「ないしょ」 牧すすむ

♪ ないしょ ないしょ
  ないしょの話は あのねのね
  にこにこ にっこりね 母ちゃん
  お耳へ こっそり あのねのね
  坊やの おねがい きいてよね
(結城よしお 作詞 山口保治 作曲)

 子供の頃によく歌った童謡だ。今でもちゃんと覚えているし、心がほっこりとするような優しさが詞にもメロディにも溢れていて、聞けばすぐに幼い頃の自分に戻してくれる。
 特に三番の歌詞は、ないしょ話の楽しさがまるで絵のように心に浮かんでくる、そんな言葉で結ばれている。

♪ にこにこ にっこりね 母ちゃん
  知っているのは あのねのね
  坊やと母ちゃん 二人だけ

 幼い子供が大好きなお母さんの耳に口を寄せ、何かひそひそ話をする。ワクワクと胸を踊らせながらー。
 きっと誰にでもあったであろう良き思い出でもあるし、又、今もしばしば目にするほほえましい光景でもある。こういう優れた童謡が歌われなくなった時代の変化に寂しさを覚えると共に、日本の大切な文化がどんどん失われていく空しさに胸が痛むのを禁じえないのだ。
 一方、歌謡曲に目を転じると、昭和後半の一九六八年に “伊東ゆかり”が歌った“ゆうべの秘密”が思い浮かぶ。彼女のデビューシングル曲である。

♪ ゆうべのことは もう聞かないで
  あなたにあげた わたしの秘密
  幸せすぎて 幸せすぎて
  あなたにすべてを かけたのだから
  ゆうべのことは もう聞かないで
  そのままそっと 抱いててほしい
(タマイチコ 作詞 中洲口一 作曲)

 意味シンな言葉で始まるこの曲を、清純な乙女の装いと優しく甘くそして澄やかな声で歌い上げた彼女は一躍スターへの道を駆け上った。又、その頃に青春を過ごした私も彼女の魅力にハマった一人である。

 さて、話を今回のテーマ“ないしょ”に戻すことにしよう。
 人は誰にも秘密が有り“ないしょ”好きである。それが大きいか小さいかは別にしても、日々の生活の中では人生の所どころで“ないしょ”は花開くのである。罪になるのもあればクスッと笑えるかわいいものまで、私達は秘密の中に生きていると言ってもけっして過言ではない。
 そう言えば先頃世間を騒がし流行語大賞にもなった“忖度(そんたく)”という言葉がある。我々が日常の生活の中で他人に気遣いをするという意味でのそれは必要であり、利害が発生することは余り無い。しかし、これが政治絡みとなればそうはいかない。
 真っ黒な腹がお金で膨らみ、“ないしょ”が嘘に塗(まみ)れる。全く始末が悪い。“ないしょないしょ”の口裏合わせとダンマリ。国民不在の高笑いが聞こえて来るようで腹立たしいこと極まり無い。
 まあお堅い話はこれくらいにして、私が最近耳にした“ないしょ”をひとつー。
 先日数人の御婦人達とお茶を飲みながら雑談していた時、御決まりの展開で旦那の話に。ひとりの人が「うちの主人たらね」と口を開いた。「時々ね、洗い物を手伝ってくれるんだけど、昨日台所の片隅に割れたお皿が隠してあるのを見付けたの。ちゃんと素直に言えばいいのにね~」。その場が笑いに包まれた。なんともかわいい隠し事、“ないしょ”ではないか。
 いかにも仲睦まじく平和な家庭ぶりが垣間見えた気がして顔がほころんだ。それと共に「こんな“ないしょ”を又聞きたいものだな」と心でつぶやきながら、熱いコーヒーをゆっくりと口に運ぶ私であった。 (完)