詩小説「FLQX」(7)

さあ
手に入れたリングノート
パーカーの右ポケット
ええっ
左か
げっ
落とした
まさか
もう一度右
もう一度左
無い

確かに拾って
確かにポケット
立ち上がる
もしや
ズボンをつかんで
ポケットを叩く
おお
ポケットに手を入れる
そうか
ここへ入れたのか
大きな息を長く吐く
立ったまま
リングノートを左手に
残りのビールをごくんごくん

んんっ
昨日 目にしたアルファベット
数字は分かるが
どうなんだ
この英語は大文字ばかり
うーむ
うーむ
部屋の中を
ぐるりぐるり
目が泳ぐ
目が泳ぐ
壁に天井 窓の外

読めない
読めない
絶対読めない

これは
これは
我に不要なものなのだ
どうしてこれを拾ってしまった
どうして黒装束になったのだ
どうして白いものに誘われたのだ
分からん
分からずにして手にしたことは
うーん

ただ
ただ匂いが
何というか
好きな匂いが
それだけだった

おい
やっと手にしたリングノート
匂いの正体分からぬままに
この部屋に置いておけるか
あそこにあった
誰のものとも判らぬリングノート
探しているかもしれないリングノート


遺失物法…
これは
戻すべきか
しかし
あそこで
やはりかすかな気配
見られているのか
遺失物法…
未練
ならば
写そう
開きっ放しで落ちていた二ページを
あとはめくっても白白白

善は急げ
紙は文庫本の表紙裏
息をひそめて
一字一字を確実に
これは何文字あるのやら

写し終えて深呼吸
さあ
もう一度黒装束
今度も反対回りの遠回り
ヘッドライトも少なくなった
うつむき加減でどんどん歩く
最後の角にド緊張

それでも足をゆるめずに
白いものがあった位置
そう
その辺だ
また変な気配がありませんように
祈りながら足を止め
開いたリングノートを
そっと置く

あとは知らぬ存ぜぬ

幹線道路へまっしぐら
車がちらほら西へ西へ
アパートまでは
もう少し

階段を上がる足も軽やかに
ドアを開けると
ほっと一息
夜も更けた
しんとした部屋に
疲れが充満

今日は
今日はもう終わろう
(続く)