【マボロシ日記】銀行という異界
同級生には、銀行員になった人も多いが、私は銀行にあまりご縁がない。根っからの文系人間であり、そもそも数字自体を見たくないヒトだ。
簿記1級を持っているが、その受験勉強は苦痛で苦痛で仕方なくて、合格する前からその技能を使わなくて良い仕事に就こうと決めた。全ての物事にいえることだが、計算、打算、決まりごとが性根に合わないのだ。
お金ないくせに、ついついどんぶり勘定で、ここぞという場面ではつべこべ言わずに使いたい、金は天下の回り物だと思う。
とはいえ、結婚後はいささか不本意だが、ケチケチしながら慎ましい日々を送っている。1円でも安いスーパーに、ガソリン代をかけて行くような愚かなことはしないが、日々節約を心掛けている。
先日、銀行の印鑑を変更する必要が出てきたので、手続きに行った。通帳は全て主人の名義である。休眠状態のものも含めて4つあり、そのすべてを変更することになった。番号札を取る。順番を待つ。ここまではどこの銀行も同じ。しかしその対応とスピードの違いに驚いた。
最初に、家の近くのG銀行の支店に行って相談すると、所定の紙を持ち帰り主人に自筆で書かせ、口座のある車で30分も掛かる支店まで、自分で持って行くようにという。車で往復1時間掛かる支店に持参しそれで万が一不備があるからと帰され、何度も行く羽目になったら、たまったものではない。そもそも支店間で行き来があるだろう。書類はその支店から口座のある支店へ送ってくれとお願いし、了承を得た。
帰り道、慌てて走って駆け寄って来る女性行員。渡す紙を間違えたと平謝り。新しい用紙をもらい、主人が自筆で記入。すると翌日電話があり、新年から用紙の形式が変わったのに、うっかり古い形式の紙を渡してしまったから新しい紙に書いてほしいと申し訳なさそうにいう。素直に従い、用紙を取りに行き、主人に2度目となる住所と名前と生年月日を書いてもらい、また持参した。印鑑変更を、3度目の正直でやっとこさ成し遂げることができた。
T銀行は、定期預金の集金のために担当者が家に来てくれるので、その時に話をした。奥さんが銀行のお金を引き出すために印鑑変更するケースがあるので、主人の自筆がほしいという。引き出すもなにも、残高がマイナスなのでそんな心配は皆無であるが、もちろん口にしない。
主人の顔を見られれば、その日に手続きが終わると聞いて、ちょうど年末年始休暇で自宅にいる日を指定し、本人が行員の目の前で書類を書いて手続きは終了。
次に行ったのは私の住む県の2大バンクの一つО銀行だ。窓口で私の手書きだけで手続き完了、所要時間15分くらいだった。
最後はО銀行のライバルJ銀行で、以前はお高くとまっているイメージで、窓口に見た目で選んだかのような若くて美しい女性ばかり揃え、クールビスとかいって、銀行の人とは思えない私服で接客させており、良いイメージがなかった。
ところが、久しぶりに支店に入ると、なんだかわからないが、全体が活気づいている雰囲気がある。客を緊張させるような銀行独特のムードはなく、居心地が良い。対応してくれた窓口の女性は、再雇用かと思うような年齢とおぼしきベテランの風格で、感じが良くて、私の手書き用紙でオッケー、なんと手続きが10分ほどで完了した。
あらたまって支店全体を見渡してみると、男性が一人もおらず、女性の姿しか見えない。その数20人くらい。忙しく業務を回し、誰一人サボッている者はいない。
「○○証券にこれ送ってもらえますか」「○○の手続きでやっておきます」「了解です」
全員がバリバリと音がするんじゃないかと思う程目まぐるしく、生き生きと動いていた。若さだけではない、落ち着きのある女性たちが、協力しながら働いているのである。
どこの銀行でも、女性は窓口と後ろにちらほらいる程度で、支店長らしき男性が奥に鎮座か、ペコペコしながら電話中で、その手前に女性に仕事を言いつけている風の課長や主任クラスの男性行員がいるのが普通である。この支店に男性はいないのだろうか。だとしたら大変珍しい支店である。男性行員たちは、営業に出ているのかも知れないが、これだけ女性が多数だと帰りづらいかも、とまで想像する。
ある者は、子どもを学校に行かせながら、ここで働いているのかも知れない。ある者は義父母の介護を助けてもらいながら、ある者は、キャリアを断念して結婚し、子育てが落ち着いてから再雇用されているのだろうか。もしかすると非正規雇用かもしれない。そこにいる女性たちのそれぞれの人生を思う。
女が家のもろもろを気遣いながら、細やかな特性を生かして仕事をこなしている。困難さとそれを乗り越える頑張りに感動さえ覚えながら銀行を後にした。
初雪も 笑いで溶かす コロナ(無)かな