「サンタモニカ」 牧すすむ

 その時私は水平線に沈む美しい夕陽を見つめていた。どこまでも穏やかに広がるサンタモニカの海は、カモメが高くそして低く遊ぶように飛び交い、大きな太陽が黄金色に全てを染めて静かに海へと溶け落ちて行く。
 少し前、私は妻と二人でこの地を訪れた。成田から十一時間のフライトも隣の席に座り合わせた中年の女性との会話が弾み、退屈が紛れたこともあり短い旅に思えた。
 若い頃に離婚して一人暮しだという彼女は、年一回ラスベガスへ遊びに行くのが楽しみだと語り、ビールを口に運びながら「気ままな人生ですよ」と屈託なく笑っていた。
 少し微睡(まどろ)んだと思う間もなく飛行機は「ロスアンゼルス国際空港」に到着した。ロビーを出ると息子が待っていてくれた。スーツケースを車に積み、一路トーランスにある彼の自宅へー。幼稚園に孫を迎えに行っていたというお嫁さんともにこやかな再会だった。
 昨年までチリに勤務していた息子は今年からロスに転勤、新しい生活が始まった。仕事柄外国暮しが長く、なかなか帰国出来ないこともあって彼らと会うのも久しぶりである。先回は二年前にチリを訪問した時。そんなこともあって、孫との再会は驚きの連続! 三才になった彼の言葉の半分は英語。当たり前のことと思っていてもやっぱり驚く。
 息子が休みを取ってロスのあちこちを案内してくれた。南国らしい空と風、そしていたる所に林立する十五メートルはあろうかと思われる椰子の木。美しい花々。又、近くには映画のメッカ「ハリウッド」があり、あの「ターミネーター」誕生の地も隣接している。私も妻も目を丸くするばかりだ。
 広大な土地に広がる風景、そこは私が過去に訪れたどの国々とも違う。そんな印象に圧倒されてしまった。高い建物は余り無く、住宅やスーパーその他の殆んどの建物が平家。つまり一階建てだ。庭も広い。スーパーに至っては横幅数百メートルはあろうかと思われる程長く、駐車場はまるで大きな公園のようだった。
 道路も片側五~六車線というのが当たり前で、更にその道路を埋め尽くす車の量に〝さすがアメリカは車社会だ〟と改めて痛感させられた。クラクションの音が頻繁になるのも日本との違いである。
 息子やお嫁さんがこんな道を毎日平気で運転しているのも驚きだった。しかも左ハンドルで日本とは逆の右側通行。「慣れというのはすごいものだねー。」と妻もしきりに感心の声を上げていた。
 私がサンタモニカの町でもう一つ日本との違いを目にしたものがある。それはお腹の大きな女性が多いこと。といっても決して太っているという話ではない。妊婦さんが多いのだ。安心して子供が産めないと言われている日本とは大違い。政治が、いや政治家が進めようとしている未来を思わずにはいられない事実だった。
「外を見て内を知る」それは正にこのことなんだな、と。この時ばかりはガラにもなく考え込んでしまった。
 買い物途中、息子が是非見せたいものがあるからと車で五分位の所にある海岸へ出向いた。日暮れが近い時間だったが車を降りて海辺に立つと、そこには美しい夕陽の世界が拡がっていた。眩しい程の黄金色が海と空を覆い尽くし、波間に遊ぶ人達や高くそびえる椰子の木々、海岸沿いに建ち並ぶ家々の屋根と群れ飛ぶカモメの羽根までもがその色に染まり、南国の一日を終えようとしていた。
「サンタモニカの夕日は世界的に有名なんだよ」。砂浜に長い影を落としながら息子がポツンと言った。その脇で妻に手を引かれた孫の小さな影が忙しなく踊り続ける。気が付けば、私の唇からかすかに漏れる〝桜田淳子〟の「サンタモニカの風」が、汐風の中に甘く優しく溶け込んで行くのを感じていた。 (完)

17年10月27日

「日本海」真伏善人

 その時私は水平線に沈む美しい夕陽を見つめていた。どこまでも穏やかに広がるサンタモニカの海は、カモメが高くそして低く遊ぶように飛び交い、大きな太陽が黄金色に全てを染めて静かに海へと溶け落ちて行く。
 少し前、私は妻と二人でこの地を訪れた。成田から十一時間のフライトも隣の席に座り合わせた中年の女性との会話が弾み、退屈が紛れたこともあり短い旅に思えた。
 若い頃に離婚して一人暮しだという彼女は、年一回ラスベガスへ遊びに行くのが楽しみだと語り、ビールを口に運びながら「気ままな人生ですよ」と屈託なく笑っていた。
 少し微睡(まどろ)んだと思う間もなく飛行機は「ロスアンゼルス国際空港」に到着した。ロビーを出ると息子が待っていてくれた。スーツケースを車に積み、一路トーランスにある彼の自宅へー。幼稚園に孫を迎えに行っていたというお嫁さんともにこやかな再会だった。
 昨年までチリに勤務していた息子は今年からロスに転勤、新しい生活が始まった。仕事柄外国暮しが長く、なかなか帰国出来ないこともあって彼らと会うのも久しぶりである。先回は二年前にチリを訪問した時。そんなこともあって、孫との再会は驚きの連続! 三才になった彼の言葉の半分は英語。当たり前のことと思っていてもやっぱり驚く。
 息子が休みを取ってロスのあちこちを案内してくれた。南国らしい空と風、そしていたる所に林立する十五メートルはあろうかと思われる椰子の木。美しい花々。又、近くには映画のメッカ「ハリウッド」があり、あの「ターミネーター」誕生の地も隣接している。私も妻も目を丸くするばかりだ。
 広大な土地に広がる風景、そこは私が過去に訪れたどの国々とも違う。そんな印象に圧倒されてしまった。高い建物は余り無く、住宅やスーパーその他の殆んどの建物が平家。つまり一階建てだ。庭も広い。スーパーに至っては横幅数百メートルはあろうかと思われる程長く、駐車場はまるで大きな公園のようだった。
 道路も片側五~六車線というのが当たり前で、更にその道路を埋め尽くす車の量に〝さすがアメリカは車社会だ〟と改めて痛感させられた。クラクションの音が頻繁になるのも日本との違いである。
 息子やお嫁さんがこんな道を毎日平気で運転しているのも驚きだった。しかも左ハンドルで日本とは逆の右側通行。「慣れというのはすごいものだねー。」と妻もしきりに感心の声を上げていた。
 私がサンタモニカの町でもう一つ日本との違いを目にしたものがある。それはお腹の大きな女性が多いこと。といっても決して太っているという話ではない。妊婦さんが多いのだ。安心して子供が産めないと言われている日本とは大違い。政治が、いや政治家が進めようとしている未来を思わずにはいられない事実だった。
「外を見て内を知る」それは正にこのことなんだな、と。この時ばかりはガラにもなく考え込んでしまった。
 買い物途中、息子が是非見せたいものがあるからと車で五分位の所にある海岸へ出向いた。日暮れが近い時間だったが車を降りて海辺に立つと、そこには美しい夕陽の世界が拡がっていた。眩しい程の黄金色が海と空を覆い尽くし、波間に遊ぶ人達や高くそびえる椰子の木々、海岸沿いに建ち並ぶ家々の屋根と群れ飛ぶカモメの羽根までもがその色に染まり、南国の一日を終えようとしていた。
「サンタモニカの夕日は世界的に有名なんだよ」。砂浜に長い影を落としながら息子がポツンと言った。その脇で妻に手を引かれた孫の小さな影が忙しなく踊り続ける。気が付けば、私の唇からかすかに漏れる〝桜田淳子〟の「サンタモニカの風」が、汐風の中に甘く優しく溶け込んで行くのを感じていた。 (完)

17/10/6