「夜明けのメッセージ」 黒宮 涼

 夜が明ける。
 子どもの頃は、夜が怖かった。
 父と母が寝ているのを見て、そのまま起きないんじゃないかと思って怖くなる時があった。
 夜は眠るのが怖い。
 気がついたら、夜が明ける。朝陽を見た。

 このテーマエッセイの話を聞いた時、母がとある童話の本を持ってきてくれた。
「それでも夜は明ける」(秋書房)
 それは子供の頃読んだことのある本だった。
 母はその本を、ゆっくりと読み聞かせてくれた。
 私はどういう内容だったのかを全く覚えていなかったので、母の声を聞きながら、まるであの頃に帰ったかのような気持ちになった。
 本を読み進める時の、子どもの頃のドキドキ感。
 どうなるんだろうと言うあのワクワク感。
 その本の主人公は、ネズミの女の子。ある時大きな地震があって、ネズミの天敵である猫が助けてくれると言うお話。
 ちょっと難しい童話である。
 正直、当時この本を読んでいた私に、この本の本当に伝えたいことが、伝わっていたのかと疑問を持つ。
 後書きを読んでみると、この本の内容がいかに深いかがよく分かる。
 作者が阪神淡路大震災の体験者なのだ。
 私は産まれてから一度も、大きな地震というものを体験したことはない。それはとても幸せなことなのかもしれないが、体験者側からは、どう見えるのだろう。
 ふと子どもの頃を思い出して、私は思う。
 もしかしたら私は、この本を読んだとき、怖くなったんじゃないのか。だから今でも夜が怖いんじゃないのか。

 夜の闇は、心を不安にさせる。
 不眠症の友人がいた。
 その子は睡眠薬を飲んでいると言っていた。
 皆が、薬を飲んだらいけないとその子に言う。私もその通りだと頷いていた。
 睡眠薬がどういう副作用を持つ薬かは、私にはよく分からない。ただ、彼女が薬を飲まずに寝ないで学校へ来る時と、薬を飲んで学校へ来るときとの差は、はっきりと見て取れた。
 その子の目の下には、常にクマができていた。
 私はそれを可哀想だなと思った。
 彼女が眠れない理由は、どうやら家庭環境にあったらしい。彼女の家庭は複雑だった。
 その話を彼女から聞いた時、身近にこんなひどい親を持った子がいるのかと、私は驚愕した。
 詳しくは書けないが、彼女はそのせいで男性が苦手になったと言う。
 私はまだ幸せなのだなと思う。
 今日も夜が来て、朝になる。
 彼女は一体どんな気持ちで夜明けを迎えているのだろう。
 今はもう彼女に会えないが、彼女がとても幸せになる日を、私は切に願う。