詩「海(The Sea) その1、その2」 ネパールの詩人ビシュマ・ウプレティ
海(The Sea) その1
海は、果てしなく、押し寄せ、
たえまなく、いだき寄せる。
あらがおうとも、すべてはつつまれて、
海にもどり、また海となる。
× ×
海 その2
海に山はない。
太陽はどうやって沈むのだろう
この海のただなかで
ヒマラヤでは、
太陽はゆっくりと動き、そして、
ひっそりと山の後ろに隠れる。
だが、海には、
太陽をかくまう山はない。
船の上のわたしは、
いぶかりながら夕日を見ていた。
あたりすべてが、はっと息を吞んだとき、
太陽は、するりと
海に落ちていた。
ああ、海の日没の
なんとたやすいこと。
(ネパール詩集「海」=詩/ビシュマ・ウプレティ、訳/樋口容視子から)
【作家の言葉】
〈日本語版に寄せて〉から抜粋
私の書く詩は、さまざまな次元にいる人々に会い、自分の中に取り込み、それについて書くという努力の結果である。ペンと詩の力を信じる限り、私は詩を書きつづける。
ネパール現代詩の潮流は、不調和と反抗と不満の声に満ちたものだ。しかし、人間の生活そのものは、もっとひどい。たとえおぼろでも、夢が必要なのである。無為のただなかにいても、希望はある。人は旅をするときも、やはり幾度もの休息が必要だ。この意味で、私は、書くことによって人々に出会いたいと思った。すぐ近くには、素朴な別の人生があり、人々の心はやさしく、陶器のランプに希望の火がほのかにゆれていることなどを。
【ビシュマ・ウプレティ略歴】
ビシュマ・ウプレティさん(左、右は「熱砂」主宰の伊神権太=日本ペンクラブ会員。n)
1968年、ネパール東部ジャパ生まれ。トリブバン国立大学より1996年に経済学修士、1998年にはネパール文学修士を受ける。1999年から1年間、英国大学院に留学。詩集「アカース・カショバネ・ケフンチャ?」(空が落ちたら)で1992年のネパール王立アカデミー主催の全国ポエトリー・フェスティバルで第1位受賞。ほかに旅行記文学でウッタム・シャンティ賞。勤務先はネパール国立銀行。カトマンズ在住。