「声」 牧 すすむ

 突然誰かに声を掛けられてびっくりすることがある。然もそれが思いもよらない場所であったとしたら、その驚きはかなり大きなものだ。実は私も過去に何回かそんな体験をしたことがある。
 大正琴講師という仕事柄、日々の教室廻りで顔見知りも多い。そんなある日、次の教室へ向かう道すがら小さなお店が目に入った。おにぎり屋さんである。ちょうどお昼時でもあったので、車を止め店を覗きいくつかのおにぎりを注文した。中にはおばさんが一人いて、「ハイハイ」と手際良く対応してくれたがお金を払おうとしたその時、彼女がすっとんきょうな声を上げた。
「あれッ、先生!!」。なんと彼女は私の生徒だったのだ。お互い顔を見合わせ「ハハハ、」と笑いあったが、彼女のとびっきりの明るい笑顔も昼飯の一つになった。余談ではあるが、代金を渡そうとする私の手を押し戻し、「プレゼントだよ」と言って又「ハハハ、」と大きな声で笑った彼女の顔が今も目に浮かぶ。
 そんな話題をもう一つ─。
 場所はハワイ。降り注ぐ太陽の下、南国の風情を満喫しながらワイキキビーチを散策していたその時、突然背後から「センセー!!」と声を掛けられびっくりした。振り向けば若い女の子の二人連れ。ニコニコしながら私を、いや私達を見ているではないか。
 思いきって声を掛けたという彼女達は仕事先の知り合い。擦れ違う前から私だと気付いていたのだが、私が若い女性と一緒ということで一度はためらったという。思わず笑ってしまった。何のことはない。連れの若い女性、実は我が娘である。演奏旅行中のサポートにと思い連れて来ていたのだ。それにしても、まさかこんな遥か外国の地で、然もこの場所で行き違うなんてと全く驚くばかりであった。
 余談を続けるなら、「娘さんで良かったね。別の人だったら大スクープですよ」と、健康そうな笑い声を残し、彼女達は椰子の木陰を擦り抜け白く広がる砂浜へと消えて行った。
 そして更に偶然は続くのだ!!
 娘とのデートを終えてホテルへ帰った時のこと、ホテルの入り口で又もや「あッ!!」。今度は私が大きな声を上げてしまった。鉢合わせしたのは何と、私が日頃大変お世話になっている支援者の方。まさかこのハワイで、それも同じホテルに居合わすとは。驚き以外の何物でもない。
 聞けば視察旅行とか─。彼は議員のセンセイなのである。その時はお一人であったが、心なしか少々の慌てぶり。「後でお茶でも」とお誘いを受けたが、時間の都合が合わなかったので失礼をした。本当の視察だったかも知れないけれど、まぁ、この手の事に下手な詮索は野暮というもの。因みに、時効は既に成立している由。(笑)
 ところで、私は今日も忙しく教室を巡りながら色々な人達と出会い、様々な声を聞いている。大声で話す人、呟くように話す人。声は人柄そのものだと思う。だが、皆一様に明るいのは趣味のおかげ。人生に目標が有り、それを囲む多くの人達がいる。孫のようなグループメイトと一緒に学ぶその顔は生き生きとし、声さえも若々しい。
 私も仕事で息子と行動を共にすることが多い日々。コンサートの舞台上で隣りにいる息子のことを“弟”と言って笑いを取ったりもする。が、実際いつもそんな気分で舞台に臨んでいるのも確か。
 弦の音色は「声」。いつまでも若く張りのある「声」で演奏し続けなければと自身を叱咤し、練習に励む毎日なのである。

12年5月8日

「声」 平子 純

 突然誰かに声を掛けられてびっくりすることがある。然もそれが思いもよらない場所であったとしたら、その驚きはかなり大きなものだ。実は私も過去に何回かそんな体験をしたことがある。
 大正琴講師という仕事柄、日々の教室廻りで顔見知りも多い。そんなある日、次の教室へ向かう道すがら小さなお店が目に入った。おにぎり屋さんである。ちょうどお昼時でもあったので、車を止め店を覗きいくつかのおにぎりを注文した。中にはおばさんが一人いて、「ハイハイ」と手際良く対応してくれたがお金を払おうとしたその時、彼女がすっとんきょうな声を上げた。
「あれッ、先生!!」。なんと彼女は私の生徒だったのだ。お互い顔を見合わせ「ハハハ、」と笑いあったが、彼女のとびっきりの明るい笑顔も昼飯の一つになった。余談ではあるが、代金を渡そうとする私の手を押し戻し、「プレゼントだよ」と言って又「ハハハ、」と大きな声で笑った彼女の顔が今も目に浮かぶ。
 そんな話題をもう一つ─。
 場所はハワイ。降り注ぐ太陽の下、南国の風情を満喫しながらワイキキビーチを散策していたその時、突然背後から「センセー!!」と声を掛けられびっくりした。振り向けば若い女の子の二人連れ。ニコニコしながら私を、いや私達を見ているではないか。
 思いきって声を掛けたという彼女達は仕事先の知り合い。擦れ違う前から私だと気付いていたのだが、私が若い女性と一緒ということで一度はためらったという。思わず笑ってしまった。何のことはない。連れの若い女性、実は我が娘である。演奏旅行中のサポートにと思い連れて来ていたのだ。それにしても、まさかこんな遥か外国の地で、然もこの場所で行き違うなんてと全く驚くばかりであった。
 余談を続けるなら、「娘さんで良かったね。別の人だったら大スクープですよ」と、健康そうな笑い声を残し、彼女達は椰子の木陰を擦り抜け白く広がる砂浜へと消えて行った。
 そして更に偶然は続くのだ!!
 娘とのデートを終えてホテルへ帰った時のこと、ホテルの入り口で又もや「あッ!!」。今度は私が大きな声を上げてしまった。鉢合わせしたのは何と、私が日頃大変お世話になっている支援者の方。まさかこのハワイで、それも同じホテルに居合わすとは。驚き以外の何物でもない。
 聞けば視察旅行とか─。彼は議員のセンセイなのである。その時はお一人であったが、心なしか少々の慌てぶり。「後でお茶でも」とお誘いを受けたが、時間の都合が合わなかったので失礼をした。本当の視察だったかも知れないけれど、まぁ、この手の事に下手な詮索は野暮というもの。因みに、時効は既に成立している由。(笑)
 ところで、私は今日も忙しく教室を巡りながら色々な人達と出会い、様々な声を聞いている。大声で話す人、呟くように話す人。声は人柄そのものだと思う。だが、皆一様に明るいのは趣味のおかげ。人生に目標が有り、それを囲む多くの人達がいる。孫のようなグループメイトと一緒に学ぶその顔は生き生きとし、声さえも若々しい。
 私も仕事で息子と行動を共にすることが多い日々。コンサートの舞台上で隣りにいる息子のことを“弟”と言って笑いを取ったりもする。が、実際いつもそんな気分で舞台に臨んでいるのも確か。
 弦の音色は「声」。いつまでも若く張りのある「声」で演奏し続けなければと自身を叱咤し、練習に励む毎日なのである。

12/5/8