「カラフルなラブレター」 黒宮涼

 小学生のころ、おまじないが流行っていた。
 消しゴムを使ったものや糸をつかったもの。色々なものがあったが、中でも手紙にまつわるものが印象に残っている。
 青いペンでラブレターを書くと告白が成功するというものがあった。それは雑誌か何かで見たものだと思う。そんな話を友達と一緒にしていた記憶がある。

 小学校三年生の頃。転校してきた女の子がいた。明るくて誰とでも仲良くできるタイプのように見えたが、どことなく距離を置いているようにも見えた。私の中で彼女は、謎の多い人物だった。その子とは席も近いこともあり、たまに話すようになった。
 ある日の昼休み。私は彼女に頼まれごとをされた。
「ここに書いてある文章を、この紙にこのペンで書いてほしい」
 と言われたのだ。
 渡されたのは元になる文章と、便箋のような紙。それとオレンジ色のボールペンだった。
「上の文章は気にしないで、ここから書いて」
 と彼女は便箋に書かれていた最後の文章の下の行を指で示した。
 断る理由も思いつかなかったので、私は彼女の言う通りに書いた。
 文章はあまり覚えていないが、当たり障りのない内容だった気がする。
 手紙の上部を一瞬だけ見たが、二、三行ごとに別の色のペンで書かれていた。どれも別の人の筆跡のように思えた。どうやら私の前に二人、頼まれていたらしい。
 私は一体彼女が何をしようとしているのか、見当もつかなかった。どうして手紙を複数の友達に書かせているのだろう。そしてそれを誰に渡すつもりだろう。
 首をかしげながら文章を書き写すと、彼女はそれをさっと取り「ありがとう」と言ってまた別の友達に文章の写しを頼みに行っていた。
 何だったのだろうと思いながら午後の授業が始まり、その休み時間。ある男の子が彼女に「これお前の仕業だろう」と言って手紙を突き返していた。彼女は「えー。何で私だと思うの? 名前書いてないのに」とはぐらかすように言った。
「こんなことするのお前ぐらいしかいないだろう」と男の子は返した。不機嫌な表情だったと思う。
 手紙に送り主の名前など書いていなかったらしい。ただ「○○くんへ」と彼の名前が書かれていただけだった。
 結局のところその手紙は、彼女のおふざけ。いたずらとして処理されてしまった。
 私は手紙の内容のすべてを知らないし、彼女が手紙の最後の文章に何を書いたのかも知らない。けれど思うのだ。あれはいたずらではなく、紛れもなくラブレターだったのではないかと。なぜそう思うのかは、私が彼女の好きな人を知っているからである。
 彼女はその男の子のことが好きだった。誰から見てもわかりやすかったと思う。彼女はいつも彼をからかって笑っていたからだ。ただ面と向かって気持ちを言うのも、普通にラブレターを書くのも恥ずかしかったのではないか。
 青いペンでラブレターを書くと告白が成功するというおまじないがあったように、あのカラフルなペンで書かれたラブレターも何かのおまじないだったのかもしれない。今となってはわからないし、彼女は別の人と幸せな家庭を築いているので、いつか機会があればあの時の話を聞いてみたいと思っている。 (完)