ショートミステリー「凶器を探せ」

 小さな公園の片隅にあるベンチで、捜査中の吉山刑事は昼食のハンバーガーを口に頬張りながら、抜け目なくジャングルジムを挟んだ向かいのベンチに偶然いたチンピラ田村の挙動を窺っていた。
「田村の奴、何か問題でも起こさなければいいんだが…」と、ひとり呟きながらコーヒーの残りを口に空けた。
 田村はしらけた様子で吸っていた煙草の吸い殻を投げ捨てると、そのまま公衆トイレに向かった。田村の姿も消えてしまい、腹もふくれた吉山刑事は背もたれに肩肘を突いてまどろみ始めたが、やがてハッと我に返って辺りを見渡した。
「田村の奴がいない…」不審に思いながら注意深く観察した。
 ブランコに乗った物思いに耽る様子の若い男性。公園中央の噴水の周りで子供達とはしゃいでいる中年の男性。 そしてジャングルジムにもたれ厚い本に熟読している風の若い女性。
 しかし田村の姿は公園のどこにもなかった。吉山刑事の脳裏に嫌な予感が走り急いで公衆トイレに駆け込んだ。
 すると手洗い場の前、タイル張りの床に田村がうつ伏せに倒れていた。すでに頭からは、おびただしい血を流して死亡していた。
「ふむ、撲殺されたか…」と呟くとトイレから飛び出し、再び辺りを見渡したが何の変わりもなかった。
 しかし、ふと大事なことに気づかされた。吉山刑事の座っていたベンチはこの公園で唯一の出入り口の傍にあった。とすると、誰かが通れば目を覚まし気づくはずである。
 そして公園は高い灰色のコンクリートの塀に囲まれて乗り越えるには、まず無理があった。
「すると犯人はまだ公園にいるな」
 早速、吉山刑事は公園にいる三人の聞き込みに回った。ブランコの若い男は詩人の野村で、詩作のために散歩に来たという。
 噴水で子供と戯れる男は彫刻家の須崎で仕事の気分転換でここまで来たという。
 そして、ジャングルジムの女性はOLの順子で恋人とデートの待ち合わせの最中だと言った。
「それに肝心の凶器はどこだろう」小さな公園の隅々まで探ったが、岩石のひとつでさえ発見できなかった。ゴミ箱の中にはダンボール箱と新聞紙が捨てられていた。
「あと考えられるのは……、そうか」と急に閃いた吉山刑事は、公園中央の噴水に身体ごと漬かって探り回ったが徒労に終わった。「ということは…」と中央の噴出し口も調べたがこれも無駄だった。
「あの高い塀から外へ放り投げたとは思えないが」
 吉山刑事は首を捻った……。

 あなたはこの事件の真相を見破れますか?

 後日、吉山刑事はこう語った。
「真犯人は須崎だ。なに、凶器はどこへ消えたって。凶器は氷の塊さ。須崎は氷の彫刻家だったのさ。彼は時々被害者があの公園にやって来ることを知って犯罪を企んだ。
 氷の塊を新聞紙に包みダンボール箱に詰めて、トイレに隠しておいた。そして被害者を追うようにこっそりトイレへ忍び込んで撲殺した。あとは凶器の氷を、噴水の中央の噴出し口に置いて何食わぬ顔で子供たちとはしゃいでいた訳さ。噴き出す水の勢いで氷はあっという間に小さくなり溶けただろう。
 そう、殺人動機だが、以前に氷の彫刻展が開催された時に田村が酒に酔っ払って作品を棒で殴って壊していたのを、須崎が怒り止めにはいったが『何だこんなもん、どけ! 俺がまとめて始末してやるう』と暴れて警察沙汰となりお互いに険悪な関係になっていたという訳さ。氷の彫刻家とは云え芸術家魂が炎と化し報復に及んだか。しかし俺も全身ずぶ濡れとは、とんだ災難だ。刑事も楽じゃねえよな」

10年12月4日

ウェブ作品集

加藤 行

 

 小さな公園の片隅にあるベンチで、捜査中の吉山刑事は昼食のハンバーガーを口に頬張りながら、抜け目なくジャングルジムを挟んだ向かいのベンチに偶然いたチンピラ田村の挙動を窺っていた。
「田村の奴、何か問題でも起こさなければいいんだが…」と、ひとり呟きながらコーヒーの残りを口に空けた。
 田村はしらけた様子で吸っていた煙草の吸い殻を投げ捨てると、そのまま公衆トイレに向かった。田村の姿も消えてしまい、腹もふくれた吉山刑事は背もたれに肩肘を突いてまどろみ始めたが、やがてハッと我に返って辺りを見渡した。
「田村の奴がいない…」不審に思いながら注意深く観察した。
 ブランコに乗った物思いに耽る様子の若い男性。公園中央の噴水の周りで子供達とはしゃいでいる中年の男性。 そしてジャングルジムにもたれ厚い本に熟読している風の若い女性。
 しかし田村の姿は公園のどこにもなかった。吉山刑事の脳裏に嫌な予感が走り急いで公衆トイレに駆け込んだ。
 すると手洗い場の前、タイル張りの床に田村がうつ伏せに倒れていた。すでに頭からは、おびただしい血を流して死亡していた。
「ふむ、撲殺されたか…」と呟くとトイレから飛び出し、再び辺りを見渡したが何の変わりもなかった。
 しかし、ふと大事なことに気づかされた。吉山刑事の座っていたベンチはこの公園で唯一の出入り口の傍にあった。とすると、誰かが通れば目を覚まし気づくはずである。
 そして公園は高い灰色のコンクリートの塀に囲まれて乗り越えるには、まず無理があった。
「すると犯人はまだ公園にいるな」
 早速、吉山刑事は公園にいる三人の聞き込みに回った。ブランコの若い男は詩人の野村で、詩作のために散歩に来たという。
 噴水で子供と戯れる男は彫刻家の須崎で仕事の気分転換でここまで来たという。
 そして、ジャングルジムの女性はOLの順子で恋人とデートの待ち合わせの最中だと言った。
「それに肝心の凶器はどこだろう」小さな公園の隅々まで探ったが、岩石のひとつでさえ発見できなかった。ゴミ箱の中にはダンボール箱と新聞紙が捨てられていた。
「あと考えられるのは……、そうか」と急に閃いた吉山刑事は、公園中央の噴水に身体ごと漬かって探り回ったが徒労に終わった。「ということは…」と中央の噴出し口も調べたがこれも無駄だった。
「あの高い塀から外へ放り投げたとは思えないが」
 吉山刑事は首を捻った……。

 あなたはこの事件の真相を見破れますか?

 後日、吉山刑事はこう語った。
「真犯人は須崎だ。なに、凶器はどこへ消えたって。凶器は氷の塊さ。須崎は氷の彫刻家だったのさ。彼は時々被害者があの公園にやって来ることを知って犯罪を企んだ。
 氷の塊を新聞紙に包みダンボール箱に詰めて、トイレに隠しておいた。そして被害者を追うようにこっそりトイレへ忍び込んで撲殺した。あとは凶器の氷を、噴水の中央の噴出し口に置いて何食わぬ顔で子供たちとはしゃいでいた訳さ。噴き出す水の勢いで氷はあっという間に小さくなり溶けただろう。
 そう、殺人動機だが、以前に氷の彫刻展が開催された時に田村が酒に酔っ払って作品を棒で殴って壊していたのを、須崎が怒り止めにはいったが『何だこんなもん、どけ! 俺がまとめて始末してやるう』と暴れて警察沙汰となりお互いに険悪な関係になっていたという訳さ。氷の彫刻家とは云え芸術家魂が炎と化し報復に及んだか。しかし俺も全身ずぶ濡れとは、とんだ災難だ。刑事も楽じゃねえよな」

09/12/13