エッセイ「はるかな海より~ピースボートのボランティア(序章)」

 一月二十六日に岐阜FM放送の人気番組「ナレッジレビュー~ほんとのであい」に、ウエブ文学同人誌「熱砂」編集長として出演させていただきました。
 そのなかで今後の熱砂について話題が及んだとき、私は「娘の美佳がピースボートのボランティア通訳として南半球を回っています。旅日記が送られて来るはずなので、親子のコラボレーションができたらいいなと思います」と、思いのままをお話ししました。
 美佳は一月十五日に横浜を出航。それなのに、アップ出来ないまま今日に至ってしまいました。心優しい「熱砂」同人のみなさまからは、緩やかに何度もハッパをかけられているのですが…。

 ボランティア通訳はCCと呼ばれているのだそうです。それはCommunication Coordinatorの略だとか。
 CCガール達は日々とても忙しいようです。各寄港地から「水先案内人」の作家やジャーナリスト、人権活動家、極地探検家、博物学者、環境活動家、ミュージシャンやゴスペルシンガーなど、多彩な顔ぶれの方々が乗船し、講演会やセミナーが開かれます。情報と創作、人としての道、科学、環境保全、音楽、宗教…と世界じゅうが抱えるドラマがまるごと世界の人達と一緒に船によって移動していく、といった趣です。
 娘は、そのつど通訳をしたり、陸に上がればツアーガイドに変身したり。パーティやコンサート等もよく開催されるようですが、楽しみながらそれぞれに対処できている様子が伝わり、うれしい限りです。彼女も多くを学ばせていただいてます。

 美佳から最初の日記が届いたのは、出航後十日ほど経ってからでした。第二弾はまたその三週間後で、一月末が最終という状況。その間、台湾とケニアから絵はがきが届き、携帯に私信も含めた短い便りが何通か届いています。それらをどう処理すべきか考えたり、また娘に聞かないとわからない部分もあるし…、と逡巡しているうちに日々が慌ただしく過ぎて行きました。
 残りの日記については、インターネットに接続不可能な地域もあるようで、本人も思うに任せない? と、好意的に解釈して待つことにします。
 アフリカや南アメリカからの携帯メールが、まるで国内にいるのと同じように届くのにはびっくり。こちらからの返信も、あっという間に送信されるのです。世界が本当に身近になりました。

 ここで美佳からのピースボート便りをほんの一部だけ紹介させていただきます。
 「私の通訳としての初仕事、担当はベトナム人のLeLy Hayslipさん。非常に強いベトナム訛りの英語を話すため、今から講座での通訳が憂鬱に…。」
 レ・リ・ヘイスリップさんは、『天と地』の著者。戦争に翻弄される彼女の半生を綴った自伝は、その後オリバー・ストーン監督の手によって映画化され、世界中で大ヒットしました。
 「ケニア到着。明日から九日間のサファリツアーに参加するぜ。ケニア、タンザニアと南アフリカ。飛行機で一気に行くよ」
 「ブエノスアイレスでアルゼンチンタンゴのショーを二回もみたよ! 綺麗なところだね~、ここなら住めるわ。……」
 「今アルゼンチンの沿岸航路を下ってる。これから南極に向かって進むよ」

 はるかな海より届く美佳の便り。
 プロローグでの始まりがエピローグまで到達できることを願っております。けれども、もし便りが届かなくなったとしても、難破しないで元気でいてくれたらそれでいい、母はそう思っています。