新連載・地球一周船旅ストーリー〈海に抱かれて みんなラヴ〉8月13日
【写真は、社交ダンスの発表会で練習成果を見せる乗客たち=オーシャンドリーム号内の7階ブロードウェイで】
9日に日付変更線を通過してからは日本が、ぐんぐん近づいている。時差は2時間にまで縮まり、こちらは13日午後9時過ぎ。日本は、2時間遅れて同じ13日の午後7時過ぎのはずだ。
今になってつくづく思う。これほどまでに純粋な人たちばかり、それも老若男女の900人=山口県小野田市からの秋本君枝さんは9月8日がくると、満93歳になられる=もが同じ目的である〈平和〉を求めて乗った船など、もしかしたらこの世でほかにはないかも知れない。いや、ないだろう。
洋上にいたのでは、何が起きようが寄港地までは運命共同体、食べる食事の内容も毎日、一緒だ。帰りたくても帰れない。それも全員がピースボートの名の通り「世界の平和」を願う使者たちばかりだけに、どうしてもそれぞれの個性が同じ色に染まりがちで、それもある程度は仕方ないことが今になって分かってきた。
私はこのピースボートに乗船期間中、▽この船は「現代の箱舟」で社会からつまはじきされた人々の〝掃き溜め〟と言っていい側面も一部にはある▽エレベーターの管理など行き届かない点が多い▽医療面での不備▽盗難被害と対応面での乗客側の不満―などを指摘したこともある。確かに乗船者たちは、それぞれにある強い決断をして乗っているだけに、ある面では社会からはみ出た人ばかりだ、といえなくもない(そうした面では「私」とて同じ〝はみだし者〟といっていい)。
でも、やっぱり、この船に乗っている乗客には純粋な人が多い。毎日ずっとずっと海を見ている人に始まり、合唱や器楽練習をする人々、太極拳やラジオ体操、ヨガ、合唱に参加する人、毎朝決まってウォーキングをしている男女、私のように性懲りもなく社交ダンスを学び続けた仲間たち……と皆さん、誰もが人生を真剣に見続けている方々ばかりだ。
そんな中、本日13日にはこれまで船上のカルチャー教室や乗客自らの自主企画により多くを学んできた人々による〈さいごの発表会〉が午前と午後の部に分かれて7階ブロードウエイで開かれ、私も午後の社交ダンスの部でキムさん(木村さん)と〝ルンバ〟を踊って出演し、なんとか踊り通した。
午前が8グループ(太極拳、ヨガ、ピラティス、詩吟、手話など)なら、午後の部は22グループ(社交ダンス、昔語り、オカリナサロン、ハーモニカ同好会、ウクレレ、沖縄三線中国語で歌おう、ギター弾き語り、合唱など)と、よくもこれだけ多彩な発表会が実現したものだ、と感心させられたのである。
終盤、社交ダンスのクライマックスで後藤京子先生がルンバの模範演技をしているさ中に突然、船内全域が停電。いったん演技が中断したが、まもなく「燃料関係のフィルターが詰まっていたのが原因」と分かり、再開するハプニングまであった。
このほか、8階フリースペースでは写真や水彩画の展示発表会も同時進行で行われ、華やいだ1日に。夜は夜で9階中央のリドデッキで第76回ピースボートのファイナルイベント第2部として「未来へ」をテーマに語り合う熱心な催しも。集大成ともいえる試みがいつ果てるともなく、夜遅くまで延々と続いた。
この日は横浜検疫所の指示により、日本への入国を前に乗客全員に対する耳からの体温測定があり、私も8階スターライトに出向いて測定してもらった。最初に「35度2分です。もう一度」と言われた時にはドキリとしたが左耳たぶの奥まで測定器が入っていないことが分かって結局、36度3分で心配ない、とのことだった。