一匹文士、伊神権太がゆく人生そぞろ歩き(2022年3月~)

2022年3月28日
 月曜日。きょうは快晴。晴れ晴れとしたとてもさわやかな、気持ちのよい日だ。それに昨日は立浪ドラゴンズが東京ドームで行われた巨人3回戦で延長十回の末に7―5で制し、今季初勝利を挙げたのである。立浪和義監督は「ひとつ勝たないと始まらない。きょうは本当にうれしい日になった」と語り、ファンの歓声に応えた。

 ところでわが家の愛猫シロちゃんだが大好きなおかあさん、たつ江(伊神舞子)が亡くなる前にずっと一緒に居たおかあさんの部屋で暇さえあれば何やら感慨深げにじっと座っている。何を考えているのだろうか。きょうもおかあさんの仏前に供える花の管理をしながら、おかあさんがいつも見続けていた窓辺や天窓から見えるお外やお空の様子に目を注いでいるのである。

 花の管理に忙しい愛猫シロちゃん。俳句や短歌づくりに日々励んだ舞。彼女の部屋はシロが守ってくれている
 

 そのシロちゃん。そうかと思えば、何かを不意に思い起こしでもしたような神妙な顔つきで時に視線を空の方に浮かべたまま何やら感慨深げに静かにじっとしているのである。思い起こせば、だ。シロよ。シロちゃん。オカンが亡くなる前は、おまえがずっとオカンのベッドの傍らで寄り添っていてくれたのだよね。ほんとうにありがとう。いつまでも永遠におかあさんに寄り添い続ける。今だってそうだよ。同じなのだよね。

 午前11時半を過ぎた。つい先ほど私のパソコンに「第94回米アカデミー賞の国際長編映画賞に濱口竜介監督の<ドライブ・マイ・カー>が選ばれた、とのホッとニュースが飛び込んできた。なんでも、日本でのこの賞の受賞は、2009年に栄誉をつかんだあの【おくりびと】以来だという。【おくりびと】といえば、忘れもしない、青木新門さんの「納棺夫日記」が原作である。

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 たつ江。いずれにせよ、この世にはおまえが大好きだった花々が咲き、春が訪れている。一緒に開花した桜を見たかったね。きょうは、さきほどシロが外に出たが、おそらくおまえの分まで美しく清らかな花々を見に行ったに違いない。シロちゃんは、そういう娘(こ)なのである。(この日。シロは午後2時20分過ぎになり、やっと帰宅した。)

 バイデン米大統領が訪問先のポーランドの首都ワルシャワで演説し、ロシアの大統領プーチン氏について「この男が権力の座に留まってはならない」と厳しく非難。演説前にはプーチン大統領を「虐殺者だ」とまで批判した。

(3月27日)
 日曜日。<さくらの日>。東京、高知、福岡で桜が満開に。きょうは天気が良いためもあってか。わが家のアイドルである愛猫シロちゃんは、朝からお外に。おそらく、どこかで泉下のおかあさんと会って私たち残された家族の現況について話し合ってきたに違いない。そのシロちゃん、いつものように昼過ぎには無事、帰ってきた。

 エディオンアリーナ大阪で行われていた大相撲春場所は、福島出身力士の関脇若隆景が東前頭7枚目の高安と12勝3敗同士の優勝決定戦で土俵際まで押し込まれたものの、粘り腰で耐え最後は逆転の寄り切り。3年ぶりの有観客開催となった大阪での賜杯を手にした。新関脇での優勝は昭和11年の双葉山いらい86年ぶりで、歴史的な快挙となった。
 
 優勝杯を手にする若隆景(NHKから)
 

 朝刊はきょうも相変わらず【ロシア「東部支配目指す」 全土占領から転換か】【核なき世界いつ 核使用限定 一転断念 新指針 米大統領、中ロ念頭に】(27日付中日)などロシアのウクライナ侵攻に関するものが多い。ただ、こうした暗いニュースが目立つ中にあって、【宇野世界一 鍵山が2位】【宇野300点超 初の世界王者 理想求め成長止めない 6度目で頂】【坂本(女子)自己新で初V】(27日付中日)といったフランス・モンペリエでのフィギュアスケート世界選手権の結果が、とても嬉しく、かつ日本の若者を頼もしく思ったのである。

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 午後、時間を見計らって江南市と大口町境を流れ、桜の名所として知られる五条川堤へ。今は亡きわが妻たつ江と共によく歩いた大栄橋~平和橋界隈を見て歩いたが、ソメイヨシノの花が見事に咲き誇り川面に映る姿は相変わらずの美しさだった。7、8分咲きといったところか。ホントは、おまえと一緒に見たかったのに、と思うと、やはり残念であった。舞よ、マイ。おまえが生きていたなら、この花々の下でどんな俳句や短歌を詠んだのだろう、とふと足を止めるなどした。

 見事に花開いた五条川堤の桜
 
  

(3月26日)
 土曜日。曇天。朝。雨が落ち、風もある。暗い日だ。お天気次第、とはよく言ったもので空がほほ笑んでくれたなら。天気が良ければ。身も心も晴ればれとするのだが。それに、いつものように口数こそ少ないが静かな瞳で傍にいてくれたおまえ、たつ江がいないこともあってか。きょうみたいな日は、いっそう寂しさ、やるせなさが募る。おまえは今どこでどうしているのか。

 朝刊1面(中日)に【立浪竜初陣 プロ野球開幕】の見出し。今季から立浪和義監督率いる中日ドラゴンズは昨夜、東京ドームで巨人と戦ったが惜しくも2-4で敗れてしまい、3年ぶりの黒星発進となった。「おはようございます。昨日はビシエドの勝ち越しホームランで2対1とするものの、3点取られて、2対4と逆転負けでした。残念です。今日こそ、巨人に勝って立浪新監督に初勝利をプレゼントしてほしいですね」とは北海道在住の根っからのドラゴンズファの会川桂一さんから私あてに入ったラインである(ちなみに、ドラはきょう26日も巨人に7―5で負け、ちょっと残念な気がする)。

 さて。26日付朝刊の記事だが。そこには【劇場空爆「300人死亡」 マリウポリ市議会が投稿】【政府、高級車禁輸へ 対ロシア 新興財閥に圧力】など。相変わらずロシアのウクライナ侵攻に関係する暗い記事で占められている。そんな中、【諫早開門命令は無効 「非開門」に判断統一の流れ 福岡高裁差し戻し審 国勝訴、漁業者側上告へ】といった記事が目に留まった。

 そして。夕刊は「坂本 初の世界女王 フィギュア 自己最高236・09点」「大谷初の開幕投手 二刀流で出場へ」と明るい話題の一方で「ロシア東部侵攻に重点 作戦失敗で戦線縮小化」「米、北制裁強化提案へ 安保理会合ミサイル非難」と相変わらずの紙面展開。なかで【避難先がない 結ぶ 受け入れたい 「ウクライナ支える」登録・検索サイト ハーバード大19歳コンビ 立ち上げ】の記事には、どこかホッとするものを感じたことも事実だ、といえようか。

(3月25日)
 金曜日。朝から晴れである。シロちゃんは午前9時半過ぎ、おかあさんの悲しみをいっぱい背中に乗せて、それでも何かに打ち勝つような表情でお外に出た。それを見送る私。「オカン、たあ~ちゃん(たつ江)に。くれぐれもよろしくな」と私。シロは日が経つにつれ、真剣な表情で耳を立ててつぶらな瞳で私を見つめてくる。そのしぐさがお母さんそっくりになってきた。シロは、生前の〝たぁ~ちゃん〟、オカンがいつも言っていたが【私とたぁ~ちゃんに関することなら、それこそ何でも知っている、この世では珍しい白狐(びゃっこ)ちゃん】なのである。デ、彼女の口癖は、いつだって「あのねえ。シロは何でも知っているよ。知っているのだから」というものだった。
 きょうは、このお空の一隅でどんなお話しをしてくるのだろう。俳句のことか、それとも短歌。もしかしたら地上で繰り返されている見苦しい戦争、プーチンによるウクライナ侵攻の話か。そう思うと、おかあさんの舞と一緒でナンダカ平和の使者の代表ともいえるシロのことがますますいじらしくもあり「くれぐれも気をつけて。無理しないで行ってくるのだよ」と送り出したのである。

 本日付の朝刊は【人道決議140カ国賛成 国連総会、ロシアに再び圧力】【キエフのロシア軍後退 米分析 化学兵器「現実の脅威」 マリウポリ「廃墟」に】【「民間人を攻撃 ロは戦争犯罪」米が認定】などといったウクライナものが多くを占めるなか、【北朝鮮新型ICBM発射 北海道沖150㌔に落下】【日本7大会連続W杯(サッカーの2022年ワールドカップカタール大会)】【東芝の2分割案否決 株主総会 海外ファンド支持せず】といった見出しが目立った。

 午後。シロが帰宅したところで銀行へ。いったん戻って今度は一宮へ車を走らせた。週に一度通っている社交ダンスのレッスンのためだが、きょうもブロンズ級のワルツとルンバを繰り返しおどって帰った。このうち、ワルツの音楽は【ロミオとジュリエット】で、音の世界に引きずり込まれながらのステップに、いっとき全てを忘れたのである。
 帰り。車窓から見る大江川河畔の桜のつぼみが赤く膨らみ、いまにも開花寸前の姿に、なぜか川面を流れて浮かぶ、あの舞の顔を思い出した。月日は、そんなことには関係ないといった表情で、きょうも流れていく。ニンゲン、ものみな全てが1日1日、離別の時を刻みながら歩んでいるのかもしれない。

(3月24日)
 彼岸明け。きょうは暖かな日差しで、おまえがいつだって透明人間になって俺たちのすぐそばにいるように感じる。身も心もそんなあたたかさだ。たつ江。舞よ、マイ。おまえは今、この広い宇宙のどこにいるのか。元気でいますか。(心配しないで。元気でいるから。と舞の透明な声が春の風とともに、ふわりと飛んできて消えた)。

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 午前中、このところのコロナ禍の時代もあって、フェイスブック(昭和39年滝高校普通科卒「二石会」学園広場)開設による音信会話交流以外にはたいしたことは何も出来てはいないが、全国一斉のまん延防止等重点措置が解除されたこともあり、会長を務める立場上、滝高校時代の高校同窓会「二石会」の件で岩倉市内の喫茶店で懐かしい顔(前年の役員)に久しぶりにお会いし、今後の活動内容についてあれこれ話し合って帰宅。
 そういえば、きょうは木曜日でゴミの収集日だったことに気付いたが、帰宅したころには時既に遅しで、回収車は走り去ったあとだった。でも、私自身がうっかり忘れていたことなので、いまさら仕方あるまい。

 いったん帰宅後。きょうは、久しぶりに飛保の曼陀羅寺近くにある京風創作ランチ・ふわふわオムライスのお店<さくら>に出かけたが、おいしいオムライスの味に生き返った気がしたのである。女将の「元気を出してくださいよ」の声に送られ、これまたこのところ足を運んでいなかったアピタに立ち寄ってみた。
 店内をただひとり、歩きながら、なぜか亡き妻のことを思い出しながら足を前に進めたのである。いつも一緒に訪れ、共に歩いた店内なのに。そう思うと、またしても悲しく相棒のことがかわいそうでたまらなくなってきた。「ごめんな。ごめん」。私は今さら生き返ることもないことを十分わかっていながら同じ言葉を繰り返し、そのまま、まるで夢遊病者にでもなったかのように店内のあちこちを歩きに歩いた。見苦しいとは、わかっていながらである。
 そういえば、彼女が買い物をしている間に私はよくお店出口のちょっとスペースのあるフロアで、ルンバやワルツ、チャチャチャ、ブルース、タンゴなどをひとりで繰り返し、何度も何度も恥ずかしげもなく踊ったものである。店から出てきた舞は決まって「待った」と言い、やさしい視線に私はその一言をとても嬉しく思い、いつも「いや、そんなに」と答えたものである。

(3月23日)
 ウクライナのゼレンスキー大統領がこの日、日本の国会でオンライン演説を行い、日本に対ロ制裁の継続を要請。ロシアによるザボロジエ原発への砲撃に言及し、国内の原発が危険な状況にある、と訴えた。交戦中の国家元首による日本の国会でのオンライン演説は初。ゼレンスキー氏は演説で「アジアで初めてロシアに圧力をかけ始めたのが日本です」と謝意を表明。そのうえで対ロ制裁の継続を要請。「侵略の津波を止めるためロシアとの貿易を禁止してほしい」とさらに厳しい制裁を求めるなどした。

 日本の国会でオンライン演説をするウクライナのゼレンスキー大統領
 

2022年3月22日
 火曜日である。ロシア外務省がきのうの21日、北方領土問題を含む日本との平和条約締結交渉の中断を発表。四島でのビザなし交流と元島民の自由訪問の停止、共同経済活動からの撤退を表明し、ウクライナ侵攻に伴う日本の制裁に反発。これに対して岸田文雄首相は「全てロシアのウクライナ侵略に起因している。日ロ関係に転嫁する対応は極めて不当で断じて受け入れられない」としており、ロシア側に抗議した。
 経済産業省は22日、東京電力管内に続き、東北電力管内についても電力需給ひっ迫警報を発令。東北地方を中心に起きた地震による一部の発電所停止や気温低下で二社とも電力需給が極めて厳しくなった、としている。前日に警報が出された東電は22日朝から他電力七社から最大141・78万キロワットの融通を受けたが、電力使用が目標ほどは抑えられていないという。
    ※    ※

    ☆    ☆
 3月22日。朝から雨が天からポツポツと落ち続けており、きょうは春先としては珍しく寒い。ウクライナで多くの人々がロシア兵に残虐に殺され、事と次第によっては第三次世界大戦も十分にありうる、と世界が最近にない緊迫下にあることもあってか。生前、自らの俳句や歌詠みを通じて平和を願い続けた亡きわが妻たつ江、すなわち「伊神舞子」が地上に容赦なき冷たい雨を降らせ、ニンゲンたちに改心を迫っているような、そんな気さえするのである。
 それでも、名古屋市ではこの日の朝、千種区の気象台敷地内にあるソメイヨシノの標本木で5~6輪が咲いているのを確認、名古屋地方気象台はこの日桜の開花宣言をした。ちなみに岐阜市では21日に開花、津市ではまだ開花の発表は出ていない。

 新聞の見出しは、きょうも【ロシアが対日交渉中断 平和条約制裁に反発か】【マウリポリ降伏ロシア要求 総攻撃前「最後通告」ウクライナ拒否】【チェルノブイリ退避の女性 キエフも追われ苦渋の日本到着】【全線再開来月20日ごろ 東北新幹線目標、損傷1000カ所】……と、いずれもロシアによるウクライナ侵攻はじめ、今月16日夜に宮城、福島両県を中心に起きた最大震度6強の地震に関するもので占められている。

 ロシアによるウクライナ侵攻はテレビでも連日、報道されている(NHKから)
 
 
 
 

 半面、そうしたなか明るい話題として【まん延防止全面解除 愛知・岐阜2カ月ぶり】の見出しが何よりも私たちをホッとさせたとでもいえようか。記事は「新型コロナウイルス感染症対策で東京や愛知、大阪など十八都道府県に適用されていたまん延防止等重点措置が二十二日、全面解除された。全国のどの地域にも適用されていないのは一月八日以来、約二カ月半ぶり。」といった内容で、このまま終息してくれれば、やっとコロナ禍の重しが取れるような、そんな気がしないでもない。とはいえ記事は「依然として病床使用率が50%を超えている地域もあり、政府は引き続き最大限の警戒を呼び掛ける」と注意喚起もする内容となっている。まだまだ安心は出来ないのである。

 愛猫シロちゃんに留守を頼んで眼医者さんへ。私の場合、このところは連日、目を使い過ぎでちょっと心配だった眼圧も「正常(右が18。左は17)で心配ありません」とのことでホッとした。こうした時、舞がいれば私は誰よりも先に「大丈夫だったから」と彼女に報告していたのだが。私は帰宅し舞の代わりに留守を預かるシロちゃんに「よかったよ」と報告したのである。
 そして。シロは事情をすべて察知でもしているように顔を上げ軽く甘えるような声で私に向かってウ、ウ~ン、ウンと言ってくれたのである。そういえば、生前の舞がいつも言っていたっけ。【あのねえ。シロは。シロちゃんは何でも知っているのだから。あなたのことだってよ】と。

(3月21日)
 春分の日。これまでなら、たつ江、すなわち私と舞の二人でいつも行っていたお墓参りに。きのう最初にたつ江のご両親の墓にお参りしたので、きょうは私の父が眠る和田霊苑に出かけた。霊苑で亡き父に花を供えたあとは霊苑横に立つ小島の親子地蔵尊にもお参りし、賽銭箱に賽銭を投げ入れ、いつも舞と並んでしていたように手を合わせた。
 碑文には「般若村に向かう旧道の東側、田圃の上高台に小島地蔵が祭られ、この地の人々の信仰を集めていた」とあるが、このお地蔵様こそ、かつて私の実家の道路ひとつ隔てたところにあったそれと同じ(そのご和田区が新しく、かわいいお地蔵さんとして作り直したようだ)ものに違いない。ガキ大将のころ、私が始終遊んだ道路を隔てたあの場所にあったお地蔵さんにほかならない。その証拠に私の実家の住所は今でこそ【愛知県江南市和田町……】と変わっているが、確か以前は【愛知県江南市大字和田勝佐字小島19番地】だったと記憶している。
 そして何よりも私の頭を離れないのが、この地こそが、かつてキリシタン狩りがあった現場だった、ということである。その証拠に地蔵尊の掲示板にはこうも書かれている。
――和田村の口碑によると、寛文年間(一六六一~一六七三)和田勝佐村でキリシタン狩りがあり、当地の小島で取り押さえられたキリシタンの親子が役人の手で仲を裂かれ泣き別れた地だと言う。後にこの宗徒親子を供養するため小島に地蔵様が立てられた。また一説にはこの親子は遠く九州天草から流れてきた宗徒だったとも伝えられている。……

 というわけで、私と会う前、少女のころに自宅近くの教会によく通いバプテスマ(洗礼)まで受けたことがある、とかつて私に話してくれた舞にとっても捨て置けず、気になるお地蔵さんだけに、ここ二、三年は和田霊苑に来るたびにふたりでお賽銭を投げ入れ、「俺たちの祖先、もしかしたらキリシタンだったかもしれないな」と互いに言いながら手をあわせたものである。そんな日もあったな、とここでも、また彼女のことが強烈に思い出された。

 和田霊苑横に立つ小島のお地蔵さまと説明文
 
 

 帰宅後、シロと一緒に先代猫のこすも・ここらが眠る裏庭の墓にも花を供えた
 

 夜。私が主宰するウエブ文学同人誌「熱砂」のオンライン編集会議を同人の住む各地を4元で結んで実施。テーマエッセイを黒宮涼編集委員提案による【勇気と努力】に決めたほか、各同人の最近の近況紹介や今後はどんな作品づくりに挑んでいくか。ほかに電子書籍への取り組みなど広範囲につき熱心に話し合い、有意義なひとときとなったのである。ウエブ文学同人誌「熱砂」は全国的にも最初に誕生したいきさつがあるだけに今後とも地道な活動を続けていくことを誓い合って終えたが皆さんすばらしい能力の持ち主ばかりだけに、コロナ禍の終息を機に今後はよりいっそうの努力を続けていくことを互いに約束し合ったのである。

 熱心な声が相次いだ「熱砂」のオンライン会議のひとコマ
 

(3月20日)
 午前中、地元の江南市福祉センターであった花霞町町内会の令和4年度第一回定時役員総会に出席、4年度は過去の経緯からも断るわけにも行かず「評議員」を引き受けることになった。総会終了後には全役員で近くの古知野神社へ。神前で安全祈願のお払いとご祈祷をして頂き、御神灯を前に二拝二拍手一礼を行い、昼過ぎに帰宅した。

 午後は平和堂へ。ここでお花を買って舞のお兄さんの手によりたつ江(舞)の遺骨の一部が分骨されている古知野霊苑へ。後藤家の墓碑に花を手向けた。舞とは、いつも春分と秋分のころに決まって花を手に彼女のご両親のお墓参りに来たものだが、まさか、ことしはこうして一人で来ることになってしまうとは、思ってもいなかった。
 それだけに、両手を合わせ、お参りをするうち涙がドッとあふれ出てしまい、私は涙の滴の止めようもなく【たつ江、舞よ マイ】と呼びかけたまま、その場に突っ伏すように崩れたのである。毎回、舞には手を引かれるようにしてお墓参りに来ていたのに。たつ江と一緒でない墓参り、そんな世の中なぞ、とても考えられないのである。

 そして。夜。私はNHKの大河ドラマ【鎌倉殿の13人「頼朝遂に鎌倉殿に! 宿敵清盛死す」】を見たあと、NHKスペシャル【ウクライナ深まる危機 民間人への無差別攻撃 水も電気もガスもない ロシア攻撃はどこまで 周辺国にも広がる懸念】を確認のため見たのである。出来たら、舞を伴って現場に飛んでいきたいところなのだが。そんなわけにもいくまい(第一、パスポートが期限切れになっている)。それにしてもプーチンのウクライナ侵攻は許せない。なんということなのだ。あなたはそれでも、【精力善用自他共栄】【柔よく剛を制す】を基本姿勢とする柔道家なのか。これでは、泣けてくる。彼の黒帯は即刻、はく奪すべきである。

2022年3月19日
 午後。マイカーで布袋のピアゴへ。ここで最近、よく入る店内ベルナールでパンひと切れを食べ、レモンティーを飲み買い物をして帰宅。道中、大垣共立銀行江南支店横の道路を通り過ぎるとき、かつてたつ江のATM入金に付き合って一緒にきたことを思い出し、思わず「ゴメン、ゴメンな」の言葉があふれ出た。「また泣く。何をまた泣いているのよ」と言われそうだが、私の口からは支店を横目にハンドルを手に次のような言葉が溢れ出ていたのである。
――たつ江。おまえは本当によくがんばってくれたよね。おまえは、世界一だった。本当に。ホントにありがとう。志摩で。北方(岐阜)で。小牧(社会部)で。能登で。大垣、大津、一宮で……。どこへ行ってもイヤな顔ひとつせず、どこまでも俺についてきてくれ、守り通してくれた。今からでは遅いがありがとう。ほんとうにありがとう
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 ノーベル平和賞に推薦する声が出ているゼレンスキーウクライナ大統領(オンラインで米連邦議会で演説するゼレンスキー氏)
 

 帰宅し、スマホでいつものようにヤフーの最新ニュースをチェック。すると、なんとウクライナのゼレンスキー大統領がロシアのプーチン大統領に対して「今こそ会って話す時がきた」と停戦に向けた首脳会談を呼び掛ける新たな動画を公開した事実が報じられていた。また欧州議会の議員ら36人がゼレンスキー大統領とウクライナ国民を2022年のノーベル平和賞に推薦する書簡をノルウェーのノーベル賞委員会に出していたことがわかったことも同時に報道されていた。ノーベル平和賞の受付は1月に既に終わってはいるが「民主主義と国のために闘う人を支援するのは我々の義務だ」としており、特例として今月末まで延ばすよう求めてもいた。いやはや驚いたというより、そうあってほしいと私は思ったのである。実際、こうした一連の動き事態が国際世論がゼレンスキーの側に立っている、その表れにほかならない。

 第94回選抜高校野球大会が前日の雨天順延により19日のこの日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開幕。倉敷工(岡山)の福島寛太主将(3年)が「大好きな野球が出来ることに感謝します。甲子園に立つ喜びを胸に最後まで諦めることなく正々堂々とプレーすることを誓います」と力強く選手宣誓、いよいよ春の到来である。
 旧満州(現中国東北部)出身で映画「ゴジラ」第一作や青春映画主演、ミュージカルでも知られた俳優の宝田明さんが14日、肺炎のため死去。87歳だった。宝田さんは過酷な戦争体験から反戦への思いを訴え続けた俳優としても知られた。
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 きのうは、このところ春の陽気には珍しい土砂降りの雨だった。でも、きょうは朝から上空に清々しい青空が広がり、きのう1日家で留守番をして大変だった愛猫シロちゃん(俳句猫、本名はオーロラレインボー)が早朝から外に出たがった。で、9時40分過ぎに「くれぐれも気をつけて」と声をかけ、いつものわが家の彼女専用の<上がり框>からお外に出す。

 窓を開けシロの行動を見ていると、彼女はさっそく裏庭にある先代シロちゃんたちの墓の方をひと回りして丹念に見回ったあと供花などに「ウン、よしっ」とうなづき、いずこともなく姿を消した。おそらく、白狐(びゃっこ)となって天空にいるおかあさんの元へ見えない大気をかき分け、かき分けして大急ぎで、その胸元に駆け付け、報告したに違いない。
 デ、帰宅して姿を見せる時は、またひとつ大きなおかあさん、すなわちたつ江の化身となって、わが家に姿を現すに違いない。このところ日に日にその顔立ちがおかあさんそっくりになってくるシロちゃんである。

 生前の舞に似て言葉少な、余分なことはめったに言わない彼女、すなわちオーロラレインボーは、外に出るたびに、何かしら秘密の宝をおかあさんから伝授され、大きくなって帰ってくるようだ。というわけで、シロちゃんは、こうした面で天国とこの世を行き来しているスーパー猫、大いなる猫ちゃんなのである(シロは、その後昼前に無事、帰宅した)。

 さて。けさの朝刊報道によれば、ロシアの侵攻が続くウクライナでは依然、ロシア軍の砲撃による民間人の被害が続いている。ロシアが3週間前に侵攻を開始して以降、ウクライナに撃ち込んだミサイルは1000発を超え、北東部ハリコフ郊外のメリファでは17日、ロシア軍による砲撃で学校などが被害を受け21人が死亡、25人が負傷した。首都キエフでも17、18日と砲撃による火災が相次ぎ死者も出ているという。また、2週間以上にわたってロシア軍の包囲が続く南東部マリウポリでは空爆を受けた劇場での救出が続き、これまでに130人が助け出された。
 一方、わが国日本では昨夜18日午後11時25分ごろに岩手県野田村で震度5強の地震が発生。その前夜、最大震度6強を観測した地震で脱線し区間運休している東北新幹線は高架橋や駅ホームの土台といった土木構造物の損傷が、その後の点検で20カ所に及んだことを発表。被害の全容把握にはなお数日かかるとみられ、全線開通は4月以降になりそうだという。一方で今回の震災発生により18日午前11時半時点で宮城、福島両県の計約4万3000戸がいまだに断水したままの状態が続いているという。

(3月18日)
 きょうは朝から冷たい雨。雨また、雨である。それにこのところ続いていた春の陽気が一変し、こ寒い冬に舞い戻ったような、そんな悪天となった。お天気次第とはよく言ったものである。わが家の愛猫シロちゃんも心なしか元気がなく、灯油ストーブ傍らの椅子に座ったままじっとして動こうとしない。
 午後。それでも私は雨のなか、一宮スポーツ文化センターへ、と出かけた。おまえのひと言がきっかけで10年ほど前、地球一周のピースボート乗船時から続けている社交ダンスのレッスンのためでブロンズ級のワルツとルンバの体得に励んだ。帰りは激しい雨が、名古屋弁で言う<だーだー降り>のなか、愛車パッソを運転して帰ったが、今にして思えば車種から車体の色の緑、グリーンまで全ておまえの好みで決めてくれたんだったけ、と思うと、なんだかこみあげるものがあったのである。

 目の前のフロントガラスに降り続ける雨の一滴一滴とて、おまえそのものだ。平和をむねとした俳句づくりに励んでいたおまえ、平和を希求し続けた俳人で歌人でもあったおまえなら今回のロシアによるウクライナ侵攻をどう詠んだのだろう。そう思うと、平和の使者といっても良かったおまえ、伊神舞子の存在しない今の世の中が残念な感じさえする。

 そして。中日新聞朝刊のきょうの見出しは16日深夜の地震をうけた【大揺れ「11年で3回も」 崩落、津波よぎる3・11 ●福島・相馬市】【●福島第一周辺 「原発大丈夫」安ど】【新幹線脱線 月内復旧厳しく 震度6強 宮城・福島断水3・4万戸 3人死亡180人超けが】【揺れ70秒 客も荷物も飛んだ「車体と体が浮いたよう」】はじめ、依然としてロシア軍によるウクライナ侵攻が続く戦争を扱った【数百人避難の劇場空爆 ロシア軍 無差別攻撃続く 国際司法裁が停止命令】といった内容が目立つ。
 そんななか、【まん延防止 全面解除決定 21日期限】【感染者同僚出勤制限せず 政府、コロナ対処方針改定】といったまん延防止解除に伴う記事がどこか、「やっと」との安堵からか。ホッとさせてくれるのである。このあたりの心理は誰とて同じに違いない。

 震度6強の地震を報じた夕刊各紙
 
 

 それにしてもロシアのプーチン大統領はよくない。彼は、とても「精力善用自他共栄」を基本精神とする柔道家とはいえない。講道館。すなわち日本の柔道界はそっこく彼の黒帯をはく奪すべきである。何の罪もない人々に銃口を向けるとは。正気の沙汰でない。柔道家ではなく〝ひよっこ〟でもある彼は一体全体、何を考えているのか。
 国際世論の高まりの中で彼は既に人の道を過ったばかりか、公正な判断力さえ失っているといえよう。そんな折も折、バイデン米大統領がプーチン大統領を名指しし「ウクライナに対して非人道的な戦争を始めたプーチンは人殺しの独裁者だ。生粋の悪党だ。団結して立ち向かわなければいけない」と発言。米プリンケン国務長官も「ロシアが近く化学兵器を扱う可能性がある」と述べ、こんごこれらの発言が、ロシアの侵攻にどう影響するのか。気になるところである。世界の平和はどうなってしまうのか。

(3月17日)
 たつ江。舞。そちらはどうですか。元気でやっていますか。なれましたか。

 こちらは、おまえが、この世を去ってからホントに次から次へと不幸な話ばかりが起き、なんだか嫌になってしまう。今から思えば、やはり、おまえと一緒にいたころが、とても幸せでよかった。なかでも志摩、岐阜、名古屋、小牧、能登、大垣、大津……と共に歩いた各地での日々は、ひとコマひとコマを忘れられない。お世辞でも何でもない。おまえは本当によく俺についてきてくれた。いまさら手遅れだが、あらためて感謝したい。

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 いやはや、この世はいろいろある。
 ロシアのウクライナ侵攻がこの先、予断を許さないなか、ウクライナのゼレンスキー大統領が16日、米連邦議会でオンラインを通じて演説した。17日付中日新聞によれば、同大統領はウクライナ上空への飛行禁止区域の設定や戦闘機供与を要求。犠牲者が増え続ける現状を訴え、直接的な軍事支援に消極的なバイデン米政権に翻意を促した。しかし、NATOがウクライナ上空を飛行禁止区域に設定すれば、区域に入ったロシア軍機とNATO軍が交戦する可能性があるため、実質的には「参戦」を意味する。ということもあって、米国やNATOはこれまで「第三次世界大戦は戦わない」と飛行禁止区域の設定を避けており、代替案として浮上した旧ソ連製戦闘機の供与も「ロシアとの軍事的な緊張を高める」として見送られたいきさつがあるという。
 これに対してゼレンスキー大統領は、この日の演説で米国が空から攻撃を受けた1941年の日本軍の真珠湾攻撃や2001年の米中枢同時多発テロに言及、「われわれはこの3週間、毎日、毎晩、同じ体験をしている」と述べ、これまでの支援に感謝しつつ「ロシアの侵攻を止めるため、さらに行動し新たな手段を取る必要がある」と訴え、バイデン米大統領に「世界のリーダーであることを望む。それは【平和のリーダー】ということだ、と呼びかけたのである。こうしたなか、バイデン氏は15日にウクライナへの兵器供与や人道支援などで136億㌦(1兆6000億円)の緊急支援を盛り込んだ予算を成立させ、8億㌦の間接的な軍事支援を表明見通しで、ロシアとの直接衝突に発展しない形での支援実施をするとみられている。

 ウクライナがどうなってしまうのか。心配しているさなかの昨夜午後11時36分ごろ、今度は宮城県と福島県で震度6強の地震が発生。気象庁によると、震源地は福島沖で震源の深さは約60㌔。地震の規模はマグニチュード7・3。津波注意報も出され、宮城、福島両県ではその後最大30㌢の津波を観測したが、幸い大事には至らなかった。
 一方、東北新幹線はこの地震で下りやまびこ223号が福島―白石蔵王間で脱線し、乗客75人と乗員3人が車内に閉じ込められたが、けがはなかったという。乗客は地震発生から4時間後に列車から線路に降りて徒歩で移動し、非常口から高架橋を出てバスで白石蔵王や仙台に向かった。その後の調べでは、この地震で宮城、福島両県で2人が死亡、けが人は12県で160人超に上ったという。

 というわけで、ウクライナ侵攻に世界の目が集まっているさなかの福島、宮城両県でのかなり規模の大きい地震発生には日本人のだれもがヒヤリとしたことは間違いない。で、それはそれとして岸田文雄首相はこれより先の16日夜、新型コロナウイルス対応を巡っての記者会見を開き、まん延防止等重点措置の期限を21日に迎える18都道府県について全面解除する旨を表明。「新規感染者はピーク時の半分程度で病床使用率や在宅療養者数も明確な低下傾向にあるからだ」とその理由を説明。「ただ、オミクロン株は致死率や重症化率がインフルエンザより高い」として当面は平時への移行期間と位置づけ、警戒を続けるよう呼び掛けた。ともあれ、コロナ禍におびえた日々からの脱却がいよいよ近づいた、と言ってよさそうである。

(3月16日)
 水曜日。小牧時代から何かとお世話になっている今は名古屋市在住の小畠辰彦さん(劇団小牧はらから元代表)が正午過ぎわが家へ。近くの中華飯店で昼食をともにした。彼は若いころから演劇の虫で、劇団「希望舞台」の由井數さん、玉井徳子さんのことなどに話が弾んだ。希望舞台といえば、以前、江南市内の永正寺で公演が実現した水上勉さんの原作「釈迦内棺唄」のことなどにも話が及んだが、その時主演した有馬理恵さんが「俳優座社長になられたよ」と聞き「へえ~、でも。良かった。これまで苦労したかいがあったよね」などと話が弾んだ。
 理恵さんはかつて私が新聞社のサンデー版と特報デスク長時代に私自身取材したことがあり、その後も長年、交流が続いた仲だけにつくづく良かったナと思った次第である。

 小畠さんと食事後は、車で買い物がてら大口町境の五条川へ。桜の名所でかつて舞と何度も訪れたところだ。それだけに、その五条川堤の桜が気になり立ち寄ってみた。まだ開花まではいかないが、よお~く見ると蕾が膨らみ、米粒ほどの白い花があちこちに出ており、いよいよ開花する時がきたなと実感。帰りに私と舞がかつて一緒に足しげく通った私たちの畑【エデンの園】へも足を運んだ。

 五条川堤では開花間近の桜が今か今か、という風情でいた
 

 舞とは、いつもこの頃になると、畑の様子が気になり、エデンの園にきたものだが。ことしは私ひとりだけで寂しくはあった。でも彼女がいつも抱きしめるような思いとまなざしで見ていた白梅は、ことしも見事に白い花々が天を突いて咲き誇っており、私は立ち止まって空を仰ぎ見「舞よ。マイ。まい」とお空の舞いに呼びかけ、「おまえ自慢の白梅はことしもしっかり花を咲かせているよ。ちゃんと咲いているから。安心して」と思わず、そう語りかけたのである。

 舞との思い出がしみたエデンの園の一角。梅の花は満開だった。かわいかった彼女はこの大地で私と一緒に玉ねぎやサツマイモ、西瓜などを収穫。チューリップや向日葵、マリーゴールドなどを育てたりもした
 
 

2022年3月12日
 わたくしは、きょうも空に向かって話しかける。「たつ江。舞よマイ。げんきか。げんきでいるか」と。

 土曜日。春の陽射しがベランダ越しに飛び込んでくる、まばゆいほどにキラキラしたおまえ、たつ江を思い出させる朝である。午前9時過ぎ。わが家の俳句猫シロちゃんの姿がない。何を思ってか。どこに行ったのか。忽然と家の中から姿を消してしまい随分と心配したのだが、それでも10時13分過ぎに居間のガラス窓に彼女の姿が明かりのように白く浮かんで写ったので室内に入れた。
 シロはチョット心配させてしまったね。ごめん-といった神妙な顔をして遠慮がちに室内に入ってきてくれ、心底からホッとした。やれやれ、というか。良かった、というのが偽らざる私の心境でもある。舞亡きあと、シロちゃんにまで目の前から姿を消されたら、私は一体全体、この先をどうして生きていけばよいのか。

 それにしてもシロ、すなわち彼女は一体全体、わが家のどこから外に出たのだろう。この家のどこかにシロだけが知っている秘密の抜け穴、いや「人道回廊」にも似たアジトでもあるのか(窓は全て開かないようにしてあったのだが)。シロがいなくなったことに気付いた私は、きょうの朝は彼女を外に出した記憶がない。それだけに、1、2階ともに室内外を探し回ったがどこにもいない。とうとうおかあさん、すなわち舞の手引きで白狐(びゃっこ)となって外に出たに違いない。何か人には言えないふたりだけの秘密の話があったのかもしれない。とはいえ、戻ってきてくれたのだから。ここはよし、として、それ以上は聞くまい。それにしてもシロちゃんの存在感の偉大さを、またしても思い知らされたのである。

    ☆    ☆
 東日本大震災から11年が過ぎたが、ロシアによるウクライナ侵攻は相変わらず続き、ロシアのウクライナ包囲軍は三方向から首都キエフ中心部まで15㌔に迫っているという。新聞各紙とも【東日本大震災11年 思いは、ずっと 14:46 宮古の防潮堤で祈り】【まん延防止 感染微増でも解除 政府提示分科会が了承 医療負荷低下なら経済配慮】【村岡3個目の金 通算4個目 日本勢最多 アルペン大回転 北京冬季パラリンピック】(中日12日付)、【東日本大震災11年 祈りは消えない 追悼式縮小相次ぐ 避難者今も3万8139人】【強制不妊 東京も原告勝訴 高裁2例目 救済範囲拡大】(毎日12日付)の見出しと並んで【ロシア軍キエフまで15㌔ ハリコフ核施設再び攻撃】(中日、12日付)【露、キエフまで15㌔ ウクライナ侵攻 核研究施設に攻撃】(毎日、12日付)とウクライナものの見出しが躍っている。
 そこへきてきょう12日になり、米国のバイデン大統領が「米国はロシアを貿易上の優遇措置である最恵国待遇から外す」と表明。世界は混とん、一歩間違えば第三次世界大戦もありうる深刻な事態となっている。ここは何よりも、ロシアのプーチン大統領が自らの非を認め、世界に対して非を詫びるほかないのではないか。世界中がいま、深刻な事態となっているのである。罪のない多くの人びとが犠牲となり、戦禍の苦しみに立たされているのである。

 そういえば私は先日、日本ペンクラブ(桐野夏生会長)から送られてきた「国際ペン-世界の作家のウクライナに関する声明ー」に署名しておいた。声明の内容は次のようなものである。記録としてここに残しておこう。
-私たちは団結して、平和を求め、暴力を煽るプロパガンダをやめるよう求めます。私たち世界の作家は、ロシア軍がウクライナに対して行っている暴力に驚愕し、流血の終結を緊急に求めます。私たちは、ウクライナの人々がモスクワの干渉を受けずに自国の忠誠と歴史を議論する権利を認めようともせず、プーチン大統領が無意味な戦争を行ったことを非難するために団結します。私たちは作家、ジャーナリスト、アーティスト、そして最も暗い時間を生きているウクライナのすべての人々を支援するために団結します。私たちはあなた方の側に立ち、あなた方の痛みを感じています。すべての個人は、平和、表現の自由、集会の自由の権利を持っています。プーチンの戦争は、ウクライナだけでなく、世界の民主主義と自由に対する攻撃です。自由で独立したウクライナなくして、自由で安全なヨーロッパはありえません。平和が勝利しなければなりません。

(3月11日)
 金曜日。
 本日付の中日夕刊見出しは、【大切なあなたへ思いはせ 何でもっと感謝を伝えておかなかったんだろう 東日本大震災11年】【東日本大震災11年 とにかく逃げろ 届け教訓 岩手・大槌 消防団員が津波に…思いつなぐ半鐘 岡崎から】【コロナ関連死1820万人 国際チーム推定「各国集計の3倍」】【感染者高止まりでも まん延防止解除可能 政府案、医療負荷を重視】【核研究所 ロシアが再攻撃 チェルノブイリは通信遮断】といった具合。

 午後。社交ダンスのブロンズ級ワルツとルンバのレッスンのためマイカーで一宮のスポーツ文化センターに向かう。道中、車内ラジオからは東日本大震災11年目の各地の表情が流れている。三陸沖を震源とする国内観測史上最大となる最大震度7を観測する、マグニチュード9・0の大津波が東北一円の海岸線を襲い、そこに居た人間たちの命はじめ家屋や学校など、ありとあらゆるものを流し尽くしてしまった11年前のこの日もまた、金曜日であったと報じている。悪夢と化した東日本大震災は午後2時46分に起き、まもなく福島第一原発事故も発生。多くの人たちが波にのまれ、放射能に汚染され、故郷での生活を断念せざるを得なくなったのが、まさにこの日なのである。
 ラジオから流れる名取市閖上(ゆりあげ)地区はじめ双葉町、浪江町、大熊町、富岡町、いわき市、南相馬市、小高町、楢葉町、飯舘村、さらには仙台市、山元町、多賀町……と私自身再三、出向いたところばかりだけに、懐かしさと同時に郷愁のようなものさえ感じたのである。

 大震災11年目のこの日。私自身、かつて再三訪れたいわき市の海岸線には亡き少女デザインによる幸せの黄色いハンカチが掲げられた
 

 絵を描くのが大好きだった鈴木姫花さん(当時10歳。いわき市立豊間小4年)=NHKから
 
 

 一方の新型コロナウイルスの感染急拡大。ここにきて感染拡大の勢いこそ、少し衰えてはきたものの日本では第6波がいまなお進行、コロナ禍は依然、不気味な顔をしてこの地球上に這いつくばるようにして居座っている。そんな中、このところは連日報じられているように、ロシア軍がウクライナに一方的に侵攻。実に二百万人以上が祖国を離れ隣国に避難するなど大変な事態なっている。
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 そして私は、といえば、だ。頼りの妻たつ江、すなわち伊神舞子を昨秋10月15日に失い、今なお悲しみと喪失感にくれる日々を過ごしている。頼りの妻が消えてしまったなか、私たち家族は今、手と手を携え、生きているのである(こう書いたが愛する彼女、たつ江・伊神舞子は私たちの心のなかで永遠に生き、私たちを励まし勇気づけてくれているのも事実だ)。
 幸い、おかあさん、すなわち舞がこよなく愛しかわいがっていた愛猫シロちゃんが健在なのは心強い。私は日々シロを相棒に、こうして生きていくのである。いつも私に寄り添うようにして居てくれるシロちゃんを見るにつけ、私はもしかしたら、彼女は舞の化身ではないかと。そのように思ってしまう。かわいく、聡明な猫ちゃんなのである。

 さて。手元に【大震災関連 被災地へ 2011年3月26日】と書かれた一冊のノートがある。表紙には「電気もない 水道もない プライバシーもない 今住民が何を求めているのかをしっかり判断し先手を打っていく」と走り書きがされている。
 ページを開く。こう書かれていた。
--午前十一時二分。新幹線「のぞみ」車中。何も言わないで。ただ黙って現場を見、被災者の表情に触れようと思い、家を出た。新聞記者として、かつて誰にも増して多くの被災現場に出向き歩いてきたが、今回は退役記者、すなわち一人の人間として、そのなかにホンの一歩でも体を置くことができれば、それでよいと思っている。
 朝。「行ける所まで行き、帰ってくる。それで良いと思っている」そう舞に言うと、彼女は私が現役記者だったころ、そのままにひとつ返事で「あゝ、いいわよ」と笑顔で応えてくれた。……

 この先のことは、わが著「ピース・イズ・ラブ 君がいるから」(人間社文庫)の中の【海に向かいて-前・後編 脱原発社会をめざして】に書かれているので、そこを読んで頂けたら、と願う。それから。私が以前、自らの被災地行をユーチューブで発信した【大震災から3年】被災地と塩屋埼灯台/一匹文士・伊神権太】を検索していただいても良い。

2022年3月10日
 きょうは、77年前に10万人もの命を奪ったB29による、あの米軍による忌まわしい東京大空襲があった日である。またきのう9日に投開票された韓国大統領選は保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユンソクヨル)前検事総長(61)が当選。尹氏は日本を経済や安全保障のパートナーとして重視する姿勢を示しているだけに、このところ冷え込んでいた日韓関係改善の機運が生まれる可能性があるという。

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 東日本大震災から11年。今も行方不明者は2523人に及ぶ(NHKの正午のニュースから)
 

 あす11日は東日本大震災が発生(午後2時46分)し同時に福島第一原発事故がメルトダウン、原発事故を起こしたあの時から満11年の忘れられない、まさにその日である。私自身、大震災が発生してまもなく被災地を訪ね、その後ことあるごとに現地に何度も足を運んできた。それだけに、あの惨状と復興に至る苦難の歴史は痛いほど骨身にしみている。今は亡き私の妻たつ江は当時、脳腫瘍の手術をするなど病魔と戦っていたが、そのつど笑顔で私を送り出してくれ、そのおかげもあって、私がその後被災地の現状にある程度詳しくなったのも事実かと思う。

 ところで。そのかわいいたつ江。舞よ、マイ。おまえは今、一体全体どこにいるのか。きょうは春の陽射しが朝からとても温かく、朝のラジオ放送によれば、なんでもこの地方、尾張名古屋は14~15度までに温度が上がりそうだと言っていた。事実、おまえの大好きだった春が刻々と近づき、桜の開花もそんなに遠くはない。陽射しがキラキラとまぶしく、光りの一粒一粒が俺にとっては、おまえそのものなのである。
 それにしても、おまえが旅立ってからというものはオミクロン株によるコロナ禍の感染急拡大に伴う新型コロナウイルスの感染第6波に始まり、瀬戸内寂聴さんらの死などを経て、最近のロシア軍のウクライナ侵攻と次から次に不幸なことばかりが連続して相次いで起きている。なぜなのか。もしかして、おまえのせいなのか、と。ありもしないことを真正直に思ったりもする日々を過ごしている。
 とはいえ。それでも舞が生きていてくれさえしたなら、だ。どこかギスギスしている世の中はむろんのこと、わが心も、それなりに少しは安らぐであろうことも、また事実である。

 というわけで、けさの新聞も【チェルノブイリ原発停電 ロシア占拠 非常電源48時間 IAEA「冷却問題ない」】【キエフ3方向包囲へ 国外避難200万人超す】【輸入小麦17%値上げへ ウクライナ侵攻 高騰に拍車】【米、ロシア原油即日禁輸 英は年内に、EU加わらす】(10日付、中日)といった具合で、やはりウクライナとロシアに関する記事が多い。戦争などは愚の骨頂である。聴けば、私もかつて訪れたことがあるトルコ南部のアンタリヤでロシア、ウクライナ両外相による会談が始まるという。ここは、戦争回避への道につながるよう、切にのぞみたいところだ(その後、この会談は終了し、ウクライナのクレバ外相が記者会見。ロイター通信によると、停戦に向けた進展はなかったが、また会談する用意はあると話したという)。

 迫るロシア軍 首都包囲への解説映像など(NHKニュースから)
 

 

 

(3月9日)
 本日付夕刊は【米ロシア原油禁輸 英も年内に石油製品ゼロ NY原油13年7カ月ぶり高値】【外国人900人超退避を発表 ロシア軍 主要都市へ総攻撃準備か】(中日)、【<ウクライナ侵攻> 露、一時戦闘停止を発表 キエフなど「人道回廊」周辺】【NATO早期加盟「断念もありうる」ウクライナ与党】【米・英 ロシア原油禁輸 EU 依存脱却方針発表】(毎日)といった具合。ウクライナ関連記事が満載されている。

 中でも中日夕刊で【「海で空で畑や道の上で、最後まで戦う 英下院でウクライナ大統領】の見出しが目に留まったので、その記事の一部を以下、ここに紹介しておこう。記事は次のようなものだった。
――【ロンドン=加藤美喜】ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は8日、英下院でビデオ演説し、「われわれは決して屈しない。海で、空で、畑や道の上で、どんな犠牲を払っても、われわれの土地を守るために最後まで戦う」と述べ、支援を訴えた。第二次世界大戦中の1940年6月、ナチスドイツと戦う覚悟を示したチャーチル英首相の有名な演説を用い、不屈の精神を示した。
 ゼレンスキー氏は英劇作家シェークスピアの「ハムレット」の名言も引用。「生か死か、問い続けてきたが、今は迷わず『生』を選ぶ」と、必ず勝ち抜く意志を述べた。英国に対しては、ロシアへの制裁強化と「テロリスト国家」の指定を要望。「どうかわれわれの空を守ってほしい」と、ロシアの空爆を防ぐための飛行禁止区域の設定も重ねて求めた。
 約10分の演説が終わると満場の下院は総立ちで拍手を送った。外国の首脳が英下院で演説するのは初めて。英メディアは「歴史的演説」「西側の民主主義国家を結束させる内容」と称賛。ジョンソン首相は「演説はすべての英国民の心を動かした。英政府はウクライナへの武器供給を推進し、ロシアのプーチン大統領周辺への経済制裁を強化していく」と強調した、とある。
 人びとの胸に迫るなかなか良い記事であった。

 そして、きょうの朝刊といえば、だ。新聞は【ウクライナ 人道回廊初の住民退避 スムイで12時間停戦 解除後、戦闘激化の恐れ】【「子を守る」母の闘い 夫残し 命懸け出国】(中日)【人道回廊開設 避難始まる 仏独中首脳は会談 ウクライナ 露集結の全部隊投入】【露、日本を非友好国指定 債務「メープルで返済」米欧なども】(毎日)と当然のようにウクライナ関連記事で埋め尽くされていたが、8日の国際女性デーにちなんだ【<声をつないで>ジェンダー差別・暴力 許さない 名古屋ウィメンズマーチ】(毎日)の記事も目立った。

 いずれにせよ、世界の目がいまウクライナに注がれていることは間違いない。そんななか、私はけさスマホをチェックしていて「NEWSウクライナ・ロシア現地から」なるサイトに気付き目を走らせたのである。発信を続けるサシャさんは、こうつづっている。
「ロシア兵が来れば、僕も戦場に行く。怖くはない。プーチンの好きなようにはさせない。これからは情報の戦いになる。でも全然足りない。いつ召集がかかるか分からない。そうなったらもう更新はできないかもしれない。」と訴え、こう続けた。
「それでも、私がいなくなってもチャンネルは情報を伝え続ける。リアルな状況を知る人が多ければ多いほど、そして早ければ早いほど、いいと思っている。どうか私たちのことを知って一緒に『戦争反対』を言ってほしい。広く知らせてほしい。さもないと、この戦争は世界に広がり、安全な場所はなくなってしまうかもしれない」と。

(3月8日)
 ロシア軍の一方的とも言える軍事侵攻で日々、ウクライナの人々が多大な被害を受けているこの問題は国際世界の目が注視するなか、一向に改善の方策が見いだされないまま事態は悪化の一途をたどっている。ニュース報道によれば、渦中にあるウクライナでは4200万人いる国民のうち実に173万人が隣国のポーランドやモルドバなど国外に避難した、という。

 夜。NHKの【クロ―ズアップ現代+最新報告・ウクライナ】を見る。そこには祖国を、ふるさとを守るため家族と離れ離れになりながらもウクライナに踏みとどまり、命をかけ戦う人々の悲壮な姿があり、私は家族やふるさとを思う人間の気持ちは、どこも同じであることをあらためて痛感したのである。同時にそんな人間同士が殺しあいをする、だなんて。許せない、とも思う。
この世に生きるだれひとりとして命を奪われるなどと思ってはいない。なのに、である。ニンゲンとは愚かで困った生きものだ、とつくづく思う。私はウクライナの悲惨な状況を新聞やテレビの画面で見るにつけ、困惑。出来れば、今回悲惨な事件の火種、張本人と言ってもいいロシアのプーチン大統領は一体全体何を考えているのか。直接、会って詰問してみたくも思った。
 それはそうと、ウクライナとロシア双方がもっと打ち解けて話し合うすべはないものか、と真剣に考えてしまう。プーチンよ。あなたがもし可能だと言うのなら。わたしと直接、話をしようじゃありませんか、と。本気でそんなことまでも考えるのである。

 というわけで、本日8日付夕刊見出しは【決死でウクライナ逃れた人のために 独ベルリン広がる支援 「うちへ来て」命の避難所】【「人道回廊」実現へ調整 3回目交渉 停戦合意できず】【170万人国外避難 欧州最悪の難民危機】(中日)、【人道回廊再設置で一致 露・ウクライナ 停戦協議は難航】【緊急の人道支援必要 安保理会合 国連担当者報告】【国境周辺の全露軍投入 米高官分析シリアで傭兵勧誘か】(毎日)というものだった。

 そして。けさの新聞も【侵攻後初 外相会談へ トルコで10日 ロシア・ウクライナ 停戦交渉3回目開始】【薬が全く足りない 国境周辺】【寄付は安心できる団体で 救援金の主な受け入れ団体 日本赤十字社・難民を助ける会・国境なき医師団・日本ユニセフ協会・国連WFP】【米欧、ロシア原油禁輸検討】など。ウクライナ関連一色である。
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    ※    ※
 舞が逝ってしまってから5カ月がたとうとしている。わたしにはコロナのオミクロン株に始まり、このところのロシアのウクライナ侵攻など何もかもが、おまえが起こしているような気がしてならない。そこへ、西村賢太の急逝が降ってわいた。俺はこれら事象の全てをお前が糸を引いて起こしているのではないか、と。ありえないことではあるが、そんな錯覚までを起こす毎日である。

(3月7日)
 きのう3月6日は、私の誕生日。こういう日は正直、とても苦手だ。舞が生きていたころは彼女も私が妙なところで恥ずかしがることを十分心得ていたので【きょうは、誕生日よね】などと晴れやかにわざわざ言うなどといったことは、いっさいなかった。でも、夕飯にこともなげに舞手づくりの赤飯というか、おこわが出てきたりすると私は「ありがとう。わざわざ、すまんな」とだけ礼を述べたものである。
 そのかわいい彼女が、もはや目の前にはいない。ホントにいない。この世から消えてしまったのである。私は、もしも【愛】という字がこの地上にひとつしかない、としたなら。私はその【愛】を文句なく、たつ江に与える、そんな熱い気持ちで、これまで一緒に生きてきた。だから、地球じゅうの悲しみを集めても、たつ江の死の悲しさにはかなわない、と。そのように、思っているのだが。現実は、そうではない。
 ウクライナでは、私がこのように書いている今も、罪なき多くの人々が夫ら肉親と引き裂かれ、離れ離れで明日をも分からないなか、わが子を抱きかかえ隣国に逃れているのである。いったい何たることなのだ。こんなニンゲンを一体全体、誰がつくったのだ。と、私はつい怒鳴りたくなってくるのである。

 そういえば、私は私自身の誕生日にふれたが、私は母親の胸に抱かれ、日本に帰ってきた引き揚げ者の一人である。日ロ不可侵条約を一方的に破り日本人街に攻め込んできたロスケ(亡き父は、ロシア人のことをいつも軽蔑してこう言っていた)たちに追われ、女たちは皆、頭を丸坊主にしてコーリャン畑を逃げまわった終戦後の満州。その時、私は逃げる母の胎内にいたのである(この物語を、私は私なりに【戦争胎感覚文学】と言っている)。その後、奇跡的に父と再会できた母と兄たち家族は運よく引き揚げ船で日本の舞鶴に帰国したのである。
 このあたりの事情については私の著作・記者小説集【懺悔の滴】(人間社)のなかの<砂子>を読んで頂けたら詳しいが、そのホンの一端だけを、ここに書き記しておきたい。
――昭和二十一年三月六日。零下二〇度以下の日も珍しくない当地の官舎でボクは生まれたという。官舎がどこにあったのか、は詳しく突き止めることはできない。しかしここら辺りをおくろの胸に抱かれ、行き来したに違いない。そう思うと、ボクの目からは、とめどもなく涙があふれ出たのだった。(227頁)……

2022年3月5日
 本日付の夕刊紙面は【ロシアでの報道活動 欧米メディア停止相次ぐ BBC・CNN「記者拘束リスク」 FB・ツイッターは遮断】【原発攻撃非難集中 安保理会合やG7 停戦協議 一両日中にも】【北 弾道ミサイル発射か 今年9回目、日本海に】(中日)【原発攻撃 露非難相次ぐ 安保理緊急会合 欧米「国際法違反」】【ロシア報道規制強化 BBCやCNN業務停止】【➡G7外相「更なる制裁も」】(毎日)といった内容。ロシアでの報道規制がいよいよ始まったナ、というのが私の率直な実感である。

 ロシアに攻撃されたザボリージャ原発の位置図(NHKのニュース報道から)
 

    ※    ※
 ハンドルを手に運転をしながら私はきょうも、誰もいない車内で恥も外聞もなく3回、大空に向かってありったけの大声で叫ぶ。【たつ江、たつ江、たつえぇ~。おまえは一体全体どこに消えてしまったのだ。おまえがいなきゃ、生きてなんかはおれないじゃないか。いたくもないよ】と。
 私はそこまで言うと、どっとあふれ出る涙をふこうともせず大空にポッカリと浮かんだ舞の霊に向かって言う。「でも、俺は、こうして生きているじゃないか。なぜか。なぜなのだ」と自らに向かって自嘲の鐘でも鳴らすように言う。「生きてなんかはおれない」と。そう言いながら、私は生きているのである。その一方で命ある限り、おまえとわがこどもたち家族を支えに生きていかなきゃならない、とも思う。随分と勝手な奴だな、と我ながらあきれ返りもする。

-でも、ウクライナの人たちのことを思えば、おれたち家族は愛するおかあさんに先だたれはしたものの、まだまだ十分に幸せだ。いや、確実にそうだと思う。いまだって、いつも子たちに温かく励まされており、<あなた、そうよ。十分に幸せよ>と誰かが天から、そうささやきかけてくる。そして何をいつまでも、めそめそしているのだ。恥ずかしくないのか、とも。
    ※    ※

 春3月。名古屋地方気象台によれば、きょうは、この地方にことし初の春一番がふき、冬ごもりしていた地中の虫たちが穴からはい出てくる啓蟄でもある。おまえの口癖でもあった【あのねえ。シロちゃんはネ。シロは何でも知っている。知っているのだから】のシロちゃんは、午前10時過ぎに、快晴の空の下、いつものように居間の縁側から意を決する如き表情でお外に出、昼過ぎには、「ウ、う~ん」と甘えたような声をあげ、どこかしら満足したような顔で帰ってきた。
 そして彼女、シロが家を出るホンの少し前に、これは私の錯覚かも知れないのだが。私がいる居間の一角を、またしてもスウっと影法師みたいなものが横切った。おまえが、いつものようにシロを迎えに来たからに違いない。そう確信したので私はシロちゃんを外に送り出したのである。
 シロよ、シロ。きょうは天気が良いので、おかあさんと十分話し合ってくるがよい、と。

 おかあさんとは、いつだって一緒なのだから、と言うシロちゃん
 
 
 

 さて。ちまたは、といえばである。
 いま世界は。感染拡大の勢いが、少しは衰えこそしたものの依然としてコロナ禍の第6波さなかにあるばかりか、ロシアのウクライナ侵攻と大変なことになっている。おまえは、こうした醜い事態を想定しつつ、ひと足早くこの世との縁を断ち切ってそちらの方に旅立ったのか。そのことは分からないが、なんだか、そんな気がしてならない。
 デ、けさの新聞の見出しは【ロシア 原発砲撃、占拠 稼働中 線量異常なし ウクライナ「人道回廊」両国合意】【ウクライナ原子力が50%超 ロシア電力停止狙う プーチン大統領「核武装防ぐ」と主張】【EU(欧州連合)難民の保護合意】【<核心>戦火の原発 惨事の危機 識者「周辺施設でもリスク大」】【「核テロ」震える市民】【北京パラリンピック開幕 侵攻、分断……揺らぐ原点】【原発避難 東電の賠償初確定 最高裁 国の責任 夏にも統一判断】(いずれも5日付中日朝刊)といったもので、このままだと世界が暗黒の泥沼に手を染めかねない、そんな状況下にあるのである。

(3月4日)
 朝。ベランダに立つと、春の陽すなわち、おまえの魂からの光りが真正面から降り注いでくる。ありがとう。たつ江。舞よ、マイ。きょうは良い天気だ。おまえは、いま。この宇宙のどこいらに居るのか。そういえば、つい先ほどおまえの愛するシロちゃんが外に出たが、今は相変わらず宇宙の一点となり、白狐のシロとなって、おかあさんと一緒にいるのかな。いずれにせよ、この冬は、風もつよく、とても厳しく、寒く、長く感じたが、きょうは13~14度まで上がりそうで洗濯物が干されているベランダには春の陽光が降り注いでいる。のどかな日だ。

 それはそうと、ロシア軍がウクライナ最大規模の原子力発電所ザ・ポリージャを攻撃したとのニュースが昼過ぎ、NHKのニュースで流れてきた。なんたることだ。専門家によれば、もし原発が爆発でもしたらチェルノブイリ原発事故の10倍の被害となり、ヨーロッパ全土が放射能汚染にさらされる危険が十分にあるという。というわけで、ロシアの原発攻撃は極めて危険な行為だけに、ただちにやめるべきだ、というのは国際社会に一致した声であることは当然である。

 というわけで、けさの新聞もロシア軍のウクライナ侵攻が中心で、同時にこの日開幕する北京冬季パラリンピックについて国際パラリンピック委員会が3日、ウクライナに侵攻したロシアとロシアに同調するベラルーシの選手の出場を認めないことを決めた-などといった報道が目立つ。具体的には【国外避難100万人超 露、南部へルソン制圧 侵攻1週間】(毎日4日付)【賛成141カ国国連非難決議 ロシアの孤立鮮明】【ロシア選手ら1転除外 北京パラ開幕直前 他国選手の抗議受け】(中日4日付)といった具合だ。

 話は変わるが昨日、私の知らない名古屋市南区の女性から心温まる手紙をいただいた。封書を開くと次のような内容だった。
ーー拝啓 伊神先生 初めてお便りさせていただきます。名古屋市昭和区にお住まいでした「嶺田久三先生」率いる「ばあちゃん合唱団」の会員(昨年12月解散)の齋藤千代子と言うものでございます。私は4年前に入団しました。私事ながら右手親指付け根を痛めて字を書くのが少々困難。PCでごめんなさい。
 「愛のラブバード」から、伊神権太先生を知りました。「一匹文士、伊神権太がゆく人生そぞろ歩き」は、いつも拝読させていただいてます。先生の奥様を思いやる愛情のすばらしさ。脱帽です。奥様はお幸せですね! 勝手に先生と呼ばせて頂きます。お許しくださいませ。話が飛び飛びになりますが、ばあちゃん合唱団では嶺田先生がピアノを弾いて下さり月に2~3回。美声? を発揮し楽しい時間を過ごしました。(略)
 一番の悲しみは昨年11月30日(火曜日)。久々の練習日を最後に嶺田先生との練習が出来なくなってしまった事です。嶺田先生は沢山のお話もして下さいました。12月7日(火)次回の練習日もお約束してましたのに嶺田先生は12月6日お一人で天国に旅だたれてしまわれたのです。ばあちゃん合唱団は嶺田先生と馬嶋静子さんとで立ち上げられたとお聞きしてます。会員のどなたもきっと寂しさと辛さの胸中で新年を迎えたのかと察しています。
 私は「愛のラブバード」一度も唄っておりません。Youtubeで「ばあちゃん合唱団、愛のラブバードを世界に発信」で聞きました。そこには「ラブバード・カトマンズ(伊神権太作詞)」曲も嶺田先生が歌いやすく音階を全体に低く、差し替え新曲に生まれ変わった。と書かれていました。
 伊神先生、名古屋のばあちゃん合唱団、覚えて下さってますでしょうか。……すみません 生意気な事言って。伊神先生にお便りなど、と。2ケ月間躊躇してました。でもどうしてもと思い、弥生の初日PCの前にいます。(中略)
 最後に馬嶋静子さんもお会いしたいと申しておりました。

 私はおまえ、たつ江が生きていたなら、だれよりも先にこの齋藤千代子さんから届いた手紙のことを伝えるに違いない。何よりも、本欄をお読みになられたお方がいたら、本欄ウエブ『熱砂』のWORLDWINDOW欄【名古屋のばあちゃん合唱団、愛のラブバードを世界に発信】またはYouTubeで「ラブバード・カトマンズ」を検索し、聴いて頂けたらと願う。
 それから。齋藤千代子さま。私も大変お世話になり、尊敬させて頂いている嶺田さまが昨年暮れになくなられたことは馬嶋さまからの連絡で承知しています。嶺田さまが、名古屋のばあちゃん合唱団生みの親で献身的に引っ張られてこられたことは十分、承知しています。私も本当に残念に思います。ご愁傷様でした。私は、これ以上はどういって良いのか分かりません。ただ嶺田さんが名古屋のばあちゃん合唱団のことを思い献身的に努力なさったことだけは、本欄「熱砂」紙上でも、こうして心より触れさせて頂きたく思っています。本当にありがとうございました。

 そして。きのう3月3日のおひなさまの日に私は、ピースボートの船友仲間がしたように国連UNHCR協会にウクライナの人びとへの救済基金を僅かながら寄付させていただいたのである。

(3月3日)
 世の女性の日、どこかウキウキする。お内裏さまとおひなさま。五人囃子の笛太鼓……おひなさまである。舞が生きていた時には、いつも「おまえの日だよね。おめでとう」と決まって話しかけたものである。私自身、おひなさま即ちたつ江、舞の日だと決めており、この日はわずかではあるが感謝の気持ちを込めてケーキや花などを買ってきたものである。
 彼女もそれなりに玄関先などに、ひな人形を飾っていた。この日はまんざらでもなさそうで、どこか、おしとやかで内裏雛みたいだった。その舞の姿は、もはや、今はない。

 きょうは、天気も良く春の陽光が朝から降り注いでいた。このところ、左肩から背中にかけ時折、チクチクと痛むので、事前に前々から息子が用意してくれていた薬を飲んだ。先日、コロナのワクチンの3回目の接種(1、2回目のファイザー社製ワクチンと違い、今回はモデルナ製)をしたので、その副反応のような感じがしないでもない。

 それはそうと、3年目に入ってもなかなか終息しないコロナ禍といい、つい最近の侵略そのものと言っていいロシアのウクライナ侵攻と言い、名古屋弁で言えば【どえらい世の中になってまった】と思う。
 そのあかしとでもいえようか。きょう3日付の中日朝刊は【愛知など15都道府県延長 まん延防止 三重含む11県解除 政府2週間軸に検討】【市民2000人超が死亡 ロシア侵攻後 ウクライナ発表】【トヨタ ロシア工場停止】、毎日朝刊も【民間人の犠牲広がる 露、市街地を攻撃 ウクライナ「2000人死亡」】【停戦協議近く再開か】【非難決議100カ国超賛成 国連採択へ 露、孤立深まる】というものだった。
 そして。このところは、これら見出し以外にも新聞には【露、首都テレビ塔攻撃 ウクライナ侵攻 情報戦も激化】【「独裁者に侵略の代償を 一般教書演説 バイデン氏、露批判】【国際決済 露7行排除 米報道 最大手は含まず】(毎日2日付夕刊)【露 キエフ包囲の構え 市内攻撃を警告 ウクライナ侵攻 停戦協議2日再開】【G7、制裁で足並み 財務相会議 ウクライナ支援】【プーチン氏資産凍結 日本追加制裁 政府機関禁輸】(毎日朝刊2日付朝刊)【キエフのテレビ塔攻撃 ロシア軍 病院砲撃報道も】【NY原油急騰 一時109㌦台】【バイデン大統領「侵略の代償を」 一般教書演説で非難】(中日2日付夕刊)【ロシア制裁企業も呼応 英シェル サハリン2撤退】【停戦交渉継続キエフ包囲の構え】(中日2日付朝刊)といった調子で、ロシアのウクライナ侵攻を中心とした活字が紙面いっぱいに躍っている。

 それにしても、プーチンは頭がおかしくなったのではないか。そう思わざるを得ない。権力者は、やはり良くない。権力を手にすると、自身が分からなくなってしまう。まず何よりも謙虚さが失われる。彼は日本の柔道をやっているというが、これでは講道館の柔道が泣いてしまう。〝柔の道〟すなわち、柔道の根本精神は<柔よく剛を制す>はむろんのこと、何よりも【精力善用 自他共栄】である。
 プーチンは、その精力を一体どこに使っているのか。小は大を制すはずの〝柔の道〟が、大が小をいじめる、なぞとはもってのほかだ。本来あるべき柔の道の精神は一体、どこへ行ってしまったのか。同じ柔道をたしなむ私としてはプーチンのこの姿勢は嘆かわしいばかりなのである。一度組み合ってみたく思う。おそらくプーチンなぞ、組んだ瞬間に、アッと言う間に私に投げ捨てられるに違いない。
 ウクライナへの侵略戦争そのものといっていいロシアの今の状況が続くのなら、プーチンの黒帯をはく奪して当然だ、と思うのである。今回のウクライナ侵攻はオリンピック精神にことごとく反する暴挙といえよう。私、伊神権太は、こんなプーチンを見ていて恥ずかしくなるのである。

--話は変わるが、きょうはかつての社交ダンス仲間から、とても微笑ましく、かつ美しいお雛さまの動画がラインで送られてきた。それこそ、日本文化を代表する<お雛さま>の画像で、私は思わず、その美しい映像の世界に魅せられ、入っていったのである。

(3月2日)
 春がきた。でも、いつも傍らに居てくれたおまえ、すなわち可愛かった、たつ江、舞の姿はもはや、ここにはない。とはいっても、舞は私の胸の中、こころにいつだっていてくれるのである。私は、きょうも仏壇に手を合わせ、こう呼びかける。
「たつ江、舞。まいよ、マイ。元気でいるか。きょうも楽しくいこうな。俺はいつだって、おまえをこの世の中でイッチパーン愛している。抱きしめ、抱きしめ生きている。だから天界にいるおまえを守り続ける。幸い、おまえの自慢でもあるシロちゃん、白猫俳句の俳句猫、白狐の彼女も元気でいるから。心配しないでいい。その代わり、おまえも俺たちを守ってくれよな。お互い日々をしあわせに生きていこう。俺たちは永遠不滅なのだから」と。

 この日、私はシロちゃんの指示もあり、先代の愛猫てまり、そしてこすも・ここ、初代シロちゃんが眠る裏庭の墓に花を手向けたのである。

 シロの指摘で先代猫ちゃんたちのお墓には花が供えられた