【マボロシ日記】こころのこころ

 息子がテスト期間に入った。現役高校生の勉強なんてとても教えられないけれども、古典と現代文だけは「参考までに」アドバイスをすることにしている。
 現代国語の範囲は、夏目漱石の「こころ」が入っているというので、「あら懐かしい、お母さんもやったわ」と軽い気持ちで教科書を借りて読んでみたのだが、最初の2~3行の意味がもう分からない。何十年も前に読んだ記憶があるのに、内容は脳みそからほとんど失われていたのだ。
 教科書は、後半部分をちょっと載せているだけ。冒頭は〈前半のあらすじ〉が何者かによって解説され、いよいよテスト範囲の本文が挟まっていて、〈この後どうなったか〉が最後にざっくり掲載されているといった次第で、要するに全体を端折っているので、さらに物語の理解を難しくしている。
 こころ、どんな話だっけ、確か単行本があったはず…と書棚を探すと出てきた。最初からじっくり読み進めると、そのうちのめり込んで、12時間くらいで読み終わった。
 大人が全てを読んで理解するのがやっとなのに、高校生が途中をちょっと読んで理解できるのか。昔、いとこが「それにしても、こころだけは何度読んでも分かんなかった」と言っていた。
 そうだ、私も高校時代「こころ」をやったけれど、今思えば理解しているようで、本当の所は理解できていなかった。
 ある評論家が「こころはどこの高校教科書にも載っているが、本当は高校生にはちょっとふさわしくないんです。漱石を教科書に載せるなら、もっと他に適した小説があるのに」と言っていたことを思い出す。
 こころ。あれは教科書に短く載せちゃだめなやつじゃないか。最初から最後まで読み込んでこそ本質が分かり、それでこそ価値が出るんだろうけれど、全体に死への出口(入口)に向かって生きている人の心情が暗く垂れ込んでいて、男女の云々とか、厭世観とか、死生観とか、高尚な人格を求めるとか、多くの高校生にはこれから起こることであっても、実感としてはまずないだろうから理解しろといってもなかなか難しいのではないかと思う。
 という私も、分かった風で分かってないのかも知れないな、なんて思う情けない読後感で、はたして高校のテストに何が出るかと深く悩み、アドバイスすらできなくなってしまった。 最終的には受け取り方も人それぞれで結構で、作者の心情とか、余計なお世話ですよね、漱石大先生。

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