詩小説「FLQX」(4)

見るな
見てはならん近づく車
普通に普通に歩くのだ
ほらもうすぐ曲がり角

角の家は高い白塀
内側は更に伸びた広葉樹
目のない角家を左に曲がる
人は車は自転車は
真っすぐ向こうの
幹線道路まで見当たらない

さあ
あるかないか
まだこの距離では分からない
慌てるな
いつものようにのろのろと
失業者のように歩くのだ
だが
決して不審者には見えないように

なんだか胸が苦しくなる
目を凝らしてあの辺り
あるぞ
あるある白いもの
近づく
さらに近づく白いもの
あと一歩


不意に背後で人の気配
誰か知らぬが
ムカっとくる
やむなく
目をしばたかせて通り過ぎる
幹線道路がもう目の前に
そこを
右に折れ歩道をほんの数歩
人待ち顔して立ちどまる

通り過ぎる車の音音音
いったい
何者だろう背後の気配は
どこへ行こうとしてるんだ

こっちへくれば
覚えのある顔
あっちへいけば
どこの誰か知りもしない

来ない
まだ来ない
引き返したのか現れない

ひょっとして
あれは
あの気配は
猫が走り出た妙な気配か

振り返る
どこの誰の影もない
さあどうする
このままアパートへ帰るべきか
それとも
引き返す
大きな勇気を持つべきか

いや
今 通ったばかり
白いもののために
引き返す理由がどこにある
誰にどう言い訳をする
自分にか
それとも
どこかで見ている誰かにか

帰ろう
すぐそこのおんぼろアパート
住み慣れてしまった
階段上ってすぐの部屋
二度の無職をしのぐアパート

エアコンなし
テレビと小型の冷蔵庫
それに
車検が近い小型の四駆
ぜいたくはいえない

だが
失業保険もあと二か月
車だけは手放したくない
今は
いつでも行きたい所へ気ままに行ける
でも
やはり
以前のように彼女を隣に乗せてみたい

もう
ずいぶんになる
その時も同じように会社を辞めさせられた
そして
そのひと月後には彼女に去られた
悪いことは続けて起きるものだ

不運を寝転がって嘆き続けた

また悪いことが起きやしないか
いくら考えたって
起きるものは起きる
考えなくたって
起きるものは起きる
つまらん
(続く)