「声に出して」 加藤 行

「この子は将来、きっと日本一になる!」
 これは私が幼少時代に父親の実家、奈良県へ一緒に行った帰り道、田舎駅のプラットホームで、祖父が別れ際に言った言葉です。しかし残念ながら、この心ときめく亡き祖父の予言は、今は???残念ながら的中していません。(しかも、怠け者で努力不足もあったから、能力も磨かれるはずもありません…夢話となり)とは云え、心のどこかで「祖父の声が応援歌」となって私の人生の励みになっていたのかもしれないと、考えれば深く感謝せねばなりません。

「えー、今晩の怖い話をお寄せいただいたのは…」
 高校受験時代に、ラジオ番組に投稿した作品が浜村淳の声で「加藤行君の…」と聞こえた時の驚きと喜びは今でも忘れられません。実は、以前に読んで印象に残った作品を紹介したのですが、それでも翌日の学校で私は密かに人気者になっていました。

「今度の試験問題は、すべて教科書の図表から出題するので…」
 私が大学時代に看護学校で薬理学の非常勤講師をしていた時の想い出です。ここまでヒントを出せば必ず頑張るだろうという私の浅はかな期待でしたが、熱い青春時代をエンジョイしている若者には誤算だったのでしょうか。試験結果は目を疑うような無残な敗北、「声は届かず…」私の力不足? 結局は看護師さんも、医療現場の実践で鍛えられるのかなと自己納得するしかない感慨に耽ったものです。昔のほろ苦い想い出です。

「それではここで皆さんに変わった手品をご覧に入れたいと……」
 最近、地元の地域生活支援施設で開催された交流会で、私が手品を披露した時の口上です。舞台用のテーブルと道具は揃っていたのですが、そこが怠け者の私で、準備も練習も一切なしのぶっつけ本番でした。しかし、プロの大道芸人の方にうまく紹介して頂き、清水寺の舞台から飛び降りる覚悟で、いきなりの大声を張り上げて、あっという間に演技は終わりました。帰宅しての数時間は、役割を終えての興奮と開放感で一杯でした。ただ、演技中に何を喋ったのかは今でも全く覚えていません。けれど、皆様には好評だったようで「面白かったよ!」と喜んでもらい、やって良かったと達成感を味わいました。

「…もしもし、姉ちゃん」
 私の姉が、同人誌「熱砂」の連絡担当をしてくれていて、姉とはよく電話で連絡することがあります。それで思い出したのですが、以前に、某所で「こころのダイヤル」という名刺を見かけたことがあって、その時に、なるほど、と得心した次第です。電話のフリーダイヤルで専門のカウンセラーが「こころの声」に耳を傾けて悩み、心配、不安等々の相談にのってくれるサービスです。
孤独に声を閉じ込めないで「声に出して」誰かに訴え、
助けを求めて開かれて行く道もあるはずです。

「回る、回るよ、時代は回る………」
 大学時代から、私は中島みゆきの歌に聞き惚れて以後、何十年もの間、一ファンとして、カラオケボックスでコーラドリンク片手にマイクを持って、彼女の曲を悪声ながらも歌っていました。最近も、近くに新しいカラオケ店を発見し、店中に響きわたるくらいの大声で歌ってみようと企んでいるこの頃です(腹式呼吸の発声、これはかなりのストレス解消、健康方です)

「…ありがとうございました」
 最近、喫茶店を出る時、タクシーやバスを降りる時などによく心がけて私が使う言葉です。ずっと以前は軽く頭を下げる程度でしたが、「声は気持ちを伝える」手っ取り早い手段に目覚めて以来、何につけ実践しています。特に緊急時などの「叫び声」は反射的に発せられ、早く伝わりを守る機能、「声」の大切さを痛感します。
 
「声はその人の人生を語る」のではないかと考えもします。伝達手段としての文字はもちろん大切ですが、音色には文字では表せないその人の人柄や個性が表れてきます。心の声を聞き分けるのも経験の深さでしょうか。「さまざまな花々あり野は楽し」です。声をかけ合って人生豊かに素敵な花を添えましょう。