「東京五輪VS名古屋八輪そして」   真伏善人 

 五郎ーもしもし俺だ。わかるか。久し振りだな。
 拙者ー?……
 五郎ーおれ、おれだよ。横浜だ。
 拙者ーおお久しぶりやなあ。どうしたんや。
 五郎ーどうしたもこうしたも、ほらオリンピックだぜオリンピック。
 拙者ーなんや、ほんなことで電話してきたんかい。どこでも馬鹿さわぎで、いやでも耳に入るわい。
 五郎ーいやぁ興奮したぜ。またオリンピックを近くで見れるんだぜ。
 拙者ーおお、ええこっちゃな。
 五郎ーところで名古屋はなんで立候補しないのさ。
拙者ーそんなこと俺が知るかや。
五郎ーなあ、金がない都市はアイディアだぜ、アイディア。名古屋はそれもないのかい。
拙者ーなんやてえお前、馬鹿にするんやないで。
五郎ーほおお、怒ったなあ。
拙者ー名古屋はなあ、名古屋にはなあ、金がなくたって頭のいいやつが、いっぱいおるんやで。
五郎ーお、それは誰のことを指しているんだ。お前さんかい。カカカ。
拙者ー笑うな。耳の穴をかっぽじってよう聞けや。
五郎ーおお、いいとも。
拙者ーまずお前に聞くがよお、五輪って何や。
五郎ーオリンピックに決まっているじゃん。
拙者ーアホか、その程度か横浜人は。
五郎ーあほう? なんだと。それじゃ何だというんだ。
拙者ーあのな、大陸って知ってるか。大きな土地だ。
五郎ーおおそれか。あれは五つの大陸を色分けした輪でつないだシンボルマークだ。どうだい。
拙者ーそんなことで自慢するんやないで。いいかここからや。名古屋の考えはなあ、五輪やないでえ。
五郎ー五輪じゃないオリンピック?。
拙者ー八輪や。
五郎ー八輪? 七輪は知ってるけど、なんだいそれは。
拙者ー名古屋はな、投げる京とも書けるような所と違って丸八や。丸く収めて末広がりの土地や。
五郎ーおい、無茶言うな。なんだよ、丸八ってのは。
拙者ー名古屋のシンボルマークやで。どうや。
五郎ーそれで八輪か。無理があるな。あとの三輪は。
拙者ー鈍いなあ。宇宙に人が住める時代や。ふさわしい大会にするには、その彼方の者も参加してもらおうまいってことや。いつかこの丸八の地で。
五郎ーなにを馬鹿なこと言ってるんだ。
拙者ーまずは南北極地から、そしてまんまるお月さん、もうひとつは隣の赤い星からや。
五郎ー冗談もほどほどにしろ。
拙者ーいや、このところ夜空を見ているとな、そんなことがいつか本当になるような気がするんや。
五郎ーひえーい参った。とにかく東京でオリンピックがあることは決まったんだ。その時には一度こっちへ出てこいよ。いいな。
拙者ー金まみれオリンピックなど、見たくもないがや。
五郎ーそんなこと言わんと絶対こいよ。最後だからさ。じゃあまたな。絶対だぞ。
ーいつかこんなやりとりがあるのではと思っていたが、音沙汰なしだ。ひょっとしてまた体調を崩しているのではないかと、彼を思いながら改めて考えてみる。八輪は兎も角、ここはいさぎよく五輪を男爵に返して、他の国に変えてもらった方がいい。宇宙の彼方から日本国を見ている者たちも、皆そう思っているだろう。きっと。(了)