寓話(2)「ピノキオの国に乗ったサンチョパンサがいる」

 ドンキホーテ様がお亡くなりになってからというもの、風車に立ち向かう者なく、国中に愚かな風が吹きまくり、奇妙な流行病まで広がってしまいました。
 王様といえば、木製の操り人形、ピノキオ様。
 糸を引くのは、大海のずっと向うの戦争好きな薮蚊大王。
 かといって大王も新米、かって父君が幾多の国とサソリの国を攻め、大勝利を得たことがあり、自分も権威を保つには戦争しかないと思っておりました。
 ピノキオ様が王様になる十年以上前のことですが、この国は前の薮蚊大王の時、全世界でもっとも裕福と浮かれておりました。本当は張子の寅のように中身なんて余りなかったんですけれど。
 だから、サソリ戦争の時は兵隊を出す代りにお金をいっぱい出しました。それからです、転げ落ちるようにこの国がなったのは。都会では、ダンボールハウスに暮らす人が大勢いるようになりました。
 薮蚊大王の国は、ミサイルや戦車をいっぱい作り、それで豊かになっている国ですから、戦争がないとやっていけません。そんな時です大変なことが起こったのは。
 大王の国の象徴であるモスキート産業通商記念塔に、二羽の鷲が体当たりしたのは。鷲と見えたのは実は飛行機でした。
 薮蚊大王は自分の信じる宗教に従い、世界中の人を従わせようとしたため、それを嫌った山猫の国の人が命と引き換えに飛行機を奪い搭にぶつけたのです。何千もの人が死にました。
 怒った大王は、戦争を始めました。ピノキオ様は協力します。操り人形ですから、糸を動かす通りに動きます。
 山猫の国は、薮蚊の国の一番嫌いなトンボの国とずっと戦争をしていました。その頃は山猫の国と薮蚊の国は仲良しだったのです。サソリの国も以前はそうでした。ところが、天敵であるはずの薮蚊とトンボが手を組んだのです。山猫の国は負けてしまいました。でも、これで戦いが終わったわけではありません。
 この間、ピノキオ様は自分を王位につけてくれたマチルダ姫の愛を裏切り、追放の刑に処したのです。そして次々と邪魔者を身近から遠ざけ、残ったのは薮蚊大王の賛成派ばかり。
 ダンボールハウスの中から月を見上げ、戦争よりは食べ物、ましな家、そう叫んでいる人がいます。外にはバクが繋がれています。よく見ると、主人を失ったサンチョパンサではありませんか。
 見果てぬ夢を追ったドンキホーテ様
 貴方様が居なくなってからというもの、闇の世界が訪れ、希望もなく、人情もない、戦いばかりに怯え、子供は泣き続ける
 パンをくれ、着るものをくれ、余りの声の悪さに、その時バクが鼻から息を吐き笑うように嘶いた。そして、こう言った。
 ピノキオ様のやったこと、裏切りが一番、友情を捨てた奴に明日はない、職なし増やしが二番、王道を忘れた奴は烏の餌となれ、戦争好きが三番、蚊取り線香で燃してしまえ、ヒヒヒヒヒーン
 サンチョはそれを聞くと、主人の形見の錆び付き曲がった刀を取り出し、空にかざした。
 忘れてはなるまい。この世に正義の日がやって来るまで、邪悪なピノキオ族と戦わねばなるまいて。そして、もっと大きな敵である薮蚊大王ともな。
 今日は二千二年七月七日、七夕の日、星に誓って言おう、大王はまもなくサソリの国に攻め込むだろう。操り人形のピノキオは、腰巾着さ、そうさせてはなるまいて、バクよいざ行かん、相変わらずの太っ腹を抱え、やっとの思いでバクに乗ったサンチョは、進み出した。
 
         2002年イラク戦争前夜