詩小説「FLQX」(3)

どちらにしても
昨日はなかったリングノート
気になる
どうにも気になる
文庫本を置いて頬杖をつく
ページをめくれないまま時が過ぎる

高木の気持ちがずるっと動いた
席を立つ
文庫本を尻ポケットに
レジを済ませて駐車場
どこへも寄らず帰るのみ
エンジンをかけてアクセルを踏む

相も変わらず多いトラック
事故らぬように左車線
駐車場へ戻るには
ここから信号四つ目だ

三つを過ぎると車線変更
対向車線の向こう側
リングノートのある狭い道
車が途切れず少しも見えず
四つ目の信号で右折待ち

頭の中はリングノート
あるのかないのか
今はそれだけ

四辻二つ目の細い道
右へ切るハンドルに力が入る
走る距離は約百メートル
駐車場は空のまま
エンジンを切ってそっと降りる

普通に歩いてきた道を
普通の顔して戻るのだ
道路に出てまず左右を確認
人の姿も車もなし
このまま
このまま祈って前へ前へ

次の角まで数十歩
息ひそめて一歩一歩
瞬きもせずに一歩一歩
ああっ
前方から乗用車
(続く)