「私と雪」 牧 すすむ
「雪と氷の祭典」。冬季オリンピックが韓国の平昌で開催され、人々の心に数えきれない程の夢と感動を残し十七日間の舞台に幕を下ろした。
テレビの画面から刻々と伝えられる様々な競技の展開に一喜一憂し、思わず声を上げて身を乗り出す自分の中にこれ程の愛国心があったことにも改めて気付かされた。
今回のオリンピックでは女子選手の活躍が目立ったようだが、私的にはやはり羽生結弦選手の印象が強い。大会直前の怪我で二カ月あまり氷の上に立てなかった彼がなしえた二連覇の偉業。努力に重なるメンタルの強さには〝さすが〟という言葉しかない。
又、パシュートでは年間三百日に及ぶ合宿がもたらした女子チームの栄冠。「そだね~」の合言葉で日本中を沸かせたカーリング娘達。更にはマススケートでゴール前の一瞬の隙を突いて金メダルを勝ち取った高木奈那選手。ニュース等でも繰り返し流される映像は何度観ても痛快この上ないシーンであった。
「オリンピック」。選手の誰もがそれぞれ自国の人々の大きな期待を一身に背負い、極限まで鍛え上げた己の力と技を競い合う。正に真剣を持って勝負に挑む侍のような姿だ。
然しそんな過酷な戦いの中に美しい一輪の花が開いた。スピードスケートでオリンピックレコードと共に金メダルを手にした小平菜緒選手の愛溢れる友情の場面だ。
期待をされながらも二位となって泣き崩れる韓国のイ・サンファ選手を両手で抱き寄せ、優しく語り掛ける彼女の姿に「これこそが真のスポーツでありオリンピックの魂だ」と、世界中から感動と称賛の嵐が沸き起こった。私も思わず胸が熱くなり、目頭がうるんで来るのを耐え切れなかった。
多くの名シーンを我々の記憶に残し平昌オリンピックは閉幕したが、この先も止まることなく明日のヒーローを目指し若い力が育まれていくことだろう。間近になった「東京オリンピック」に、早くも鼓動の高鳴りが聞こえてきそうである。
話は一気に現実へと変わるけれど、私が主催する大正琴の会。こちらも年間を通し大小様々な発表の場を持ち、沢山の人達がその舞台に立つ。勝ち負けの世界ではないけれど、真剣に音を紡ぐ彼女らの心はオリンピック選手のそれと何ら変わりはない。
先日もある演奏会で挨拶した私は、会場一杯の観客にこう話した。
「今日この舞台で演奏する全ての生徒に心からの拍手を送り、一人ひとりの首に金メダルを掛けてあげたい。」とー。
競技場には魔物が棲んでいる。そんな言葉をよく聞くけれど、舞台も同じで色んな魔物が潜んでいて、思いもよらないトチリで落ち込む人達も少なくない。それでも更に高い技術を求めメンタルを研き、次の勝利への備えをするのである。
そして又、私自身もコーチ兼選手の身。常に栄光の金メダルを手にする夢を追い続け、生徒と共に日々舞台という名の競技場で競い合っていきたいと、そう願っている。
余談になるけれど、私の所属する大正琴の流派「琴伝流」で毎年、全国の舞台で一番多く演奏された曲を選び表彰させて頂いている。そんな中に「風説流れ旅」があり、北島三郎さんにその賞が贈られたのだ。
♪ 破れ単衣に 三味線抱けば
よされよされと 雪が降る ♪
私も大好きな曲で昔から幾度となく演奏してきた。そしてこれから先も変わることなく、大切なレパートリーの一つとして舞台に掛け続けていきたいと思っている。
♪ よされよされと 雪が降る ♪
そう心の中で口ずさみながらー。 (完)