「バラの香りに包まれて」 碧木ニイナ

 
 
 可児市の「花フェスタ記念公園」へ妹と出かけた。『花フェスタ 2010 バラまつり』が開催されているその場所で、友人のHさんの「トールペイント作品展」が始まり、その初日に合わせて出向いたのだった。
 ずっと気温が低めに推移していたので、バラ園を散策するのに好都合と喜んでいたけれど、当日は急に暑くなって、夏の訪れを感じさせた。
 駐車場に車を止め、日傘をさし、手にはUVカットの手袋、足下はウオーキングシューズの完全防備でゲートに向かう。その間の百メートルくらいの通路に、高く立体的に整えられたツルバラが見事に咲き誇り、甘く優しい香りが漂っている。
 濃淡のピンクや赤、白のツルバラにエスコートされてゲートに着く。世界最大規模の日本一のバラ園で、英国王立バラ協会友好提携公園では、世界各地から集められた七千品種、三万株のバラが賑やかに華やかに、香り豊かに競演していた。
 バラ色に染まった園内の、自然の織りなすカラーやグラデーションの美しさ、周囲の緑とのコントラストに心が躍る。あまたのバラの醸し出す香りと、時折吹き抜ける初夏のさわやかな風が全身を包む。私は瞬時、幸せな想いに満たされる。
 「プリンセス・マサコ」は、気品あふれる白の大輪だった。雅子妃殿下の名前を冠したバラは、イングリッシュローズの代表的な品種であり、人気が高いという。
 その横の「プリンセス・アイコ」は、愛らしいピンクの高貴なバラだった。花弁が開いてゆく様子が優雅で、花付きがすばらしく、長く咲き続けるとのこと。
 バラは環境や季節や育て方で花色が変わるという。両プリンセスは、他の場所では違う色合い、異なる香りで人々を魅了しているのだろうか。
 木陰のベンチに腰を降ろし、心のままにあれこれおしゃべりをしたり、ヒューマン・ウオッチングをしたりの私たちの前を、高齢者施設の入所者であろう、お年寄りが通って行く。車イスを押す職員の中には、若い男性の姿もあった。
 給料が安いから結婚できないという、介護職に携わる若い男性の声を聞いたことがある。高齢化が進んだ世界一の長寿国の、先進国の貧しい現実。どうしたらいいのか、自分に何ができるのか、みんなで考え知恵を出し合いたいし、もちろん政治を信じたいとも思う。
 立ち込める濃密な花の気に引かれるように、赤と白の複色の艶(あで)やかなバラの前に佇むと、ネームプレートに「モナコグレース」とある。ハリウッド女優からモナコ王妃になり、自動車事故で亡くなったグレース・ケリーに捧げられたバラだろうと推測する。
 その美しい姿を友人のYさんに写メールすると、なんと、「白い芯を囲む真紅の花びらとのコントラストが、そのままあなたを表現しているよう。清純さと燃える情熱と…」という返信が届いたではないか。
 遠の昔にどこかに置き去りにしたままの、清純が蘇る錯覚を起こしそうな、五十代も半ばのYさんのお洒落なリアクション。そういう感覚を持ち続ける友を、大切にしなければと改めて思ったりする。
 バラを堪能し、バラミュージアム内のトールペイント展会場を、Hさんの案内で一周する。トールペイントは十八世紀中頃に、ヨーロッパの王室の室内装飾画として始まり、移民とともに海を越えアメリカに渡った。その後、アメリカでのアクリル絵の具の普及に伴い、家具や木製品、陶器やガラス、布などいろいろな素材に描かれ、生活を彩るアートとして世界中で親しまれるようになった。
 展示されたアートは会場に溶け込むように、バラをモチーフにしたものが多かったが、敬虔なクリスチャンであるHさんの作品は、キリストや聖母マリアを描いた独特のものだった。こよなく澄んだ空色の背景が主人公を際立たせ、そこには柔らかな明るい光が降り注いでいた。
 バラに包まれるぜいたくと、トールペイントの優美な世界。ローズティもいただき、日常の中の非日常を満喫した。ささやかでいい、こんな瞬間をたくさん持ちたい。

10年7月9日

「駅にて」 黒宮 涼

 
 
 可児市の「花フェスタ記念公園」へ妹と出かけた。『花フェスタ 2010 バラまつり』が開催されているその場所で、友人のHさんの「トールペイント作品展」が始まり、その初日に合わせて出向いたのだった。
 ずっと気温が低めに推移していたので、バラ園を散策するのに好都合と喜んでいたけれど、当日は急に暑くなって、夏の訪れを感じさせた。
 駐車場に車を止め、日傘をさし、手にはUVカットの手袋、足下はウオーキングシューズの完全防備でゲートに向かう。その間の百メートルくらいの通路に、高く立体的に整えられたツルバラが見事に咲き誇り、甘く優しい香りが漂っている。
 濃淡のピンクや赤、白のツルバラにエスコートされてゲートに着く。世界最大規模の日本一のバラ園で、英国王立バラ協会友好提携公園では、世界各地から集められた七千品種、三万株のバラが賑やかに華やかに、香り豊かに競演していた。
 バラ色に染まった園内の、自然の織りなすカラーやグラデーションの美しさ、周囲の緑とのコントラストに心が躍る。あまたのバラの醸し出す香りと、時折吹き抜ける初夏のさわやかな風が全身を包む。私は瞬時、幸せな想いに満たされる。
 「プリンセス・マサコ」は、気品あふれる白の大輪だった。雅子妃殿下の名前を冠したバラは、イングリッシュローズの代表的な品種であり、人気が高いという。
 その横の「プリンセス・アイコ」は、愛らしいピンクの高貴なバラだった。花弁が開いてゆく様子が優雅で、花付きがすばらしく、長く咲き続けるとのこと。
 バラは環境や季節や育て方で花色が変わるという。両プリンセスは、他の場所では違う色合い、異なる香りで人々を魅了しているのだろうか。
 木陰のベンチに腰を降ろし、心のままにあれこれおしゃべりをしたり、ヒューマン・ウオッチングをしたりの私たちの前を、高齢者施設の入所者であろう、お年寄りが通って行く。車イスを押す職員の中には、若い男性の姿もあった。
 給料が安いから結婚できないという、介護職に携わる若い男性の声を聞いたことがある。高齢化が進んだ世界一の長寿国の、先進国の貧しい現実。どうしたらいいのか、自分に何ができるのか、みんなで考え知恵を出し合いたいし、もちろん政治を信じたいとも思う。
 立ち込める濃密な花の気に引かれるように、赤と白の複色の艶(あで)やかなバラの前に佇むと、ネームプレートに「モナコグレース」とある。ハリウッド女優からモナコ王妃になり、自動車事故で亡くなったグレース・ケリーに捧げられたバラだろうと推測する。
 その美しい姿を友人のYさんに写メールすると、なんと、「白い芯を囲む真紅の花びらとのコントラストが、そのままあなたを表現しているよう。清純さと燃える情熱と…」という返信が届いたではないか。
 遠の昔にどこかに置き去りにしたままの、清純が蘇る錯覚を起こしそうな、五十代も半ばのYさんのお洒落なリアクション。そういう感覚を持ち続ける友を、大切にしなければと改めて思ったりする。
 バラを堪能し、バラミュージアム内のトールペイント展会場を、Hさんの案内で一周する。トールペイントは十八世紀中頃に、ヨーロッパの王室の室内装飾画として始まり、移民とともに海を越えアメリカに渡った。その後、アメリカでのアクリル絵の具の普及に伴い、家具や木製品、陶器やガラス、布などいろいろな素材に描かれ、生活を彩るアートとして世界中で親しまれるようになった。
 展示されたアートは会場に溶け込むように、バラをモチーフにしたものが多かったが、敬虔なクリスチャンであるHさんの作品は、キリストや聖母マリアを描いた独特のものだった。こよなく澄んだ空色の背景が主人公を際立たせ、そこには柔らかな明るい光が降り注いでいた。
 バラに包まれるぜいたくと、トールペイントの優美な世界。ローズティもいただき、日常の中の非日常を満喫した。ささやかでいい、こんな瞬間をたくさん持ちたい。

10/7/8