「私とラジオから聴こえてくる彼女の声」 黒宮 涼

 私が最初に彼女の声を聞いたのは、まだ中学校一年生のこと。
 テレビから聞こえてくる彼女の声を、私は漠然と好きだと思った。
 それから何年か、彼女の声を聞くたびに、彼女のことが気になるようになった。
 彼女のことを本格的に好きになったのは、高校一年生、二度目の頃。
 彼女がしゃべるラジオを、初めて聴いた時だった。
 二度目の高校一年生。その頃の私。
 何度も。何度も彼女のしゃべりに救われていたのだと思う。
 相方である彼との面白い掛け合い。二人のラジオを聴いていなければ、今の私はなかったと言いきれる。
 初めて聴いてから、約六年。番組自体は今年の春で九年目に突入したらしい。よくここまで続いたものだと、よくここまで聴き続けてこれたものだと、私は自分で感心する。そのため私にとっての約六年間は、番組と共にあった。
 月曜日から金曜日まで学校へ行き、土曜日の夜はラジオを聴いて笑う。ラジオは私の生活の一部となっていた。それは今でも変わらない。
 平日に辛いことや、苦しいことがあっても、土曜日の夜は必ず笑う。笑うことが出来るのだ。少し大げさかもしれないが、それが楽しみで生きているようなものだ。
 よく、彼女のどこが好きかと聞かれることがある。
 高校三年生の頃、三分間スピーチというものをやった。しゃべるテーマは、自分の好きなこと。好きなものについて。クラスメイトたちは三者三様のスピーチをしていた。ある者は好きな本について。ある者は好きなゲームについて。
 そんな中、私は彼女についてスピーチをした。
 三分間。三分間というのは、短いようで意外に長い。
 私はまず、彼女が今まで声を当てた代表作をあげ、彼女が何をやっている人なのかを説明した。その後で、彼女の魅力について語った。
 とにかく、声が素敵だ。甲高いけれど、耳に残る声。
 とにかく、ラジオのしゃべりが面白い。元気をくれる。
 しかし何より私が彼女に惹かれた理由は、彼女が私にない物を持っていたから。
 彼女は私と違い、マルチな才能と、積極性を持っている。それは私にはないものだ。私が彼女に憧れるには、十分な理由だろう。
 どちらかと言えば、彼女は物事をはっきりと言うタイプだ。少なくとも私はそう認識している。ラジオでの暴言キャラと彼女の書く文章のギャップは、素晴らしい物を感じる。
 五年前、彼女が書いた短い童話が、賞を取った。そのときの衝撃と言ったらなかった。先を越されたとさえ思った。嫉妬心というものが少しだけ湧いたのは言うまでもないが、これは素直におめでたいことだと思った。
 何せ彼女は、正真正銘、自分の力で大賞を取ったのだ。それまでの自分の職業での実績を全て隠して。
 嘘だ、やらせだと言う人がいた。それがとても辛かったと、彼女はのちに文章で書いた。それはとても儚くて、優しげな文章だった。だから私は密やかに涙した。
 私は彼女の声が好きだ。演技が好きだ。しゃべりが好きだ。
 そして、彼女の書く文章も好きだ。
 ラジオで辛辣な言葉を用いてしゃべる彼女。
 優しくて繊細な文章を書く彼女。
 どちらもきっと、同じ彼女。
 私はそんな彼女の全部を、とても尊敬していて、大好きなのだ。
 今日も彼女の声を聞く。私の微笑みは終わらない。