【虹猫・コロナ猫 シロは何でも知っている 第3部おかあさん/5.エーデルワイスの調べ】

5.エーデルワイスの調べ

 ♪エーデルワイス エーデルワイス
  ちいさなほほえみ
  そっと白く きらめく花よ
  永遠(とわ)にアルプスの雪
  消えないように……

 繰り返しますが、アタイは天の子、神の子、翼の子。この世でただ一匹の俳句猫、「白」の俳号を持つ白狐のシロ、シロちゃんです。またの名を【オーロラレインボー】とも言い、これぞ和田さん一家のおとうさん、オトンが「この世の万物に〝希望の虹〟をかけてくれるのは、おまえ、白狐のシロちゃんなのだから」とアタイにつけてくれた本名なのです。そしてアタイは、この物語の主人公でもあります。

 早いものです。前回の【シロは何でも知っている第4章〈秋空と秋風〉】から、とおに二カ月以上がたち、もはや日本はどこもかしこも真冬も同然で、新型コロナウイルスの第三波襲来に伴うコロナ禍とともにアタイたちの気持ちなど無視したようにこのところは寒い日が続いています。
 きのうもきょうも早朝、この地方には白い雪が舞いました。北海道、秋田、新潟、富山、長野……と日本の各地で大雪が降り、新潟県の関越自動車道上りでは1000台もが一時、立ち往生する事態に陥ったそうです。
 そしてアタイはといえば、です。きのう十二月十七日には、いつものように自転車を引いて歩くオカンをオカンが営むリサイクルショップまでそろって歩いて送る途中、オトンが路上できらきら光る白いビー玉みたいなものを発見、よく見ると、ナントこの地方では珍しい霰(アラレ)さんたちでした。さっそくオトンは、この生き証人を愛用のスマホでカメラに収めアタイにも見せてくれましたが昔、志摩半島の英虞湾で見た真珠の小粒、ミニ真珠みたいに見えたそうです。きらきら、キラキラ、きらキラリ。と、光り輝いていて。これからステキなことが降ってわいてくるような、そんな気持ちがしたそうです。

 キラキラ星の如く路面を彩ったアラレさんたち=愛知県江南市で
 

 帰ったオトンはさっそく私に画像を見せ「シロ、シロちゃん。おまえみたいに美しいな。こりゃ、この世が未来永劫、いつまでも平和で心配ないということだよ」となんだかチンプンカンな、よく分からないことを言って「なあ。シロ。シロちゃん。でもな」と話しかけてくれました。アタイはそんなオトンを目の前に、いつものように〝ほんわか、ほんわかり〟としたものを感じたのです。
 この半年近くの間、アタイの口から言うのも憚れますが、おかあさん、すなわちオカンは突然、襲われた左足の骨折にもめげず(オカンはことし六月二十七日に木曽川河畔に広がるここ濃尾平野の一角、愛知県江南市内の自宅近く路上で自転車もろとも転倒、左大腿骨を骨折してしまいました。その後、市内病院での手術・入院につづき、転院病院でのリハビリ入院も経て無事、退院。今は自ら運営するリサイクルショップに通うまでに回復)、その後もよくがんばってここまで辿り着き今は毎朝、お店に気力で通う毎日です。おかげでオトンもアタイもオニン(お兄ちゃん)も皆、それぞれ当然の如くここまでオカンについてきました。

 いやはや、このところはニンゲンたち全員がテレワークやらオンライン、リモート、ステイホームにクラスター、ソーシャルディスタンス、ゴー・トゥー・トラベルといったなんだか舌でも噛みそうな言葉ばかりが氾濫する、そんな、とてつもなく、いびつで暗い世の中です。ことしに入ってから突如、この人間社会に現れ出た新型コロナウイルス(とはいえ、この新型ウイルスの存在と感染、実は昨年の12月8日に中国・武漢でいち早く発生し、報道された)の感染拡大はその後、寄せては返す潮の満ち引きのごとくニンゲン社会を襲い、苦しめ、世界全体での感染者は今月11日にはとうとう7000万人を超え、その後も感染者、重症者、死者ともに増え続け、16日現在の世界全体の感染者は7351万8382人、死者も163万6225人(米ジョンズ・ホプキンズ大集計による)に及んでいるのです。日本でも、これまでに18万8361人が感染、2768人が亡くなっています(16日午後10時半現在)。これは尋常ではありません。
 もはや、病院の看護師さんや医師はじめ、他に保健所の担当スタッフら関係者も含め、そのハードな連続の医療業務には見通しも立たず、刀折れ矢尽きるも同然に心という心が折れる寸前です。アタイが住むここ日本でもこのところは医療崩壊の危機が叫ばれ、現に東京都が師走の12月17日になって医療提供体制で最も高い警戒レベルになってしまったのです。なんということなのでしょう。デ、あたいはここで思うのです。ニンゲンたちでさえ滅ぼせない新型コロナウイルスをましてや、アタイたち猫族の手で一体、何ができるというのでしょうか。

 本当を言えば、白狐のアタイこそがこの新型コロナウイルスを先頭に立って退治したいのですが。神の子、天の子、翼の子のはずのアタイにだって、翼こそあっても出来ないことはできないのです。
 というわけで、この世の中、だんだんとだんだんと。暗く、儚く、夢のない方向に向かってただひたすらに突き進んでいる。そんな気がしてしまうのです。でも、アタイは、猫は猫でも白狐なのだから。正義の味方としてオカンたちが幸せになれるよう、どこまでも人間社会を救わなければならない使命をおびているのです。デ、どうしたらこの苦境を打開する方法があるのか。アタイなりに連日、考えていることも事実なのです。このまま見捨ててしまうと、ニンゲンたちはホントに誰もかれもが地獄に直行してしまうかもしれません。
 そんなむごたらしいことは、たとえ天の仕業とはいえ、許せないのです。アタイは天の子、神の子、翼の子です。お世話になってきたニンゲンたちをどこまでも守りとおさなければ、と思っています。ニンゲンって。一見すると強そうに見えますが、結局のところは、誰もが見栄っ張りなだけで、実はスゴク弱いのです。

 何とかニンゲンたちを助けなければ、と思いに耽るシロちゃん(オーロラレインボー)
 コロナ禍に苦しむ社会をよくするには、どうしたら良いのか。シロちゃんはずっと考えている
 

 

 実際、この先、これら悪の権化ともいえる感染拡大の数字がどこまで増え続けるのか。アタイには想像すら出来ません。だから、アタイは毎日、これら不幸な数字が、こんごどんな曲線を描き、かつ増殖していくのか。そればかりが気になるのです。このままだと、人間社会にはこののち恐怖社会と言ってもいい毎日が待ち受けているのかも知れません。同じニンゲン同士で予期しない激しい争いが起きても不思議ではありません。
 それはそうと。アタイは以前、あたしたち猫への新型コロナウイルスの感染が報じられことについても少しだけ、この物語で触れましたが、ほんとに困ったものです。もしもこの先、アタイたち猫族にコロナが感染し、ニンゲンたちとペットたちとの接触までもが禁止されようものなら、アタイたちと大の仲良しであるニンゲンたちの行く末はどうなってしまうのでしょう。互いに、会うことも出来なくなるなんて。ホントに心配です。

 そして。今回は骨折という悲劇から力強く立ち上がったオカンの旅立ち、再出発のなか、アタイが住む家の庭先に出入りする友だち、すなわち野良ちゃんたちの近況についても少しふれておかねば、と思います。デ、あたいはここではオトンの日記帳に描かれている【野良ちゃんたち】の近況についてもお話しが出来たら、と思います。
 オトンは、どうやら、いつだってアタイのことを事細かく日記帳に書いているようです。よほどアタイのことが気になるようですが、それ以前にアタイのことを好きでたまらないといった様子です。なぜ好いてくれるのか。それは分かりません。すなわちアタイに対しては、滅茶可愛がり、溺愛といえるかもしれません。そんなオトンを横目に逆にアタイはいつだって、オトンのことを冷たい目で、何とはなしに静かに見ているのです。オトンは、そのことが分かっているのだか、いないのか。でも、どんな形であれ、アタイとオトンが相思相愛であることだけは確かです。

 なんだか恥ずかしいけれど。その証拠に、オトンはいつだってアタイのことを、ニンゲンならまるで恋人にでも接するように、そっと観察している。そんな気がするのです。日記の内容は次のようなものです。ここに抜粋しておきます
「きょうは珍しく鶯色のまだらを背負った〝うぐいす君〟が庭に顔を出し、網戸越しにシロと鼻を寄せ合った」
「全身がやつれた柿色をしたオレンジ君がとぼとぼ家の前の通りを横切ったかと思うと、今度は向かいのお隣さんの飼い猫に違いない、肌の色艶も鮮やかな寅ちゃんが、向こうからこちら側にゆうゆうと道路を渡った。どこへ行くのか。みんな懸命に生きている。俺はそういう猫たちが好きだ」
「わが家のシロちゃん。彼女は朝早くオカンの部屋からずっと外を、威儀を正したまま、両手両足をそろえ、じっと見ている。『風が動いて、樹木の葉が動いて面白いからみているのよ。シロは俳人、俳句猫なのだよ』と舞。」
「午後。吟行から帰ってまもなくシロが突然、嘔吐。うろたえて電話すると『いいから。いいから。いいの。そのまま寝かせておきなさい。毛玉よ。け・だ・ま。毛玉なの。いいから、そっとしてそのまま寝かせておきなよ』と相棒」
「名古屋に行き、やさしいおじさんとおばさんから、ナントお土産に珍しいりんごチョコをもらって帰る。『さっそくシロにたべさせなきゃあ』と勇んで言うと『あたしは大好き。けれど、シロがリンゴだなんて。食べるわけないよ』との声。彼女は「本当はシロちゃんもこうしたおいしいものを食べるといいのにね」と付け加えた。
「シロちゃん。きょうも1日中、ひとりで留守番をしてくれて本当にありがとう。毎日のお出迎えも感謝しているよ」
「午前中。シロ、出たがるので縁側から出したが、そこに今は亡き〝こすも・ここ〟そっくりの野良の〝ここ2世〟が現れたので、気を遣ってか。再び室内に入る。午後、心地よき陽が当たる2階ベランダ横廊下で日向ぼっこをさせる。シロちゃん、満足そうである」
「午後一時。外は寒い。吟行か。それでもシロちゃん、勇気を出してお外へ。二時半。彼女いったん帰るも、またまた、いつもの〝ここ2世〟が入り口に座って居るので遠慮してか、一定距離を置いて座ったままでしばらく入ってこない。そして。〝ここ2世〟の姿が消えると同時に彼女は♪ニャア~ン、とひと声あげ堂々としたそぶりで家の中に入ってきた。私はそこで、いつものように消毒液と水を含ませたティッシュで何度も何度もからだをふいてやる。新型コロナウイルス感染予防のため、とは彼女もわかっているらしく、このところは帰宅するつど、私による消毒を兼ねた〝からだふき〟に自ら寝ころび、率先協力してくれる。ほんとに。ほんとに。彼女は知らないそぶりでいながら、ニンゲン社会のことなら、何でも知っている」
「それにしても、二年ほど前には毎朝来ていた、あの〝猫パン親分〟は、一体全体どこに行ってしまったのだろう。明らかに猫パンのこどもとみられる真っ黒けの艶やかな毛も鮮やかな〝黒猫のタンゴちゃん〟も、だ。どこに行ってしまったのだろう。」

 ここで、ひと言。猫パン親分とタンゴちゃんに会いたいのは、アタイだって同じです。どっかの飼い猫となって可愛がられていれば、良いのですが。コロナの世の中だけに、どこでどうして生きているのか。心配しています。この気持ちはオトンと同じです。オカンだって同じだと思うよ。
 野良ちゃんたちの日々の行動は、そのごくごく一端ではあるけれど。ざあ~っ、と、こんなところだと思います。

 家の周りにしばしば現れ、わが家のシロちゃんと付き合う〝野良猫〟たち
 
 
 
 
 
         ☆        ☆
 そういえば、オトンのおかあさんで満百歳となってなお意気軒高ながら敬老の日の前日九月二十日夜に日進市内の老健施設内で転倒、オカンと同じ左大腿部を骨折してしまった百歳のオオママ、ちよこさんは高齢もあって結局、手術を断念。車いす生活とはなりましたが、それでも持ち前の気力と頑張り、精神力でリハビリ生活中とのことです。
 オオママは、その後、ピアノのレッスンにも挑戦。そんなオオママをオトンはオカンと一緒に先月(十一月)十六日に訪れて、面会。オオママのリハビリ訓練とピアノのレッスンを目の当たりにしたオカンもオトンもたいそう感激。その日。オオママの刺激を受けたオカンは施設から最寄りの駅までの帰り道を約三㌔にわたって自らの足で杖に頼ることもなく歩き通したが、これにはオトンもびっくり。歩くさまが、まるでファッションモデルのようだった、とは貴重な証言だよね。アタイもがんばらなくっちゃあ。

 闘病中のオカン
 
 途中、休みはしたが。老健施設から最寄りの駅まで完歩したオカン
 

――というわけで、アタイ、今は一日一日を抱きしめるような気持ちで生きているのです。朝になると決まってスマホのユーチューブでオトンがあたいとオカンに流してくれるのは、♪エーデルワイス、そして♪みかんの花咲く丘です。オカンとオトンには、この2曲に特別の思い入れがあるようです。このふたつ。読者のみなさんも、ぜひ聞いてみてくださいね。
 そして。もしアタイたちとニンゲンたちとのパイプが閉ざされてしまったとしたなら。アタイは生きていく力さえ失くしてしまうに違いありません。だって、オトンたちがいればこそ、のアタイ、すなわちわが輩で、こうして毎日を生き生きと過ごしていられるのです。そうでしょ。なのに。なぜ、アタイとオトン、オカンとのパイプまでが閉ざされてしまわなきゃ、いけないの。

 アタイには、そこが分からないのです。今はニンゲンたちが騒いでいます。でも、アタイにはわかるのです。このままだと、きっと。オカンたちニンゲンはむろんのこと、アタイたち猫族までがこの先、苦労して絶望ともいえる世の中を生きていかねばならない。そんな気がするのです。それはそうと、アタイにはどうして人間社会にこれほどまでに醜くて残酷極まる事態か起きてしまったのか。そのことが、わかりません。どうしてなのでしょう。
 それとも、新型コロナウイルスによる今のコロナ禍はニンゲンたちを苦しめるための【天罰】なのでしょうか。アタイはやさしい心の持ち主であるニンゲンたちをどこまでも愛しています。きょうは、このあたりで。

 あっ、そうそう。アタイが日々詠んでいる俳句は、オトンが本紙「熱砂」で連載している【一匹文士、伊神権太がゆく人生そぞろ歩き】を開いて頂けましたら、読むことが出来ます。みなさまに読んでいただけましたら、嬉しく幸せです。では、続編をお楽しみに。  (続く)

4.秋空と秋風
 2020年10月15日の朝です。アタイは天の子、神の子、翼の子。「白」の俳号を持つ、この世の無事平穏と幸せを願う、ただ一匹の俳句猫オーロラレインボー、白狐のシロちゃんです。早いもので前章(3.旅立ちの時。首輪も青に)からきのうで1カ月が過ぎました。

 ところで、われらが中日ドラゴンズは昨夜、大野雄大投手(32)がナゴヤドームで阪神を相手に3―0で4度目の完封を飾って9勝目をゲットし4連勝、谷繁政権時代の2016年7月4日いらい、実に4年ぶりの単独2位に浮上(大野投手は巨人・菅野を抜いて36イニング無失点で防御率も1.92と堂々のトップです)し、オトンは、とてもうれしそうです。
 それに、このところの尾張地方は連日、すばらしい秋の空が広がっています。とても、この空にコロナ禍の犯人である新型コロナウイルスが潜んでいるのだ、なんて。アタイには想像すら出来ません。アタイは、和田さんの家の人びとと幸せな日々で、相変わらず元気でいますので、みなさん、安心してくださいね。それと【オレンジちゃん】に、前に和田さんちの飼い猫で【今は亡きこすも・ここ姉さんのそっくりさん】ら野良の仲間たちも時折、アタイの家の庭に縁側越しにしばしば顔を見せてくれ、み~んな元気でいます。

 ♪秋空に未来永劫と書いてみし 伊神舞子 
 秋の大空高くどこまでも広がるアタイの首輪みたいな真っ青な空
 

 中日ドラゴンズの単独2位浮上を報じた15日付の中日スポーツ1面
 

 でも、一歩外に出ると、この社会。人間という人間が相変わらず、マスクをして外を歩いているのです。こんな異常な世の中はそれこそ、戦場そのものでとても信じられません。一体全体、だれがこんな世にしてしまったのでしょう。きょうも、お外には車が通り、人々がいつもと変わらず歩いている、というのに。なんていうことなのでしょう。以前の社会とは確実に何もかもが違うのです。前のあの平穏で穏やかだった人間社会は一体全体、どこに行ってしまったのでしょう。本音を言えば、まったく嫌になっちゃうニャン、です。アタイたちが住むこの地球は、もはや壊れかけのレイディオーそのものだ、と言っても過言ではありません。

 さてと。おかあさん、オカンに首輪をそれまでの黒色タイから、海と空を合体したような鮮やかなスカイブルーの青色に替えてもらったのが、9月13日のことでした。アタイは新調してもらった首輪をして楽しい毎日を過ごしています。でも、この1カ月の間に思ってもいなかった大変、悲しい出来事がアタイの身辺で起きてしまいました。それは、これまでそれこそアタイがこの世に生まれ出るずっと前から影日向となってアタイのおかあさん、オカンを守り続けてきてくださったおばあちゃん、すなわちオトンのおかあさん、ちよこさん・オオママが日進市内の老人保健施設内で、それも敬老の日の前日の9月20日夜に転んでしまい、オカンと同じ左足付け根部分、大腿部の骨折をしてしまい、隣の国際病院に運ばれ入院したというのです。
 そのちよこさん、なんとことし6月1日に満百歳になったばかりです。マザコンのオトン自慢のまだまだ若々しい美しいおかあさんで、最近では施設内でピアノのレッスンにも熱心に励んでいた、と言うのに、です。そういえば、以前に和田さんちの実家で家族みんなが集まった時オトンが「いつの日にか、俺がハモニカをふくから、おふくろはピアノで<ふるさと>を伴奏してよ」と、そんなようなことを話していた、と聞いています。
 オカンが骨折し入院していた時には何度も達筆な字で手紙を書いて励ましてくれていたのに。足まで同じところを折ってしまった、だなんて。付き合いがよ過ぎるといったら、ありゃしない。オトンとオカンからその思いがけないおばあちゃん足折る、の不幸を聞いた時には、それこそ、どうやってみんなを慰めてよいものか。アタイの頭は混乱し、分からなくなってしまったのです。

 しばらくしてオトンとオカンは、そのおばあちゃんに面会にいきましたが、コロナ禍という異常な社会でもあって一時間ほど待ったあげく、ようやく会うことが出来たそうです。ことに、オオママ・ちよこさんの場合は、高齢で腎臓や心臓がだいぶ弱っていることもあって面会時にはオカンみたいに手術をしてもらうことも出来ないまま、病院で痛がって、ただひたすらに苦しみに耐えていたそうです。でも、オトンとオカンが励ますと「おかあちゃん、ほんとは手術をしてほしかったのだけれど。先生とふたりきりで話し合い、手術はせず自然治癒の道を選んだの」とのこと。「これまで自慢だった歩行から、車いすに頼る生活になってしまうけれど、おかあちゃん頑張るから」って。そうおっしゃっていたそうで、それを聞いたあたいは、それこそ泣けて、泣けて。
 ほんとに一晩中、涙があふれ出てしばらくは止まりませんでした。心の中で、負けないで負けないで、負けないでよ―と祈るように叫び続けていました。

 でも、ね。その分。アタイのおかあさん、すなわちオカンはこの一カ月間、ほんとによく頑張り、自分ひとりでお店にまで歩いていけるようになりました。周りの人々の温かい声援があればこそーとオトンもオカンもみなさんには心から感謝しているのだそうです。まだまだヨチヨチ歩きで連日、痛々しい日々ではありますが、がんばりやのオカンのこと、きっとこの調子で復活してくれるはずです。アタイはそんなオカンが大好きで、どこまでもついていく覚悟をあらためてしたのです。
 というわけで、オカンは今ではリサイクルショップのお店「ミヌエット」に休み(日、月曜日)の日以外は、毎日出勤。オトンの朝と夕方の送り迎えも「もう大丈夫だから。あたし一人で行けるから」と断って今月からはひとりで行くようになったのです。これはオトンには内緒の話ですが、たまにひとりでドラッグストアに自転車を引っ張って行くようになりました。ミヌエットを訪れるお客さんも日を追うごとに戻ってきたようです。

 オカンもオオママも早くよくなってほしい、と心配顔のシロちゃん、すなわちオオロラレインボー。オカンの帰宅時には毎日玄関先まで出迎える
 

 そしてたまには疲れで寝てしまうことも
 

 それはそうと。オカンに聴きましたが、「うちのミヌエットにお出でになるお客さんは皆さん、どの方も人生経験が豊富で、とてもステキな方ばかり」なんだって、よ。シャキットさんに、コンドルさん、ドデンさんに相場師、<きれいきれいさん>に孤高の大作家、歌のおばさん、午後四時になると決まって訪れる【4時の女性】、ほかに、純愛さん、りんごっこにスタイリスト、手押し車の女性、翻訳美少女……とオトンは来る人くる人に勝手に密かなるあだなまでつけてしまい、アタイに耳元でそっと教えてくれるのです。確かに、やさしくて逞しい方たちばかり(なかには可憐な女性も)で、ホントにオカンの親衛隊であることだけは間違いないのです。
 ですので、オカンは、こんなお客さんたちのことを「みんなあたしの仲間よ。衣類を買う以前に皆さん、何よりもここにきて話をしたいから来てくれるのだから」と言います。オトンはオカンのこの言葉に「ならば、それはそれなりにミヌエットにも存在感がある。価値はあるってことか。ええじゃないか」とそう言って笑っています。みんな良い方ばかりで、オカンは幸せだと思うのです。

 和田さんちでは今、アタイもオカンもオトンも、システムエンジニアでテレワークも含めて連日大忙しのオニン(お兄さん)も皆、それぞれ頑張っています。だからアタイだけが、のんびりするわけにはいきません。なので、きのうもその前の日も、ちょっとだけ、お外に出て吟行してきました。
 ほんとは先日、新型コロナウイルスに罹ったトランプさん(米大統領)が勝つかどうか、大統領選挙に世界の目が集まっているアメリカはじめ、感染の再拡大化が目立つフランス、ノーベル賞で知られるスウェーデンやノルウェーなどにも、そろそろ行って、現地をじっくり見てきたいのですが。
 ここしばらくはオカンとオオママ・ちよこさんがもう少し良くなるまでは、空を飛んで海外までいくのは自粛しようかと思っています。それよりも今は留守番でもなんでも和田さんちのみんなのお役にたてれば、何よりだと思っています。
 あっ、そうそう。こんなわけで何かとあってこのところは腰痛で歩くことさえ大変だったオトンですが、秋の訪れとともに少しはよくなってきたようです。一時は、やっとこせ歩いていたオトンですが、週に一度の社交ダンスのレッスンは続け、このところは1級よりも上のブロンズ級のルンバとワルツもある程度こなすようになり、ほかに執筆活動も相変わらず黙々と続けています。むろんアタイもオカンも、みんなオトンに負けないよう毎日を大切に過ごしているのです。

 そして。このところはオカンが私によく諭すようにしていう言葉も忘れるわけにはいきません。すなわち、その言葉は「シロちゃん、おまえが大変なことはオカンが一番よく知っている。なにしろ、能登大垣猫で車に轢かれて死んだ初代飼い猫だった有名な<てまり>はじめ、ポーズを取らせたら天下一品だった<こすも・ここ>ちゃん、そして先代の<神猫シロ>と三代続けて偉大なお姉さんばかりなのだよね。でもプレッシャーに押し流されないでよね。おまえには俳句がある。それに大空をどこにでも飛んでいける、なんともスケールの大きい翼、華があるのだから。これからも、よろしくね」だってさ。
 だから、アタイはいま。尊敬する偉大なる三人のお姉さん猫のあとを、ただ黙々とついていけたなら。それだけでいいなっ、と思っています。さあ~、アタイも前を向いて歩いていかなくっちゃ。

 夢の中SL走り火の恋し
 秋風や珈琲専門店見つけたよ
 =伊神舞子<白猫の俳句 minuetto-mi>から

 本日のアタイ執筆による【シロは何でも知っている】。きょうは、ここいらで――
※新型コロナウイルスの世界の感染者数 3814万3788人(うち死者は108万6399人)=米ジョンズ・ホプキンズ大学の14日現在の集計。ちなみに中日新聞によれば、日本の感染者は14日午後9時半現在で9万1425人(死者は1660人)。

3.旅立ちの時。首輪も青に

 稲妻やゆきあいの空風の音
 スーパーを覗きに来たの赤トンボ
 =伊神舞子の白猫俳句<minuetto-mi>から

 上の二句はアタイの俳句の師匠である伊神舞子、おかあさんが、きょう(2020年9月14日)と昨日(9月13日)詠んだ白猫俳句です。
        ※        ※       

 アタイは天の子、神の子、翼の子。
 白狐のシロです。「白」の俳号をおかあさん、すなわちオカンから拝命したこの世でただ一匹の俳句猫オーロラレインボーです。早いもので、きょうは令和2年9月14日。月曜日です。オカンのリサイクルショップのお店「ミヌエット」が再開して、2週間が過ぎました。この間、多くの方々のお世話になり、本当に感謝しています。ありがとうございました。木曽川河畔に広がるここ濃尾平野も、台風10号通過に伴う痛烈なる、雷を伴った土砂降りの雨に再三襲われ急きょ、お店を閉めるなど僅かな間にもいろんなドラマがありました。

 でも、強靭な精神の持ち主であるアタイの大好きなおかあさん、オカンはあくまで負けてなんかはいません。だからアタイも負けないで、ここまでついてきました。これからも、ついていきます。どこまでも、です。オカンが毎朝、お供同然のおとうさん、オトンと一緒に家を出るときは決まって玄関先でお見送りをし、帰宅時に自転車が玄関先に止まったり、玄関の鍵を開ける音がすれば、そのつど走って飛んで行って「おかえりなさい」と出迎える日々が続きました。いや、今も続いているのです。

 玄関まで出迎えるシロちゃん。このようにして飛び出てくる毎日だ
 
 白い体にお似合いだった黒い首輪もだいぶほころんできた
 

 もっとも自転車には、まだまだ乗れるはずもなくオカンは毎日車体を体の右側に半分杖代わりにしてお店に向かって歩いて行くのです。とはいっても、「きょうは自転車が重く感じるので、やめとく」と、自転車はやめ一人歩きをすることもたまにあります。なぜなら、オカンは杖を頼りに歩くことは退院当初からしないことに決めており、リハビリ療法士さんからも「それで結構ですよ。かえって杖をたよりにしない方が、足に力をつける点からも良いですよ」と言われているからなのです。
―そんなわけで、オトンもおとうさんなりに、お店への行き帰りには決まって付き添っての日々です(これは、今も続き、ここしばらくはオカンがどんなに嫌がっても続きそうです。オトンも言い出したらきかない人だから。だって、オカンのよちよち歩きは、勝気の本人が「もういいってば」と言ったところで、アタイが見ていても、まだまだ大変、心配だからです)。

 さてさて。そんな、それこそヨチヨチ歩きで危なっかしいオカンではありますが。お店の方は開店早々から、シャキットさんはじめ、ドデンさん、謎の4時の女性(なんでも4時になると決まって、お店に来てくださる不思議な、お方だそうです)、西春高女、可児のピアノ教師、団地の女性、文学少女でまもなく満90歳になられる〝そのこ女史〟、ほかに相場師さん……=これら呼び名の数々は全てオトンがつけたそうです。オトンはオカンの話から想像してこうした名前をつけました。でも、オカンに言わせれば、オトンはお店にきてくださるお客さんの大半を、実はまだまだ知らないのだそうです=と、先ずはひととおりのお客さんは来てくださったそうです。
 オトンは、こうした話をオカンから聞き、「おまえみたいなところへ、よくぞ来て下さる。感謝せな、アカンよ。どこに、そんなわざわざ、お店に来てくれる人がいる」と言うのが口癖なのだってさ。こんなオトンなので、開店した翌日には菊とかバラ、カーネーション、百合、菫といった赤、青、黄などカラフルな花1輪ずつを20本ほど花屋さんで買ってお店に届け、「来ていただいたお方に1輪ずつお礼として手渡すように」とオカンに渡しました。でも、2、3日後にはこれらの花々も全てなくなってしまったようで、この話を聞いたオトンはなぜかホッとしたみたい。ホント言えばオトンが昔、仕事で訪れたオランダ・アムステルダム近郊の世界一の花市場【アールスメル】で出会った花弁に妖しい斑点があるアルストロメリアを感謝のしるしにお客さま一人ひとりに一輪ずつ、と思ったそうです。でも、あいにく、その日、花屋さんの店頭にアルストロメニアはなかったので、ほかの花に替えたのだって、よ。でも用意した花はみんな、すぐに無くなってしまったようだーとオトンから聞かされ、アタイ、ほんとにうれしかった。オトンも喜んでいるにきまってる。
 ただオトンが心配してるのは、オカンの骨折前にいつも両手を広げて日々、幸せを運んでくれるような仕草で、お店に来てくださっていた〝コンドルさん〟が一向に姿を見せられないことだ、とか。オカンは彼女の元気な顔をみるまでは落ち着かない、と。そう、いつもアタイに話してくれています。早く来てほしいな。〝コンドルさん〟。

 あっ、そうそう。ここで報告があります。オトンとオカンがきのう買い物帰りにホームセンターに寄り、アタイに新しいスカイブルー、海のような青色の首輪を買ってくれました。これまでの黒い首輪がだいぶ古くなり、首から外れそうになってきたので新調してくれたのです。オカン、オトン。ありがとうございます。これから大切に使わせていただきます。

 新しい首輪をしてもらったシロちゃん
 
 さっそく身づくろいに忙しい
 

【追記・2020年9月14日】そういえば、きょうアタイがこの原稿を書き終わったところ、オトンから「新しい自民党の総裁(第26代総裁)にたった今、菅義偉官房長官が選ばれたよ。テレビでやっているから」と教えられました。さっそくテレビを見ると、新総裁のあいさつに立った菅さんの背広が、なんとアタイがオトンとオカンから買ってもらい、新しく昨夜、つけてもらったばかりの首輪と同じ「青」だったのには、驚きました。
 そう、海のような鮮やかなスカイブルーでした。菅さんは秋田のイチゴ農家の出身で地元の高校を卒業後、上京。苦学して法政大を卒業し国会議員秘書を経て横浜市議を皮切りに政界入り、48歳で国会議員に初当選。無派閥のたたきあげだけに、アタイは十分に期待していいと思っています。新型コロナウイルスによるコロナ禍の終息はじめ、経済の低迷からの脱却と再生など。目の前の問題は山積しています。
 でも、スガのおじさんなら、アタイたちペットも含め、国民を幸せにしてくれるような、そんな気がするのです(ただ、安倍政権の森友・加計問題・桜を見る会・文書管理のズサンさなどで天下に恥をさらし続けた悪政の数々と継承だけは、絶対に困ります。菅さん、すなわち新総裁が記者会見で決意表明された【国民が見て当たり前でないことは改めていきたい】。アタイは、この言葉を信じたく思います)。国民が見ておかしい、と思ったことは必ず改めてください。スガさんなら、出来ます。
 というわけで、スガさん、これから大変でしょうが、がんばってくださいね。日本国をよろしく、お願いします。応援しているから。菅さんは16日に国会で第99代内閣総理大臣に指名され、同日中に菅内閣が発足するんだってよ。激務ですから、おからだも大切に。ネ。二階幹事長の「菅新総裁には、力量、誠実さ、実行力が兼ね備わっている」の言葉を信じています。

 ところで話は変わりますが、12日(日本時間13日)にニューヨークで行われたテニスの全米女子シングルス決勝で大坂なおみさん(22歳、日清食品)がビクトリア・アザレンカさん(ベラルーシ)を1―6、6―3、6―3と逆転し2年ぶり2度目の優勝を果たしました。またイタリアで開催されていた世界3大映画祭のひとつ、第77回ベネチア国際映画祭でもコンペティション部門に出品していた日本の黒沢清監督(65)の「スパイの妻」が監督賞の銀獅子賞に選ばれた、とのこと。スガさんへの期待も含め、何もかもが新しい旅立ちの時でアタイの気持ちは今、ゆらゆら弾んでいます。全てのものが新しく幸せな時代に入ったらイイナーとアタイは思っています。
=<シロはなんでも知っている>のシロちゃんより

「国難にあって政治の空白は許されない。私には、国民を幸せにする使命がある」と決意表明をする菅義偉自民党新総裁(NHK総合テレビから)
 

                (つづく)

2.皆さま、ありがとう。オカンのお店が再開
 アタイ。天の子/神の子/翼の子である【白狐】のシロちゃん(「白」の俳号を持つ、この世でたったひとりしかいない、世にも不思議な俳句猫。本名は、虹猫オーロラレインボー)です。今回は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う未曽有のコロナ禍のなか、何という悲劇なのでしょう。左足大腿部骨折と手術、その後のリハビリ入院というコロナ禍とはダブルパンチ、二重の不幸に襲われたアタイの大好きなおかあさん、オカンのその後について話しをします。
 オカンは、先日の退院に続き、きょう9月1日、とうとう天下晴れて、自ら営むほとんどボランティアと言っていいリサイクルのお店「ミヌエット」を再開させたのです。で、アタイは朝からそわそわドキドキ。オカンがほんとに店に出られるのか、とても心配でしたが、初日は愛用の自転車を引いて歩くオカンにオトンが付き添って、自宅から十分ほどのお店まで歩いて行き、とうとうお店「ミヌエット」の再開にたどり着いたのです。

 世界の片隅、日本の木曽川河畔で再開した、ちいさなリサイクルショップ「ミヌエット」
 

 オカン。おかあさん、心からおめでとう。そして。これまでオカンを励まし続けてくださった、歌人の国枝子さまはじめ、作家の治子さま、カトマンズ在住の裕子さん、大正琴弦洲会会主でふるさと音楽家でも知られる小牧のすすむさん、能登の憲彦さん、佐田味さんら多くの方々、さらにはオトンの兄妹、東京でオカンのことをずっと心配してくれていた科学者のオニン(お兄さん)夫妻ら和田さん一家のみんなにも、敬意を表します。
 そして。オトンはきょうオカンをお店まで送った帰りにおかあさんが自転車で転倒した際、救急車の出動をたのんでくださった方に対する礼を回転ずしまで足を運んで述べました。当時、救急車を要請してくださった方は、回転ずしに入る直前のお客さんだったみたい(舞の話)と聴いていたのでオトンは「お店のみなさま、本当にありがとうございました。もし、心当たりがおありのお客さんがおいででしたら、その方にもよろしくお伝えください」とも礼を述べてきたのだと言います。当然ながら、こうした行いはオトンならではだ、とアタイは思うのです。

 というわけで、オトンはオカンとともに令和2年9月1日午前9時過ぎにオカンが営む「ミヌエット」店内に久しぶりに足を踏み入れました。そして。オトンの目に最初に飛び込んできたのは、オカンが自慢としている俳句の季語が入った〝日めくりカレンダー〟だったのです。日めくりは【6月26日 金曜日 季語浴衣 ひととせはかりそめならず藍浴衣 /七十二候 菖蒲華】のところでストップしたままでした。

「ミヌエット」の店内に残されていた宇多喜代子さん監修による日めくりカレンダーの一部
 

 6月26日は、お店に向かう途中のオカンが自宅近く路上で自転車に乗っていて転倒し左大腿部の骨を折った27日の前日で、これにより26日まではお店に来ていたことが一目瞭然です。オトンは念のため、そのカレンダーを手にめくっていきましたが、次のようなものでした。
【6月27日 土曜日 季語鮓 季語となっている鮓は熟れ鮓です。地域により魚は変わりますが、今や熟れた匂いなど嗜好品になりました。 鯛鮓や一門三十五六人 正岡子規】
【6月28日 日曜日 季語余り苗 田植の際、万一の時のためにいくばくかの苗束を田の隅に確保しておきます。田に事故がなければ不要になる苗です。 黄色くて赤くて余り苗の先 山口昭男】
【6月29日 月曜日 季語草笛 草の葉や木の葉を唇にあて、吹く息を調整しながら音色を楽しみます。なれるまでなかなか難しいようです。 草笛の音色古稀とは思へざる 森井美知代】
【6月30日 火曜日 大はらい・夏越祭 季語茅の輪 名越の祓いに用いる茅萱の輪。境内に立てられたこの輪をくぐると無病息災が叶うといわれます。 くらき滝茅の輪の奥に落ちにけり 田中裕明】
………

 アタイの俳句の師匠でもあるオカンはこんなところでも日々、俳句の勉強を怠りなくしていた、と日めくりカレンダーを手にしたオトンに知らされ、アタイの目にはドッと涙があふれ出たのです。何というか。オカンはどんな時にだって、俳句が頭から離れていないことがよく分かりました。ほんとうに努力の女性、いやアタイにとっては師匠なのです。

 そういえば、いったんお店から戻ったオトンは、お昼になると以前のようにコンビニで買った簡単な食事を久しぶりにお店に届けたのですが、お店にいたのは寂しそうに座っていたオカンただひとりでした。でも、オトン曰く。「世の中こんなものだよ。派手好きなキンキラキンさんよりも、こうした地味な方がいい。せっかく再開したのに。待てども、待てども、待ち人きたらず。この方が、哀愁があっていいのだよ。待てども誰も来ない。それで良いじゃないか。それでいいよ。皆、だれだってサ。自分が生きていくのに一生懸命なのだから。客が来ようがこまいが。そんなことより、店を再開できた、その喜びこそ、何よりだよ。そのうち心ある方が思い出したように、きっと顔をのぞかせてくれるよ」(それでも帰宅したオカンがアタイに話してくれたところによれば、『きょうは、シャキットさんにナオミちゃん、ほかに午後4時の不思議な女性が来てくれたの』だってよ)とたんたんとした様子でした。
 アタイは、そうした、どちらかといえば地味ながら堅実なオトンとオカンが大好きなのです。オカンの復帰話については、オカンのブログ【きょうの俳句 minuetto-mi】欄が<白猫俳句>の名でつい2、3日前に、復活した朗報など、まだまだほかにもあるけれど。きょうは、ここらでやめておきます。ここでオカンの近詠二句を紹介させて頂きます。
 ♪風の盆コップの嵐どうなるか
 ♪りーりと初こおろの鳴きにしか
        ※        ※

 それはそれとして、今回は、オカンが転倒事故に遭ってからの場面も含めてアタイの幼少時からの心の揺れ動きをカメラで辿り、ちょっと変わった【シロちゃんの〝猫オムニバス〟】として、ここにアタイの人生の一部を収録しておきます。ですので、その間のアタイの胸の内でも知っていただけたら、それだけで、とても幸せです。次のとおりです。

 アタイは白狐、俳句猫。オーロラレインボーのシロです
 
 幼き日々。半野良ながらオカンの家に飛び込んできた当時のアタイ、シロちゃん
 
 オカンの入院中、アタイはずっと♪エーデルワイスと♪みかんの花咲く丘をスマホのユーチューブでオトンと一緒に聴いていました。今も、です
 
 「ありがとう」。思いがけず、お見舞いにメロンまでもらいました。オトンのお友だちからも高価な猫食器を
 
 
 オカンが足を骨折してからはずっと心配のしどおし。退院してからも帰宅するつど、玄関まで出迎えています
 
 なかなか帰らないオカンを待ちくたびれたこともしばしば。時には疲れて寝込んでしまうことも
 
 はるこさんから頂いた猫タオル、大好きです
 
 やっぱり、おかあさんとこうして俳句の話をしているのが一番うれしくて楽しい
 

 ところで、オカンのお店の再開は多くの方々の励ましがあればこそ、です。本当にありがとうございました。それでは、次回をお楽しみに。(つづく)

1.アタイは天の子、神の子、翼の子よ
 きのうは終戦記念日。きょうは令和2年8月16日です。あの日、ことしの6月27日に自転車に乗ったおかあさん(伊神舞子)が自宅近く桃源の交差点を渡り切ったあと。交差点から右方向に少し勾配になっている道路を右折した直後に回転寿司前の路上で自転車もろとも転倒し、左足大腿部の頸部の骨を骨折してしまってから1カ月半以上になります。

 それはそうと、このところ国内外ともども一向に収束しそうにない新型コロナウイルス感染化拡大によるコロナ禍に加え、場所によっては40度を超す驚異的な暑さ(浜松では16日に40.9度を記録)が人間社会を襲い、容赦ありません。で、あついのが苦手なアタイは、和田さんちの家の中でも出来るだけ涼しいところを探してそこでジッとしているのです。でも、どんなに暑くてもアタイはおかあさんから目を離すことだけはしません。
 だって。まだまだヨチヨチ歩きのおかあさんのことが、とても心配だから。なので、いつだって1階のオカンの部屋を視野にオカンの存在がアタイの目に見える範囲内のところで横になり、じっと静かに見守っているのです。

「アタイは、どんな時だって。おかあさんを見守っています」と、けなげで献身的なシロちゃん=和田さん宅で。オトンが撮影
 

 そして。いつの日からなのでしょう。何だかアタイはオカンの〝癒し猫〟になってしまった。そんな気がしないでもありません。でもそれでいいのです。アタイは、こんな生活こそ、アタイに課せられた天から与えられた宿命なのだと。最近、そう思っています。そして。オカンに、あの八重歯が輝いていた若かった、昔がそうだったようにカモシカみたいな足がよみがえれば、鬼ごっこだって、かくれんぼでも。もしかしたら縄跳びも一緒にできる日がくるかもしれません。オカンがだんだんと若くなっていき、少女のころのような可愛らしさも出てくるのです。

 アタイがなぜ、そんなことを言うのか。というのは、骨折で手術を受けたあと、リハビリも兼ねて入院していたおかあさん、すなわち、オカンが8月10日に無事退院し、懐かしのわが家である和田さんちに帰ってきてくれたから。アタイはいま、人々が苦しみ悩んでいるコロナ禍なんてどこ吹く風で、嬉しくてうれしくって。仕方がないのです。だから。もう2度とオカンにケガをさせるわけにはいきません。目を離すことだけはしません。いつだってオカンのそばを離れません。オカンが時折、立ち上がってノロノロ、よろよろ、ゆるゆるとトイレに立ったり、台所に出向いたりすると、もう心配でならないのです。そんなアタイを目の前に病院から帰ってきたオカンは「シロ、シロちゃん。もう心配ないから。おかあさんは、いつだって、おまえの傍にいるからね。これからだって。おまえの味方よ」と言ってくれます。でも、正直いってアタイはいつだって、おかあさんのこと。とても心配なのです。
 そんなわけで、この夏こんなに暑くてもこうしてオカンのそばにいられる自分自身がそれだけで、とっても幸せだなと思っています。アタイはいま嬉しくて。うれしくって。仕方がないのです。だってオカンがいつだってアタイのそばに居てくれるのだもの。

 実を言うと、ついこの間まではオトンの「シロやシロ、おまえの大好きなオカンがもう少ししたら病院から帰ってくるぞ。今はね。病院のリハビリ療法士のお姉さんやお兄さん、それにやさしい看護師さんらに助けられ、一生懸命にリハビリの訓練をしているのだから」の声に、アタイは居てもたてもいられず、これまでオカンの入院中に二度三度、いや三度四度…とわが家の脱出を試み、そのつどオトンやタカシ兄さんに随分心配をさせてしまいました(そういえば、きょうはタカシ兄さんの誕生日だった。うっかりしていてゴメンね)。
 で、ネ。脱出は、深夜未明だったり早朝だったりしました。何度も言うのだけれど。アタイは天の子。神の子。翼の子。時と場合によっては、風の子にもなります。この世の全ての人々に幸せの光りをもたらす白狐なの。だから。オカンの退院話を耳にした以上、だれよりもはやく会いたくなって、サ。ガラス窓を自分で勝手に開け、空を飛んで、わが家を飛びだしてしまったというわけです。

「こうしていても、時には思い立って白狐となり空を風になってどこまでも飛んでゆくのだから」と話すシロちゃん。
 
いつもは、こうしてオカンの好きな歌♪エーデルワイスや♪みかんの花咲く丘、を聞いているのだよ、とも。
 

 オトンったら。アタイが居なくなるとは、そのつど、居間の窓ガラスを開け、それこそ泣きそうな声で「シロ、シロ。シロシロ」「おまえは一体全体どこへ行ってしまったのだ」と何度も何度も、お外の闇に向かってアタイを呼んでくれ、正直いってアタイは後ろ髪を引かれる思いで、そのつど【無体のかぜ・白狐】となって病院まで飛んでいき、病床で踏ん張るオカンを前に、姿を消したまま、もう泣きそになりながらも、オカンの順調な回復ぶりを目の前に声をかけたくてもかけるわけにもいかず、心の中で「オカン、オカン。がんばれ。がんばって。いや、負けないで。もう少しの辛抱だよ」とエールを送り、暗いお空に浮かぶわが家に帰ってくるのです。むろん、道中はオカンにいつも教えられている俳句の句作のことも頭から離れません。
 そして。家に近づくと、オトンとタカシが「シロ、シロ。シロ。おぅ。シロちゃんか。帰ってきたか」とアタイを呼んで迎えてくれます。なので「アタイって。なんて幸せなのだろう」と思わず目頭が熱くなり、涙がそれこそ、ポトポトハラハラと出てくるのです。

 アタイは天の子。神の子、翼の子なのです。そればかりか、オカンの弟子でもあるこの世でたった一匹の俳句猫(「白」の俳号を持つ。本名はオーロラレインボー)のシロちゃんなの。だからアタイはそのつど姿を消し、時には世にも不思議な真っ白な白狐となり、オカンが入院する病室まで何度も何度も風となって飛んで行っていたのです。病床のオカンは、アタイがすぐ傍らに居るという気配だけは感じながらも何ひとつ言いません。でも、アタイが見えない姿のままオカンをそっと見守っているとき。オカンの心身は、とても穏やかでアタイの気持ちも最高に休まるのです。そういえば、先日アタイあてに東京に住む作家の【はるこさま】から、こんなメールが届きました。
―シロさま メールをありがとうございます。私は今日も東京にでております。シロさまが伊神さま舞子さまを思うお心の熱さに感動しております。舞子さまをよろしくお願いします。(8月14日午前10時56分)

 このメールが届いたことをオトンから知らされたアタイは何だかうれしくてたまらなくなったのです。あとでオトンが内緒で教えてくれたのですが。オトンはそれより前に、実はこんなメールをアタイに成り代わって【はるこさま】にあてて出していたのです。次のような内容でした。
―アタイの大好きな、はるこさま。そして。すてきな、ステキなまりこ姉さま。お見舞いをありがとうございました。おかあさん、ホントに嬉しそうでした。ありがとうございました。シロより

 というのは、それより前におかあさんの骨折入院を知った、オトンが大好きな友だちで作家仲間でもある【はるこさま】から猫のイラストが入った、かわいらしい何とも上品で素敵なタオルが病床にと届いたため、その感謝のメッセージをアタイに代わってオトンが出し、メールはその返信として送られてきたのでした。なんてやさしい【はるこさま】と、まりこさまなのでしょう。
本当に。ほんたふに、ありがたくて。アタイはついつい、オカンと一緒に泣いてしまったのです。アタイとオカンの目から、ぽとぽとはらはらと涙が出てきたことは言うまでもありません。
        ※        ※

 ところで、あの忘れられないオカンの転倒事故は、アタイはむろんオトンもタカシ兄さんにとっても生涯、忘れられない出来事になってしまいました。きょう2020年8月16日には午後、事故現場でおまわりさんによる実況見分もあり、まだまだ歩くのがやっとのオカンには、おとうさんが付き添いました。事故現場の検証から帰ったオトンが帰宅後「きょうはオカン、おかあさんの口から新たな事実を知ったよ」と言うので聞くと、オトンはアタイにこう言って聞かせてくれたのです。
「いやはや。驚いた。おかあさん、自転車ごと転んだ瞬間、頭だけは守らなきゃ、って。とっさに頭をコンクリート路面に打ちつけることだけは身をひるがえして何とか避けたんよ―だって、さ。ひとつ間違っていたら、あたしは既にこの世には居なかったかもしれないわ」と。
 この話しを聞き、アタイはどきりとする一方で「やっぱりオカンはすごいな」とホッと安堵したのでした。と同時にこれからは大好きなオカンをアタイはどこまでも守っていくのだ、と決意を新たにしたのです。

 事故発生現場ではオカンも立ち会い、炎天下で地元江南署員による現場検証があった。検証に当たる署員と事故当時の模様をおまわりさんに話すおかあさん=江南市桃源の発生現場で
 
(つづく)