は思う。彼を信頼していなければ、宗太は竜太郎の提案にのらなかった。
 竜太郎はいいやつだ。そのことを知っているから、宗太は彼を信じることが出来る。
「いいよ。そうしよう。頼りにしている」
 単純な想いならば、簡単に別れようと告げれば済む話だった。けれどそれは宗太にはできない。できないぐらいに、彼女。寧々と過ごした時間は大切なものだった。
 彼女と過ごす毎日は、キラキラした宝石みたいに輝いている。とても大事な思い出だった。
「だが問題なのは、どうやって斉藤の手に触れるかだ。僕では、お前のように彼女の手に気軽に触れることはできない」
 竜太郎が眉をひそめながら言った。
「手相をみると言って、触れてみたら」
「冗談を言うな。それでいいならば、お前が斉藤と交際することにした理由がわからなくなる。それに斉藤は占いなど信じないだろう。僕も手相占いなどはできない」
「じゃあ、俺みたいに斉藤と付き合う?」
 宗太が軽口をたたくと、「宗太」と呆れたように目を細めながら、竜太郎が宗太の名前を呼んだ。いい加減にしろとでも言いたげだったので、宗太は肩をすくめて謝った。
「ごめん。これも冗談」
 ひどく悪い冗談だったと、宗太も思った。
 自分が一番傷つく。だがそれも悪くないと思った。これからやろうとしていることに比べたら、小さな傷だったからだ。
「まぁ手に拘らなければ、いくらでも方法はあるんだがな。後ろから肩を叩くとか」
「無難だなぁ」
「残念そうに言うな」
 いかに自然に身体に触れるかの議論をして、そうして最終的にはやはり後ろから話しかけて肩を触ることにした。
 最悪の事態を防ぐために、宗太は寧々と別れる選択をとった。
 寧々の過去を視て、彼女がどういう人生を歩んできたのか。それを知って自分たちがどういう行動をとるのか考える。とても最低な計画だった。けれどやらなければならなかった。
「ごめんね。君のためなんだ」
 本人の目の前で、その言葉を口にする勇気はない。

   4

「斉藤」
 という竜太郎の呼びかけから、この計画は始まる。
 竜太郎が寧々の肩に触れていた。名前を呼ぶとほぼ同時に、右手を彼女の肩に置いたのだ。
「何?」
 何も知らない斉藤寧々がそれに気づき、振り向いた。彼女の視線は竜太郎と、そのすぐ後ろに立っている宗太に向けられた。
 寧々は着けていたヘッドフォンを耳から外し、驚いたように目を丸くしていた。
 宗太は、彼女の気を一瞬でも逸らそうと彼女に話しかける。
「ちょっといい?」
 彼女の気を一瞬でもこちらに向けさせるためだ。竜太郎は能力を使っている間、目を閉じている。動くこともできないので、こうするしかなかった。
「どうしたの二人とも」
 寧々が肩にかけたヘッドフォンを片手に持ったまま、首をかしげている。
 授業の合間の休憩時間だった。廊下に出ていた寧々がどこかへ行こうとしているところを呼び止めた。
「次の授業で使うプリントを配らなきゃいけないんだけど、手伝ってほしいと思って」
 宗太はそう言いながら、両手に抱えるように持っていた紙の束を半分ほど右手に取って渡そうとした。
「別にいいけれど、君たち二人で充分じゃない?」
 寧々の素朴な疑問に、宗太は首を振る。
「まだあるんだ。先生がまだ準備できていないって。忙しそうだった」
 嘘は言っていないが、残りは先生が持ってくるつもりだったところを、宗太たちが親切なフリをして「取りに戻ります」と言って利用したのだ。
 罪悪感がないわけではなかったが、これも寧々のためだと気持ちを誤魔化す。
「そうなんだ。それで、川崎はいつまであたしの肩に手を置いているわけ?」
 指摘されて、心臓がはねる。
「ああ。すまない」
 竜太郎が慌てたように、寧々の肩から手を放す。それから、宗太のほうを向いてアイコンタクトをしてきた。もう充分なようだ。
 寧々は宗太たちをみて訝しんでいたが、教室の中に戻るとプリントを配ることを何も言わずに手伝ってくれた。手際よく枚数を数えて、机に置いていく。
 宗太と竜太郎は寧々を教室に残して、職員室に残りのプリントを取りに行くことにした。道すがら、宗太は竜太郎から過去視の結果を聞く。
「斉藤がこの学園に来た理由がわかった。あいつには妹がいるらしい」
「そうなのか」
 初めて知る事実だった。
「斉藤はここに来る前、素行の良い生徒ではなかったらしい。まぁ、今も良いとは言い難いが。不良だったらしい。それで悪い噂を流されて、それが妹の耳に入った。妹はとても繊細な少女で、深く傷ついていた。あの斉藤の妹だとレッテルを張られ、いじめを受けていたらしい。妹が自殺未遂をした原因が自分だとわかった斉藤は、能力を欲した。妹のどんな小さな声でも聴くことが出来るようにと、願ったんだ」
「それであいつ、耳がいいのか」
「そうだな。僕が視ることが出来たのはそこまでだ。斉藤は能力を手に入れた後も色々あって、この学園に連れてこられたんだろうな。妹の記憶が強かったから、妹に関連する過去を視ることが出来たのだろう」
 竜太郎の言葉に、宗太は納得していた。
 ただ問題はここからだった。その過去を踏まえて、斉藤と別れる計画を立てるのは、沸騰したお湯の中に手を入れるぐらいに勇気のいることだった。火傷をするとわかっているのに、それをしないといけないのは、とても酷なことだ。
「少なくとも避けなきゃいけないことは、悪い噂を流すことだな」
 竜太郎がそう言って、廊下を歩く足を止めた。職員室まで、あと数歩というところだった。少しだけ前を歩いていた竜太郎が、宗太のほうを向いた。
「宗太」
「なんだ」
 名前を呼ばれて返事をすると、僅かな間を開けて、真剣な表情で竜太郎がこう言った。
「お前、斉藤に嫌われる覚悟はあるか」
 宗太は迷わずこう答えた。
「もとよりそのつもりだ」
 たとえどんな結果になっても、最悪の未来のためには悪魔にだってなる覚悟だった。

   5

 授業が終わって、夕食までの空き時間。夕陽が落ちていく速度で、宗太の気分も落ちていった。
 宗太と竜太郎は、男子寮の同じ部屋に住んでいた。二人の狭い部屋には、勉強机と椅子が二脚ずつあり、二段ベッドもあった。
 その部屋に今は宗太と竜太郎ではなく、宗太と寧々がいた。
 男子寮には、女人禁制という規則がある。よほどの例外がない限り許可なく女性職員と女子生徒は、男子寮には立ち入り禁止なのだ。
 しかし宗太たちは今、その規則を破っていた。
 これは竜太郎が立てた計画の最終段階だった。そしてその計画を立てた張本人は、現在この部屋にはいない。何処かで時間を潰していることだろう。
 寮の裏口から誰もいないことを確認して、寧々を招き入れた。部屋に入るまでの廊下を歩くときは緊張した。
「この漫画、この間面白いって言っていたやつ」
 宗太は何食わぬ顔をして、右手に持った漫画を寧々に渡す。
「ありがとう。でも本当にあたしここに居ていいの。ばれたらまずいんじゃない」
 寧々は自分がここにいることがばれることを恐れて、小さな声でそう言った。
「大丈夫。誰か来たらすぐわかるだろう」
 宗太はそう言って、寧々の左耳を指で示して彼女の耳の良さを指摘する。
「そうだけど」
 寧々がすこし困った顔をした。
「自室までは貸出出来るんだけど、漫画は外に持ち出し禁止だからさ」
「どうせルールを破るなら、そっちを破ればよかったのに」
 寧々がそう言って軽く笑う。
「でも、たまにはこういうハラハラドキドキするのもいいかと思って」
「スリル満点だね」
 声が部屋の外に漏れないように、宗太たちは出来るだけ小さな声で笑いあった。
 こうしている間にも、時間はゆっくりと流れていった。宗太たちの目線より上にある壁掛け時計の針の音が、嫌に大きく聴こえる。
「寧々」
 宗太は落ち着いた声で、彼女の名前を呼ぶ。
「ん?」
 寧々が首をかしげる。その手には、先ほど渡した漫画があった。
「付き合ってくれて、ありがとう」
 それはとても深い意味のある言葉だ。色々な意味を含めたありがとうだった。そんなこと、寧々は知ってか知らずか「こちらこそ」と返事をくれた。宗太は微かに笑みを浮かべた。
 それから数十分。寧々が漫画を読んでいる間。宗太は別の漫画を読んでいた。大学生の主人公が、同じ学部の女性と恋に落ちる青春漫画だった。宗太が体験することはないであろうキャンパスライフが繰り広げられていて、羨ましいと思った。
 芸能界にいる限り、普通の学生生活など送れない。そして今も、決して普通の学園生活を送っているとは言い難い。だから、これは宗太にとって、夢物語であった。
 もっと普通に竜太郎や、寧々と出会っていたらともう幾度も考えた。
 一方、寧々が読んでいるのが、少年漫画。料理を作ってバトルするギャグ漫画だった。時折、隣から聴こえる寧々の笑い声が、なんだか心地よかった。ずっとこの時間が続けば良いとさえ思っていた。
 漫画を読み終わると、宗太と寧々は他愛のない話をした。授業の話だったり、休日の過ごし方だったり、男子寮と女子寮の違いの話が、特に面白かった。
 そして午後六時半は、あっという間に来てしまった。
「そろそろ、帰るか」
 宗太は唐突に、寧々にそう尋ねた。
「え。もうこんな時間」
 時計をみて、寧々が驚いたような声を上げる。
 竜太郎との約束の時間だった。彼が帰ってくる時間は、事前に打合せしていた。宗太は重い腰を上げて、座っていた椅子から立ち上がる。寧々のほうをみると、彼女も慌てて立ち上がった。
「誰もいないといいけれど」
 宗太は緊張した面持ちで、部屋の扉の前に行く。
「ちょっと待って」
 寧々が能力を使って、部屋の周辺の音を聴いている様子だった。目を閉じて、集中している。
「足音が近い」
 寧々が呟いた。

   *

 そこからは、もうあまり思い出したくはない記憶だ。
 扉が開くと、そこにいたのは竜太郎と先生だった。宗太と寧々は逃げることが出来なかった。いや。逃げることなど、宗太は最初から考えていなかった。
 これは寧々にとっては酷い裏切りの話だ。宗太の信用は地に落ちた。宗太は、言い訳もせずに先生に寧々を部屋に入れた事実を、正直に話した。そして寧々にも、竜太郎に先生をこの部屋に連れてくるように指示していたことを伝えた。
 勿論この全てが、宗太と竜太郎の計画であることは伝えなかった。
 その日以来、寧々は宗太の事を嫌うようになった。会えば必ずと言っていいほど睨まれるし、きつい言葉が飛んでくる。それに呼応するように、宗太も彼女に対する態度を変えた。
 二十三時の「おやすみ」はなくなったのに、宗太はついカーテンの前に立ってしまう。窓の向こうで、一向に開かないカーテンに淋しさを感じながら、でもこれで良いのだと自分に言い聞かせた。
 宗太と寧々はきちんとした話をせずに別れた。裏切って嫌われるという考えられる中でもっとも最悪な手段で、破局した。
 これで本当によかったのかと、今でも疑問は残る。変な噂が流れないように、細心の注意をはらって行動したつもりだった。彼女との関係を切ってまで、彼女を守りたいと願った。その結果がいつ出るのか、宗太にはわからなかった。
 そう、例の少女に出会うまでは。
(続)