「イスラム国ふなっしー」 山の杜伊吹

 いまにも雪に変わりそうな凍るような雨がずっと降り続いている。まだ日中というのに空は暗黒で、目を凝らしても視界はすこぶる悪い。こういう日に事故を起こすんだ、とハンドルを握りながら思う。いっそイスラム国へ行って、死に遂げたいと願う一部の人間の気持ちも分からぬではなかった。カメラもある、記事くらい書ける。ジャーナリストと名乗ってラッカへ行けば、きっと殺してくれる。現地から断片的に送られてくる映像には、花の一輪も生えない一面の乾いた砂漠。砂と土埃まみれの街の片隅に、希望を託す花の姿はない。人々は暗澹とした気持ちを背負いながら、あの色の少ない世界を生きているのだろう。
 地球で同時間を生きる同じ人間だというのに、生まれた国、場所、宗教、性別、言語、親が違うだけで、呪われた一生を過ごさねばならない。イスラム国に惹かれて向かう者は、日本にいた時、一輪の花も見えぬ日々を過ごした者に違いない。自分に肉親があれば行けぬ。子どもが人質に捕らわれたなら、悲しみにくれる親のある者なら、決して行けっこない。愛に満たされた事のないこの世で最も不幸せな者を受け入れてくれるのは、あの乾ききった花のない国なのだ。
 新しい年はやってきて、少しの晴れ間に希望の芽を見出すも、すぐに地獄へ突き落とす容赦ない仕打ちに、がっくりとうなだれたままだ。未来を担うはずの子どもも少なく、老人とそのペットと借金ばかりが増えていく。子どもの年金を親が自分の年金から国に納めてる。矛盾だらけのこの国に、まばたきを何度しても希望は一向に見えない。いっそ、国を捨ててどこかへ行ってしまおうか。
 こんな日にも、どんな日でも、お笑い芸人たちが日本を救っている。あの人たちがいなかったら、どうなっていたろうと薄ら寒い思いがする。いまや日本人に残された最後の魂の救いはお笑いとなったのだ。
 ふなっしーよ、生まれてきてくれてありがとう。あなたの黄色と水色の組み合わせが素晴らしい。キラキラが書き込まれた瞳がとてつもなく可愛い。あんな目、久しく見てなかったよ。突拍子のない動きと高い独特の声から、どんな言葉が飛び出すか、目も耳も釘付けなのだよ。あなたのおかげで、船橋の名産がナシであることを知った。その船橋市の公認キャラクターを断られた挫折の経歴。
 でも諦めなかったね。最初はキワモノ扱いだったのに、メジャー番組多数出演。大手各社のCM獲得。ナシ味のさまざな製品化。ふなっしーグッズ発売。年末は特番に引っぱりだこだった。水に入ったり空を飛んだり、グルメレポートもして、カラダを張ったチャレンジに涙が出そうだったよ。NHKで文化人阿川さんと対談まで果たすまでになって。すんごい立派なサクセスストーリー。あなたの頭に咲くのは、ヒマワリの花。
 ふなっしーの『中の人』、何者なのか。すべて、スケジュールもなにもかも一人でやってるって聞いて、本当にスゴイ人なんだと思う。会話を聞いていてもとっても頭のキレる人で、世の中をちゃんと見てる。フツーの人としても、きっと生きていけるちゃんとした人。ギリギリの危うさを笑いに転換できる第一級のお笑いのセンスを感じたさ。
 いつかは『中の人』もメディアに出てくるだろうけど、ふなっしーで稼いで稼いで稼ぎまくってからにして。まだまだ日本人はキミを通して夢を見ていたいんだ。イスラムに行くのはもう少し後にするよ。(完)